2011年6月21日 古河電気工業/国際超電導産業技術研究センター

世界最高電圧の275kV超電導ケーブルを開発
 〜火力発電所1基分の電力を超電導ケーブル1回線で送電可能〜

当社は、世界最高の電圧階級となる275kV超電導ケーブルを開発しました。

コストパフォーマンスに優れるイットリウム系超電導線材を用いたもので、ケーブル化技術の改善などにより、従来の開発品に比べて、電圧で2倍、電力で3倍の性能向上を実現しました。さらに交流損失を従来比で50%に低減することができ、大容量で低損失な電気を送ることができます。

これらの成果は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から受託した「イットリウム系超電導電力機器技術開発プロジェクト(プロジェクトリーダー:塩原融 超電導工学研究所所長)」において達成したものです。

開発の背景

超電導ケーブル(注1)は、大容量の電力を低損失で送電する ことが可能であることから、従来技術では実現し得ない大容量でコンパクトなケーブルを可能とすると共に、省エネ・CO2削減に大きく貢献できると期待されています。特に送電容量が高くなるほど省エネ効果も高くなることより、現在、発電所から消費地まで電力を送る基幹系の送電線として開発をすすめています。

基幹系送電線としては国内では275kVが、海外においては220kV級が主流となっています。しかしながら、これまで開発されてきた超電導ケーブ ルの電圧階級は、国内では66kV級であり、海外においても138kV が最高電圧であり、高い電圧に耐え得る超電導ケーブルの開発が急務となっていました。

当社では、2008年度からスタートした「イットリウム系超電導電力機器技術開発プロジェクト」の中で、2020年の本格導入を目指した275kV 級超電導ケーブルシステムの開発を行っています。その中の重要な技術課題である超電導ケーブルの高電圧化とその275kV気中終端接続部(注2)の開発に成功しました。さらに、CO2削減のための交流損失削減においても、従来の交流損失に比べて50%に低減することを実現しました。

製品の特長・データスペック

  1. 世界最大容量の超電導ケーブルの開発
  2. 世界最小交流損失(注3)の達成
  3. 世界初の275kV 気中終端接続部の開発

本研究成果は、6月20日よりフランス ベルサイユで開催されている第8回ジカブル11(注5)で学会発表し ます。

用語解説

(注1)超電導ケーブル:
超電導ケーブルは、液体窒素温度(マイナス196℃)で超電導状態となる高温超電導線材を電流が流れる導体に使用することにより、小さな断面積で大電流 を、低損失で流すことができることから、現用の送電用ケーブルと比較して軽量かつコンパクトな大容量送電線を実現することが可能です。当社が開発した超電導ケーブルの構造は、フォーマと呼ばれる芯にテープ状のイットリウム系超電導線を多数本螺旋上に巻きつけ、更にその上に、電気絶縁層、超電導シールド層、 保護層を設けることでケーブルコアを形成しており、そのケーブルコアを断熱管の中に収納したものです。

(注2)気中終端接続部:
超電導ケーブルの端部に取り付き、室温中におかれている電気設備と接続するために端末です。超電導ケーブルシステムでは、液体窒素温度と室温の熱絶縁と、アースと高電圧の電気絶縁の両方の機能を持つ必要があります。

(注3)交流損失:
超電導ケーブルに交流電流を流すと発生する損失で、超電導線材中の磁束の移動により発生します。イットリウム系超電導ケーブルの場合、線材間のギャップに よる縦磁界による磁束のトラップが交流損失の主となることから、ギャップを小さくすることと、線材の端部の超電導性能の劣化が抑えることが必要であり、特 に端部の超電導性能の劣化を抑えることで低い交流損失を実現しました。

(注4)合がい管:
複合がい管は,機械強度に優れるFRP 円筒コアの両端にアルミニウム金具が強固に接着され,FRP コアの外側に耐候性,電気絶縁性能に優れるシリコーンゴム製の外被・笠が被覆されたものです。複合がい管は磁器碍管に比較して,軽量,耐汚損性,防爆性, 組立て時の作業性など多くのメリットを有しています。

(注5)第8回ジカブル11(Jicable11):
ジカブル11(Jicable11)は低圧から超高圧までの電力ケーブルとその付属品に関連する、研究・開発成果を発表する国際学会です。

超電導状態になると電気抵抗が消失するので、電気を送るために必要なエネルギーを削減できます。当然その分、石油の消費量も、CO2の発生量も削減できる。つまりは環境負荷を減らす「エコ技術」と言えるんです。

実際の数値で言うと、例えば使い始めて30年モノの銅製ケーブルを、2050年に約4,000qを超電導電力ケーブルと入れ替えた場合、1年間で3,120ギガワット/hの電力量を節電できる。これは人口260万人の1年間の電力使用量に相当する値で、CO2削 減効果としては年間106万トン。通常、原油を運ぶ大型タンカーが20〜30万トンですから、5隻以上の削減になるというから驚きです。しかも、現在使っ ている送電線と比べても、軽量、コンパクトだから、実は電力ケーブルの設置コストも低く抑えられるという利点もあります。

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日本経済新聞

 超電導線は、極低温下で電気抵抗がゼロになる超電導現象を利用して電気を流す金属線。送電時に失う電力を大幅に減らせるため、冷却用の電気を考慮しても電気の利用効率が高まる。

 古河電工製で現在最高になる66キロボルトの超電導線は都市内部の地中送電線への応用が限界だった。新開発のタイプは線材を包む絶縁紙を改良し安全性を向上させており、電圧を一気に高められる。実用化すれば、発電所から都市部までの基幹送電線で一般的な電力線の代替需要を見込める。

 新型超電導線の要素技術は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から2008年に受託した超電導研究で開発した。研究費は3年間で2億9千万円。

 求められる長さがケタ違いになる基幹送電線に参入するには、220〜275キロボルトが必要。世界の電線大手は超電導線の電圧を高める技術 開発に取り組んでおり、ネクサンスの138キロボルトが世界最高だった。古河電工はより電圧が高い新型超電導線の採用が進めばエネルギー効率も高まり、発電による二酸化炭素(CO2)排出量の削減にもつながると読む。

 古河電工はレアアースの一種であるイットリウムを含む線材を使った超電導線に特化している。ネクサンスや韓エルエスケーブルも類似技術を採用しているが、住友電気工業はレアメタルの一種であるビスマスを含んだ線材を利用する方式も同時に研究している。