2014/4/3  熊本地裁、水俣病未認定患者3人への賠償を命令、5人は棄却

水俣病被害者互助会の8人が、国と県、原因企業チッソに総額2億1200万円の損害賠償を求めた訴訟で、熊本地裁は3月31日、3人の損害を認め、被告に賠償を命じる判決を言い渡した。5人については棄却した。

重症で介護が必要な男性1人には、認定患者がチッソと交わす補償協定の慰謝料(1600万〜1800万円)を大きく超える額が認められた。

症状を訴えて県に水俣病認定申請をしたが、認められず棄却されたり、結論の出ていない9人が、2007年10月に提訴したもので、うち1人は2013年11月に国の公害健康被害補償不服審査会の逆転裁決を受けて熊本県から患者認定され、訴えを取り下げた。

概要は下記の通り。

1人   (2013年11月 行政認定→訴え取り下げ) 1600万円 (チッソと補償協定)
1人 請求 1億円
(
全身の機能障害)
手足のしびれ(感覚障害)などの症状とメチル水銀との因果関係を認定
 ・同居家族や出生地周辺で認定患者がいること
 ・残されていた臍の緒のメチル水銀値など
1億500万円 介護費用や後遺症への慰謝料など
2人 請求
 各1600万円
 (チッソ慰謝料
        最低額)
220万円 控訴する方針
440万円
5人 各症状は心因性や他の病気が原因の可能性が高い
 ・家族に認定患者がいないこと
 ・家族の水銀摂取状況など

  棄却

原告は熊本、鹿児島両県に住む54〜61歳の男女8人。
1953〜1960年(水俣病公式確認は1956年)に水俣市、津奈木町、芦北町、鹿児島県長島町で出生した。

胎児期・小児期からチッソの排水でメチル水銀に汚染された魚介類を食べた影響で、水俣病の典型症状である手足の感覚障害や、頭痛、めまい、こむら返りなどがあり、肉体的・精神的な苦痛を受けていると訴えた。
「ほかに原因を証明できなければ水俣病と判断できる」と主張した。

うち7人は、認定患者がチッソとの協定に基づいて受け取る慰謝料の最低額と同じ1600万円、全身の機能障害がある1人は1億円を請求した。

被告側は、原告がメチル水銀を摂取した客観的証拠は乏しく、症状は別の病気などが原因と反論。
仮にメチル水銀中毒が原因としても、2001年の関西訴訟大阪高裁判決が認めた損害額と比べ、「原告7人の症状は特に強いとも言えず、1600万円は高額すぎる」と主張した。

2001年の高裁判決は、排水規制をしなかった国と県の過失を指摘、水俣病の認定基準も間違っているという判断を下し、「汚染された魚介類を多く食べ、指先や舌先の感覚に障害があれば認定できる」との基準を示し、女性ら37人を水俣病と認定、国と県、チッソに原告1人あたり障害の程度を考慮して400万円、600万円、800万円の賠償責任があることを認めた。

2004年10月の最高裁判決は二審・大阪高裁判決が示した基準を支持し、高裁判決が確定した。

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水俣病を巡っては、最高裁が2013年4月、複数症状を要件とした現行の認定基準よりも幅広く患者認定する道筋を示した。

・司法が独自に患者認定審査審査しうる。

・環境庁の「手足のしびれや視野狭さく、運動障害など複数の症状の組み合わせ」を条件とするという「52年判断条件」に基づく高裁判決を破棄。
   「52年基準」に合うものは個別的な因果関係について立証の必要がないとするものにすぎない。
   それ以外でも諸般の事情と関係証拠を総合的に検討し、水俣病と認定する余地を排除するものとはいえない。

2013/4/17  水俣訴訟、最高裁判決

これを受けて環境省が2014年3月に打ち出した新指針は、「水俣病を発症するに至る程度のメチル水銀」の摂取を証明する客観的な資料の提出を求めている。

2013/1/14  水俣病認定基準 

今回の判決は「汚染された魚を多食した」という証言だけでは証明が不十分との立場を示した。

 


2014/4/4 ロシアGazprom、ウクライナ向けガス価格を大幅に引き上げ 

ロシアの政府系天然ガス大手Gazpromは4月1日、ウクライナ向けのガス価格を40%以上引き上げ 、1000m3当たり385.5ドルにすると発表した。
4月3日には更に485ドルに引き上げた。これまでの価格の1.8倍となる。(付記 輸出関税割引制度の撤廃)

現状: 268.5$/1000m3 (6.7125$/MMBTU)
2014/4-6: 385.5$/1000m3 (9.6375$/MMBTU)
    → 485.0$/1000m3  (12.125$/MMBTU)
     注) 天然ガス 1,000m3=40MMBTU 

1 Btu = 1.054 kJ = 0.252 kcal
1 MMBtu =1,054 MJ = 252,000 kcal  ≒ 天然ガス25m3
天然ガス 1000m3 = 40MMBtu

アレクセイ・ミレルCEOは、ウクライナのガス料金未払い分が17億ドルに達しているため、値上げは必要だとの見解を示し、「2013年12月合意の割引はもはや適用できない」と述べた。

GazpromのEU向けの平均ガス価格は370$/1000m3 (9.25$/MMBTU)となっている。

ウクライナは旧ソ連ということで国際価格よりもはるかに安い価格で天然ガスの供給を受けてきた。
今回も大幅値上げといっても、EU並みの国際価格であり、日本のLNGでの購入価格(16ドル前後)よりもはるかに安い。

仮に将来、米国からのLNG輸入が可能となっても、これより大幅に安くなることはないと思われる。
   2014/4/1 
米国からの欧州向けLNG輸出

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2013年のウクライナ向け天然ガス価格は401$/1,000m3(10.025$/MMBTU)であった。

ウクライナは2013年に欧州連合との政治・貿易協定の仮調印を済ませたが、ロシア寄りの姿勢を見せるヤヌコビッチ大統領は2013年11月、EUとの関係を強化する「連合協定」の締結を見送り、ロシアとの協力関係を密にする方針に転換した。

ヤヌコビッチ大統領は2013年12月17日にモスクワでプーチン大統領と会談、ロシアはウクライナに対し150億ドルの金融支援を実施し、天然ガスの価格を2014年1月から約3分の1引き下げることで合意した。

2013年:

401$/1000m3

(10.025$/MMBTU)
2014年:

268.5$/1000m3

( 6.7125$/MMBTU)

親EUから親ロへの転換で、欧州連合寄りの野党勢力から強い反発が起こり、ウクライナ国内は大規模な反政府デモが発生するなど騒乱状態に陥った。
事態収拾のためヤヌコビッチ大統領は2014年2月21日には挙国一致内閣の樹立や大統領選挙繰り上げなどの譲歩を示したがデモ隊の動きを止めることはできず、2月22日に首都キエフを脱出、政権は崩壊した。

2014年3月、ロシア軍はクリミア半島の一部の施設を占拠して半島を実効支配、3月16日にクリミア自治共和国およびセヴァストーポリ特別市で、ロシアへの編入を問う住民投票が行われ、96.77%がロシアへの編入への賛成を示した。
翌17日、クリミア最高会議はウクライナからの独立とロシア連邦への編入を決議した。

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ロシアは天然ガスを武器に旧ソ連各国をロシア圏にとどめようとしている。

ベラルーシとの間でも2007年に紛争が起こった。同国は現在は親ロであり、安い価格で天然ガスの供給を受けている。
  2007/1/15 ロシア・ベラルーシ石油抗争 解決

ベラルーシやウクライナ向けのパイプラインは欧州につながっており、欧州各国も紛争の余波を受けた。

ウクライナ向け天然ガス価格は2006年以降、下図のような推移をたどっている。

    JOGMEC資料を補正