2006-5-1

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これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

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2015/11/2   三井物産、ブラジルのガス配給事業取得

三井物産は10月23日、ブラジル国内19州の地域ガス配給事業会社を保有する Petrobras Gás S.A.(Gaspetro)の一部株式を取得するため、ブラジル国営石油会社Petróleo Brasileiro S.A.(Petrobras)と株式売買契約を締結した。

買収額は約19億レアル(670億円)で、Gaspetroの株式の49%を取得する。(残り51%はPetrobrasが引き続き保有する)

ブラジルにおけるガス配給事業は、州政府から供与されたコンセッションに基づく地域独占事業であり、ガス事業会社は州政府と締結したコンセッション契約に基づき、州内・管轄域内でガスパイプライン網などのガス配給インフラ整備に取り組むと共に、Petrobrasから購入したガスを州内の発電所、一般産業・商業・民生需要家向けや天然ガス自動車用の燃料等として配給している。

今回取得するGaspetroは、ブラジル中部、北東部、南部等の各地域にバランスよく展開されたポートフォリオを構成しており、いずれも今後の経済発展とガス需要の増加が見込まれている地域。

ーーー

三井物産は、2006年にブラジル7州のガス事業会社に出資参画するGas Participacoes Ltda (Gaspart) をGlobal Petroleum & Gas から250百万米ドルで買収し、Gaspart をMitsui Gas e Energia do Brasil Ltda(三井ガス)と改称した。
7州のガス事業会社には、三井ガスが24.5%、Gaspetroが24.5%、各州政府が残り51%を出資する。

更に2014年12月にブラジル北東部セアラ州の地域ガス配給事業会社であるCompanhia de Gas do Ceara S.A.(Cegas)の株式(普通株24.5%、優先株50%、経済損益比率41.5%)をTaquari Participacoes S/A から買収した。
普通株の残りは、Gaspetroが24.5%、州政府が51% を保有し、優先株についてはGaspetroが50%保有する。

Cegas社株式を取得することにより、三井ガスが出資参画するガス事業会社の取扱配給総量は日量1,469万m3となり、ブラジル国内のガス配給取扱量の22%を担 うこととなったが、今般のGaspetro株式の取得により、出資参画するガス事業会社は19州へと拡大し、それらガス事業会社の取扱ガス配給総量は倍増の日量約30百万m3となる。
 

今回のGaspetroへの出資で、三井ガスの事業は下記の通りとなる。

 



2015/11/3 公取委、コミットメント制度を導入へ 

公正取引委員会が、納入業者に不公正な取引を強いるなど独禁法に違反する行為の改善を企業が約束した場合、調査を終了し、課徴金などの処分を見送る新たな制度(コミットメント制度)の導入を検討していることが分かった。

付記

公取委の中島事務総長は11月11日の定例会見で、TPPの大筋合意を受け、独禁法改正の検討に入ったことを正式に認めた。

TPP協定の競争政策に関する章(第16章)では、競争法の執行に係る手続の公正な実施や締約国間、競争当局間の協力などの規定が設けられている。

○ 競争法令の制定・維持,競争当局の維持
○ 競争法令の執行における手続の公正な実施
   ・処分前の事業者による意見陳述等の機会の確保
   ・合意により事件を解決する制度の導入
○ 競争法令の違反について被害者の民事的救済を求める権利の採用
○ 競争当局間の協力
○ 競争法令の執行等の透明性確保

このような制度(合意により事件を解決する制度)は、競争上の問題の早期是正、当局と事業者が協調的に事件処理を行う領域の拡大により、独占禁止法の効果的、効率的な執行に資するものであると考えている。
TPP協定の国内担保法の一つとして、他の国内担保法と同じ時期に、国会に改正法案を提出することになる。

参考 諸外国における「合意により事件を解決する措置」
  措置の内容 効果
米国
司法省
事業者とDOJが、あらかじめ判決の内容について合意した場合に、裁判所が合意の内容に沿った判決を出す ・調査は終結する
・裁判所は違反行為の認定を行わない
・事業者が法違反を認めたこととはならない
米国
連邦取引委員会
事業者とFTCが、あらかじめ命令の内容について合意し、その後の手続を受ける権利及び提訴権を放棄した場合に、FTCが合意の内容に沿った命令をする
EU 事業者が、欧州委員会が指摘する競争上の懸念を払拭する措置を申し出た場合に、欧州委員会が措置の履行を義務付ける旨の決定をする ・調査は終結する
・違反行為の存否につき判断しない(制裁金も課さない)
中国 事業者が、具体的措置を採り、違反被疑行為の効果を取り除くことを確約した場合に、当局は調査の中止を決定できる ・事業者が措置を履行した場合、当局は調査の終結を決定できる
韓国 事業者が、消費者被害の救済と競争秩序の回復等に適合する是正案を申し出た場合に、公正取引委員会が議決する ・調査は中断(事実上終結)する
・行為が違法であることを意味しない考えている

 

EUでは導入されており、TPPで同様の制度導入が義務付けされたことを受けた対応で、違法状態を迅速に解消し、企業活動の停滞を防ぐことなどが狙い。
TPPでは競争当局と企業の合意により自主的に問題解決できる仕組みの導入を義務付けた。

現状では、企業は公取委からの一方的な命令や課徴金を受け入れるか、不服として法廷で争うかの大きく2つの選択肢しかなかった。

コミットメント制度では、企業が独禁法に違反した疑いがある場合、公取委が法的な問題点を指摘する。
企業が解決策を公取委に提示し、公取委が妥当と判断し、企業が解決策の実行を約束すれば、公取委は本格的な調査に入らず違反認定もしない。

EUでは、対象となるのは、納入業者に圧力をかけ取引を妨害するなどの行為が対象で、制裁金の対象となる談合やカルテルは対象外になっており、日本でも同様と思われる。

公取委は早ければ来年の通常国会に独禁法の改正案を提出する。

EUでは、従前の実務慣行を明文化し、規則1/2003第9条で「コミットメント決定 (commitment decisions)」の制度が導入された。

違反行為の審査の過程で生じた懸念について、対象事業者が当該懸念を解消するための措置を講じる旨を申し出た場合に、EU委員会はこれを受諾することができ、手続を継続する根拠が失われた旨を宣言する。

対象事業者及びEU委員会の双方において、手続の負担を軽減させるメリットがあるとされている。

対象事業者が約束を守らなかった場合など一定の場合、EU委員会は手続を再開することができる。約束を破った企業に前年度売上高の最大1割の課徴金を支払わせている。

コミットメント決定は、カルテルなど制裁金を課すことが適当な事案においては利用できない。(規則1/2003 recital(13))。


2015/11/4 三井物産、ブラジルのバイオマス事業から撤退 

三井物産は10月28日、Dow Chemical と共同でブラジルで手掛けてきたバイオマス資源事業からの撤退を決めたと発表した。

50/50JV のSanta Vitória Açúcar e Álcool Ltda (SVAA)の同社持分(50%)を約2億ドルでDow に売却する。

 

三井物産は2011年7月、Dow全額出資のSVAAの株式50%を増資引受にて取得すると発表した。
ブラジルでサトウキビ農園運営からバイオポリエチレン等、バイオ化学品製造までの一貫事業を合弁で行う。

ミナスジェイラス州に2013年以降、年産能力24万kl のバイオエタノール工場を複数建設する。
2015年にはこのエタノールを原料に年産35万トンの植物樹脂工場を建設する。植物樹脂工場としては世界最大規模。

名称 Santa Vitória Açúcar e Álcool Ltda
(Santa Vitória Sugar and Ethanol Inc.)
所在地 ブラジルMinas Gerais州Santa Vitória市
事業内容 サトウキビ農園運営、化学品原料としてのバイオエタノール製造事業。
バイオエチレン、バイオポリエチレン及びバイオマス資源からの化学品製造販売事業へ順次拡大予定。
出資比率
(出資後)
Dow:50%
三井物産:50%
三井投資額 約2億米ドル

プロジェクト概要

2011/7/21 三井物産、ダウのブラジル・バイオ化学品事業に参画

上記のとおり、バイオエチレン、バイオポリエチレン及びバイオマス資源からの化学品製造販売事業へ順次拡大する予定であったが、市場価格の低迷などから事業化の見通しが立たず、撤退を決めた。

三井物産は原油やガス等の化石資源に加え、バイオマス資源からの化学品事業(グリーンケミカル事業)を展開しており、SVAAからは撤退するが、引き続き再生可能なバイオマス資源を確保することで化学品原料の安定確保に貢献すると共に、同資源から環境負荷の低いさまざまなバイオ化学品を製造することを目指すとしている。

また、ブラジルを重点地域のひとつとして位置付けており、ダウ社を戦略的パートナーと位置付けている。


2015/11/4 米議会、債務上限引き上げと予算案を承認、大統領署名 

米国では2016年予算案(2015/10〜2016/9)が決まらず、ギリギリの9月30日に、12月11日までの暫定予算法案を可決した。
連邦債務を巡る法定上限の引き上げについては、2015年3月16日以降は18兆1000億ドルの法定上限を超過する借り入れはできなくなり、政府が持つ基金の金を活用するなどの特別な措置でやりくりしており、11月3日にもデフォルトが発生する懸念があった。

暫定予算も下院のJohn Boehner議長(共和党)が10月末での議長退任、下院議員辞職を表明し、ようやく通ったもの。

2015/10/15 米国、2016会計年度予算も暫定予算でスタート 

オバマ大統領は10月2日、債務上限問題について、解決する責任は議会にあるとして、野党共和党とは「交渉しない」と改めて表明。議会が上限を引き上げなければ、米国債のデフォルトが発生し「金融システムは危機に陥る」と警告した。 

これを受け、米政府と議会指導部は協議を続け、10月26日遅く、連邦債務上限の引き上げと2年間の予算案の概要で合意に至った。

付記

上下両院は9月30日、ようやく 12月11日までの暫定予算法案を可決した。
  2015/10/15 米国、2016会計年度予算も暫定予算でスタート 
 

2017年9月までの2年分の予算は大枠が決まったが、予算執行の細かな配分を定める関連法案が成立しておらず、期限の12月11日を迎えた。
このため、米下院は12月11日、12日から5日間のつなぎ予算案を賛成多数で可決した。上院は可決済みで、オバマ大統領の署名を経て成立した。

12月16日には、更に12月17日〜22日のつなぎ予算を可決した。

 

合意した重要事項は以下の通り。

 債務上限引き上げ

米財務省は債務上限凍結が切れた2015年3月以降、緊急の資金繰り策によって債務残高を上限の18兆1000億ドル以内に抑えてきた。

今回、債務上限凍結を2017年3月15日まで再び延長し、それ以降については期限までに行った借り入れを含む金額を新たな上限として設定する。

 予算合意

2017年9月30日までの全体的な資金調達額が決まった。
共和党と合意した歳出の強制削減(シクエスター)による上限を上回る支出を認め、上乗せ額は軍事関連支出と非軍事支出について同額とする。
裁量的支出は2016年度(15年10月〜16年9月)予算で500億ドル、2017年度予算で300億ドルそれぞれ増額する。
共和党の最優先課題である軍事関連支出も増額する。強制削減の対象となっていない国防総省と国務省の軍事予算を2016、17年両年度について160億ドルずつ増やす。

 財源の手当て

今後2年間の裁量的支出増加分800億ドルの大半は、歳入増と数年余り実現していない歳出削減でカバーする。
農家が加入する穀物保険に対する補助金を削減し、30億ドルの資金を確保する。
戦略石油備蓄の一部売却を認め、今後10年で50億ドルを手当てする。

米議会下院は10月28日、2016、2017会計年度(2015/10〜2017/9) の予算案と債務上限の引き上げを盛り込んだ法案を賛成多数で可決した。

上院も10月30日、可決した。

  上院   下院
共和党 民主党 無所属 合計 共和党 民主党 合計
賛成 18 44 2 64 79 187 266
反対 35     35 167   167
棄権 1     1 1 1 2
合計 54 44 2 100 247 188 435

オバマ米大統領は11月2日、この法案に署名し、法案が成立した。
大統領は、「2年分の資金を確保することで、政府閉鎖の脅迫やギリギリの修正の繰り返しから解放されるだろう」と述べた。

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下院は10月29日、辞任を表明したJohn Boehner議長(共和党)の後任を選ぶ選挙を行い、同じ共和党の45歳のホープ、Paul Ryan 歳入委員長を選出した。

 


2015/11/5  Samsung Group、残る石油化学部門をロッテに売却 

既報のとおり、Samsung Group は2014年11月、防衛産業を手掛ける Samsung Techwin などと、石油化学のSamsung General Chemicalsの57.6%とSamsung Total Petrochemicals の持分(50%)を韓国Hanwhaに1.9兆ウォン(約2000億円)で売却すると発表した。

防衛関連 Samsung Techwin の32.4%  8400億ウォン
Samsung Thalesの 持分(50%)
 
Samsung Techwinと仏大手電機メーカーThalesのJV
石油化学 Samsung General Chemicalsの57.6% 1兆0600億ウォン
Samsung Total Petrochemicals の持分(50%)
  Samsung General Chemicalsと仏Total のJV

2014/12/1   Samsung Group、防衛、石化事業をHanwhaに売却 

Samsung Group には他に、電子化学素材や精密化学などを扱う Samsung Fine Chemicals があったが、電子素材との関連性を踏まえ、売却対象から外したとみられた。
また、Samsung General Chemicals 49%、BP 51%出資で、酢酸や酢ビのメーカーのSamsung BPがあり、Samsung SDI にもエンプラ事業がある。


今回、Samsung Group はこれらをロッテに売却することを決めた。石油化学事業から撤退し、IT、バイオ事業に集中する。
ロッテグループは10月30日、Samsung Groupの石油化学事業を3兆ウォン(約3千億円)で買収すると発表した。

Samsungが売却する事業は下記の通り。

 1)Samsung SDI の化学部門(エンプラ等)

分社した上で、90%をロッテに売却し、10%は引き続きSamsungが保有する。

 2)Samsung Fine Chemicals のSamsung 持分

尿素、アンモニア、エピクロルヒドリン、苛性ソーダ、ジメチルホルムアミドなどの一般および精密化学品を製造。
メセロース、マロネートなど医薬品・塗料製造で使用される化学製品も手掛ける。

Samsung SDI (14.7%)、Samsung Electronics (8.39%)、Samsung C&T (5.59%)、自社株 (1.28%)、Samsung Asset Management (1.12%)など保有の31.23%を売却。

 3)Samsung BP の49%(酢酸、酢ビなど)

Samsung BP の49%はSamsung SDIが保有していたが(残りはBP)、本年8月にSamsung Fine Chemicalsから、同社と戸田工業の電池の正極材のJVであるSTM(Samsung Toda Material)の持分約72%を買収し、同時に所有するSamsung BPの持分をSamsung Fine Chemicalsに売却した。

今回、Samsung Fine Chemicalsの持分と合わせ、同社に移したSamsung BP の持分をロッテに売却する。

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三星グループ総帥の李健熙会長は病床にあり、後継者の李在鎔 副会長が体制つくりを行っている。防衛産業と石油化学事業の売却はその一環である。

2014年12月にSamsung Group の持株会社 第一毛織(Cheil Industries Inc.) を上場した。

Samsung Groupの創業事業の一つの旧「第一毛織」は織物事業から始まり、1980年代にファッション事業、1990年代にケミカル事業(PS、ABS等)、2000年代には電子材料事業へと進出してきたが、2013年にファッション部門を三星エバーランドに譲渡し、2014年7月1日Samsung SDI と合併した。

「三星Everland」は事実上のサムスングループの持株会社で、ソウル南方の龍仁市にあるテーマパークの三星Everlandを運営し、上記のとおり旧第一毛織からトータルファッションを買収している。

旧第一毛織がSamsung SDI と合併したのに伴い、創業事業の一つである「第一毛織」に改称し、2014年12月に上場した。

  2014/12/2 Samsung Group の持株会社 第一毛織の上場

三星グループの持株会社の第一毛織(旧 三星Everland)と、商社・建設部門の三星物産は2015年5月にそれぞれ取締役会で両社の合併を決議した。
7月に臨時株主総会で可決し、9月1日付けで合併した。

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Lotte Chemical は韓国(2箇所)とマレーシアに合計280万トンのエチレン能力を持つ。

旧 湖南石化 麗川 1,000千トン
旧 現代石化(第二系列) 大山 1,000千トン
Lotte Chemical Titan マレーシア @ 345千トン
A 495千トン
 合計 2,840千トン

Lotte Chemicalは2015年6月18日、ルイジアナ州に2つの石油化学JVを設立すると発表した。

第一のJVはシェールガスに付随するエタンを分解し、エチレンを生産するもので、 Lotte Chemicalが90%、Axiall Corp.が10%出資する。
立地は最終的には決まっていないが、
Lake Charles近郊とされている。

エチレン能力は年産100万トンで、出資比率に応じ、Lotteが90万トン、Axiallが10万トンを引き取るが、Lotteは自社枠のうち40万トンをAxiallに販売する。Axiallはエチレンを自社のPVCに使用する。

引取枠90万トンの追加で、Lotteのエチレン能力は370万トンとなる。

2015/6/22  韓国 Lotte Chemical、米国で石油化学



2015/11/6  塩野義製薬、インフルエンザ新薬を開発、1回投与で治療

塩野義製薬は10月30日の投資家向けの経営説明会で、インフルエンザを1回の投与で治療できる新薬を 2018年にも発売する計画を公表した。

従来のインフルエンザ治療薬とは全く異なる仕組みの薬で、売上高が年間500億円以上の大型薬になるとみられ、抗エイズウイルス(HIV)薬や、複数の薬に耐性ができた菌の治療薬とともに事業の柱に育てる。

11月以降に数百人規模の患者を対象にした第2段階の治験を行い、有効性などを確認し、最速で2017年度内の申請を目指す。

 

インフルエンザウイルスは、感染した細胞内で遺伝子を複製し、増殖・放出することで他の細胞に感染を拡大する。

現在、治療に用いられている抗ウイルス剤はノイラミニダーゼ阻害剤(Neuraminidase inhibitors)で、増殖されたウイルスの放出を阻害して感染の拡大を防ぐもの。

オセルタミビル(oseltamivir)  ロシュ 商品名 タミフル
ラニナミビル(Laninamivir) 第一三共 商品名 イナビル
ペラミビル (Peramivir)    米国 BioCryst Pharmaceuticals

発症後48時間以内に服用しなければ効果が得られず、タミフルの場合は5日間程度服用を続ける必要がある。

エボラ出血熱の治療に使われた富士フィルムのファビピラビル(favipiravir)(商品名アビガン)は元々インフルエンザ用治験薬で、ウイルスの細胞内での遺伝子複製を阻害することで増殖を防ぐRNAポリメラーゼ阻害剤である。

現時点では厳しい条件がついており、新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、本剤を当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合に、患者への投与が検討される。

2014/8/11  富士フイルムのインフルエンザ治験薬、エボラ出血熱治療に有望か →効果確認

これに対し、塩野義が開発中の新薬(S-033188)はウイルスが細胞に進入後、最初の反応となるmRNA合成の開始を特異的に阻害するCapエンドヌクレアーゼ阻害剤である。ウイルスの増殖に必要なタンパク質が合成できなくなり、ウイルス粒子が形成されなくなる。

・ 高病原性鳥インフルエンザウイルスを含む各種 A型、B型ウイルスに強い活性を示す。
・ 一回の投与で治療完結を目指す。
・ Phase 1 試験で、安全性と動態プロファイルを確認
・ 厚労省の「先駆け審査指定制度」対象として指定 

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先駆け審査指定制度は、2014年6月に厚労省が取りまとめた「先駆けパッケージ戦略」の重点施策や、「日本再興戦略」改訂2014を踏まえて導入したもの。

患者に世界で最先端の治療薬を最も早く提供することを目指し、一定の要件を満たす画期的な新薬等について、開発の比較的早期の段階から対象品目に指定し、薬事承認に係る相談・審査における優先的な取扱いの対象とするとともに、承認審査のスケジュールに沿って申請者における製造体制の整備や承認後円滑に医療現場に提供するための対応が十分になされることで、更なる迅速な実用化を図る。

原則として既承認薬と異なる作用機序により、生命に重大な影響がある重篤な疾患等に対して、極めて高い有効性が期待される医薬品を指定する。
審査期間をこれまでの半分の6ヶ月まで短縮することを目指す。

2015年度は試行的な取組みとして実施するが、厚労省は10月27日、6品目の医薬品を初めて指定した。

 医薬品の名称 予定される効能または効果 申請者
シロリムス(NPC-12G) 結節性硬化症に伴う血管線維腫  ノーベルファーマ
NS-065/NCNP-01  デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)  日本新薬
S-033188  A 型またはB型インフルエンザウイルス感染症 塩野義製薬
BCX7353 遺伝性血管浮腫(HAE)の患者を対 象とした血管性浮腫の発作の管理  Integrated Development Associates
ASP2215  初回再発または治療抵抗性のFLT3遺伝子変異陽性急性骨髄性白血病  アステラス製薬
ペムブロリズマブ
(遺伝子組換え)
治癒切除不能な進行・再発の胃癌 MSD

 


2015/11/7   ハウス食品、涙が出ないタマネギ「スマイルボール」 発売

ハウス食品グループ本社は、“切っても涙が出ない、辛みのない全く新しいタマネギ”を 「スマイルボール」と名付け、数量限定・チャネル限定で10月末から発売した。

・販売価格は、約400g(中玉2個相当)で450円(税別)
・有機野菜などの食材宅配ネットスーパーを展開する「Oisix」、都内の一部の百貨店で販売。

「涙を流さなくなることで、全てのお客様が笑顔になる新しいタマネギでありたい。これまでのタマネギにとらわれず、新しい食べ方や食シーンをお客様と一緒に(キャッチボールをしながら)創造できるタマネギでありたい。 」という想いを込め、笑顔とボールを組み合わせて「スマイルボール」とした。

ーーー

2013年のIg Nobel 賞で、ハウス食品の今井真介研究主幹のグループが「タマネギの催涙成分をつくる酵素」の発見で「化学賞」を受賞した。発見に貢献した石川県立大の熊谷英彦学長が共同受賞者となった。

今井主幹が「これまでたまねぎに泣かされてきたすべての人々にこの賞を贈ります」とあいさつ、会場から喝采を浴びた。

タマネギを切ると涙が出てくる成分は、タマネギやニンニクの風味をつくる成分と同じ酵素でつくられると考えられてきた。

レトルトカレーの製造過程でニンニクとタマネギを一緒に炒めると、緑色に変色する現象が起きた。
その理由を解明中に、タマネギの催涙成分としてすでに知られている酵素とは別に、もう1種類の新たな催涙因子合成酵素を発見した。

2002年 催涙成分合成酵素(lachrymatory factor synthase)の発見。
催涙成分ができるには、アリイナーゼとLFS が必要なことを発表(Nature 掲載)。

この酵素と、たまねぎに多く含まれているアミノ酸を反応させると、涙を誘う「催涙物質」が作られ、目を刺激し、涙が自然と出てくる仕組みになっていることが分かった。

その後、この酵素の働きを止めることで、切っても涙が出ないタマネギを作ることに成功している。

催涙成分生成の仕組み(反応経路)がわかったことで、その反応が進まないタマネギが、「涙の出ないタマネギ」となると考え、研究は次のステップへ。

非遺伝子組み換え手法(重イオンビーム照射したタマネギの中から、催涙性の弱いものを選び育てる)によるタマネギの作出をスタート。

2012年 非遺伝子組み換え手法によって、アリイナーゼの働きが著しく低いタマネギ(今回のタマネギ)の作出に成功。

また、この酵素をドライアイの検査に応用する研究が進んでいる。

2013/9/16  2013年 Ig Nobel 賞、日本の2チームが受賞


 


2015/11/9 中国、一人っ子政策を廃止、今後5年の経済成長率 目標は年平均6.5%以上

国共産党の中央委員会第5回全体会議は10月29日、4日間の日程を終えた。

主な議題は、次期人事のほか、@「一人っ子政策」の廃止、A経済政策(13次5ヶ年計画 )などであった。

@ 「一人っ子政策」の廃止

中国は人口の増加を抑制するため、1979年から「一人っ子政策」を採用、少数民族などを除いて、夫婦がもうけることのできる子どもの数は原則として1人しか認めず、違反した場合には罰金を課してきた。 人権の侵害が指摘され、戸籍外の子どもが増えるなどの問題も生んだ。

中国では一人っ子政策の影響などから、世界的にも例のない速度で少子高齢化を引き起こしている。
15歳から59歳までの人口は2012年から減少に転じている一方、65歳以上の高齢者は増え続けていて、経済成長への影響を懸念する声が出ている。

中国の人口は2028年に14億人超でピークに達した後、減少に転じると予想されている。

2012年に減少に転じた労働力人口は、2020年代に至ると年間790万人のペースで急減していくと見込まれる。

農村などで男子を選んで産む風習も根強いため、2020年には、24〜28歳の男性が22〜26歳の女性を1千万人上回るとの研究もあり、性別のバランスを欠く人口が社会不安を引き起こす恐れもある。

このため、2013年には「夫婦のどちらかが一人っ子ならば2人目を認める」と緩和に踏み切ったが、新制度の利用率は低迷し、わずか2年でさらなる変更を迫られた。

今回、30年以上にわたって実施されてきた「一人っ子政策」を改め、すべての夫婦に対して2人の子どもをもうけることを認める。

しかし、計画出産そのものについては「基本国策として堅持する」として、2人までの制限を残す。

閉幕後公表されたコミュニケは、「人口の均衡ある発展を促進するため、計画出産の基本国策は堅持する。しかし人口発展戦略をより完全なものにするため、1組の夫婦が2人の子供を産める政策を全面実施し、積極的に高齢化に対する行動を展開していく」としている。

国家衛生計画出産委員会は、「労働力の供給を増やし、高齢化の圧力を軽減する。さらに持続的な経済発展にも役立ち、家庭の幸福や社会の調和を促進する」と説明している。

参考

政策で人口を操作すると、その影響はずっと続く。
日本の少子高齢化、人口減少も過去の二つの政策の影響であり、対策はない。

第一は戦前(1920〜40年前半)の「産めよ増やせよ」政策で、出生数が急増している。
この年代は現在70歳〜90歳で、今後人口急減の原因となる。

第二は1948年の優生保護法である。
1947〜49年に復員や外地からの引き揚げ等で第一次ベビーブームが起こった。
食料不足のなか、餓死を避けるため優生保護法がつくられた。産児制限により、年間270万人の出生数が160万人にまで減少した。

この結果、次の世代、その次の世代の出生数が激減することとなった。

2012/12/17    紙おむつと日本国債


A経済政策(13次5ヶ年計画 )

中国共産党は11月3日、2016〜20年の第13次5カ年計画の草案を公表した。併せて、習主席による「計画の解説」も発表した。

それによると、「第13次五カ年計画」は中国の経済発展が新常態(New Normal) に移行した後の初の五カ年計画で、新常態に適応し、新常態を把握し、新常態を牽引する役割が求められる。

新常態下では、中国の経済発展は速度の変化、構造の最適化、原動力の転換という3つの大きな特徴を備える。
 ・成長速度は、高速から中高速へと転換し、発展の方式は規模・速度型から質・効率型へと転換する。
 ・ 経済構造調整は、増量・能力拡大を主とするものから、ストック調整・最適化と増量が併存するものへと転換する。
 ・発展の原動力を、主に資源と安価な労働力といった要素への依存から、イノベーション駆動へと転換しなければならない。

2016年から2020年にかけての年間経済成長率を6.5%以上とする。
(数値目標などを盛った詳細な計画は、来年3月の全国人民代表大会で正式に決定する。)

2020年までに国内総生産(GDP)と都市・農村住民の1人当たり国民所得を10年比で倍増させるという目標を実現させるために必要な成長速度である 。

2010年の都市住民の1人当たり可処分所得は19109元、農村住民の1人当たり可処分所得は 5919元であり、2020年までに倍増を実現するためには、年間経済成長率は少なくとも6.5%を達成しなければならない 。

過剰生産能力の改善、産業構造のグレードアップ、イノベーション駆動発展の実現といった点で一定の時間と余地が必要になり、経済の下方圧力は顕著となり、やや高い経済成長を維持するには多くの困難を要する。



2015/11/9 中国、欧州復興開発銀行(EBRD)に加盟申請 

中国外務省は11月6日、「中国は欧州復興開発銀行(European Bank for Reconstruction and DevelopmentEBRD)に加盟の意向を示した」と述べた。

加盟の理由として、「中国の一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀の海のシルクロード)構想と欧州投資計画との連係を後押しし、中国とEBRDの協力関係を深めるためだ」と説明、「中国のEBRD加盟は各方面の利益に合致し、双方に利益をもたらす選択になる」とその意義を強調した。

中国が主導し年内に運営を始めるアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、英国やドイツ、フランスなど欧州各国が相次いで参加した。EBRDとの間でも、協調融資を含む協力関係を築く可能性が高い。
AIIBはすでに世界銀行、アジア開発銀行(ADB)との間で協調融資を実施する具体的な案件の検討に入っている。

習国家主席は10月に英国を訪問した際、英政府に対して中国のEBRDへの加盟を支持するよう要請している。中国から中央アジアを抜け、欧州に至る地域に巨大な経済圏をつくる一帯一路構想を進めており、EBRDに加盟することで、中央アジアや中東欧を舞台に欧州との連携を強めていく狙いがある。

EBRDは12月にも中国の加盟を認めるかどうかを判断する。

付記 

欧州復興開発銀行は12月14日、中国の加盟申請を承認したと発表した。

中国の出資比率は0.1%にとどまり、EBRDの意思決定にほとんど影響はないが、欧州側と関係を深めることで、「一帯一路」経済圏構想を前進させる狙いがあるとみられる。
EBRDも、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)と協調融資などで協力する方針を表明した。

ーーー

欧州復興開発銀行(EBRD) は、ハンガリーやポーランド等の中東欧諸国における市場指向型経済への移行並びに民間及び企業家の自発的活動を支援するため、1991年3月に設立された。

現在の支援対象国は、中東欧の旧社会主義国及び旧ソ連構成国を中心とする35カ国で、市場経済化・民営化を進めるための民間部門に対する投融資及び技術支援等を中心に業務を行っている。

中東欧諸国の市場経済化の進展に伴い、市場指向型経済への移行が遅れている中央アジアやコーカス地域等の初期段階移行国(キルギス、モンゴル、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、グルジア、モルドバ)に対する支援活動を中長期的に拡大していくこととしている。

さらに、2010年末に中東・北アフリカ地域で発生した民主化運動(アラブの春)を受け、2012年8月に支援対象地域を南・東地中海地域(Southern and Eastern Mediterranean)へ拡大することを決定し、これまでにエジプト、チュニジア、モロッコ、ヨルダンが支援対象に加わっている。

一方で、中東欧諸国のうち、2004年にEUへ加盟した8カ国(チェコ、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、スロベニア、エストニア、ラトビア、リトアニア)については、市場経済化が進展したとして、支援からの早期の卒業が期待されており、チェコは2007年12月に卒業した。

欧州諸国とEU、欧州投資銀行のほか、日・韓・米・加・豪・NZ・イスラエル・メキシコ・モロッコ・トルコが資金拠出加盟国となっている。

日本は設立当初からの加盟国であり、英独仏伊と並び、米国に次ぐ第2位の出資国となっている。
 


2015/11/10 中国の三一重工、米国での風力発電買収阻止事件で米政府と和解、実質勝利 

中国の重機械メーカーの三一重工の子会社Ralls Corp.は2012年3月に、オレゴン州の4つの風力発電企業を買収したのに対し、オバマ大統領が2012年9月に、「国の安全保障に関わる」として、風力発電企業4社の買収と所有を禁止し、売却も認めず、所有権を放棄することを求め、三一重工が理不尽だとして訴えていた事件で、11月4日、三一重工と米国政府の間で全面和解に至った。

三一重工側が訴訟を撤回し、米国政府も大統領令の強制執行を撤回する。

Ralls Corp.は風力発電企業4社を第三者に売却できる。
外国投資委員会(CFIUS)はRallsが買収した他の風力発電事業が国の安全保障上で問題がないことを認め、将来の更なる投資を歓迎する。

実質的には三一重工の勝利である。

 

経緯は下記の通り。

三一重工の子会社Ralls Corp.は2012年3月に、オレゴン州の4つの風力発電企業(合計発電能力40百万ワット)を買収した。
買収目的は、三一重工の子会社の 三一電機が製造する風力発電タービンで風力発電を行うこととされる。

買収直後に、米海軍が、風力発電の場所が軍用機の訓練の邪魔になるとの懸念を表し、設備を除去するよう求めた。

外国投資委員会(CFIUS)は安全保障を理由にRallの4つの風力発電の建設と操業を止めるよう命じ、すぐに設備を除去することを求めた。

これに対し、Rall側は土地と設備を売りたいと申し出たが、CFTUSは許可なしに売却することを禁じ、その土地での三一重工の製品の使用を禁止した。

オバマ大統領は2012年9月、「国の安全保障に関わる」として、風力発電企業4社の買収と所有を禁止し、取得した所有権を放棄することを求めた。

これまで中国企業の買収阻止を命じたのは、1990年2 月にGeorge Bush大統領が行ったもので、China National Aero-Technology Import and Export Corp(中国宇宙航空技術輸出入公司)による航空機部品メーカーのMAMCO Manufacturing, Inc.の買収のみ。

2012/10/4  オバマ大統領、米国内での中国企業の風力発電買収を阻止 

三一重工は10月18日、これを不服として、オバマ大統領と米政府の対米外国投資委員会(CFIUS)を米コロンビア地区連邦地裁に提訴した。

「一枚の禁止令により、2000万ドル以上の直接的な損失が生じ(間接的な損失を含まず)、企業の対外的なイメージも損なわれる。提訴はやむなきことだった。誰も裁判を望んでおらず、当社は潔白を証明するため仕方なく訴訟措置を講じた」

「米国は何の説明もなく、中国の風力発電プロジェクトを無理やり中止させた。中国製の設備の使用を禁じた上、当社が米国人の経営する米国企業に譲渡するのを禁じ、補償すら行わなかった」

2013年10月の一審では三一重工は敗訴したが、2014年7月15日、コロンビア特区連邦上訴合議法廷で、三人の判事が満場一致で、大統領令は多額の資産価値を奪うもので、明確な憲法違反であるとした

その後、話し合いを続け、和解に到った。


 


2015/11/11  オバマ米大統領、Keystone XL パイプライン建設計画を却下

オバマ米大統領は11月6日、カナダと米メキシコ湾をつなぐ原油パイプライン Keystone XLの建設計画について、環境に悪影響を与える懸念から却下したと発表した。

米国務省が入念な調査の結果、パイプラインは「米国の国家的利益に沿わない」との結論に達したのを受けたもので、大統領は「この決定に同意する」と述べた。

大統領はホワイトハウスでの記者会見で、COP21に向け環境対策が国際的課題となる中、計画を承認すれば気候変動対策での「米国の国際的指導力を損ないかねない」と説明。業界などが主張する建設のメリットに関しては、ガソリン価格下落やエネルギー安全保障の強化につながらず、「米経済に意義ある効果はない」と退けた。

建設を申請したカナダのエネルギー企業 TransCanadaは、大統領の決定を受けて、あらゆる選択肢を見直す考えを示した。

TransCanadaが建設計画中のKeystone XL Pipelineは、カナダのOil sandを採掘・処理した合成原油の輸入拡大を目指す取組みで、既に操業中のKeystone パイプライン(Phase 1-2)が、カナダ産合成原油を米国中西部製油所に輸送するのに対し、Keystone XL パイプライン(Phase 3-4)はメキシコ湾岸製油所まで輸送する。

問題になっているのは、Phase 4 で、ネブラスカ州の1/4を占めるSand Hills 地域は湿原地帯で、Ogallala Aquifer (帯水層)の上にある。
ネブラスカ州の責任者や住民はSand Hills 地域への懸念に加え、Great Plains 諸州の飲用水のソースであるOgallala 帯水層を横切ることに懸念を表していた。

2015年1月9日に下院が建設を推進する法案を可決し、上院は別の法案を1月29日に可決した。これを受け、下院は2月11日に上院が通した法案を可決し、大統領に送った。

Obama大統領は2月24日、この建設推進法案に拒否権を発動した。

大統領は拒否権発動に当たり、国境を越えるパイプラインの建設承認は国務省の権限であることを踏まえ、「法案は行政上の手続きに違反し、パイプラインが国益にかなうかどうか判断する手続きを回避しようとしている」と米議会を批判し、地球温暖化や安全保障など国益への影響を考慮すべきだとの意向を改めて訴えた。

2015/3/2   Obama大統領、パイプライン法案に拒否権

米上院は3月4日、大統領の拒否権を覆すための採決を行ったが、62票の支持に対し反対票が37票と、大統領の拒否権を覆すために必要な3分の2に届かなかった。これにより、下院での採決は行われないこととなった。

カナダのハーパー首相は7月29日のインタビューで、「非常に長期にわたり前向きな決定が下されておらず、期待できる兆候でないのは明らかだ」と述べ、オバマ大統領と最近この問題を話し合ったとした上で、「この政権特有の政治があると私は考えている」と述べた。

ーーー

John Kerry国務長官は11月6日、調査結果の結論を発表した。

綿密なレビューの結果、パイプラインの承認却下が米国の国益に最も資するとの結論に達した。
大統領はこれに同意し、協議した8省庁はこれを受け入れた。

キイとなる事実は下記の通り。
・計画は米国のエネルギー安保にマイナスの影響を与える。
・米国の消費者にガス価格低下を導かない。
・米国の経済への長期的な貢献は限定的である。
・地域コミュニティや水の供給、文化遺産への影響に懸念がある。
・ダーティな燃料を米国に輸送する。

決定的な要素は、この計画の推進で気候変動への対応で世界のリーダーとなろうとしている立場を著しく弱めることである。

この計画は、一般に言われているような米国経済の牽引力にはならない。

 

 



2015/11/12  Pfizer、Allergan と統合交渉 

アイルランドに本社を置く医薬会社 Allergan plc は10月29日、Pfizerから事業統合の提案を受け、友好的に予備的交渉を行っているという28日付けのWall Street Journal の報道を認めた。

Allerganは後発医薬品世界最大手の イスラエルのTeva Pharmaceutical に 後発薬事業を売却することで最終合意しているが、Pfizerとの話がどうなろうと、売却は実行するとしている。

2015/7/29   後発薬最大手のTeva、 医薬大手の Allerganから後発薬事業買収

米メディアは「実現すれば今年最大のM&Aになる」と伝えている。Allergan の時価総額は1100億ドル前後で、実現すると、ビール世界最大手のAnheuser-Busch InBev による同2位の英のSAB Millerの買収金額(1,036億米ドル)を上回り、今年最大のM&Aになる可能性が高い。

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Allergan plc は下記の歴史を持つ。

2012年4月に米ジェネリックメーカーのWatson Pharmaceuticalsは同じくジェネリックメーカーのActavis Groupを買収し、社名をActavisに改称し、2014年11月にしわ取りの医薬品BOTOX®が有名なAllergan plc を買収して、買収した会社の社名のAllerganに改称した

2回の買収で、ともに被買収会社の社名に改称したこととなる。

   

旧Allerganのしわ取りの医薬品BOTOX®が有名で、Pfizer は商品群をさらに広げるねらいがある。

Allerganはアイルランドを本拠にしており、Pfizerは統合後、本社をアイルランドに移すことを検討している。報道では本社海外移転によって年間の納税額は20億ドル前後も少なくなるという。

Pfizerは2014年1月に英同業のAstraZenecaに買収提案を行い、交渉を続けたが、同年5月26日、買収断念を発表した。Pfizerの経営幹部が、買収目的の一つを「効果的な租税負担を構築する」ことと述べており、買収目的の一つが、買収後は英国に多くの利益を留保・移転し、米国の高い税を回避するというものであった。

2014/5/12   Pfizer が AstraZenecaに買収提案

但し、租税回避を巡っては、各国が対応策を検討しており、今後はメリットがなくなる可能性がある。

欧州委員会は10月21日、Starbucksがオランダ政府から、Fiat Finance and Tradeがルクセンブルグ政府から、それぞれEUでは違法となる優遇税制を受けていたと判断し、更に、アイルランドによる米 Apple、ルクセンブルクによる米 Amazonへの税優遇などでも正式調査を進めている。

G20は10月8日、ペルーの首都リマで財務相・中央銀行総裁会議を開き、タックスヘイブン(租税回避地)などを使った多国籍企業の税逃れを防ぐ新たなルールを採択した。

米国も課税ルールの変更を検討している。

2015/10/27 欧州委員会、StarbucksとFiatの税優遇を違法と認定、追加徴税を指示

 


2015/11/12 AstraZeneca、米製薬会社 ZS Pharma を27億ドルで買収

英製薬大手のAstraZenecaは11月6日、米のバイオ医薬品会社 ZS Pharma を27億ドルで買収すると発表した。

AstraZenecaはZSの株主に対し1株あたり90ドルを現金で支払う。11月5日終値に42%上乗せした水準になる。

主力の高脂血症治療薬 Crestor ®の特許が米国で切れたことを受け、心疾患治療薬のポートフォリオ拡充を目指す。

ZSが開発中の高カリウム血症 (hyperkalaemia) の治療薬「ZS-9」が将来、全世界で10億ドルを超える売上高になる可能性を評価した。
ZS-9 は現在、米当局が審査中で、来年5月26日までに承認の是非が判明する見通し。
欧州の販売申請も2015年末に行う。

AstraZeneca は循環器・代謝性疾患を中核に位置づけており、相乗効果が見込める。

カリウムの過剰摂取などが原因の高カリウム血症は、腎臓病や心不全を引き起こすリスクがある。

ZS-9は不溶解性、非吸収性のけい酸ジルコニウムで ion­-trap 技術によりカリウムイオンを取り込む。
ZS-9 は消化管を通り、大便に含まれ排出される。

AstraZenecaは昨年、米Pfizer からの買収提案を拒み独自路線を追求しており、買収で自社の治療薬を補完する。

Pfizerは2014年1月に合併の可能性についてAstraZenecaに打診した。

買収案は現金と合併後の新会社株式で支払う内容で、1株 46.61ポンド、時価総額は587億3000万ポンドとなる。

その後、数度増額したが、AstraZenecaは応じず、Pfizerは5月18日、最終案として1株55ポンド、総額約693億ポンドを提示した。
AstraZenecaは5月19日、この提案を拒否、5月26日、Pfizerは買収断念を発表した。

2014/5/12   Pfizer が AstraZenecaに買収提案


2015/11/13 アステラス製薬、米国のバイオテクノロジー企業 Ocata  Therapeuticsを買収 

アステラス製薬は11月10日、細胞医療アプローチによる眼科領域での新たなステップとして、米国のバイオテクノロジー企業 Ocata Therapeutics, Inc. を買収する契約を締結したと発表した。

付記

2016 年2月9日を以ってTOBが終了し、成立した。合併手続きが2月10日に完了し、Ocataは連結子会社となった。
合併によりOcata のNASDAQ 市場での取引は停止され、上場廃止となった。

Ocata の発行済みの全ての普通株式を1株当り8.50 米ドルの現金を対価として取得する。
これは、11 月6 日終値に対して79%のプレミアムを加えた価格となり、総額は約379 百万米ドルとなる。

Ocata 社は、眼科領域における細胞医療の研究開発に重点的に取組むバイオテクノロジー企業で、多能性幹細胞から分化細胞を取得する基盤技術と、細胞医療の臨床開発に強みを有している。

最も開発が進んでいるのは、萎縮型加齢黄斑変性及びStargardt 病を対象とした網膜色素上皮(RPE: retinal pigment epithelium)細胞プログラムで、現在、臨床試験段階にある。

網膜色素上皮(RPE: retinal pigment epithelium)細胞は正常な視覚機能及び網膜細胞の生存に重要な役割を持つ。

加齢黄斑変性は網膜にある黄斑の機能が、加齢等の原因により障害される病気で、高齢者の失明原因の一つ。
滲出型と萎縮型があるが、萎縮型は、細胞が加齢で変性し、老廃物が溜まって栄養不足になり、網膜色素上皮が萎縮する。
(加齢黄斑変性は米国で失明原因の第1位で、未だ治療薬が存在しない。)

Stargardt 病は、眼底黄斑部の網膜色素上皮、または網膜深層にポフスチンと言われる黄白色不規則な斑点が蓄積され、黄斑が変性され、萎縮性病変となる。(家族性疾患で若年期から発症する。希少疾患であり、有病率は数万人に1人程度とみられる。)

Ocata 社の手法は、ヒト胚性幹細胞(hES細胞)株から分化誘導したRPE細胞を網膜下に注入移植する治療法で、分裂増殖が停止し最終分化した細胞を用いる。

その他にも、眼科疾患を中心に複数の細胞医療プログラムが研究・前臨床段階にある。

アステラス製薬では、細胞医療のアプローチで先端創薬を実現することにより、アンメットニーズの高い眼科疾患治療に貢献できると考えており、本買収の戦略的意義を以下の通りとしている。

 ・ 眼科領域におけるプレゼンスの確立
 ・ 細胞医療における Ocata 社の世界トップクラスのケイパビリティの獲得により、細胞医療におけるリーディングポジションの確立

 詳細は同社の「Ocata社買収について」参照

ーーー

アステラス製薬は2015年5月に「経営計画 2015-2017」を発表した。

そのなかで、重点研究疾患領域として、@アンメットニーズの変化、A最新の研究開発の実行可能性を踏まえ、下記を選定したとしている。

 既存疾患領域:泌尿器、がん、腎疾患、免疫科学、神経科学
 新疾患領域: 筋疾患、眼科

眼科領域のOcata 社を買収する一方、同社は11月11日、皮膚科領域に重点を置くデンマークのLEO Pharmaにグローバル皮膚科事業を譲渡する契約を締結した。

アステラス製薬は本事業譲渡により、競争優位の源泉となる機能へ再投資することで新薬創出力の更なる強化を図る。

譲渡の対象はアトピー性皮膚炎治療剤プロトピック®(日本は除く) と、主にEMEA(欧州・中東・アフリカ)地域で販売されているにきび・皮膚感染症を対象としたローカル製品から構成されるグローバル皮膚科製品群に関する資産及び関連権利義務で、譲渡対価は 6億7,500万ユーロとなっている。

日本でのプロトピック®については、2010年12月にマルホ株式会社に日本におけるプロモーション活動を委託し、日本における販売権を2014年4月1日から移管している。


2015/11/14 中国人の日本での温水洗浄便座購入 

2015年3月5日、中国の李克強首相は第12期全国委員会3回会議に出席する経済界や農業界の連合組織チームの委員と顔を合わせ、討論に参加した。

国家観光局前局長が、「観光産業の発展の潜在力をより一層発揮させ、さらに多くの産業の発展につなげることが必要だ」と述べたのに対し、李首相は、「中国の国民の消費水準は確かに上昇している」とした上で、中国人が海外に行ってトイレの温水洗浄便座を購入しているとのニュースを特に取り上げ た。

李首相は、 「開放的な態度で望むべきであり、貿易障壁には反対だ。消費者にはより多くの選択肢を享受する権利がある」とする一方、「中国企業はレベルアップが必要だ。もし国内にも同じような品質の商品があれば、競争力がより高まることになるだろう」と中国企業に奮起を促した。

ーーー

2015年11月12日付けの人民網日本語版は「大型飛行機が作れる中国はなぜ良い便座が作れないのか 」という題でこれを取り上げた。

中国が作った高速列車、有人潜水艇「蛟竜号」、月探査機「玉兎」、中国の職人は技能コンテスト世界大会においても金賞や銀賞を受賞している。
なのになぜ使いやすいボールペンを作るのが困難なのか?  国民が海外で買い漁っている便座がつくれないのか?

これに対する回答は下記の通り。

人的資源・社会保障部の副部長:

国家の立場からすると、その国が生産する製品の品質は実質的に熟練技術者のレベルによって決まる。

国のトップクラスの製品はハイクラスの人材が生産にあたっている。ボールペンが使いづらい背景にはやはり熟練技術職人の育成問題がある。我々は人材育成面において大きな差がある 。

中国はすでに生産実績において経験豊富な名人級の職人がいるが、これらの立派な職人の持つすばらしい技術をどのようにすれば後継者へと引き継ぐことができるのか。これは今の中国の製造業が真剣に向き合わなければならない問題だ。

中国社会科学院人口・労働経済研究所人的資源研究室の室長:

これはメイド・イン・チャイナの『重点分野はリードしているが、システム性が遅れている』という現状そのものを映している。

世界のテクノロジーの更新速度が速いが、企業はテクノロジーへの追随や研究開発、人材育成においてはタイムラグが存在する。中国にとっては専門技術者の人材不足が特に著しい。

現在、職業教育を含む技術職人の育成が直面する問題は、多くの若者やその両親は社会的評価が低いとみなし、この職業を選択することを良しとしない。
キャリアアップの道をスムーズにし、収入のレベルアップ、仕事環境の改善の3つの面から着手すべきだ。

中国航空工業集団公司の総経理補佐:

デザインから製品に転化させ、市場競争力のある製品にするには、全体的なプロセスとして、技術転化とスムーズな移転メカニズム、優良な製造保証、成熟した人材マーケット、信頼できる市場環境などが必要だが、現在中国の製造業の短所だ 。


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