サブプライム問題を巡る主な動き             アイスランド危機

@証券化商品ショック
2007年7月31日 米ベアー・スターンズ傘下のファンドが破綻
     8月9日 仏BNPパリバが傘下のファンド凍結を発表
       17日 米FRB 公定歩合を0.5%緊急引き下げ
     9月14日 英中銀、中堅銀行ノーザン・ロックへの稼済融資を発表
A金融機関の巨額損失が表面化
    10月 米シティグループ、メリルリンチなどが相次ぎサブプライム関連損失を発表
    11月26日 シティがアブダビ投資庁からの出資受け入れ発表
    12月12日 米欧5中銀が資金供給声明
Bモノライン危機
 08年1月18日 フィッチ・レーティングス、金融保証会社のアムバックを格下げ
Cベアー破綻
    3月16日 FRBがベアーに対して最大300億ドルの資金支援実施を決定
     米JPモルガンがベアー・スターンズの救済買収を決定
     6月9日 リーマン・プラザーズが3-5月期決算で上場来初の赤字。60億ドルを緊急増資
       25日 FRBが利下げ休止
D住宅公社不安
    7月11日 米住宅公社2社の経営危機が表面化、株価急落
  米地銀インディマックが破綻
       13日 米財務省とFRBが住宅公社への緊急支援策を発表
       25日 米2地銀が破綻
       30日 米住宅公社支援法が成立
    8月6日 フレディマックが4-6月期決算で8億2100万ドルの最終赤字を計上
       8日 ファニーメイが4-6月期決算で23億ドルの最終赤字を計上
      22日 通信社が「韓国産業銀行がリーマン出資を検討」と報道
    9月7日 米政府、住宅公社を管理下に置くと発表、合計2000億ドルの優先株購入枠を設定
Eリーマン危機
      9日 リーマンと韓国産業銀の交渉決裂が報じられ、株価が急落
      10日 リーマンが6-8月期決算で最終赤字が39億ドルに達するとの見通しを発表、経営改善策を示したが株価は続落
      11日 リーマン、米政府の仲介で身売り先を模索しているとの報道相次ぐ
  米財務省、住宅公社債に対する政府保証を2010年以降も継続すると表明
      12日 リ一マンの株価が年初来高値から9割超安の水準に
  リーマン問題で米財務長官、NY連銀、金融業界トップが緊急会合、週末も続行
      14日 英バークレイズによるリーマンの救済買収交渉が決裂
      15日 リーマンが連邦破産法第11条の適用を申請
  バンク・オブ・アメリカがメリルリンチ買収で合意と発表
      16日 FRB、AIG救済で最大850億ドルを緊急融資。同社株式 79.9%取得する権利も
  英バークレイズ、リーマンの北米投資銀業務の買収発表
      19日 米政府、金融危機の拡大を防ぐための総合安定化対策の大枠
      21日 米証券最大手のゴールドマン・サックスと2位のモルガン・スタンレーが銀行持ち株会社に移行
      22日 三菱UFJ、モルガン・スタンレーの第三者割当増資に応じ、最大20%出資
     (29日)  三菱UFJ、モルガン・スタンレーに21%出資(約30億ドル分の普通株と約60億ドル分の優先株取得)
  野村、リーマン・ブラザーズのアジア太平洋部門の買収で合意
      23日 野村、リーマン・ブラザーズの欧州と中東地域の主要事業を買収
  ゴールドマン・サックス、総額75億ドル以上の増資発表
      24日 ゴールドマン、公募増資による普通株発行を50億ドルへ引き上げ、増資総額は100億ドル
      25日 米貯蓄金融最大手ワシントン・ミューチュアルが破綻、JPモルガンが買収 
  JPモルガン・チェース、買収に備えて80億ドルの増資。
      26日 JPモルガン・チェース、増資を100億ドルに増額
  米銀ワコビア、身売り検討 
      28日 ベネルクス3国政府がフォルティスに112億ユーロを注入、部分国有化
      29日 英国、Bradford & Bingley Plc を国有化
  米下院、金融法案を否決
  シティがワコビアの銀行部門買収 米政府、損失補てんを保証
    10月1日 米上院、金融法案修正案を可決
    10月2日 野村、リーマン・ブラザーズのインドの決済機能買収
    10月3日 米の金融救済法が成立 
  米AIG、アリコ売却へ
  ウェルズ・ファーゴがワコビア買収、シティへの売却撤回
    10月10日 NY ダウ平均 一時8000ドル割れ(7882.51)
  大和生命保険、会社更生法申請
  リーマン対象のCDS 清算価格、元本の8.6%
  G7財務相・中央銀行総裁会議、「行動計画」を発表
    10月13日 三菱UFJ、モルガンへの出資、すべて優先株で前倒し実行
    10月14日 ブッシュ米大統領、金融安定化策を発表 公的資金、まず大手9行に注入
    10月22日 米下院公聴会、格付け会社に批判 
    10月23日 Alan Greenspan admits to some mistakes
    11月10日 米、AIG支援強化 1230億ドル→1500億ドル:融資600、不良資産買取り525、資本注入(新)400億ドル
    11月23日 米シティ救済 資産3060億ドルに政府保証 資金注入200億ドル追加(10/29 250億ドル)
    11月24日 Bernanke says he erred in gauging impact of martgage crisis
    11月25日 米、追加金融対策 8000億ドル
   
2009年1月16日 米シティ、会社2分割
  米政府、バンカメに10兆円保証、資本再注入1.8兆円
 
米金融機関への公的資金投入
  一次 二次 不良資産保証
シティグループ       2008/10 250億ドル 2008/11 200億ドル 3,010億ドル
バンク・オブ・アメリカ
 (メリルリンチ買収)
2008/10 250億ドル 2009/1 200億ドル 1,180億ドル
JPモルガン・チェース
 (ベア・スターンズ買収)
2008/10 250億ドル      
ゴールドマン・サックス 2008/10 100億ドル      
モルガン・スタンレー 2008/10 100億ドル      
ウェルズ・ファーゴ
 (ワコビア買収)
2008/10 250億ドル  
2009/2/27 米政府、シティの優先株のうち、最大250億ドルを普通株に転換、出資比率最大36%に
    3/2 AIG支援
   
   
   
2010/10/3 TARP 終了

日本経済新聞 2008/9/16

リーマン破綻 
 金融不安 株安の増幅

 世界的な金融不安が加速している。経営危機に陥った米証券大手
リーマン・ブラザーズは15日、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請し、経営破綻した。一方、米大手銀行のバンク・オブ・アメリカは株価が急落していた米証券大手メリルリンチを総額500億ドル(約5兆2千億円)で買収すると発表した。金融不安の高まりを受け、日経平均株価は16日、前週末比600円超下げるなど、日米欧の株価は急落。金融市場は混迷の度合いを深めている。

 米証券4位のリーマン・ブラザーズは15日、破産法11条の適用を申請し、会社更生手続きに入った。先週末から大手金融機関や米金融当局がリーマン買収の可能性などを議論してきたが、交渉が決裂。法的整理を余儀なくされた。リーマンの負債総額は6130億ドル(63兆7500億円)で、米国で史上最大の倒産となる。
 米大手金融機関の破産法申請は異例。邦銀を含む債権者や取引先など世界の市場関係者が広く影響を受けるのは必至だ。リーマンは信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題による住宅ローン資産などの値下がりで120億ドル超の関連損失を計上。資本不足に陥るとの見方が強まり、株価が急落、顧客や取引先が離れ事業継続が難しくなった。

バンカメはメリル合併
 米銀行2位のバンク・オブ・アメリカは15日、米証券3位のメリルリンチの買収で合意したと発表した。サブプライムローンの焦げ付きやその後の金融市場の動揺で収益が悪化したメリルをバンカメが事実上、救済合併する。米国の金融不安は世界最大級の金融再編に発展した。
 合意によるとメリル1株に対しバンカメの0.8595株を割り当てる。2009年3月までに合併を完了する計画。

AIG、直接融資要請 FRBは民間
 米連邦準備理事会(FRB)は大手証券ゴールドマン・サックス、大手銀JPモルガン・チェースなどの米有力金融機関に対し、米保険大手
アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)を支援するために700億ー750億ドルの民間融資枠を創設するよう要請した。米メディアが一斉に報じた。AIGはFRBに直接融資を要請していたが、FRBは民間主導の支援を模索しているもようだ。
 サブブライムローン関連で多額の損失を計上しているAIGはリストラ策を計画していたが、投資会社などが増資引き受けに難色を示している。

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米金融機関への公的支援

  ベアー・スターンズ 住宅金融公社 リーマン・ブラザーズ AIG
規模 最大290億ドル 最大2000億ドル なし 最大850億ドル
内容 買い手のJPモルガン・チェース
に特別融資
(損失補てん契約付き)
優先株購入枠
(融資、資産買い取り、
79.9%の普通株取得権利も)
破綻 2年間の緊急融資
(79.9%の株取得権利も)
当局の説明 デリバテイブ取引多く、
突然の破綻を回避
住宅市場底割れ防ぐ。
海外投資家の信認維持
緊急融資制度もあり、
市場混乱の可能性小さく
金融取引の中核。
経済・家計への影響防ぐ
株主責任 身売り価格は1株10ドル 無配、株主価値の希薄化 普通株はほぼ無価値に
(16日株価はO.3ドル)
無配の可能.性、
株主価値の希薄化

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米、財政・市場の規律重視
 ベアー救済との違いは・・・ 民間金融機関、余力なく

 米証券大手リーマン・ブラザーズの経営問題は、同社の破産法申請という形で決着した。米政府はこれまで証券大手ベアー・スターンズ、住宅公社と経営難に陥った金融機関を救済してきたが、今回は財政と市場の規律を重視する方向へと大きくカジを切った。
 米政府は二回連続で金融機関への公的支援に踏み出してきたが、それぞれに固有の事情がある。3月にJPモルガン・チェースに救済買収されたベアーのケースでは、当時は証券会社向けの緊急融資枠などセーフティーネットが手当てされていなかったことが大きい。
 またベアーのデリバティブ(金融派生商品)取引の残高は業界内でも特に多かった。このため「仮に破綻させれば、デリバティブの連鎖的な焦げ付きで金融システムが崩壌するリスクがあった」(米著名投資家ウォーレン・バフェット氏)といい、連邦準備理事会(FRB)が最大290億ドル分の損失補てんを引き受けた。
 住宅公社には米住宅金融市場の大部分を担っているという特別な事情がある。住宅公社が発行する債券には「暗黙の政府保証」があるとの解釈が一般的で、海外の中央銀行なども多く保有している。無策のまま破綻させれば米国そのものの信認が揺らぎかねなかったこともあり、米政府には救済以外の選択肢はなかった。
 現在は証券会社向けの緊急融資制度などが整い、証券会社が破綻しても市場に与える衝撃は一定の範囲内で緩和される。経営が悪化した私企業を救い続ければ、政府財政の悪化が過度に膨らみかねない。市場規律が緩み、かえって高リスク経営の暴走を許す恐れもある。
 信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題が長引くなか、体力が消耗しつつある民間金融機関にも救済策をまとめる余力はなかった。
 ベアーや公社への公的支援を巡り、業界の自主努力や市場原理を重視する一部議員から反発が出たことも公的支援を見送った政府の判断に影響したとみられる。
 こうした官と民のぎりぎりのせめぎ合いが、業界第四位の大手証券による米史上最大の倒産という結果につながった。

「公的救済は一度も考えず 米財務長官

 ポールソン米財務長官は15日、ホワイトハウスで記者会見し、リーマン・ブラザーズの公的救済は「一度も考えなかった」と語った。政府と米連邦準備理事会(FRB)がベアー・スターンズ支援に乗り出した「3月とは状況が全く違う」ため。資金供給制度拡充などが進み、金融システム全体の危機に陥る懸念は小さいと判断したとみられる。
 一般の商業銀行については「安全かつ健全だ」と強調、投資銀行で相次ぐ淘汰の動きが波及する懸念を否定した。ただ、経済・金融動向のカギを握る住宅市場の調整が「2,3ヶ月で峠を越すとは思えない」とも指摘。「調整が終わるまでは金融市場の動揺が続く」との見通しを示した。
 15日の金融市場で短期金利が急騰したことについて長官は「個々の動きや経済指標は様々だ。市場が荒い動きを示すこともあるだろうが、我々も進歩している」と語った。

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日本経済新聞 2008/9/17

英バークレイズ、リーマンの北米投資銀業務の買収発表

 英銀大手バークレイズは16日、破綻した米リーマン・ブラザーズの北米の投資銀行業務を、計17億5000万ドル(約 1800億円)で買収すると発表した。株式、債券の引き受け、売買仲介、調査やM&A(合併・買収)仲介などの事業を取り込み、米国市場での収益力強化を 図る。これに合わせ、10億ドルを増資して買収費用に充てる。

 リーマンの投資銀部門の資産と負債を2億5000万ドルで買い取るほか、ニューヨークの本社ビルなどの不動産の取得に15億ドルを支払う。従業員1万人も移籍する。

 買収により、バークレイズは債券関連業務で世界トップクラスの金融機関になる見込み。米国市場でのM&A助言業務、ヘッジファンド向けサービスなどでもシェアが拡大する。

中央日報  2008.09.17

リーマン買収していれば…胸をなで下ろす産銀

 産業(サンオプ)銀行は7月中旬から、14日(現地時間)に破産保護を申請したリーマン・ブラザーズと株式取得交渉を繰り広げていた。 仮に産業銀行がリーマン・ブラザーズの買収に成功していれば、どういう展開になっていたのだろうか。

  産業銀行の買収発表でリーマンは危機を克服しただろうが、その後に出てくる不良債権問題のため産業銀行までが危険に陥っていたはず だ、というのが金融圏の投資銀行(IB)専門家らの分析だ。 産業銀行は国策銀行であるだけに、リーマンが正常化しなければ、莫大な政府財政までも投入される可能性があった、ということだ。

  ある都市銀のIB専門家は「不良債権規模をきちんと把握できなかったためリーマン買収はあまりにも危険だった」と語った。 金融委員会の関係者も「産業銀行がリーマンを買収しなかったのはよかった」と話した。

  しかしリーマン買収を指揮した閔裕聖(ミン・ユソン)産業銀行長の考えは違った。 閔氏は18日、記者懇談会を自ら要望し、「リーマンがわれわれの提案を受け入れていたとすれば、こういう状況はなかったはずだ。残念だ」と述べた。

  閔氏によると、産業銀行は国際金融公社(KIC)と資産管理公社(KAMCO)に続き、7月中旬から株式20%を取得する案についてリーマンと交渉したが、結論は出なかった。

  危機が迫るリーマンは8月初め、経営権を譲る案をまた産業銀行に提案した。 閔氏は「すべての条件にお互い合意したが、リストラ後の資産に対する推定額の差があまりにも大きく、結局、交渉は決裂した」と述べた。

  閔氏は「リーマン買収は国益になるという判断で金融委員会の協力を受けて交渉を進めた」とし「リーマン買収は不発に終わったが、今後も海外投資銀行の買収に積極的に乗り出す」と語った。

  産業銀行がリーマン買収をあきらめたことには、買収価格のほか、‘9月金融危機説’でリーマン買収に友好的だった雰囲気が変わった点も影響したとみられる。

  政府関係者は「当初友好的だった青瓦台(チョンワデ、大統領府)の雰囲気が否定的になり、産業銀行のリーマン買収は事実上不可能なものと決定された」と話した。

  これに関し青瓦台は「産業銀行のリーマン・ブラザーズ買収と関連し、青瓦台が首席会議などで関連事実を議論したことはなく、制約を加えたこともない」と明らかにした。


日本経済新聞 2008/9/17

連鎖の矛先、AIGに
 宙に浮いた資本増強策 株価は一時1ドル台に

 米金融危機の次の焦点は保健大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)だ。航空機リース事業売却や増資を柱とするリストラ策を計画していたが、投資会社が引き受けに難色を示し、資本増強策が宙に浮いた。市場はAIG株への売り圧力を強めており、FRBは米有力金融機関にAIGを支援するために700億-750億ドルの民間融資枠を創設するよう要請した。

 16日の米株式市場でAIGの株価は一時、1ドル25セントまで下げた。正午現在、前日比40%安い2ドル83セントで取引されている。
 同日、ニューヨーク連銀では米財務省や監督権限を持つニューヨーク州当局、民間金融機関がAIG支援を巡る協議を続行した。米CNBCテレビは関係筋の話として、米政府が支援を検討していると報じた。
 AIGが6月末までの1年間で計上したサブプライム関連損失は計440億ドル。債務担保証券(CDO)など住宅ローン絡みの証券化商品を自己資本に匹敵する程度の額で抱えており、7-9月期も100億ドルを超える損失を計上する見通し。15日には信用格付けも引き下げられた。
 資産規模が1兆ドルを超えるAIGの経営不安の影響は、証券会社より大きいとされる。株式など様々な運用商品を抱えているうえ、デリバティブ(金融派生商品)を通じ銀行や証券会社の金融取引を保証しているためだ。AIGはデリバティブの形で転売されるリスクの「終着駅」ともいえる。
 AIGは年金・退職金商品に加えて損害保険なども組成・販売。AIGの経営不安はプロの機関投資家のみならず、一般家計を直撃しかねない。
 ALGと並び懸念が高まっているのが米S&L最大手の
ワシントン・ミューチュアル。サブプライム問題により赤字が続いている。株価急落と格下げで市場での資金調達は困難になりつつある。

AlGグループの日本事業の概要  (単位:億円、2007年度)

    保険料
収入
   
生保 アリコジャパン  14,657 業界5位  
AIGエジソン生命   4,073 業界22位 東邦生命を買収
AIGスター生命   2,663 業界23位 千代田生命を買収
損保 AIU保険   2,660 業界8位  
アメリカンホーム保険    826 業界11位  
ジェイアイ傷害火災    137   旅行保険 JTBとの折半出資
富士火災海上保険      

(注)富士火災海上保険は2002年3月の第三者割当増資
    発行後の持株比率 オリックス 22.14%
                AIG 22.14%(AIU保険保有の10,300,000株を含む)

 AIGの経営不安は日本国内の事業への影響も避けられない。同社は日本国内で生保3社・損保3社を抱え、3月末の契約件数は生保だけで900万件にのぼる。2007年度の保険料収入は生損保合計で2兆5千億円に達し、単純に比べると国内生保大手の住友生命保険に匹敵する。
 AIGの国内生保はアリコジャパン、AIGエジソン生命保険、AIGスター生命保険。保険料収入は合計2兆1千億円で、AIGの世界の生保事業の4分の1を占める。損保はAIU保険、アメリカンホーム保険など。各社の経営は堅調で「グループ貢献度は高く、安定している」(格付投資情報センターの植村信保チーフアナリスト)。

2008/9/18 毎日新聞

AIG 米政府管理下に 拡大路線が裏目
 「金融保証」に傾斜  サブプライム 巨額損失響き

 米最大手の保険会社、AIGが米政府の管理下に置かれ、大幅なリストラを迫られることになった。高リスクの証券化商品に投資を増やした上に、金融商品の保証事業にも手を広げた結果、低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライムローン)問題に巻き込まれ、巨額損失に押しつぶされてしまった。生保業界5位のアリコジャパンなどAIGが日本国内に抱える生損保への影響も懸念され、各社には契約者からの問い合わせが殺到している。

 AIGの経営が急速に悪化した背景には、米最大手の保険会社としての高い格付けを武器に、証券化商品や金融取引への保証業務を、体力を大きく上回る規模で展開していたことがある。
 本業の生損保事業は利ざやが薄いうえに契約が思うように伸びなかったAIGにとって金融保証事業は、「魔法のつえ」のような存在だった。保証事業の柱が、企業向け融資や証券化商品が焦げ付いた際に損失を肩代わりする「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」という金融派生商品(デリバティブ)で、同社は高格付けをテコに取引を急拡大。自己資本(780億ドル)の5倍に達した保証事業から得られる手数料が収益を支えてきた。
 一方で、資産運用の多角化を図る観点から、同社は自己資本に匹敵するほどの住宅ローン担保証券を保有していた。昨秋以降、シティグループなど米金融大手でサブプライム関運の巨額損失が表面化したが、AIGは「損失を被る可能性はゼロに近い」と強気の姿勢を示し、市場でもAIGの危機を予想する声はほとんど無かった。
 ところが、年明け以降、事態は急変した。サブプライム問題の深刻化で同社が保有する住宅ローン担保証券などの価値が急減し、監査事務所から資産の再評価を迫られた。2月末には111億ドルの巨額損失を計上、その後もサブプライム関連損失は膨らみ続け、08年4〜6月期まで3四半期連続の赤字に転落した。
 これに伴い、AIGの株価は急落し、格付けも引き下げられ信用力は大きく低下した。AIGは世界中の金融機関や機関投資家と金融保証取引をしており、保証が履行できなくなれば国際金融システム危機につながる恐れもあった。AIGは投資家や金融機関に約束した元利保証を確実にするために、多額の現金担保を差し出すことを迫られ、資金繰りは、一気に行き詰まった。

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2008年9月17日 asahi

AIGに9兆円緊急融資 米当局が公的救済発表

 米連邦準備制度理事会(FRB)は16日、経営危機に直面する保険世界最大手の米AIGを救済するため、
最大850億ドル(約9兆円)を緊急融資する、と発表した。同社株式を79.9%取得する権利も得て、実質的に公的管理下で再建を進める。金融危機へ市場の動揺が大きく、米政府として否定的だった公的資金による救済に追い込まれた。

 FRBは緊急声明で「混乱した状態でAIGが破綻すると、金融市場がさらに脆弱になり、資金調達のコストも大幅に上昇する可能性がある」と、実体経済への打撃を避ける狙いを説明。同社の資産をすべて担保に押さえての融資で「納税者の利害は守られている」と強調した。

 FRBによると、期間は
2年の「つなぎ融資」で、同社は今後、資産売却で緊急融資を返済する。公的資金で事業を安定的に継続させる一方、悪化した金融資産や事業の処分で財務体質を早急に改善させ、再生を促す方針だ。

 株式取得の権利は、金融当局の影響力を維持する狙い。FRBは緊急時に監督下の銀行以外の企業などに特別融資できるが、実際に本格発動するのは極めて珍しいという。

 AIGは130以上の国・地域で事業を展開し、資産総額は約1兆ドル(約106兆円)。米低所得者向け(サブプライム)住宅ローン問題が拡大して住宅関連証券の価値が急落し、資金繰りが悪化。米証券大手リーマン・ブラザーズの経営破綻も資金繰り難に拍車をかけ、16日は資金不足で米破産法申請を検討するとの観測も浮上していた。

 米政府は、AIGが破綻して金融資産が投げ売りされれば、国際金融市場も大きく混乱する危険性があることを重視。複数の金融機関にAIGへの緊急融資を要請したが、調整がつかなかったという。

 米政府は7日に米住宅金融最大手2社の救済で最大2千億ドル(約20兆円)の資本注入枠を設定するなど、事実上の国有化を視野に入れた企業救済を相次いで迫られている。

救済策骨子
ニューヨーク連銀から最大850億ドルを融資
AIGの破綻は金融市場のもろさを著しく増し、資金調達コストの急上昇につながる可能性があると判断
融資の目的はAIGの債務履行の支援
融資期間は24カ月。AIGの金資産を担保
政府はAIG株の79.9%の購入権を取得。普通株、優先株への配当支払いに拒否権を保有

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リーマン・プラザーズ
 米4位の証券会社。1850年に綿花取引会社としてアラバマ州で設立。南北戦争後にニューヨークヘ移転、証券業に進出した。米国のほか日本、欧州、中東、中国、中南米など世界約30カ国・地域に拠点を持つ。業界首位のゴールドマン・サックスなどに対抗するため、リスクの高い証券化ビジネスに傾斜。今年3−5月期決算で上場来初の最終赤字を計上。責任をとり社長や最高財務責任者(CFO)が辞任した。6-8月期も赤字となり、年初に60ドル台だった株価は破産法申請直前の12日に3ドル台まで下落していた。

パンク・オブ・アメリカ
 1874年にノースカロライナ州シャーロットで創業した「コマーシャル・ナショナル・バンク」が源流。1998年にバンカメリカ(カリフォルニア州)を買収し、99年に現社名となる。米三大商業銀行の一つで、従業員約20万6千人、総資産は約1兆7千億ドルで約6100カ所の国内支店を持つ(いずれも6月末現在)。今年、米住宅ローン最大手のカントリーワイド・ファイナンシャルを買収。サブプライム関連損失はライバルのシティグループなどに比べると小さいとされる。

メリルリンチ
 1914年にニューヨークで設立。従業員約6万人、顧客預かり資産は約1兆6千億ドル(いずれも6月末)で、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーと並ぶ米大手証券3社の一角。昨年夏以降のサブブライム問題で多額の損失を計上、,みずほコーポレート銀行などの出資を受けた。米欧取引所連合NYSEユーロネクストの最高経営責任者(CE0)だったジョン・セイン氏を新CEOに迎え再建に取り組んでいた。

◆米国証券会社の財務状況(07年度末) 億ドル
    総資産  
Goldman Sachs  11198  
Morgan Stanle  10454  
Merrill Lynch  10201 Bank of Americaが買収へ
Lehman Brothers   6911 連邦破産法11条を申請し経営破綻
Bear Stearns   3954 JP Morgan Chaseが買収
    メリルは07年末、他は11月末

 

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2008.3.17

モルガンがベアー・スターンズ買収を発表

 米大手銀JPモルガン・チェースは16日、低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライム ローン)問題の影響を受け、資金繰りの悪化が伝えられていた米証券大手ベアー・スターンズを買収すると発表した。JPモルガンによる事実上の救済合併で、 サブプライム問題で米国の大手金融機関が売却されるのは初めて。

 米連邦準備制度理事会(FRB)は16日、買収合意に伴い、ベアー・スターンズに対し、最大300億ドルの特別融資を実施することで合意した。業界5位のベアーの破綻を回避することで、金融市場の混乱を防ぐことが目的だ。

 売却はJPモルガンとの株式交換で行い、ベアー株1株当たり2ドル相当とし、総額2億3600万ドルになる見通し。14日のベアー株終値は30ドルで、15分の1の価格となった。

 ベアーは3月に入り、「経営難に陥っている」とのうわさにさらされ、信用不安から金融市場での資金調達が困難になり、株価も急落した。こうした事態を受け14日にニューヨーク連邦準備銀行が支援を決めたばかり。

 ベアー以外に証券大手リーマン・ブラザーズも信用不安となり、14日に銀行団から20億ドル(約1940億円)の融資枠を確保したと発表、不安の沈静化を図った。


日本経済新聞 2008/9/17

米9月危機 衝撃が走る

 リーマン・ブラザーズ破綻、メリルリンチのバンク・オブ・アメリカヘの身売り、そしてアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の資金繰り不安ーー。週明けの世界の市場は相次ぐ米国金融機関の経営問題に大揺れとなった。先週の金曜日までは想像もつかなかった突然の「9月危機」。米金融当局や金融機関トップらが水面下で迷走したドタバタの1週間を検証する。

第一幕 存続か退場か
 リーマン増資頓挫 金融機関 緊張一気に

 「韓国産業銀行はリーマンヘの出資に極めて慎重になるべきだ」
 米政府による住宅金融公社救済から一夜明けた8日。韓国金融委員会の全光宇委員長の発言が、世界の市場に漂っていた安ど感を吹き飛ばした。巨額のサブプライムローン関運損失の穴を埋める資本の出し手を求めていたリーマン。先進国の主要金融機関や投資家との増資交渉が相次ぎ頓挫。「韓国」が最後の望みだったが、韓国金融当局が事実上買収を許可しない方針を突きつけた。
 市場は「望みが絶たれた」と判断。リーマン株投げ売りが始まる。株価は13%下がり、14.2ドルに。翌9日に7.8ドルと半値になった。
 追いつめられたリーマンは10日、不良資産を別会社に切り離す経営改善策を急きょ発表。だが肝心の資本調達計画は何も示せなかった。ゴールドマン・サックスのアナリストは「重大な不安が残る」と指摘。四半期赤字見通しと合わせて逆に行き詰まり感が目立ち、株価はさらに下がった。
 翌11日夕、米金融機関が集まるウォール街に衝撃が走る。米紙が「米財務省、リーマンの身売りを仲介」と報じ、リーマンの自力再建がほぼ絶望的になったからだ。
 米連邦準備理事会(FRB)がかかわった3月のベアー・スターンズ危機と同じなら、極端な安値で売却されるはず。だがFRBは「公的資金の活用は検討していない」と明言。買収を探っていた金融機関側は公的支援を期待していただけに、買い手が現れるかさらに不透明になった。リーマン株はこの前後、再び40%も下がった。
 実はこのころ、ポールソン米財務長官はバーナンキFRB議長と二人きりで会い、公的資金活用の是非を話し合ったとされる。そのなかで財務長官は「(今回公的救済して)前例になれば、次はどんな業界から救済要求が出てくるか分からない」と語っていたという。
 市場が狙い撃ちしたのはリーマンだけではなかった。資本が不足気味の金融機関すべてが売り対象となった。貯蓄金融機関(S&L)最大手のワシントン・ミューチュアルや大手証券メリルリンチも標的になった。
 利益を上げながら徐々に不良資産を償却し、市場の回復を待つ。そんな心積もりだった金融機関の時間軸は一変した。市場は突然、不振金融機関に対して「存続か退場か」を迫り始めた。

第2幕 緊急会合
 官民、激しく対立 「解体」「公的救済」

 連鎖破綻の恐怖が現実味を増してきた12日夕、ポールソン財務長官がウォール街に姿を現した。金融機関トップをニューヨーク連邦準備銀行に招集。ヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の救済劇以来、10年ぶりに官民の緊急会合を開き、リーマン買収の可能性を協議した。
 双方は鋭く対立する。
 公的資金投入を求める金融機関トップに、ニューヨーク連銀のガイトナー総裁は「公的救済の意思はない」と述べ、民間だけでの解決を主張。財務長官も金融トップに向かって「ここにいる全員が(リーマンが破綻すれば)損害を受ける可能性がある」と民間解決への協力を強く求めた。不良資産と優良資産を分けて別々に売却する解体案も出たが、金融界が損失分担に難色を示し、立ち消えに。次第に「破綻処理」が現実の選択肢として浮上してきた。
 会合2日目の13日朝、メリルのジョン・セイン最高経営責任者(CEO)は意を決して一本の電話をかける。相手はバンク・オブ・アメリカのケネス・ルイスCEO。サブプライム損失の影響が小さく、リーマンの買い手候補の筆頭と目されていた大手銀行だ。
 実はメリルはモルガン・スタンレーへの身売りの可能性も探っていた。だが、この日の会合にも出たセイン氏は「バンカメがリーマンを買う可能性は低い」との感触を得ていた。大手証券4位のリーマンの次の標的は3位で損失が多いメリルというのが市場のムード。追加増資できずに連鎖破綻を迫られるより、今のうちに早く身売りを決めるべきだーー。予定していたアジア出張をキャンセルしてバンカメとの交渉にかけた。
 「一生に一度のチャンスだ」。メリルの国際ネットワークや富裕顧客に魅力を感じたバンカメのルイスCEOも申し出に乗った。資産査定の時間はわずか1日。メリルの資産内容に詳しい投資会社JCフラワーズがアドバイザーとなって査定をまとめ、「リーマンからメリルヘ」の電光石火のくら替えが実現した。
 会合3日目の14日、日曜日。ニューヨーク連銀本部には関係者を乗せた黒塗りの送迎車がひっきりなしに出入りする。それは破綻処理の可能性を探り始めたことを意味していた。午後に入ると、ウォール街のデリバティブ(金融派生商品)トレーダーが一斉に出社してリーマン向け取引の清算を開始。市場は破綻処理へと動き出す。深夜から翌未明にかけ、バンカメはメリル買収を、リーマンは破産法申請の方針を相次ぎ発表した。

第3幕 新たな波乱
 AIG株売り次々 空前の嵐いつまで

 作業を終えたニューヨーク連銀のスタッフが帰路につき始めた14日夜、100メートルほど離れた場所にある米大手保険AIGの本社では、新たな波乱が持ち上がっていた。15日朝に発表予定だった400億ドルとされる増資計画が頓挫したのだ。
 リーマンを追い込んだ「増資失敗→株売り」が米大手保険にも突きつけられた。翌朝、予定時刻に計画を発表できなかったAIG株は寄り付きから急激に下がる。AIGはFRBに救済融資を求めたが、FRBは民間での解決を要請。民間金融機関に共同で総額750億ドルの融資枠を設定してもらうよう求めた。増資の行方が不透明なためAIG株は61%も下落し、米ダウ平均株価は米同時テロ以来の下げ幅で引けた。
 AIGの本業である生命保険、損害保険事業は健全だ。だが子会社でデリバティブ取引に手を広げ、投資銀行やヘッジファンド顔負けの取引を行っていたことが会社全体を苦境に陥れた。
 増資を条件に格付けを据え置いていた大手格付け会社は相次いでAIGを格下げ。再格下げの可能性も示した。金融機関にとって投資適格級の格付けを失えば、通常の資金調達は困難になる。破綻の可能性を回避するには、17日までに資金をどこからか調達し、デリバティブ取引の相手先に担保を差し入れることが不可欠となった。
 だがリーマンは、官民がお互いにリスク負担を避けた結果、破綻した。AIGにとっても7兆円を超す民間融資の設定は容易ではない。金融市場を襲う空前の嵐はまだ過ぎ去っていない。


日本経済新聞 2008/9/19

米欧市場、金融淘汰迫る
 モルガン・スタンレーも合併観測 自力増資手詰まり


 米欧の株式市場が大手金融機関に淘汰・再編を迫りだした。銀行間取引での資金調達が難しくなるなか、市場は銀行や証券会社の株を狙い撃ちにし、金融株は軒並み急落。それをみて資金の出し手が一段といなくなる悪循環に陥っている。経営破綻し退場を余儀なくされるのか、他の金融機関と統合して生き残りを目指すのか。米欧の金融機関は待ったなしの状況に陥っている。

 米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)が政府の管理下に入った後、最大の焦点は米証券二位のモルガン・スタンレーだ。

■非常事態に
 AP通信は18日、関係者の話としてモルガンが米銀行四位ワコビアとの合併という選択肢に加えて、中国やシンガポールの金融機関などからの出資も検討していると報じた。
 モルガンの株価は同業のリーマン・ブラザーズの破綻後に急落。18日午前も下落しており、9月上旬に40ドルを超えていた株価は一時16ドル台に下がった。破綻確率の目安とされる指数は急上昇しており、市場は同社の経営破綻も意識し始めた。
 マック最高経営責任者(CEO)は、ポールソン米財務長官やコックス証券取引委員会(SEC)委員長らと対応策を電話で協議したという。ニューヨーク・タイムズによればモルガンはシティグループに合併を持ちかけていた。シティが断ったため、実現しなかったが、モルガンが非常事態に陥っているのは間違いない。
 米貯蓄金融機関(S&L)最大手ワシントン・ミューチュアルも会社売却の交渉に入ったと報じられた。シティグループやJPモルガン・チェースなどが関心を持つているという。ワシントン・ミューチュアルの株価も急落し、2ドル台に低迷。自力再建は困難となり、第三者による救済が不可避の情勢だ。

■資金難連鎖
 大手金融機関が次々と追いつめられた背景には、増資が極めて難しくなったことがある。多くの金融機関はサブプライム関連損失を埋めるため、4月から6月にかけ一斉に増資した。だがその後も金融株は値下がりし、株を購入した投資家は損失を被った。このため信用力の高い大手金融機関でさえ、増資に応じる投資家を見つけられなくなってきた。
 増資に失敗した金融機関の株は投機筋に空売りされ、一段と株価が下落。信用格付けを引き下げられ、さらに増資が難しくなる悪循環に陥る。銀行間市場の機能低下によって、短期資金を調達することも難しい。リーマン・ブラザーズ、メリルリンチ、AIGはこうして逃げ場を失った。
 バンク・オブ・アメリカに身売りしたメリルのセインCEOは「今のような状況では規模の大きさが重要だ」と発言。大手金融機関でも、証券会社など比較的資本が少ない企業が投機的な売りの標的になっている。
■日本と酷似
 日本でも1997年11月の山一証券破綻以降、大手銀行や証券会社の株が売られ、パニック状態に陥ったことがあった。巨額の不良債権を抱えて破綻した日本長期信用銀行、日本債券信用銀行だけではなく、三井住友銀行の前身のさくら銀行、みずほグループの前身の富士銀行なども市場から狙い撃ちにあった。取引先企業に増資を引き受けてもらったりして一度危機をしのいだが、それでも市場からの売り圧カに抗しきれず、後に政府からの公的資金注入で危機を回避した。
 今回の米市場も金融株の売りが殺到。似たような状況になってきた。
 

英ロイズ 住宅金融を救済合併 欧州でも再編の荒波

 英銀大手のロイズTSBは18日、住宅融資最大手の大手英銀HBOSを122億ポンド(2兆3千億円強)で救済合併することで合意したと発表した。スイスの金融大手UBSなども投資銀行部門の再編・売却の観測が浮上。信用不安に伴う金融機関の淘汰の波は欧州でも広がっている。
 HBOSは英国の住宅ブームを追い風に住宅融資事業を過去数年に急拡大していたが、資金調達の市場依存度が高いため「資金繰り難に陥る」との観測から過去1週間に株価が急落。昨年の中堅銀ノーザン・ロック破綻のような信用危機に発展する恐れが高まりたため、ブラウン首相自ら仲介に乗り出し、独禁法の適用除外措置などの特例を講じる方針を示し、両行の合意を1日でまとめた。
 英政府は18日、「英金融システムの安定確保は国益のため両行統合に政府が関与する」との異例の声明を発表した。市場では「信用収縮を乗り切ろうと財務基盤の強化を狙った金融機関の合従連衡が今後も続く」(英投資会社ブリュイン・ドルフィン銀行アナリスト、マーク・ダーリング氏)との見方が多い。
 スイス金融大手UBSや、不正取引で巨額損失を計上した仏大手銀ソシエテ・ジェネラル、英銀大手ロイヤル・バンク・オブ・スコツトランド(RBS)の再編観測もくすぶる。

 

米国金融機関の推移


2008年9月22日 asahi

米証券ゴールドマンとモルガン、銀行移行 FRBが承認

 米連邦準備制度理事会(FRB)は21日、米証券最大手のゴールドマン・サックスと2位のモルガン・スタンレーが業務形態を銀行持ち株会社に移行することを承認した、と発表した。金融危機を受けた対応で、特別融資などFRBの支援を受けやすくなる。

 今後は総合金融サービス会社として、預金の獲得などで財務基盤に安定性をもたせ、経営強化でほかの銀行を買収することも視野に入ってきた。金融危機で証券会社への先行き不安が根強く、トップ2社を破綻(はたん)させないという金融当局の意思表示とみられる。

 大手証券会社はリーマン・ブラザーズやベアー・スターンズが実質破綻し、メリルリンチも銀行に買収されて両社のみが「生き残り」だった。両社の銀行への移行は米ウォール(金融)街の激しい地殻変動を象徴している。

 証券会社は3月のベアー・スターンズの破綻をきっかけに、FRBから資金繰り支援の融資を受けられるようになった。証券取引委員会(SEC)の監 督下だったが、金融危機対策でFRBの監視の必要性も増していた。両社はFRBの支援態勢のなかに名実ともに組み込まれる一方、財務内容で新たな監視を受 けることになる。

 大恐慌で導入された旧グラス・スティーガル法による銀行と証券の分離は99年に実質的に解禁されていたが、今回の危機で最終的に両業態の「一体化」が一気に進んだ形だ。


世界の金融保険会社ランキング上位30位 2006年度

順位 会社名 国名 業種 純利益
(百万ドル)
上図
1 シティグループ Citibank 米国 総合 21,249 1 
2 バンク・オブ・アメリカ Bank of America 米国 総合 21,133
3 HSBCホールディング 英国 銀行 15,789  
4 アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG) 米国 保険 14,014 政府管理
5 JPモルガン・チェース JPMorgan Chase 米国 総合 13,649
6 ロイヤルバンク・オブ・スコットランド・グループ 英国 銀行 11,779  
7 バークシャー・ハサウェイ 米国 保険 11,015  
8 INGグループ オランダ 総合 9,660  
9 サンタンデール・セントラル・イスパノ銀行 スペイン 銀行 9,539  
10 ゴールドマン・サックス・グループGoldman Sachs 米国 証券 9,537  
11 BNPパリバ フランス 銀行 9,178  
12 UBS スイス 証券 9,172  
13 アリアンツ ドイツ 保険 8,817  
14 ウェルズ・ファーゴ Wells Fargo 米国 銀行 8,482
15 バークレイズ 英国 銀行 8,422  
16 ワコビア Wachovia Bank 米国 銀行 7,745
17 三菱UFJフィナンシャルグループ 日本 銀行 7,535  
18 ドイツ銀行 ドイツ 銀行 7,517  
19 メリルリンチ    米国 証券 7,499 Bank of Americaが買収へ
20 モルガン・スタンレー 米国 証券 7,497 Wachovia Bankと交渉?
21 HBOS 英国 銀行 7,138 ロイズが救済合併
22 ウニクレディト・イタリアーノ イタリア 銀行 6,771  
23 クレディ・スイス・グループ スイス 証券 6,610  
24 ソシエテ・ジェネラル フランス 銀行 6,557  
25 アクサ フランス 保険 6,386  
26 クレディ・アグリコル フランス 銀行 6,179  
27 中国建設銀行 中国 銀行 5,962  
28 ビルバオ・ビスカヤ・アンヘンタリア銀行 スペイン 銀行 5,948  
29 りそなホールディングス 日本 銀行 5,687  
30 預金供託公庫(CDC) フランス 銀行 5,617  

(注)S&P社データベースによる。年次は原則2006年度(06年7月1日〜07年6月30日の間の決算期)。カッコ内の国名は主たる上場国。数字は税引き前純利益ランキングの順位。
(資料)ニューズウィーク日本版(2007.10.10)

 


日本経済新聞 2008/9/20

米、金融安定へ総合対策 
 公的資金「数十兆円」 貯蓄型投信を保護 不良資産買い取り機関

 米政府は19日、金融危機の拡大を防ぐための総合安定化対策の大枠を固めた。@公的資金を使った不良資産の買い取り機関を創設するA貯蓄性の高い投資信託MMF(マネー・マーケット・ファンド)の保護に政府基金最大500億ドルを使うB金融機関株式の空売りを全面禁止するーーなどが柱。投入する公的資金の規模は数千億ドル(数十兆円)にのぼる見込み。焦点の金融機関の不良資産買い取り策は来週中の決定に向け議会と最終調整を急ぐ。

 ブッシュ米大統領は同日午前記者団に「現在の不安定な状況を考えると、政府介入は必要。(システム安定化へ)多額の公的資金を用意している」と語った。これに先立ち記者会見じたポールソン財務長官は公的資金の投入規模は「数千億ドル(数十兆円)の議論をしている」と語った。
 今回の対策は、不良資産分離などの金融システム安定化策と、規制強化や政府基金活用による市場安定化策の二本柱。個別金融機関救済などその場しのぎで対応してきた路線を転換。公的資金も投じ金融システム全体の健全化に取り組む。
 不良資産買い取りではまず、政府管理に入った住宅金融2公社による住宅ローン担保証券の買い取りなどを大幅に拡充する。ただ、住宅ローン担保証券は不良資産の一部にとどまる。政府は議会と調整を進め、公的資金を使った不良資産を買い取る仕組みを設ける。
 MMFへの投資家保護策として、公的資金を使い来年までの時限措置として預金保険のような仕組みを導入する。MMFは本来は元本保証はないが預金と同様に安全資産とみなされていた。ところが投資対象にしている金融商品の値下がりで元本割れが続出、個人の解約が殺到するなど市場の混乱要因になっていた。
 空売り禁止は、799金融機関の株式が対象で、10月2日まで実施する。ただ情勢次第で30日間延長する可能性もある米証券取引委(SEC)は空売りについて範囲を限定して規制する措置をとってきたが、大手大手金融機関株については全面禁止に踏み込んだ。金融株を狙い撃ちにした投機的な売りを抑えるのが狙い。米連邦準備理事会(FRB)は、銀行・証券会社向けの資金供給を拡大。金融市場の混乱収束に取り組む。
 財務省はFRBなどと公的資金の活用方法なども含め詳細を詰めている。政府は来週末までに調整を終え、月内にもすべての対策を導入したい考え。

金融安定化に向けた総合対策

【金融システム健全化】
・政府による不良資産の買い取り機関
・政府管理下の住宅金融公社による住宅ローン担保証券(MBS)の買い取りを拡大
・議会に来週中にも法案可決を求める

【金融市場向けの対策】
・MMFの払い戻しを保証するため、政府基金を最大50億ドル活用
・799金融機関に対する株式の空売りを一時的に禁止する。10月2日まで実施
・FRBは金融機関への公定歩合貸し出し拡大。住宅金融公社などの短期債務も買い取る

 


日本経済新聞 2008/9/23

金融の世界再編 日本勢参入
 
三菱UFJ、モルガンに出資 取締役派遣 最大20%、9000億円

 世界的な金融再編劇に日本の金融機関も相次ぎ加わる。三菱UFJフィナンシャル・グループは22日、米証券大手モルガン・スタンレーの第三者割当増資に応じ、最大20%出資して筆頭株主になると発表した。出資額は9千億円規模と、海外金融機関を対象にしたM&A(合併・買収)では過去最大となる見通し。野村ホールディングスも同日、経営破綻した米リーマン・ブラザーズのアジア部門の買収で基本合意した。

 モルガンが巨額増資によって生き残りを目指す方針を固めたことで、今後は米証券最大手ゴールドマン・サックスの対応に焦点が移る。大手邦銀では三井住友フィナンシャルグループがゴールドマンと歴史的に親密な関係にあり、両社の対応に注目が集まりそうだ。
 三菱UFJはモルガンに取締役を少なくともひとり派遣する。出資比率は10-20%で協議し、1−2カ月後をめどに確定させる方針。約15%で筆頭株主となり、20%になればモルガンは三菱UFJの持ち分法適用会社になる。
 出資に伴い、三菱UFJはモルガンと国内外で戦略的な協力関係を築くことで合意。具体的内容は今後協議する。モルガンが強みを持つM&Aや資産運用、株式・債券の引き受けなど幅広い分野が対象になるとみられる。
 出資は今月19日、モルガン側から打診があったという。米市場の混乱を受けてモルガンの株価は先週にかけて急落したため、1株当たりの価格は第三者による資産査定を踏まえて決める。20%を出資する場合、米当局の認可が前提になる。
 米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題で巨額の損失を計上したモルガンは昨年12月、中国の政府系ファンドから50億ドル(約5400億円)の出資を受け入れた。ただ市場の不安は収まらず、モルガンの株価も急落。他の米銀などとの合併観測も流れていた。
 21日には銀行持ち株会社の設立を米連邦準備理事会(FRB)が承認。FRBの監督を受けながら、資金供給を受けやすくなったばかりだった。三菱UFJは「米銀のなかでモルガンの資産内容は相対的に健全で、市場の混乱も収束に向かう」(幹部)と判断した。

野村がアジア部門買収 リーマンと合意 欧州は最終調整


 野村ホールディングスは22日、米リーマン・ブラザーズとの間で、日本を含むリーマンのアジア太平洋部門の買収で基本合意したと発表した。買収金額は200億円強。高度なノウハウや豊富な人材を中心にリーマンのアジア事業を引き継ぎ、海外市場で攻勢をかける。野村はリーマンの欧州地域での事業買収でも合意に向けて最終調整に入った。
 買収の対象は日本や中国、インド、オーストラリアなどで展開する事業。業務内容は株式売買やM&A(合併・買収)助言を担う投資銀行部門など。同事業の買収を巡っては野村のほか英銀大手のバークレイズや同スタンダード・チャータードが名乗りを上げていた。
 リーマンのアジア・太平洋事業の2007年12月−08年5月期の営業収益は14億ドル(約1470億円)で、従業員数は3千人強。


日本経済新聞 2008/9/30

三菱∪FJ モルガンに9500億円出資 最終合意 株価下落に備え優先株 財務調査、5日で終了

 三菱UFJフィナンシャル・グループは29日夜、米大手金融機関モルガン・スタンレーに21%出資することで最終合意したと発表した。取得総額は90億ドル(約9500億円)。約30億ドル分の普通株と約60億ドル分の優先株を取得する。金融市場の混乱が続くなか、モルガンの株価下落に備え、出資額のうち3分の2を優先株で取得する。三菱UFJは3週間程度の予定だった財務調査を5日で終え、早期合意した。

 海外金融機関を対象にしたM&A(合併・買収)では過去最大。具体的な提携分野などの業務戦略については、2009年6月末をメドに検討する。
 三菱UFJはモルガンの普通株を、
1株当たり25.25ドルで約1億1千万株取得。さらに議決権のない「転換権付き永久優先株」を1株当たり31.25ドルで約1億9千万株分取得する。
 優先株は仮にモルガンが破綻しても優先的に配当を受けられるため、株価が下がっても価値が下がりにくい。普通株に比べ、株価の下落により減損処理を迫られるリスクも小さくなる。
 当初、三菱UFJはすべて普通株で取得することで合意していた。だが、出資に伴うリスクを抑えるために、優先株の取得を主張。出資額の3分の2を優先株とすることで双方が折り合った。
 三菱UFJは将来すべての優先株を普通株に転換する方針。すべて転換すると議決権べースで21%となり、モルガンは三菱UFJの持ち分法適用会社になる。
 三菱UFJは22日にモルガンヘの10-20%の出資を発表。3週間程度、財務調査(デューデリジェンス)をし、出資比率や金額を確定する方針だった。しかし欧米で金融機関の経営破綻や再編が続いており「経営の安定性を市場にアピールしたいモルガンが正式合意を急いだ」(三菱UFJ幹部)という。
 三菱UFJの平野信行取締役は記者会見で「モルガンやゴールドマン・サックスは米国を代表する投資銀行。今後も競争力を維持するはずだ」と話した。ただ、米金融市場の混乱は続いており、市場関係者には懸念もある。ある外資系アナリストは「短期間の財務調査で資産価値を精査できたのか疑問」と話している。

▼転換権付き永久優先株
 一定の条件で普通株に転換できる無期限の優先株のこと。企業が破綻しても優先的に配当を受けられるなど普通株より有利なため、市場で株価が下落しても価値が下がりにくい。保有企業が減損処理を迫られるリスクが小さいのが利点。今回のケースでは三菱UFJが年10%の配当を受けられるほか、いつでも1株当たり31.25ドルで普通株に転換できる権利を持つ。


米危機、日本勢が救済役 ゴールドマン 三井住友が焦点

 米金融危機をきっかけに米欧の大手金融機関が世界的な大型再編に動き出すなか、日本の金融機関が救済役として資本の出し手になってきた。三菱UFJフィナンシャル・グループが米モルガン・スタンレーに出資し、野村ホールディングスが米リーマン・ブラザーズのアジア部門などを買収する。昨夏から時を追うごとに深まる金融危機で日本勢が最後のとりでの一角を担い始めた。

 リーマンが破綻に追い込まれた先週、株価が急激に下がったモルガンは複数の出資・提携先を探っていると報道された。そのなかで三菱UFJに白羽の矢が立ったが、三菱UFJによると、今回基本合意した増資がモルガンのいま計画する唯一の資本増強策という。他の出資・提携先は慎重だったとみられる。
 今回の金融危機で米欧勢が最初に大型の資本増強に追われたのは昨年後半から今年初めにかけて。.当時、主な資金の出し手はアジアの政府系ファンドやオイルマネーで潤う中東勢力が中心だった。しかし、その後も続く米欧金融機関の株価低迷でこうしたファンドなどは多額の含み損を抱え、追加出資は難しい状況になったとされる。国際的に見ると、比較的業績が堅調な邦銀の投資余力に、にわかに注目が集まってきた。
 モルガンのケースでは、昨年12月、中国の政府系ファンドから50億ドルの出資を受け入れたが、今度はその2倍に近い額を三菱UFJが賄う構図になる。邦銀のなかでも特に厚い資本を持つ三菱UFJは、最大9千億円の出資を自己資金で賄う方向。他のメガ銀も財務は健全で、一定以上の投資余力を備える。
 モルガンと同様、今後大きな関心を集めそうなのが同じ米証券大手の
ゴールドマン・サックスだ。仮に資本増強の議論が高まれぱ、ゴールドマンと関係の深い三井住友フィナンシャルグループの出方が焦点になる。
 「ゴールドマンとの歴史的関係は最も大事にする」ーー。三井住友首脳はこう語る。両社は旧住友銀行が1986年にゴールドマン・サックスに対して総額5億ドルを出資して以来の関係。逆に2003年には不良債権問題に直面していた三井住友がゴールドマン側から1500億円の優先株出資を受けた経緯がある。
 今回の金融危機で三井住友は商業銀行中心の
英銀バークレイズに対し約1千億円の資本支援に踏み切ったが、ゴールドマンと同じ米証券大手リーマン・ブラザーズからの支援要請は断っている。ゴールドマンヘの「配慮」をにじませている。
 
野村によるリーマンのアジア部門買収欧州部門の買収交渉も、日本の金融機関が資金の出し手になる点では共通する。競合した海外金融機関を上回る買収金額の条件を示せたのも、野村の財務・収益基盤を前提にした資金調達力があったからだった。
 今年初めから1千億円規模の邦銀による海外投資が続いたが、今回の三菱UFJのモルガン出資は破格の規模。米国の信用力の低い個人向け住宅ローン(サブプライムローン)問題を起点とする金融危機で、傷が比較的浅い大手邦銀の国際的な存在感が高まっていることを示した。日本の他の金融機関の投資姿勢にも影響を与えるのは必至だ。

ゴールドマン 金融再編に意欲

 ゴールドマン・サックスは21日、米連邦準備理事会(FRB)から、銀行持ち株会社へ移行することを認められた。ゴールドマンは買収と内部努力により預金規模を拡大する考えで、金融再編にも意欲を示すとみられる。
 貸出業務などを移して発足する銀行部門「
GSバンクUSA」の資産は約1500億ドル(約16兆円)以上。米銀上位10位の一角を占め、グループ全体では全米4位の銀行持ち株会社になるという。

 

80年代にも買収攻勢 バブル後に撤退 ノウハウ残せず

 バブル景気に沸いていた1980年代後半にも、日本の大手金融機関は、米金融機関などに相次ぎ買収・出資攻勢をかけ「ジャパンマネー」として恐れられた。だがバブル崩壊後の90年代には相次ぎ撤退、国際金融のノウハウもあまり残らなかった。
 86年、
住友銀行は、当時米証券3位だったゴールドマン・サックスに共同出資者として資本参加した。当初は合弁証券会社構想などもあったが、米当局が認めず結局は住友銀による「純投資」になった。
 みずほフィナンシャルグループの前身、
富士銀行、第一勧業銀行はそれぞれ、金融会社ヘラー・フィナンシャル、CITグループを買収した。三菱UFJグループの前身、三菱、東京、三和、東海の四行はいずれもカリフォルニア州の地銀を買収、米国の金融リテールに進出した。
 87年、ブラジルなど累積債務国向けの不良債権増で経営難に陥った
バンク・オブ・アメリカヘの日本勢の共同出資は、米国の金融安定にジャパンマネーが使われた典型だった。資金拠出には銀行、生損保、証券など約60社がが参加。米政府が背後で圧力をかけたとされ、日米経済摩擦の回避策という側面もあった。
 邦銀が当時、対米進出を積極化したのは、業容の拡大とともに、米金融市場の進んだ技術やノウハウを吸収するのがねらいだったが、日本流の経営になじめない現地の人材の流出などで、十分な成果をあげられなかった。
 90年代後半から2000年はじめ、不良債権処理の原資を捻出するため、当時取得した株式の売却を迫られ、大手では
三菱UFJグループのユニオン・バンク・オブ・カリフォルニアが残っている程度だ。今回の日本勢の再参入でもその教訓がいかせるかどうかがカギになる。

日本勢、世界市場で攻勢

 三菱フィナンシャル・グループは米証券大手モルガン・スタンレーに巨額出資する。野村ホールディングスは経営破たんした米証券大手リーマン・ブラザースのアジア太平洋部門の買収で基本合意し、欧州部門についても買収合意に向け最終調整に入った。いずれも人口減少時代に突入した日本にとどまらず、世界市場で攻勢をかける狙いだ。ただ、世界の金融界の主要プレーヤーになるためには課題も多い。

三菱UFJ 投資銀業務を強化 金融不安、なおリスクも
 モルガン・スタンレーへ巨額出資する三菱UFJフィナンシャル・グループは米金融危機を好機につなげたい考えだ。ただ金融資本市場はなお波乱含みだけに、一定のリスクも抱える。三菱UFJ関係者によると、モルガンから出資の打診があったのは先週末の19日金曜。週末を挟んだ翌営業日の22日深夜に基本合意を発表するという異例の即断即決だった。
 詳細は両社が今後詰めるが、最大で9千億円に達する出資は決して小さな額ではない。だが三菱UFJは「米国市場が最悪期を脱しつつある」(幹部)と判断した。同社の分析では、モルガンなど米証券大手の業務のうち融資や株式引き受けなど伝統的な証券部門は底堅い。現在の株価水準を前提に米名門証券に資本参加できるのは、有利な条件で提携関係を築ける「好機」と考えた。
 慎重姿勢を守ってきた三菱UFJが大型出資に転換した格好で、他行の戦略にも影響を与えるのは必至。今後は世界戦略でいかに相乗効果を引き出すか、などが課題になりそうだ。

モルガン、信用補完が急務
 モルガン・スタンレーが三菱UFJから巨額の出資を受け入れる。同じ証券大手のリーマン・ブラザーズの破綻を受け、モルガンは信用力を高めるための資本増強が急務になっていた。サブプライムローン問題に絡む傷が浅い日本の金融機関で大手の三菱UFJとの組み合わせが好都合と判断したようだ。
 リーマンが破産法の適用を申請した15日以降、市場ではモルガンの先行きへの懸念が強まり、同社株に売りが殺到、一時11ドル台まで売り込まれる場面があった。米政府が金融機関の保有する不良資産の買い取りなどを含む総合対策を発表したことで、.株価下落にはひとまず歯止めがかかったが、引き続き他の金融機関との資本提携などで信用力補完が欠かせない惰勢だった。
 モルガンの提携先を巡っては米銀4位のワコビアなどの名が浮上したが、米欧系金融機関は程度の差はあってもサブプライム関連の不良資産を抱え、合併などに踏み込んでも市場の信頼は回復できない恐れもあった。
 米連邦準備理事会(FRB)は21日、モルガンの銀行持ち株会社を承認。モルガンは銀行と同様に手厚い資金供給が受けられるようになった。一方で規制・監督体制も厳しくなることが決まっている。こうした一連の惰勢変化を受け、モルガンが進めてきたワコビアとの交渉は打ち切りになる見通しだと、米欧メデノアは報じている。

野村 アジア・欧州に的 人材・顧客獲得 シェア急拡大狙う
 野村ホールディングスがM&A(合併・買収)で成長市場のアジアと欧州で攻勢をかける。野村にとって両地域は海外の中核市場。経営破綻した米リーマン・ブラザーズの人材と顧客を取り込み、投資銀行業務や株式業務などで一気にシェアを拡大する狙いだ。
 野村が22日に基本合意したリーマンのアジア部門買収の狙いは、人材と顧客の獲得。東京や香港、上海など11拠点に散らばる約3千人の従業員をすべて引き継ぐ。リーマンは自己勘定で不動産などリスクの高い資産に投資していたほか、株式や債券の自己売買にも積極的だったが、不動産投融資やトレーディング向け有価証券などの保有資産は引き継がない。
 野村は「アジアの野村」を経営目標に掲げ、中国やインドなど急成長するアジアの新興国での拠点拡大を自前で進めてきた。ところが日本以外のアジアでは先行する米欧の投資銀行に後れを取っていたのが実情。M&A助言と株式引き受けでは日本で今年はいずれも1位だが、日本を除くアジアでは、M&Aは21位、株式引き受けは143位に甘んじている。
 リーマンは約800人の香港拠点で、投資銀行業務を手掛ける人材を多数抱えており、日本を除くアジアのM&Aでは今年9位に顔を出している。野村はリーマンのアジア事業を買収することで、リーマンの優秀な投資銀行マンや顧客企業を取り込みたい考えだ。
 リーマンの欧州部門買収については野村と英大手銀行のバークレイズが競っていたが、日本時間の22日夜までにバークレイズが競争から離脱したとみられ、野村は残る唯一の候補としてリーマン側と条件面での最終調整に入った。
 サブプライム問題の深刻化を受け、野村は昨年9月末までに米住宅ローンの証券化事業で1400億円超の損失を計上。米国事業の大幅な縮小を進めてきた。海外では成長期待の大きいアジアに加え、ロンドンを中心とする欧州を海外の中核市場と位置づけ、拠点の拡充を進めていた。
 今回のリーマンの地域別の部門売却は、バークレイズが先行して北米事業だけの買収で基本合意していたため、アジア、欧州という、野村が拡充を急ぐ地域の事業が都合良く売りに出た格好。破綻によってリスクの大きい保有資産と負憤をすべて引き受ける必要もなくなり、野村は「千載一隅のチャンス」(首脳)ととらえ、攻めのM&Aに打って出た。


2008/9/24 日本経済新聞

リーマン投資銀部門 野村、欧州・中東も買収
  アジア含め海外展開加速

 野村ホールディングスは23日、破綻した米大手証券リーマン・ブラザーズの欧州と中東地域の主要事業を買収することでリーマンと基本合意に達したと発表した。前日にはアジア・太平洋事業の買収を決定。北米を除くリーマンの主な事業基盤を引き継ぎ、高度なノウハウや多様な顧客層を手中に収める。

 買収する対象は英国、ドイツ、ロシア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェートなど10カ国で展開するリーマンの欧州・中東事業のうち株式売買、M&A(合併・買収)助言を担う投資銀行業務などの主要な事業部門。約2500人の従業員も引き継ぐ。買収を巡っては英銀大手のバークレイズなどと競っていたが、野村が同日までに競り勝ち、買収を決めた。買収価格は非公表としているが、数百億円規模とみられる。
 野村はリーマンの事業基盤を引き継ぎ、欧州・中東市場での存在感を高める。特に中東産油国や欧州の大手機関投資家などの顧客網を生かし、世界各地の株式売買の取り次ぎや大型のM&Aの実現につなげる。
 アジア地域での買収と同じように、欧州・中東地域でもリーマンが保有する不動産、有価証券などの資産や負債は引き継がない。
 リーマンの欧州・中東事業は2006年12月ー07年11月期の営業収益が63億ドル。

野村、欧米勢を追撃 営業網 一気に拡大 従業員つなぎ留め 課題

 野村ホールディングスが海外事業の中核と位置付ける欧州でリーマン・ブラザーズの主要部門を買収する。手にするのはこれまで野村の手に届かなかった欧州全域のネットワーク。北米を除くリーマンの投資銀行業務を一気に獲得することで世界での存在感を高めることになるが、高度なノウハウを持つリーマンの人材を引き留められるかどうかが課題となる。



 野村はロンドンを中心にした欧外金融市場で日系の金融機関としては圧倒的な存在感を示すが、欧米勢に比べると規模で見劣りしていた。主力の株式の取次業務でも野村の軸足は日本株。リーマンの株式部門の買収によって欧州株の営業力を拡大する。
 今回の買収により、、ユーロ圏の広がりで厚みを増した欧州株ビジネスの可能性は広がる。例えぱ野村が運営する欧州株の私設株式市場。ロンドン証券取引所のシェアを一部奪うほど取引を伸ばしている。リーマンのネットワークを使えば、私設市場の取引が増える期待もある。
 野村にとってどうしても譲れなかったのがロシアや中東など資源国の拠点網だ。野村は自前でモスクワに拠点をつくり、ロシア企業の株式の引受業務など実績を積み上げている。ロシアを「急成長市場」(英野村証券幹部)として地元の金融機関の買収も検討テーマにいれてきた。
 買収で欧州とロシア、中東を一括で手に入れたことで、中東企業による欧州企業買収の助言サービスなど業務の組み合わせ方は多様に広がる。
 海外事業で攻勢に出た野村だが、課題は一気に広がったネットワークをどう維持管理するかだ。野村はロンドン拠点で約50カ国の国籍の人材を活用し、報酬体系でも成果主義が浸透している。それでも米投資銀行の人材の多様性はそれを大きく上回る。
 野村の欧州本社の従業員は約1500人。今回引き継いだのはそれをはるかに上回る2500人。「安かったから買うのではない。戦略的に重要だから買うのだ」。英野村アドバイザーのサディク・セイド氏は電話会見で強調した。人材の活用がそのカギを握る。

「人材」に絞り買収提案
 野村がリーマンのアジアと欧州の事業買収に動き出したのは17日。リーマン日本法人が民事再生法の適用を申請した翌日のことだ。
 .「バークレイズの好きにさせるな」。英銀大手バークレイズがリーマンの北米投資銀行部門を1800億円という破格の値段で買収した事実が闘争本能に火を付けた。「日本のノムラ」から世界標準の投資銀行に踏み出す好機を逃す手はない。
 司令塔は渡部賢一社長を支えるナンバー2の柴由拓美副社長。ロンドン・勤務が長く、欧米投資銀の一流バンカーと長年渡り合ってきた。
 柴田氏は極秘に英国、香港法人幹部に指示し、詳細な買収提案の検討に入った。
 バークレイズなど他の候補に勝つために野村の打った手は「人材」に限った買収提案だった。資産価値の下がる恐れがある不動産や整理に時間のかかる取引は引き継がず、人材を丸ごと引き受けるという内容だ。
 「やっと半分が終わった」。22日夜。アジア部門の買収合意の契約を完了するやいなや、柴田氏はロンドンに向かう飛行機に乗った。「24時間の間にアジアに加え欧州のビジネスを一気に拡充できた」。23日夜、渡部社長はこうコメントした。


日本経済新聞 2008/9/26

野村、人材に数百億円 リーマン部門買収 5500人の大半引き受け

 野村ホールディングスが買収を決めた米証券大手リーマン・ブラザーズのアジア・太平洋と欧州}中東の両部門について25日、リーマン社員の野村への移籍作業が始まった。野村は両部門で約5500人に達する従業員の大半を引ぎ継ぐ計画で、野村の社員として雇用契約を結び直す。従業員の引き受けで追加発生する人件費は数百億円に達する見通しだ。

 リーマンは米国、欧州、アジアの地域ごとに法的整理を申請。野村はアジアと欧州について主に従業員だけを引き継ぐ計画を提示し、両部門の引受先に決定した。
 証券会社の貸借対照表に載っている資産の大半は株式や債券などトレーディング用の有価証券。このほかリーマンは自己資金を使って積極的に不動産に投融資していた。こうしたリーマンの資産の多くは値下がりの恐れがあるため野村は買収対象先に含めず、従業員という「人的資産」だけを引き継いだ。
 資産を買収先に含めなかったため、野村はリーマンの顧客口座はそのまま引き継げない。「早急に旧リーマンの事業を元の状態に回復させる必要がある」(野村首脳)として、リーマン従業員の移籍作業を25日から前倒しで着手。同時に野村の海外拠点の社員も投入、リーマンの顧客の口座を新たに野村に開設する作業を急いでいる。
 野村はリーマンから欧州・中東部門を2ドル、アジア・太平洋部門を2億2500万ドル(約240億円)で取得。アジア・太平洋部門は情報機器など事業インフラが買収対象に入ったため取得資金が膨れたものの、経営破綻後の買収だったため、両部門とも取得価格は破格の割安水準となった。投資銀行関係者の間では「破綻する前の普通の状況だったら両部門の合計で取得価格は7千億円程度はかかったのではないか」との声もある。
 野村は会社そのものの取得資金に加え、旧リーマンの従業員に今後払う追加の人件費を負担する。これは企業買収の際には通常発生する運転資金だ。最終的に野村に移籍する従業員の数によって変わるが、市場では「追加的に数百億円の人件費がかかるのでは」との見方が出ている。追加の人件費の見通しについて、野村は「一切コメントできない」としている。

欧州・中東部門 わずか2ドル 会社資産は引き継がず
 野村ホールディングスが買収することで合意した米証券大手リーマン・ブラザーズの欧州・中東部門について、取得金額がわずか2ドルだったことが25日分かつた。野村がリーマンの会社資産は引き継がないことで、今回の「タダ同然」の買収が実現した。野村は同部門の約2500人の従業員の大半は引き受ける計画で、リーマンは雇用の維持を優先した。
 経営破綻したリーマンの欧州・中東部門について野村は買い手として名乗りを上げ英大手銀のバークレイズなどと競った結果、23日に投資銀行と株式の両事業の引受先に決まった。
 野村が今回引き継ぐ対象は、リーマン同部門の従業員のみ。株式や債券などリーマンが自己勘定取引で保有していた資産など、値下がりのリスクがある資産は買い取らなかったため、2ドルでの買収につながった。
 引受先を決める際にリーマン側が重視したのは雇用の維持。野村が提示した計画は引き受ける従業員数がバークレイズの計画を上回ったとみられる。表面上の買収価格は2ドルだが、野村は引き継ぐ従業員の人件費という「見えないコスト」を負担することになる。


日本経済新聞 2008/9/24

三菱UFJ、3日で決断 モルガンに出資 「証券」強化に道
  「千載一遇」機会逃さず

 米大手証券リーマン'ブラザーズの経営破綻とメリルリンチの自力再建断念から1週聞。国際金融界の最後の受け皿として急浮上したのが日本の金融機関だった。再編劇に参入したプレーヤーは国際金融の舞台で主役に躍り出るのか。即断即決を迫られた経営者たちの思惑と動きを検証する。

 米証券2位のモルガン・スタンレー幹部から三菱UFJフィナンシャル・グループに支援要請の電話があったのは19日夜。当初は出資だけでなく、数兆円規模の融資枠の設定も求めてきた。

一度は「ノー」
 しかし、この時点で三菱UFJの回答は「ノー」。巨額の融資はリスクが大きすぎると上層部が判断した
 米国では週末、最大手ゴールドマン・サックスとモルガンの銀行持ち株会社への移行が固まる。移行すれば資金調達がしやすくなり、融資枠は不要になる。
 21日夜。「改めて出資だけお願いしたい」。モルガンからの電話で交渉が再び動き出す。
 畔柳信雄社長、大森京太副社長を中心に持ち株会社のごく数人が極秘に折衝にあたった。期限は二ユーヨーク証券取引所が開く米東部時間の22日朝。細かい条件は後回し。正式な基本合意書も締結できない異例の状態での発表だった。
 三菱UFJにとって証券業務の強化はかねての懸案。今年1月、みずほコーポレート銀行がメリルリンチヘ1300億円の出資を決めた際は、三菱UFJも交渉を進めていたという。
 7月にはリーマンからも出資要請が来て、内部で検討したこともある。しかし畔柳社長が異論を唱え、具体的な交渉には至らなかった。
 そしてモルガンヘの出資を電光石火で決断。「千載一遇の機会」。ある幹部はこう表現する。
 とはいえ、グループ内には、「まず出資ありきで、話が進んだ。本当に数千億円の投資に見合う果実が得られるのか」(傘下銀行役員)と不安を漏らす声も出ている。
 三菱UFJは現在、米地銀ユニオンバンカル・コーポレーションと消費者金融アコムに対しTOB(株式公開買い付け)を実施中。それぞれ3700億円、1600億円を投資する予定だ。モルガン向けを含めた投資額は約1兆4千億円に上る。

みずほにも打診
 実はモルガンは三菱UFJに先駆け、みずほフィナンシャルグループにも支援を打診していたという。
 「モルガンの財務内容を徹底的に洗い出せ」ーー。先週後半、斎藤宏みずほコーポ銀頭取を囲んでの検討が進んだ。
 しかし、最終的な結論は「支援見送り」。既にみずほコーポ銀はメリルに出資済み。欧米勢に比べ軽いとはいえ、サブプライムローン関連損失も邦銀で最も多かった。
 「うちがダメなら三菱UFJを頼るのは織り込み済み」とみずほ幹部は振り返る。だが三菱UFJは想定を超える20%出資(持ち分法適用)に踏み切った。「逃した魚は大きかったのか」ーー。結論はまだ誰にも見えな.い。

モルガン 株価急落で状況一変 リーマン破綻の衝撃が引き金に

 金融不安の嵐のなかで、自主独立路線が揺らぐことはないとみられていたモルガンが資本増強を避けられなくなるまでの時間は短かった。
 今月9日。「韓国産業銀行との増資交渉が不調に終わった」との報道を受け、リーマン株が急落する。モルガンには無関係との見方が強かったものの、金融機関にとって新たな資本調達が難しくなっていることが露呈した衝撃は大きかった。モルガン株もこの週に約10%下落した。
 12日からは財務省、米連邦準備理事会(FRB)、主要金融機関の幹部らを交えた協議が始まった。モルガンのジョン・マック最高経営責任者(CEO)も「救う側」として出席。だが、損失負担などを巡る協議は決裂し、リーマンは15日破綻する。
 市場では金融機関の破綻リスクを意識するムードが一気に高まり、モルガン株に売りが集中。モルガンの6-8月期決算は市場予想を上回る内容だったが、株の下げには歯止めがかからない。17日以降は米大銀ワコビアなど複数の金融機関との提携交渉が相次いで報じられるなど、不透明感は急速に強まった。
 22日早朝。モルガ.ンは三菱UFJからの出資受け入れを発表した。.ウォール街の名門モルガンにとって「証券会社」の看板と離別し、邦銀を筆頭株主に迎えることを決断した忘れられない2週間となった。


2008/9/24 日本経済新聞夕刊

ゴールドマン7900億円増資 バフェット氏側 5300億円引き受け

 米証券大手ゴールドマン・サックスは23日、総額75億ドル以上の増資を実施すると発表した。米著名投資家ウォーレン・パフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイが優先株50億ドル分を引き受け、残りのうち少なくとも25億ドルは公募増資で普通株を発行する。米政府は金融機関の不良資産買い取りなどを軸とする金融安定化法案を準備しているが、ゴールドマンは金融不安の再燃に備えて大規模増資に踏み切った。
 バークシャーが引き受ける優先株は利回り10%相当の配当が付く。.これとは別に今後5年間に50億ドル相当の普通株を購入できる権利も取得した。行使価格は1株あたり115ドルと、23日のゴールドマン株の終値(125ドル5セント)を約10ドル下回る。全額が行使されれば増資額は125億ドルに膨らむ計算。
 23日終値でみたゴールドマンの時価総額は約535億ドル。普通株購入権を除いても、時価総額の1割強に相当する額の資本を積み増す効果がある。声明文でゴールドマンのブランクファイン最高経営責任者(CEO)は「この投資により当社の資本と流動性はより強固になる」と述べた。
 ゴールドマンは信用力の低い個人向け住宅融資問題に絡む損失が比較的小さい方だが、それでも6-8月期の純利益が前年同期比7割減と大幅に悪化するなど痛手を被っている。21日には資金繰りの安定につながる銀行持株会社化で米連邦準備局(FRB)から承認を受けた。
 バフェット氏は数百億ドル規模の個人資産を保有する世界有数の富豪で、バークシャーはコカ・コーラやアメリカン・エキスプレスなどの大株主。長期的な観点から投資先を選び、経営にはほとんど関与しないことで知られている。

三井住友 要請あれば出資も
 三井住友フィナンシャルグループ(FG)は24日、ゴールドマン・サックスから要請があれぱ、出資を検討する考えを明らかにした。ゴールドマンと三井住友は提携関係にあり、要請があれぱ、さらなる資本充実を後押しする姿勢を示した。
 三井住友幹部はゴールドマンヘの出資について24日午前、「要請があれば検討する用意はある」と語った。三井住友がゴールドマンに出資する場合、バフェット氏とは別に第三者割当増資に応じる方式などが想定される。その場合、千億円規模になる可能性もある。ただし「現段階での要請はない」としている。
 両社は旧住友銀が1986年に総額5億ドルをゴールドマンに出資して以来、親密な関係。この持ち分はその後売却したが、逆に2003年には不良債権処理による資本不足を解消するため三井住友が1500億円の優先株出資を受けた経緯がある。


2008/9/25 日本経済新聞

ゴールドマン、増資1兆円超に拡大 バフェット氏半額引き受け
 米証券 信用補完急ぐ 金融危機 深刻化に備え

 米証券大手ゴールドマン・サックスが銀行持ち株会社への移行に続いて、総額100億ドル(1兆円超)以上の大型・増資に踏み切る。うち半分を引き受けるのは著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハザウェイ。ゴールドマンは自己資本の拡充という「実」に加えて、米金融界に影響力のあるバフェット氏を大株主にすることで、信用不安を払拭する「名」も狙う。

増資計画のポイント
・総額100億ドル以上を増資
・うち50億ドルは優先株でバークシャーが引き受け
・残る50億ドルは普通株で公募増資
・さらにバークシャーは今後5年間で50億ドルの普通株購入権も取得

 ゴールドマンは24日朝、公募増資による普通株発行を前日公表分の2倍に当たる50億ドルへ引き上げると発表。バフェット氏側が引き受ける優先株と合わせた増資総額は100億ドルに達する。
 銀行持ち株会社化と増資という緊急対策セットは、三菱UFJフィナンシャル・グループからの出資を受け入れるモルガン・スタンレーと同じ。この米証券大手2社は金融危機拡大への備えを固めつつ、銀行買収などの「攻め」も狙っているもようだ。
 24日のニューヨーク株式市場で、ゴールドマン株は増資発表を好感して上昇。正午現在、前日比2.9%高い128ドル66セントで取引されている。
 先週までのゴールドマンの株価急落を招いたのは、リーマン.ブラザーズの破綻。市場全体の信用不安が強まり、ヘッジファンドがゴールドマンに空売りを浴びせると同時に、取引を急速に縮小して資金を引き揚げたとされる。米証券界で最も強い財務体質を持つ同社だが、資本増強は待ったなしだった。
 バフェット氏は長期的な視点から優良な成熟企業に絞った投資で知られる。米大手銀のウェルズ・ファーゴにも出資しており、金融機関の再編・淘汰観測が持ち上がるたびにその動向が注目を集めてきた。
 同氏は1991年に国債入札不正事件で経営が傾いた旧ソロモン・ブラザーズの会長に就き、経営危機を乗り切った実績もある。
 今回の増資引き受けについて、市場は「ゴールドマンは金融危機を切り抜け安定成長する、とバフェット氏が確信している証拠」と受け止めている。ゴールドマンは同氏の信用力をテコにヘッジファンドなどの間で流れる経営不安説をはね返したい考えだ。

ウォーレン・バフェット氏
 米ネブラスカ州オマハ生まれ。78歳。元は繊維会社だったバークシャー・ハザウェイを1960年代に買収し米屈指の投資会社にした。「安定した収益力」「買収価格が割安」「理解しやすいビジネスモデル」などの投資基準を持つ。IT(情報技術)バブルのころ、「ハイテクは理解しにくい」と一切投資しなかったことはよく知られる。保有銘柄の大半は優良大企業。短期の利ざやを狙うのではなく、長期保有が中心。
 同氏はバークシャー社の経営を通じ、40年にわたり年率20%以上の運用成績を上げてきたため投資先企業には一定の買い安心感が生まれることが多い。

三井住友、今回増資に参加せず 
  協力関係は強化 要請あれば出資を検討

 三井住友フィナンシャルグルーブは今回の一連のゴールドマン・サックスの増資に参加しない。引き受け要請がなかったためで、公募増資による普通株取得もしない。将来、再び資本増強が必要になり、増資の引き受け要請が来れば、前向きに出資を検討する考えだ。
 三井住友首脳とゴールドマン患部は24日正午、今回の増資について話し合い、今回は三井住友には協力を求めず、三井住友もそれで問題ないことを確認。そのうえで業務面での連携を深めていくことで一致した。さらにゴールドマン側から、バフェット氏と同じ形で近い将来第三者割当増資を実施する計画がないことも確認した。
 両社は三井住友の前身の旧住友銀行が1986年に総額5億ドルを出資して以来、親密な関係にある。日本で金融危機が続いていた2003年には、三井住友がゴールドマンから1500億円の優先株出資を受けている。このため三井住友は要請があれば、前向きに協力する姿勢を示している。
 三井住友は、企業買収・合併の仲介など投資銀行業務に強いゴールドマンとの関係を中核に据える海外戦略を続ける一方で、ほかの金融機関への出資や提携を引き続き模索する。6月には英バークレイズヘ約1千億円の出資を決定。海外の顧客開拓や資産運用などでの提携を探っている。
 欧米金融機関の資本増強や業界再編に絡んで、日本勢の存在感が高まっている。三菱UFJフィナンシャル・グループの米モルガン・スタンレーへの出資もあり、相対的に財務内容が良い日本勢の「次の一手」に市場の関心は高まりそうだ。


2008/9/26 日本経済新聞夕刊

米貯蓄金融最大手が破綻 ワシントン・ミューチュアル 預金量、全米6位 
  JPモルガンが買収 銀行業務2000億円で

 預金量が全米6位で米貯蓄金融機関(S&L)最大手のワシントン・ミューチュアル(ワシントン州)が25日、経営破綻し、米大手銀JPモルガン・チェースが19億ドルで銀行業務と店舗網を即日買収、全預金を引き継いだ。日本の預金保険機構にあたる米連邦預金保険公社(FDIC)など金融当局が発表した。ワシントン・ミューチュアルは信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)を中心に住宅ローンを拡大してきたが、財務内容が悪化していた。

 ワシントン・ミューチュアルの総資産は3070億ドル、預金量は1880億ドル。FDICの監督下にある預金取扱金融機関では過去最大の破綻となる。同社は経営不安説から大量の預金が流出し、急速に資金繰りが悪化。一般預金者への影響を懸念した貯蓄金融機関監督局が25日、業務停止命令を出し、管財人となったFDICが同日、買い手を決めた。証券会社の破綻や身売りに発展した今回の米金融危機は、一般家庭が預金する金融機関にも波及する第二幕に入った。
 ワシントン・ミスーチュアルの顧客の預金は全額保護される。資産劣化で株主や一部の債権者が損失を被る公算が大きいものの、FDICは「自らの資金負担はない」としている。
 JPモルガンは、西海岸を中心とする全米15州にワシントン・ミューチュアルが抱える店舗と預貸業務を買い取る。JPモルガンは自己資本を拡充するため、公募増資で普通株80億ドルを癸行することも明らかにした。東海岸を本拠地とする同社は今回の買収により営業拠点を拡大する。
 S&Lは、預金を元手に住宅ローンを貸し出して利ざやを稼ぐ業務を中心とする金融機関。1990年前後には経営危機に陥るS&Lが相次いだ。低金利が続いたここ数年は貸し出した住宅ローン債権を証券化商品として転売し、資産の回転率を上げて利ざや拡大を狙った。
 だが、担保となる住宅価格の下落で信用力が高いローンでも貸倒比率が上昇、今年に入ってワシントン・ミューチュアルの資産内容は急速に悪化した。
 同社は経営危機が表面化した今月半ぱから預金が急減、資金繰りも悪化した。米格付け会社スタンダード・アンド・プアー図(S&P)は24日、ワシントン・ミューチュアルの格付けを投機的な階級の「ダブルBマイナス」からさらに低い「トリプルC」に引き下げていた。

ワシントン・ミューチュアル
 1889年、ワシントン州シアトルで創業した米最大の貯蓄金融機関(S&L)。全米15州に2千超の店舗を持つ。1983年に相互会社から株式会社へ転換し、S&Lの買収・合併を繰り返して米南西部で勢力を拡大した。2002年にニューヨーク州のダイム・バンコープを買収して東海岸に進出、全米規模の金融機関としての地位を確立した。預金量は1880億ドルで全米6位。日本の地方銀行最大手、横浜銀行の約2倍。

米地銀、再編の焦点に
  債務体質悪化引き金 大手銀・ファンドが関心

 知名度や資産規模など名実ともに「地方銀行の顔」だった米貯蓄金融機関(S&L)最大手ワシントン・ミューチュアル(ワシントン州)が経営破綻し、今後米金融界の再編劇は証券会社から地銀が主役となる可能性が高い。
 米連邦預金保険公社(FDIC)によると、資本や流動性が不足し、経営の健全性の観点から「問題リスト」に入った金融機関は2008年6月末時点で117行と前年から倍増、03半ぱ以来の高水準に達している。大手銀や企業買収ファンドが買い手として登場する見通しだ。
 1980年代のS&L危機では600行規模の金融機関が破綻したが、今回の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライム・ローン)問題に端を発した金融危機では、「破綻は300行規模となる」(マラソン・アセット・マネジメント)との見方が出ている。
 預金保険の適用対象となる金融機関数は全米で,約8400あるが、借り手からの返済見込みが低い不良債権の総額は08年6月末時点で、1629億ドルと前年同期の2.4倍に拡大した。大手銀ではJPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカに加えて、銀行持ち株会社に転じたゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーなどが地銀買収に関心を示している。


2008/9/27 日本経済新聞

米銀6位破綻 淘汰の波、銀行にも
  個人預金流出響く 証券以上に家計に影響 金融危機、より混迷

 米金融危機による再編・淘汰の波が「証券」から「銀行」へと広がってきた。米貯蓄金融機関(S&L)最大手ワシントン・ミューチュアルは経営破綻し、米銀大手JPモルガン・チェースが銀行業務を買収。米史上最大の銀行破綻となった。今後も預金流出から資金繰りが悪化する銀行は増えかねない情勢だ。決済を担う銀行の経営悪化が一段と広がれぱ、金融システムを揺るがす可能性もある。

ワコビア株急落
 ワシントン・ミュ.ーチュアルは預金量が全米6位の1800億ドル超。日本の地銀最大手、横浜銀行の約2倍の規模を持つ同行を最終的に追いつめたのは不安にかられた預金者の動きだった。リーマン・ブラザーズが破綻した今月15日以降、引き出された預金は167億ドル。総預金の1割弱に相当する額で、資金繰りは一気に苦しくなった。ただ同行は国際事業は手掛けておらず、日本を含む海外への影響はほとんどない。
 一方、26日午前の米株式市場では米銀4位のワコビア株が急落し、一時前日終値比27%安い9.93ドルを付け、10ドルを割り込んだ。ワシントン・ミューチュアルの破綻を受け、同行と並ぶ住宅ローン大手のワコビアの経営が不安視されているようだ。中西部が地盤で10位のナショナル・シティーも4割超安い2ドル台後半まで下げた。
 昨年夏から始まった金融危機は、まず証券会社を直撃した。保有資産を毎日のように時価換算する証券会社は、不動産担保証券などの評価損の度重なる計上で信用力が低下。株価急落や資金繰り悪化によりベアー・スターンズやリーマンなどが破綻や身売りに至った。ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーが銀行持ち株会社に移行し、証券大手5社で専業は姿を消した。
 証券に比べ体力がある銀行も追い込まれている。預金保険の適用対象となる金融機関8400行が抱える不良債権と延滞債権の合計は6月末で2748億ドルと、1年間でほぼ倍増した。

「問題行」 117行も
 米銀の破綻は今年13件と昨年の3件から急増。米連邦預金保険公社(FDIC)から自己資本や手元流動性が不足する「問題行」と指定された金融機関は117行(今年6月末)にのぼる。特に規模の小さい地銀への懸念が高まっている。
 預金を扱う金融機関は、決済システムと直結する。証券会社の取引相手は大半が法人や機関投資家だったが、地銀は一般家庭の預金が絡むため社会不安が高まる可能性もある。
 「売り」にでる銀行が増える一方で、米連邦準備理事会(FRB)は銀行の株主規制を緩和し、JCフラワーズ、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)などの企業買収ファンドが銀行買収に動き始めた。JPモルガンは今回の買収で、預金量で米銀トップになるなど業容を拡大する。これまでは銀行を傘下に置きにくかったゴールドマンなど大手証券も銀行持ち株会社化し、地銀の「買い手」は増えてきた。銀行の経営悪化が金融システムに与える影響を抑えるには、買収による円滑な事業譲渡がカギとなる。

当局危機管理、窮地に  木曜夜、異例の週央処理
 ワシントン・ミューチュアルの破綻処理は、翌日に営業日を控えた木曜の夜という異例のタイミングで行われた。市場関係者だけでなく、預金者の間にも信用不安が拡大。預金の取り付け騒ぎが起きかねない状況になっていたためだ。金融安定化法案の迷走もあって当局の危機管理は窮地に陥っている。
 預金保険制度に伴う地銀などの破綻処理は、通常、金曜の営業時間終了後に監督当局が業務停止命令を出し、週末の間に受け皿金融機関への引き継ぎを完了する。
 ワシントン・ミューチユアルの場合、米貯蓄金融機関監督局(OTS)が業務停止を命じたのは、木曜日の営業終了後。この時点で、JPモルガ.ン・チェースに銀行業務を譲渡することが固まっていたために異例の平日処理が可能だったとみられる。ロイター通信によると、米連邦預金保険公社(FDIC)のベアー総裁はその理由を「報道で信用不安が広がり、預金者を安心させる必要があった」と説明した。
 今回はJPモルガンが預貸業務と2千以上の支店を買い取り、全預金を引き継いだ。資産の劣化にによって株主や一部の債権者は損失を被ることが想定されるが、FDICは自らの資金負担なく処理できたケースだ。
 だが、米地銀の破綻増加が見込まれるのに対して、預金保険の支払い基金残高は減少しており、FDICの処理能力は万全とは言えない。預金保険の原資を確保するため、金融機関が払う保険料引き上げの必要性を指摘する声もある。
 公的資金による不良資産買い取りを柱とする金融安定化法案の採決が遅れ、市場の混乱が個別金融機関の信用不安に波及すれば、当局はさらに困難な応急措置を迫られる可能性がある。

JPモルガン 増資、1兆円に増額

 JPモルガン・チェースは26日、予定していた公募増資の額を100億ドルに増額すると発表した。JPモルガンは25日、ワシントン・ミューチュアルの銀行業務などを19億ドルで買収、それに備えて自己資本を積み増すため80億ドルの増資をすると発表していた。


日本経済新聞 2010/10/2

米TARP、資金注入32兆円で終了へ
 米政府損失「4兆円以下」 金融安定化は道半ば

 米政府の2008年の金融危機の直後に創設した「不良債権救済プログラム(TARP:Troubled Asset Relief Prpgram)」が3日終了する。総額は約4000億ドル(約32兆円)で、金融機関への資本注入額は約2000億ドルに達した。これに伴う政府の損失額は最終的に500億ドル(約4兆円)を下回る見通し。大手銀行の破綻は避けられたが、中小金融機関の返済は遅れている。貸し渋りも続き、米金融安定化は道半ばの状況だ。

 ギブズ米大統領報道官は9月30日の記者会見で、TARPに伴い政府が支出した金額のうち回収できない損失額は「5000億ドルを下回る」と述べた。当初は総枠7000億ドルに対して損失は1000億ドルを超えるとの見方もあったが、現在の経済環境に大きな変化がなければ大幅に縮小するとみている。
 30日には政府の救済が批判を浴びた米保険大手AIGが米政府保有株の売却計画で関係当局と合意。ガイトナー財務長官は声明で「納税者への(公的資金の)返済に近づいた」と歓迎した。11月2日の中間選挙を控え、不人気だった大手金融機関の救済について大部分は返済のめどが立ったことをアピールする材料にしたい考えとみられる。
 米財務省によると、10月4日以降は計画済みの分を除くとTARPとして新たな資金投入はしない。8月末までのTARPの実績をみると、対象拡大により自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)などに使われた分も含めて累計で約3860億ドルの資金が投入され、約1990億ドルが返済された。
 このうち金融機関への資本注入プログラムの実績をみると、これまでに707金融機関に約2050億ドルの資金を投入し、約1480億ドルが返済された。金額べースでは7割強に達している。
 ただ完済したのは大手を中心に80金融機関で、金融機関数では全体の1割強にとどまる。中小金融機関では商業用不動産などへの融資焦げ付きなどに苦しんでおり、市場からの資本調達は難しい状況。多くの中小金融機関は返済までに長い時間がかかりそうだ。
 米連邦預金保険公社(FDIC)によると、今年に入って銀行破綻は127件に達しており、昨年実績の140件を上回る可能性が高まっている。中小金融機関の経営が依然として厳しいことから、これらの金融機関への依存度が高い中小企業を中心に資金の借り入れが難しくなっている。米政府は融資促進策を何度も打ち出しているが、完全には貸し渋りを解消できず、米経済の成長阻害要因となっている。