2006-5-1

ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

最新分は  http://blog.knak.jp


2014/1/20   “BP Energy Outlook 2035” 

BPは1月15日、2035年までのエネルギーの需給予想 “BP Energy Outlook 2035” を発表した。
http://www.bp.com/content/dam/bp/pdf/Energy-economics/Energy-Outlook/Energy_Outlook_2035_booklet.pdf

グローバルのエネルギー需要は伸びるが、伸びは緩やかになり、主に途上国主導となっている。

エネルギー需要は2012年から2035年までの間に41%増加する(年率1.5%)。過去23年間では55%の伸びであった。
2020年までは年率2%だが、それ以降は年率1.2%に減る。

需要の伸びの95%は non-OECD諸国のものであり、中国とインドが増加分の半分以上を占める。
2035年には
non-OECD諸国のエネルギー消費は2012年の消費より69%増える。
北米・欧州・アジアの先進国(OECD諸国)の伸びは非常に緩やか(5%増)で、2030年以降は経済は成長するがエネルギー消費は下落し始める。

エネルギーソース別では2035年時点で化石燃料(石油、天然ガス、石炭)はそれぞれが全体のほぼ27%を占め、原子力、水力、再生可能エネルギーは5〜7%となっている。

化石燃料のなかでは、天然ガスの伸びが大きい。発電やその他部門で、よりクリーンなものとして石炭に置き換わっている。

 

 石油:

石油の需要の伸びは平均して年率0.8%の伸びと、主要燃料では最も伸びが少ない。
需要の伸びの殆どは中国、インド、中東である。

石油の供給増は主に米大陸と中東で、半分以上はnon-OPEC である。
米のタイトオイル、カナダのオイルサンド、ブラジルの深海油田とバイオ燃料が他のソースの減少を補う。
OPECのシェアは早い時点で減少する。


 天然ガス:

天然ガスは化石燃料のなかで最も伸びが大きく、需要は年率1.9%で増える。
 Non-OECD諸国が需要の伸びの78%を占める。
産業用と発電用の需要が大きい。
LNGでの輸入はガスの消費の2倍以上の伸び(年率3.9%)で増え、2035年までのガスの需要増の26%を占める。

シェールガス供給は天然ガスの需要の伸びのうちの46%をカバーする。2035年には世界の年々ガスの21%、米国の天然ガス生産の68%を占める。
北米のシェールガスの生産の伸びは2020年以降は緩やかになり、他の地域の生産が増えるが、それでも、2035年時点で北米のシェールガスは全世界のシェールガス生産の71%を占める。


 石炭:
石炭は石油に次いで伸びは緩やかで、2035年までの需要の伸びは年率1.1%である。
2020年以降の伸びは0.6%にとどまる。
需要の伸びは中国とインドのみにとどまる。両国の需要の合計は2012年で世界の58%、2035年では64%にも及ぶ。

 その他:

核エネルギーは2035年まで年率1.9%で伸びる。
中国、インド、ロシアが増加分の96%を占め、米国やEUはプラント停止で減少する。

水力発電は年率1.8%で増加、増加の半分が中国、インド、ブラジルである。

 

部門別の需要推移は下記の通り。


BP のCEOのBob Dudleyは3つの大きな問題点を指摘する。
1)需要の伸びに応じた供給があるか? (Supply sufficient ?)
2)確実に供給できるか? (Secure?)
3)供給した後は?(Sustainable ?)

Bob Dudleyの答えは以下の通り。

1)の答えは Yes であるとする。

需要の伸びが過去よりも緩やかなのは省エネのお陰である。
技術、投資、政策の動向を見ると、供給はついてくると言える。
シェールガス、タイトオイル、再生可能エネルギーのような新しいタイプのエネルギーが供給の伸びの大きな部分を占める。

2)についてはいろいろな見方があるが、明るい見通しの方が強い。

米国はエネルギー輸入国から自給国に変わりつつあるが、欧州や中国、インドの輸入依存度は増える。
アジアはエネルギー輸入で大きな割合を占める。
大消費地域に向けた新しいサプライチェーンができ、市場が機能すれば心配はない。

3)sustainabilityについては、

グローバルな二酸化炭素排出量は29%増加し、伸びの全ては途上国である。
天然ガスや再生可能エネルギーが石炭や石油に取って代わる、欧州や北米の排出量は減少が見込まれるなど、明るい兆しがある。
多くの先進国で経済は伸びるがエネルギー消費は減ると思われる。


2014/1/21  中国の2013年のGDP

中国国家統計局が1月20日発表した2013年の国内総生産(GDP)成長率は物価上昇分を除いた実質で 7.7%となった。
政府目標の7.5%を上回った。

    四半期 年間 目標
2012 1Q 8.1 7.8 7.5
2Q 7.6
3Q 7.4
4Q 7.9
2013 1Q 7.7 7.7 7.5
2Q 7.5
3Q 7.8
4Q 7.7

会見した国家統計局の馬建堂局長は、「中国経済は、安定して前進し、よい方向に向かって発展していることを示している」と述べ、中国経済は政府の意図どおりに成長しているという見方を示した。

2014年の見通しについては、投資は省エネや環境保護事業、それに内陸部で必要とされる交通インフラの整備などに支えられて比較的高い成長が維持され、消費もゆるやかに拡大するとした。
その一方で、中国経済の課題として、技術の遅れた生産施設を廃棄することや、地方政府の債務のリスクへの備えを強化することなどを挙げ、「中国経済は依然として解決しなければならない問題を抱えている。1に改革、2に改革。改革こそが経済を安定的に成長させていくために重要だ」と述べた。
 

GDPは名目で56兆8845億元(約980兆円)となり、現在の為替レート換算で日本のGDP(480兆〜490兆円)の約2倍に達する見通し。
 


2014/1/22   Braskemの米国エチレン計画、エタン原料とメタン原料

ブラジルのBraskemの親会社のOdebrecht は2013年末に、SABIC Innovative PlasticsからWest Virginia州 WashingtonにあるSABIC Innovative Plasticsの工場用地を11百万ドルで購入し、最近登記された。

工場はOhio州との州境のオハイオ川沿いに立地し、Marcellus Shaleエリア内にある。

SABIC Innovative Plastics は2013年11月にこの工場を2015年に閉鎖すると発表している。
同社では熱可塑性樹脂の米国での生産統合を図っており、この工場での生産は2015年にイリノイ州Ottawaとミシシッピー州Bay St. Louisに移す。


Odebrecht は2013年11月に同州知事と共同で、同地にエタンクラッカーと3つのPEプラント及び水処理、コジェネレーションなどの付帯設備を建設する計画を発表した。この計画はAppalachian Shale Cracker Enterprise(略称 Ascent)と呼ばれる。

この計画は最終決定されていないが、土地の買収が明らかになったことで、今後計画が進行すると期待されている。

Odebrechtが全体の計画と資金及び水処理、コジェネレーションを担当し、Braskemが石油化学関連を担当する。

付記

INEOSは2014年10月1日、Ascent Project にInnovene S PEと Innovene G PE  技術を供与する契約を締結したと発表した。

ーーー

Braskem2010年に米国の石油会社Sunocoからポリプロ事業を買収し、ペンシルベニア州Marcus Hook、テキサス州La Porte、ウエストバージニア州Neal3工場を取得した。

2010/2/3 Sunoco、ポリプロ事業をブラジルのBraskemに売却

Braskemは2011年7月にはDowからポリプロ事業(米国の2工場とドイツの2工場、および、在庫、事業ノウハウ、特定の技術、需要家リスト)を340百万ドルで買収した。
米国の工場はテキサスの
Freeport Seadriftにあり、合計能力は50万トン。(後者は100%子会社のUCCの工場)
ドイツの工場は
Schkopau Wesselingにあり、合計能力は54.5万トンとなっている。

Braskemは今回の買収で米国の能力は5割増しの140万トンになるとしている。

2011/7/28 Dow、ポリプロ事業をブラジルのBraskemに売却 

BraskemのCEOは2011年4月、シェールガスを利用して米国でエチレンとポリエチレンの製造を行いたいと述べた。

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本件とは別に、Braskemは2014年1月15日、Siluria Technologies との間で、天然ガスのなかのメタンを直接エチレンに変換するSiluria のメタン酸化結合(OCM:oxidative coupling of methane) 技術を展開するための幅広い協力関係を締結した。

Siluria Technologies のCEO Edward J. Dineenは 2013年1月にバイオ燃料会社LS9のCEOを退任し、マサチューセッツ工科大学(MIT)Dr. Angela Belcher が開発したメタンをエチレンに変換するOCM技術の商業化に取り組んでいる。

OCM技術:

Siluria TechnologiesのOCM技術は、Steam cracking とは異なり、触媒プロセスであり、メタンを直接エチレンに転換する。

2CH4 + O2 → C2H4  + 2H2O

Crackingするのではなく Coupling することにより、エネルギーを使わず、逆にエネルギーを産み出す。

触媒製造に当たってはBiomaterial templating、Nanowire Synthetic という独自の技術を使用する。通常、触媒のスクリーニングに当たっては、触媒ごとに1〜2日かかるが、同社の High-throughput screening では同じ時間で数百の触媒のスクリーニングが可能である。
同社ではこの3つの技術を組み合わせ、新しい触媒を次々に手に入れている。

両社はBraskemの テキサス州La Porteの工場にデモンストレーションプラントを建設し、2014年第4四半期から共同で メタンからのエチレン製造のテストを行う。Braskemが土地、インフラ、操業でサポートする。

また、Siluriaの技術をBraskemが利用する非独占権利を与えるとともに、将来の SiluriaのプラントからBraskemがエチレンを購入するオプション、OCM技術を使用するBraskemの計画に Siluriaが資本参加する可能性などのことが含まれている。

 

現在、Braskemを初め、各社が計画しているシェール由来のエチレン計画は、シェールガスに付随して出るNGL(天然ガス液)のなかのエタンを原料にする 。

OCM技術が完成すれば、シェールガスのメタン(殆どが燃料として使用される)からエチレンが製造できることとな り、更に大幅にコストダウンできることとなる。



2014/1/23
 ベトナム、原発着工を延期へ 

ベトナムのグエン・タン・ズン首相は1月15日、国営石油会社ペトロベトナムとの会合 で、今年中に予定していた第一原発の着工が2020年ごろまで延期される可能性があるとし、4基計4000MWの原発の代替 として5000MWの発電所用の天然ガスを確保するよう指示した。

ベトナムでは福島原発の事故後、原発の安全性強化を求める声が強まり、事業化調査に時間がかかっている。人材育成や法整備も遅れ、関係者の間では着工時期がずれ込むことは確実視されていた。

首相は「原発建設は安全が最優先で、基準を満たさなければ実行しない」と語った。

日本が受注した第二原発は同省のビンハイに予定されており、総事業費は1兆円規模で、2021年と22年の稼働を目指していたが、炉型の選定も済んでいない。 この建設計画にも影響が出ると思われる。

ーーー

ベトナム政府の電力マスター・プランによると、ベトナム国内の電力需要は2005年から20年までの間で年率10%で増加し続け、電力供給は逼迫する。
(アジア開発銀行では、2015年までは年率14%で、以降は11%で増加するとみている。)

現在、総発電量の3割以上を占める水力発電は建設可能な水域が少なくなり、火力発電は資源価格の高騰や二酸化炭素排出の問題を考慮すると増設は困難となっている。

このため、ベトナム政府は2010年6月、2030年までに原子力発電所を計14基(計1500 万〜1600万キロワット)建設・稼働するとした原発開発方針を承認した。

立地   タイプ 能力 MWe 建設 運転開始
Ninh Thuan省 
  Phuoc Dinh
1号機 VVER-1000/428 1060 ロシア 2020
2号機 VVER-1000/428 1060 2021
3号機 VVER-1000 1000   2023
4号機 VVER-1000 1000   2024
Ninh Thuan省 
  Vinh Hai
1号機 未定 850-1000 日本 2021
2号機 850-1000 2022
3号機   850-1000   2024
4号機   850-1000   2025
3〜4箇所 6基       2026〜 2030

6基の候補地(3〜4箇所)は、Quang Ngai省Duc Thang 又はDuc Chanh、Phu Yen省Xuan Phuong、Binh Dinh省Hoai My、Ha Tinh省Ky Xuanとなっている。

このうち、計4基(計400万キロワット)が国会が承認済みである。建設予算は4基で約200 兆ドン(約1兆円)と言われている。

同国初の原発となる予定のフォック・ディン地区の2基はロシアへの発注が決まっており、2014年に着工し、1号機が2020年、2号機が2021年に運転を開始する計画であった。

2010年10月31日、グエン・タン・ズン首相と当時の菅直人首相がハノイ市で会談し、ビンハイ地区で計画されている原子力発電所第2基の建設について、日本を戦略パートナーとすることを発表した。

続いて、日本原子力発電は2011年2月にベトナム電力公社との間で原子力発電導入に関する協力協定を結んだ。

当初の計画によると、2011年度中に事業化調査の請負契約を締結し、その後1年から1年半程度かけて調査を行い、建設候補地の地盤調査、環境影響調査の結果のほか、必要な発電容量の試算、原子炉のタイプの選択肢なども提示するとされている。

同年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原発の事故発生を受けて、日本側で海外への原発輸出及び技術支援の前提となる原子力協定の国会承認プロセスに遅れが生じたが、2011年12月9日、第179回国会でベトナム、ヨルダン、ロシア、韓国との原子力協定が承認され、2012年1月21日に発効した。

特定非営利活動法人メコン・ウォッチは、以下の「懸念される問題点」を挙げ、これに反対している。

・原子力発電所が内在している事故のリスク

・日本で解決されてない問題の輸出
   放射性廃棄物、特に使用済み燃料の処理問題

・税金投与の正当性
   一部の企業への利益誘導

・ベトナムの社会状況に起因する問題
   民主的な議論 情報公開の不足
   地元の住民、少数民族は情報アクセスが困難
   施工・運転リスク
   汚職・腐敗・ガバナンス

・日本のエネルギー大量消費の構造の輸出


2014/1/24 ベトナムの新しいポリプロ計画 

INEOS は1月20日、ベトナムのPhu Yen省のHoa Tam Industrial Zoneで製油所建設を計画しているVung Ro Petroleum が年産90万トンのポリプロ計画でInnovene PP プロセスを選択したと発表した。

Vung Ro Petroleum は2013年11月にLummus Technologyとの間で、エチレン回収とOCT(エチレンとブチレンからプロピレンを製造)に関するライセンス・エンジニアリング・技術サービス契約を締結している。

Vung Ro Petroleum は英国の投資会社Technostar Management とロシアのTelloil GroupとのJVで、Hoa Tam Industrial Zoneに40億ドルを投じて、製油所(LPG, Gasoline, Jet Fuel, Diesel, Fuel Oil) と石化プラント(BTXと年産90万トンのPP)の建設を計画している。

ーーー

ベトナム政府は2007年9月に製油所の建設計画を明らかにした。9つの製油所を建設し、2025 年までに国内需要の90%を自国内の製油所でカバーするとし、原油処理能力の目標値を日量 111〜121万バレルとした。

 

ーーー

ベトナム政府は2007年9月に製油所の建設計画を明らかにした。9つの製油所を建設し、2025 年までに国内需要の90%を自国内の製油所でカバーするとし、原油処理能力の目標値を日量 111〜121万バレルとした。

しかし、確定したのは3つのみ。

@ 現在稼働しているのはPetroVietnam のズンクワット(Dung Quat)製油所で、2009年に稼働した。
能力は日量14.8万バレルで、同社は増設を検討中。

A 出光興産と三井化学は6月6日、両社とクウェート国際石油、ペトロベトナムとの合弁事業である総投資額約90億米ドルのNghi Son 製油所・石油化学コンプレックス建設プロジェクトの最終投資決定を行ったと発表した。

石化計画:
 パラキシレン 70万トン
/
 ポリプロピレン 37万トン
/

2013/6/11 出光興産と三井化学、ベトナムのNghi Son 製油所・石油化学コンプレックスへの最終投資決定

B Lon Son製油所はタイのSiam Cementグループとベトナム側のJV。

この製油所に隣接し、タイのSiam Cementグループとベトナム側のJVのLong Son Petrochemical が石化コンプレックスを建設する。
2012年1月、Qatar Petroleum がこれに参加することが明らかになった。
報道によると、コンプレックスはオレフィン 165万トン、ポリオレフィン(HDPE、LDPE、PP) 145万トン、苛性ソーダ 28万トン、EDC 33万トン、VCM 40万トンなどからなる。

2008/8/25 ベトナム最大の石化コンプレックス、9月に建設着工

ーーー

Vung Ro Petroleum は2007年11月に製油能力 400万トンで投資ライセンスを取得した。

2013年12月初めに、同社の能力は400万トンから800万トンにアップした。
 Nguyen Tan Dung 首相がPhu Yen省から要請を受け、承認した。
 最終ライセンス取得までには、環境安全面の条件を満たす必要がある。

Vung Ro Petroleum は開発中の Hoa Tam Industrial Zoneに538ヘクタールの土地を確保した。
Vung Ro Bayの10km北、Tuy Hoa Airportの15 km 南にあり、Bai Goc deepwater seaport に近い。

  


 

2014/1/25 Anheuser-Busch InBev、韓国のOBビールを再買収 

ビール世界最大手のAnheuser-Busch InBev(AB InBev)は1月20日、過去にいったん売却した韓国ビール最大手のOBビールOriental Brewery) を再買収することで合意したと発表した。

OBビールを同社の株主のKKR とAffinity Equity Partnersから58億ドルで買収することで合意した。
AB InBevは2009年に18億ドルで売却しており、5年前の売却時の3.2倍に相当する金額で買い戻すことになる。

ーーー

OBビールはアジア通貨危機の1998年にベルギーのInterbrew が斗山グループから買収した。

2004年にベルギーのInterbrew とブラジルのAmBev が合併してInBev となった。

InBev は2008年11月に、Budweiser で知られる世界3位のAnheuser Busch を520億ドル買収し、AB InBevとなった

AB InBev はこの合併後の資金不足を解消するため、2009年7月にOBビールを18億ドルで売却した。

当時、アサヒビールが韓国ロッテグループと組み、買収に乗り出したほか、韓国の国内外の酒類メーカーやプライベートファンド約10陣営が名乗りを上げた。

売却に当たり、AB InBev 持分を再び買い入れるコールオプションを得ており、その契約満期は2014年7月となっていた。

ーーー

その後、AB InBevでは財務体質が改善したのを受け、買収を進めており、昨年にはメキシコのGrupo Modelo を201億ドルで買収している。

他方、OBビールは2009年の売却後、市場シェアも2009年の40%から60%となり、利益も倍増、2011年にハイト真露を抜き韓国最大手となった。
また、
韓国のビール市場は2009年から12年までが毎年約2%のペースで成長している。

このため、AB InBevはアジア事業を強化するため、高値での買い戻しも妥当と判断した。買収には手元資金を使うとしている。

同社のCEOは「OBビールを通じ、急速に成長するアジア太平洋市場での地位をさらに強化したい」と述べた。
アナリストは、同社はOBビールの売り上げ増に加え、BudweiserやCoronaなどの製品の韓国での売り上げ増を狙っているとみている。

 


2014/1/27  東邦チタニウム、サウジでスポンジチタンの製造販売JV 

東邦チタニウムは1月22日、サウジでスポンジチタンを製造販売するJVを設立する基本合意の覚書を締結したと発表した。

JVの相手は、サウジの酸化チタンメーカーのCristal(The National Titanium Dioxide)とその親会社のTasnee(The National Industrialization Company)で、Yanbu 工業団地のCristal の酸化チタン工場の隣に、年産15,600トンのスポンジチタン製造工場を建設する。
投資額は約420 百万米ドルで、2016年末の完成を目指す。

JV名:未定
株主:東邦チタニウム 35.0%
             Cristal  32.5%
             Tasnee 32.5%

付記

2016年3月3日、新会社設立を発表

・名称 Advanced Metal Industries Cluster and Toho Titanium Metal Company Limited
・本店所在地 ジッダ(サウジアラビア)→ヤンブー
・事業内容 サウジアラビア国内新設工場におけるスポンジチタンの製造・販売
・設立 2016 年2 月29 日
・出資 東邦チタニウム 35%
     Advanced Metal Industries Cluster Company Limited 65%
    (Cristal とTasnee の折半出資の投資会社)

付記

2017/6/1  スポンジチタン製造工場の竣工、2018 年初の商業生産開始

工場生産能力  スポンジチタン 15,600 t/年

 

原料の四塩化チタンは隣接するCristalの酸化チタン工場から安定的に供給を受ける。
東邦チタニウムのスポンジチタン製造における先進的な技術の供与と、サウジアラビア国内の安価な電力代により、世界的に卓越したコスト競争力を有する。

製造したスポンジチタンは、Cristal を通じて湾岸協力会議加盟国内での淡水化プラント、発電所、化学プラント等の一般工業向け需要へ販売するとともに、東邦チタニウムが同社の顧客の需要に向けても販売する。

当事業は、日サ両国政府が推進する「日本・サウジアラビア産業協力事業」(実施機関は中東協力センター)の支援対象となって いる。

東邦チタニウムは、永年に亘りサウジアラビアにおける知見・信頼関係を培っているJXグループの支援を受けつつこれらを最大限活用し、当事業を推進する。(東邦チタニウムにはJXホールディングスが50.31%出資している。)

ーーー

スポンジチタンは多孔質の中間原料で、管や板の形に加工してプラントの熱交換器などの素材になる。

東邦チタニウムの製法は、生成したスポンジチタン中に含まれている金属マグネシウム及び塩化マグネシウムを分離除去するために高真空蒸留法を採用しており、高品質のスポンジチタンが得られる。

製造工程は以下の通り。

(1)塩化:チタン鉱石(ルチル)の中の酸化チタンを塩素ガスと反応させて四塩化チタン(TiCl4)を製造。

(2)蒸留:四塩化チタンを蒸留により精製

    ガス状の四塩化チタンを冷却して液状にした後、高温で酸素と反応させ、塩素ガスを分離すると酸化チタンとなる。

(3)還元・分離:精製された四塩化チタンに溶融金属マグネシウムを反応させ,多孔質で塊状のスポンジチタンを製造。

なお、酸化チタンの製法には上記の塩素法のほかに、硫酸法がある。欧米では塩素法、日本では硫酸法が主流である。

硫酸法は原料(イルメナイト鉱石)を濃硫酸に溶解させ、不純物である鉄分を硫酸鉄(FeSO4)として分離し、一度オキシ硫酸チタン(TiOSO4)にする。これを加水分解し、沈殿したオキシ水酸化チタン(TiO(OH)2)を洗浄・乾燥し、焼成することによって酸化チタンを得る。

ーーー

National Titanium Dioxide  (Cristal) 世界第2位の酸化チタンメーカーで、Tasnee66%、湾岸6カ国が均等出資する Gulf Investment CorporationGIC33%出資している。残り1%は個人投資家。

Yanbu Al-Sinaiyah 工場で酸化チタンを1991年から生産しており、2002年に3万トン増強して10万トンになった。設計能力は18万トン。

2007年5月にLyondell から酸化チタンメーカーMillennium Inorganic Chemicals を負債込み12億ドルで買収した。

生産能力は67万トンで、米国に2箇所(Ashtabula, OH と Baltimore, MD)、ブラジル(Salvador, Bahia)、英国(Stallingborough)、フランス(Thann)及び豪州(Bunbury)に工場を、ブラジルのParaibaにチタン鉱山を持つ。

2007/3/5 Lyondell、酸化チタン事業をサウジ社に売却

2008年には豪州の鉱山会社 Bemax and International Titanium Powder を買収、Cristal Miningと改称した。
leucoxene、rutile、zircon などを生産する。


2014/1/28   2013年の貿易赤字、過去最大11兆円 

財務省は1月27日に2013年の貿易統計(速報、通関ベース)を発表した。

輸出は自動車、有機化合物等が増加し、対前年比 9.5%の増加となった。また、輸入は原粗油、液化天然ガス等が増加し、15.0%の増加となった。その結果、差引額は▲11兆4745億円となった。

  輸出 輸入 差引
2010 67兆3996億円 60兆7650億円 6兆6347億円
2011 65兆5465億円 68兆1112億円 -2兆5647億円
2012 63兆7476億円 70兆6886億円 -6兆9411億円
2013 69兆7877億円 81兆2622億円 -11兆4745億円

地域別には以下の通り。

 
 
 

地域別の貿易収支は下記の通り。

2013年の平均為替レートは1ドル=96.91円となり、2012年の1ドル=79.55円から21.8%下落した。

輸出金額は前年比で9.5%の増となったが、数量指数は逆に1.5%の減である。
輸入金額は15.0%増えたが、数量指数は0.4%の伸びに止まっている。

鉱物性燃料の輸入額は前年の24兆782億円から27兆4353億円に3兆3571億円の増加となった。

原油の輸入量は前年比0.6%減ったものの、輸入額は16.3%増加した。
LNGも輸入量が同0.2%の微増だったが、額は17.5%膨らんだ。


2014/1/29 Rosneft、TNK-BPの少数株主の持ち株を買収 

Rosneft は1月23日、TNK-BPの少数株主の大半の持ち株を買収すると発表した。

ーーー

ロシアのRosneftは2013年3月21日にTNK-BPの買収を完了した。

Rosneftは2012年10月22日、BPとロシアの投資家グループAlfa-Access-Renova(AAR) の合弁のロシアの石油会社TNK-BPを、双方から合計550億ドルで買収することを明らかにした。

2012/10/24 ロシアのRosneft、TNK-BPを買収 

しかし、問題が残った。

TNK-BPはBPとロシアの3つの財閥の連合のAlfa Access Renova group(AAR)の50/50JVだが、両グループの合意により、子会社のTNK-BP Holdingをモスクワの証券市場に上場しており、その5%を一般株主が保有している。
一般株主はロシアの投資家と
東欧を対象とする国際的な投資ファンドである。

TNK-BP HoldingはRosneftの買収後、RN-Holdingに改称した。

2011年1月に、BPがRosneftとの間でグローバルな戦略的提携で合意した際に、AARが、この提携にTNK-BPを除外しているのはTNK-BPの株主契約に違反するとしてロンドンの高等法院に訴え、最終的に白紙となったが、この時に少数株主の一人がTNK-BPの役員でもあるBPの役員を訴えている。

TNK-BP Holdingの一般株主は、RosneftがBPとAARから買い取った価格での保有株式の買い取りを要望した。
AARからの買収価格は1株
$3.70 とされる。

それに対し、RosneftはTNK-BP Holding の少数株主の持分の購入は検討しておらず、この件についていかなる義務も有していないと発表した。
また、TNK-BP Holding の株主には配当を支払わないとした。

一般株主はこれに反発、政治問題にもなった。株価も下落した。

2013年9月末にRosneft の取締役会はRN Holding (旧称 TNK-BP Holding) の少数株主の持ち株買収を決議した。

買い取り価格は普通株 1株 67ルーブル ($2.06) 、優先株 55ルーブルで、これは9月26日以前18ヶ月の平均株価と独立した鑑定人の鑑定に基づく。ロシアの株価はロシアに対する国際投資家のいろいろの懸念から、このところ下落している。

これに対し、少数株主側はAARが売却したとされる1株 $3.70 と比べ安すぎるとして反発した。

しかし、Rosneftは 、売却の応募がない場合は上場廃止にすると述べ、2013年11月に2014年1月20日を期限とする少数株主保有株全ての買取の公告を行った。

今回のRosneftの発表では、少数株主の保有株式の98.23%に相当する株の売却申し込みがあった。2月19日に支払いを行う。

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これとは別にRosneftは2013年10月、RN-Holdingの株の9.989%を 2013年7-9月期中に第3者の投資家に970億ルーブル(約30億ドル)で売却したことを明らかにした。 証券市場で時価で売却したとしている。

なお、TNK-BPの7-9月期決算の純利益は、前年同期の350億ルーブル(約1050億円)から8倍増の2800億ルーブル(約8400億円)となった。
これには、TNK-BPの資産の再評価益 1670億ルーブル(約5000億円)が含まれる。


2014/1/30 インドの特許強制実施権とBayerのDekkers CEOの発言 

2014年1月21日付けのBloomberg BusinessWeekの記事が波紋を呼んでいる。

インドの特許局(特許意匠商標総局)は2012年3 月、Bayerと米国のOnyx Pharaceuticalsが共同開発した腎臓がん・肝臓がん治療薬 Sorafenib(ブランド名Nexavar )の特許に関し、初の強制実施権を与えた。

同紙によると、インド政府指名のパネルが、癌に加え、HIVや糖尿病にも強制実施権の適用を検討している。インドには糖尿病患者が65百万人、HIVが210万人いるとされている。

パネルの提案を受け、Department of Industrial Policy and Promotionが強制実施権を与えるかどうかを決定、特許局が手続きを行う。

検討されているのは、MerckのJanuvia とBristol-MyersのOnglyzaの2つの糖尿病薬と、MerckのHIV薬 Isentress、及びBristol-Myersの関節炎薬のOrenciaであるとされ、各社はインドでの特許保護に苦労することになるというもの。

同紙によると、BayerのMarijn Dekkers CEOは、本件について2013年12月3日のロンドンでの会議で以下の通り述べた。

基本的に窃盗だと思う。

これがBayerのビジネスモデルに大きな影響を与えるか? そうではない。本当のところ、Bayerは本製品をインド市場のために開発したのではない。全く正直なところ、この薬を買うことができる西欧の患者のために開発したのだ。
癌の薬だから、高価なのだ。

(同紙は記事が注目されたため、1月28日付けでDekkers発言を当初の要約から全文引用に改めた。)

現在、Nexavarのインド国内での価格は患者1人1年分で6万5千ドルである。

Bayerは現在、 Nexavarの強制実施権に関し、インドで訴訟しているが、インドの最高裁に対し、この価格は無理なく買えるもの("reasonably affordable")と主張しており、矛盾する。今後、裁判に不利な影響を与えると思われる。

The Times of India は「医薬品の開発は金持ち国のためだけか?」というタイトルでこれを報じている。

記事のなかで次のように報じている。
国境なき医師団は声明を出し、この発言は多国籍医薬産業の問題点全てを表している。Bayerは金持ちだけのために医薬品を開発していると認めており、医薬会社は利益だけを追求していると述べた。
利益を生まない病気は無視され、支払えない患者は無視されるとも述べている。

Bayerはこの発言を認め、Dekkersのコメントを配布した。

この発言は業界のフォーラムでのとっさの発言(quick response) であったとし、Bayer は全ての人々が、住む国や所得にかかわりなく、医学の進歩の成果を受けられることを望んでいると付け加えた。
(「とっさの発言」であるということは本音であることを示している。)

ただし、インドの強制実施権については苛立っていると述べている。

Dekkersはオランダ国籍とともに、知的財産権で厳しい立場をとる米国の市民権も持っている。

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1995年に発効した貿易関連知的財産権(TRIPS:Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)協定で、医薬品に限らず、政府や政府と契約関係にある機関が非商業目的のために生産するのであれば、特許権者の事前の承諾を得ることなく、その技術を使うことができると定めている。 (強制実施許諾)

背景には、国内外の特許所有者に配慮することなく、宇宙開発や軍事開発を進めたい米国政府の思惑があったとされる。

TRIPS協定では「主として国内市場への供給のために許諾される」旨定めているが、2005年12月に知的所有権の貿易関連の側面に関する協定を改正する議定書が採択された。

開発途上国における公衆の健康の問題に対処するため、特許権者以外の者が感染症に関する医薬品を生産し、これら諸国に輸出することを可能とするよう、加盟国がこのような生産等を認めるための条件を緩和する規定を追加した。

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インド特許法では強制実施権について以下の通り定めている。

当該特許の付与から3年以上経っており、以下の三つの条件のうち一つでも満たされている場合に申請が受理される。

 (a)特許発明に関する公衆の適正なニーズ(reasonable requirements)が満たされていないこと。

(i)特許製品の需要が十分に満たされていない状態
(ii)特許発明がインド国内において商業スケールで十分に実施されていない状態
(iii)特許製品の輸入により、特許発明がインド国内において商業スケールで実施されるのが妨げられている状態

 (b)特許発明に基づく製品が公衆にとって適正に手頃な(reasonably affordable)価格で入手可能でないこと。

 (c)特許発明がインド国内で実施されていないこと。

特許意匠商標総局長は上記条件のうち一つでも満たされていると認めた場合に、適当と思われる契約内容(ライセンス料率等)のもとで強制実施権を設定できる。

Bayerは、2008年にインドでNexavarの特許を取得し、2009年にインド市場で発売した。

地場の有力な後発医薬品メーカー Natco Pharma は、これの製造販売に関するライセンスをBayerに求めたが、交渉が決裂したことを受け、2011年7月に特許局に対して強制ライセンスの設定を請求した。

インドの特許局(特許意匠商標総局)は2012年3 月、初の強制実施権を認めた。

これにより、Natco Pharma は製造販売が可能となり、Bayerの約3パーセントという超低価格で販売する。
Bayerは特許局が決定した6%のロイヤリティを受け取るが、通常得られる利益と比べれば微々たるものである。

なお、Nexavarの模倣品が2010年からCipla社によって正規品の1/10の価格で販売されている。

    詳細はJETROアジア経済研究所 海外研究員レポート(2012/7) 医薬品特許の強制実施権設定に関する考察

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国境なき医師団は声明で、利益を生まない病気は無視され、支払えない患者は無視されるとも述べている が、全ての医薬会社がそうではない。

エーザイは2013年10月1日、インド子会社のEisai Pharmaceuticals India が抗がん剤Halavenを新発売したと発表した。

同社が自社開発した新規抗がん剤で、日米欧を初めとする50カ国以上で承認を受けており、インドでは‎乳がん向けで承認を得た。
インドでは毎年約11万5千人の女性が新たに乳がんとして診断されている。

エーザイでは所得に係わらず本剤にアクセスできるよう、患者の所得水準に応じて全額負担から無償まで複数の負担価格を設定する Tiered Pricing を導入した。第三者機関が所得別に患者を5グループに分け、段階的に負担額を増やす仕組みで、最も所得が低い階層は無料となる。

同社ではアルツハイマー型認知症薬アリセプトと胃酸分泌抑制薬パリエットを2005年の発売時より、インドの経済状況や医療環境を考慮した患者の購入しやすい価格(affordable price)で供給している。
 

エーザイは2012年1月30日、世界製薬大手13社の一員として、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、WHO、米国および英国政府、世界銀行、および顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)の蔓延国政府とともに、過去最大の国際官民パートナーシップを構築し、2020年までにNTDの10疾患の制圧に向けて共闘していくという共同声明「ロンドン宣言」を発表した。

エーザイは30億円を負担し、リンパ系フィラリア症制圧のため、WHOにDEC(ジエチルカルバマジン)22億錠を無償で提供する。

エーザイの内藤晴夫社長は、「価格はゼロ。究極のaffordable priceだ」と宣言したが、「これはCSR(企業の社会的責任)の枠組みで実施するのではない」、「新興国の健康福祉を向上して経済発展や中間所得者層の拡大に寄与することは、将来の市場形成への長期的な投資である」と主張した。

ロンドン宣言にはPfizer、Sanofi、Merck、Novartis、GlaxoSmithKlineなどが加わっている。
Bayerもこれに
参加しており、シャーガス病治療のニフルチモクスの無償提供を現在の倍量にまで増やす。
 


2014/1/31   中国商務部、米国とEUの太陽光パネル用多結晶シリコンで異なる対応

中国商務部は1月20日、米国から輸入の太陽光パネル用多結晶シリコンの反ダンピング及び反補助金調査でクロの最終決定を行った。
反ダンピング調査については、韓国からの輸入品も同様となった。

中国が輸入している多結晶シリコンの約4割が米国製で、2割は韓国製とされている。

この結果、下記のダンピング課税が行われる。(  )は仮決定時点での保証金

  反ダンピング 反補助金
米国企業
   Hemlock Semiconductor 53.3% (53.3%) 2.1% (6.5%)
REC Solar Grade Silicon 57.0% (57.0%) 0% (0%)
REC Advanced Silicon Materials 57.0% (57.0%) 0% (0%)
MEMC Pasadena 53.6% (53.7%) 0% (0%)
AE Polysilicon 57.0% (57.0%) 2.1% (6.5%)
All Others 57.0% (57.0%) 2.1% (6.5%)
韓国企業
  Woongjin Polysilicon 12.3% (12.3%)  
OCI   2.4% (2.4%)
Hankook Silicon  2.8% (2.8%)
KAM Corp.  48.7% (48.7%)
Innovation Silicon    48.7% (48.7%)
All Others  12.3% (12.3%)

他方、商務部は1月24日、EUから輸入の太陽光パネル用多結晶シリコンの反ダンピング及び反補助金調査でクロの仮決定を行った。

発表では、ダンピングと補助金の損害を認め、被害で出ているとみなした。
ダンピング率も多くの企業が 68.9%としている。

しかし商務部は、「特殊な市場状況を勘案し」、ダンピング税・反補助金税(仮決定のため「保証金」)を課さないとした。

ーーー

これを受け(?)、米商務省は2014年1月23日、中国製の結晶シリコン太陽電池製品などに対して、再度、反ダンピング・反補助金調査を実施する決定を下した。

今回調査対象となった結晶シリコン太陽電池製品には、バッテリー、モジュール、合板、パネル、建築一体化材料などが含まれる。
中国大陸から輸入される同製品の調査のほか、台湾製も反ダンピング調査の対象となる。

付記

米国国際貿易委員会(ITC)は2014年2月14日、中国から米国に輸出される太陽電池が、米国の関連産業に実質的な損失をもたらしたとする仮裁定を下した。

付記

米商務省は2014年6月3日、中国製の結晶シリコン系ソーラー製品が不当な政府補助金の対象になっているとして、18.56−35.21%の反補助金関税を課す仮決定を発表、税関当局に対して、中国製ソーラー製品から保証金を徴収するよう通知した。

Wuxi Suntech Power と関係会社5社 35.21%
Trina Solar 18.56%
その他  26.89%

ソーラー製品には、電池、モジュール、積層材、パネルなどが含まれ、台湾地区の部品を使用したものも含む。


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米国とEUは中国製の太陽光パネルに対し、反ダンピング、反補助金調査を行い、中国はこれに対抗して、太陽光パネル用の多結晶シリコンについて反ダンピング、反補助金調査を行い、対抗した。

2012/11/14 太陽光パネルを巡る貿易戦争

中国はEUに対しては、EU産ワインの反ダンピング、反補助金調査を行った。EUの反ダンピング課税を強く支持したフランスを標的にした報復である。

2013/7/5   中国、EU原産の輸入ワインで反ダンピング&反補助金調査を開始

これまでの経緯は下記の通り。(ADは反ダンピング、CVDは反補助金)

米国 対 中国

  対中国 太陽光パネル 対米国 同左用ポリシリコン 
  (ADは韓国も)
2011/11/9 AD、CVD調査開始  
2012/3/20 CVD仮決定  
2012/5/17 AD仮決定  
2012/7/20   AD、CVD調査開始
2012/10/10 商務部AD、CVD決定  
2012/11/7 ITC 被害認定
AD、CVD最終決定
 
2013/7/18   AD仮決定
2013/9/16   CVD仮決定
2014/1/20   AD、CVD最終決定
2014/1/23 AD、CVD調査実施の決定  

米国による中国製太陽光パネルのダンピング税率は下記の通り。

  最終決定
AD CVD 合計
Wuxi Suntech 21.19 14.78 35.97
Trina Solar 7.78 15.97 23.75
他の59社  15.42 15.24 30.66
他の全て 239.42 15.24 254.66

今回のポリシリコンへの課税は上記に対抗するものである。

EU 対 中国

  対中国 太陽光パネル 対EU 同左用ポリシリコン 
2012/9/6 AD調査開始  
2012/11/1   AD、CVD調査開始
2012/11/8 CVD調査開始  
2013/6/4 AD課税暫定適用
6/6から平均11.8%
8/6
までに改善がみられなければ 47.6%に引き上げ
 
2013/7/1   (ワインのAD、CVD調査開始)
2013/7/23 和解合意  
 
 
2013/8/6 価格協定メーカーは免税
非協定メーカーは47.6%
 
2014/1/24   AD、CVDクロの仮決定
(保証金はなし)

EUのDe Gucht委員(通商担当)は2013年6月21日、北京で中国の高商務相と会談し、太陽光パネル問題の解決に向け協議を続ける方針を確認した後、「中国製太陽光パネル摩擦をめぐり中国と合意できれば、欧州産ワインに対する反ダンピング調査をめぐる問題も解消される」との見解を示した。

EUは7月23日、中国の太陽光パネルのダンピング問題で中国側と和解に達したと発表した。
欧州委員会は8月2日、これを承認、これにより価格協定に参加する中国メーカーは8月6日以降、ダンピング課税を免れることとなった。

2013/7/28 EUと中国、太陽光パネルダンピング問題で和解

今回、中国はダンピングと補助金の存在とそれによる被害を認定する仮決定を行ったが、太陽光パネルでの和解を理由に仮課税を免除した。

おそらく、最終決定までの間にEUとの間で、価格協定その他による和解が行われると思われる。
合わせて、ワインについても妥協が行われると思われる。

米国が対中強攻策を採るのに対し、EU内部ではドイツなど中国との貿易を重視する穏健派の意見が強い。

和解合意前の2013年6月10日付の英Financial Times は「EUは中国への制裁課税を撤回せよ」と題する以下の内容の社説を掲載した。

欧州の多くの国は再生可能エネルギーを優先するため多額の補助金を支給している。そんな状況で太陽光パネルの価格を引き上げるのは、自らの不利益にしかならない。加えて欧州の消費者や中国への供給業者、報復措置による被害者も打撃を受ける。

当然のごとく中国は欧州産ワインの販売に標的を絞った調査で報復した。EU最大のワイン生産国であるフランスはDe Gucht 委員を支持した。対抗制裁は個人を狙ったものでもある。De Gucht 委員自身がワイン醸造業者だった。

現時点での最善策は、De Gucht委員はひとまず方針を撤回し、地に足のついた対応を考えるべきだろう。


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