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2010/3/15 地球温暖化対策基本法案を閣議決定

政府は3月12日、2020年までに1990年比25%とする温室効果ガス削減の中期目標を明記した「地球温暖化対策基本法案」を閣議決定した。今国会での成立を目指す。

民主党鳩山代表は2009年9月7日開かれた朝日新聞社主催 「朝日地球環境フォーラム2009」で、日本の2020年までの温室効果ガス排出削減の「1990 年比25%減」を実現する考えを明言した。「あらゆる政策を総動員して実現」するとした。

2009/9/9  温暖化対策 「鳩山イニシアティブ」

政府内で調整が難航していた国内排出量取引制度について「総量規制を基本」とした上で「原単位の制度も今後検討する」と議論の余地を残した。
小沢鋭仁環境相は、「環境と経済成長の両立という観点から排出量をコントロールしたい」と述べた。

温暖化対策のための原子力発電所の位置づけは「推進する」とし、削除を求めていた社民党の要求は退けた。

 

温暖化対策基本法案の要旨は次の通り。

温室効果ガス排出削減目標は、2020年までに1990年比25%削減
   
  この目標は、すべての主要国が公平かつ実効的な地球温暖化防止の国際枠組みを構築し、意欲的な削減目標に合意したと認められる場合に設定する。
   
2050年までには、1990年比80%を削減する。
   
地球全体の排出量を2050年までに少なくとも半減する目標を、すべての国と共有するよう努める。
   
再生可能エネルギーは、2020年に1次エネルギーの供給量の10%にすることを目標とする。
   
温室効果ガスの国内排出量取引制度を創設。
   
  必要な法制上の措置を地球温暖化対策税と並行して検討、基本法施行後1年以内を目途に成案を得る。
   
取引の排出限度の設定方法は、排出総量の限度を基本としつつ、生産量その他事業活動の規模を表す量の1単位当たり排出量を定める方法も検討する。
   
原子力にかかる施策は、国民の理解と信頼を得て推進する。
   
税制全体のグリーン化を推進、温暖化対策税は2011年度実施に向け検討する。
   
再生可能エネルギーで発電した電気の全量を電気事業者が一定の価格で調達する固定価格買い取り制度を創設する。

ーーー

これに対し、日本化学工業協会や石油連盟など業界9団体は12日、反対の共同意見書を発表した。石油連盟、セメント協会、電気事業連合会、電子情報技術産業協会、日本化学工業協会、日本ガス協会、日本自動車工業会、日本製紙連合会、日本鉄鋼連盟で、内容は以下の通り。

(1) 中長期目標について
  @ どの分野において、どのような技術を用いて、どれだけの温室効果ガスを削減するのかを明らかにし、経済成長戦略とも整合のとれるロードマップを策定すること。(実現可能性
     
  A 当該ロードマップを実行するために必要なコスト、ならびに我が国経済、国民生活や雇用に与える影響と、国民負担を明らかにすること。(国民負担レベルの妥当性
     
  B こうした点を踏まえた上で、各国が国連に提出した目標水準の検証を行なう等により、「前提条件」が満たされたか否かの判断を含め国際的な公平性を確保すること。(国際的な公平性
     
(2) 個別施策について
    国民生活や産業活動に甚大な影響を及ぼすことから、その政策効果や国民負担等の検証を行い、十分な情報開示と開かれた国民的議論を通じて、導入の是非も含め制度のあり方を検討すること。
     

日本経団連の御手洗冨士夫会長は、「十分な議論や情報開示がなされないまま決定したのは極めて残念。国会で審議を十分尽くす必要がある」とのコメントを発表した。

経済同友会の桜井正光代表幹事は、「目標達成への道筋や、経済・国民生活の影響についての説明が不足したまま閣議決定に至った」と指摘、日商の 岡村正会頭は、「法案審議や基本計画策定などの各段階において十分な説明が必要。産業界、国民の意見を聞く機会もつくってほしい」と要望した。

ーーー

一方、 排出量取引について、当初案は企業に排出総量の上限を課す形が示されていたが、今回は、「排出総量の限度を基本としつつ、生産量その他事業活動の規模を表す量の1単位当たり排出量を定める方法も検討する」としたことについて、環境保護団体などからの批判が出ている。

河野太郎衆院議員は過激な批判をしている。

原単位方式を入れようというのは、もはや狂っているとしか言いようがない。

原単位方式では総量は減らない!
生産量を増やした企業は、原単位を改善して儲けてしまうので、総量を増やそうとするインセンティブが働くことになる。

結局、電力会社と鉄鋼会社に不利にならないように、つまるところは、電力と鉄鋼の労働組合の既得権を維持するために民主党の環境大臣、経産大臣達が頑張っているのだ!

・・・

経済調和条項を、ひたすら至る所に埋め込もうというのが経済産業省。大臣は誰だ?

(ちなみに経済調和条項とは、かつて公害対策の法律に埋め込まれて、「経済と産業に悪影響を与えない限り」やっていいよという役所の究極の言い逃れ。---)

総理、まじめに温暖化対策、おやりになるつもりですか。

http://www.taro.org/2010/03/post-726.php

ーーー

原子力施策の「推進」が盛り込まれた点について、「脱原発」を党是とする社民党党首の福島瑞穂消費者・少子化担当相は「100%納得しているわけではない。せめて『国民の理解と信頼を得て行う』としたかった」と強調。新たな原子力発電所の建設には「反対だ」と明言した。

 


2010/3/16 世界長者番付、中国1位はワハハの宗慶後董事長

米経済誌 Forbesは3月10日、世界の長者番付を発表した。

総資産額10億ドル以上は世界1,011人で、中国大陸部からのランク入りは2009年の28人から今年は64人に増えた。
香港からは25人、台湾からは18人がリスト入りを果たした。

中国大陸部のトップは
ダノンとの争いに勝利した飲料メーカー娃哈哈(ワハハ)集団の宗慶後董事長で、資産は70億ドル、世界ランキング103位であった。

リチウムイオン電池の製造で世界第3位で、携帯電話用では世界第1位のメーカーで、自動車に進出し、Warren Buffettが2億3000万ドルを投じて約10%の株を取得した比亜迪(BYD)の王伝福董事長が44億ドルで189(中国で4)となった。
社名は Build Your Dream から付けた。

中国大陸部の順位は以下の通り。

世界
順位
  事業 資産
(億ドル)
備考
103 宗慶後 飲料メーカー 娃哈哈   70  
154 劉 永興 飼料メーカー 希望集団   50  
176 張近東 蘇寧電器   45 家電小売販売会社、日本のラオックスの筆頭株主
189 王伝福 比亜迪(BTD)   44  リチウムイオン電池と自動車
212 許家印 不動産 Evergrande Real Estate   40  
232 呉亜軍 一族 不動産 Longfor Properties   39 夫と共同で事業

なお、2009年の順位は以下の通りで、本年は資産額も順位も上がっている。
劉兄弟が1位と4位に入っている。

世界
順位
  事業 資産
(億ドル)
備考
205 劉永興 飼料メーカー 希望集団   30  
234 張近東 蘇寧電器   27  
246 周成建、一族 アパレル 美特斯邦威集団(Metersbonwe)   26  
261 劉永好 飼料メーカー 新希望集団   25 3兄弟の希望集団から分離
2009/9
三井物産と戦略的業務提携
296 楊恵妍 不動産 碧桂園(Country Garden)   23 28歳女性、父親から贈与を受ける
2008年は74億ドルで中国1位

 

ーーー

世界のトップ10は以下の通り。

メキシコの「通信王」とされるCarlos Slim が総資産額535億ドルで初の首位、昨年1位 のBill Gatesは530億ドルで2位だった。3位は投資家のWarren Buffettで総資産額は470億ドル。

  '09   資産
(億ドル)
事業
 1  3 Carlos Slim Helú メキシコ  535 国営電話会社民営化
 2  1 William Gates V 米国  530 IT  Microsoft
 3  2 Warren Buffett 米国  470 投資会社 Berkshire Hathaway
 4  7 Mukesh Ambani インド  290 化学・石油 Reliance Industries
 5  8 Lakshmi Mittal インド  287 鉄鋼 ArcelorMittal
 6  4 Lawrence Ellison 米国  280 IT  Oracle
 7 15 Bernard Arnault フランス  275 LVMH (Moët Hennessy ‐ Louis Vuitton )
 8 61 Eike Batista ブラジル  270 石油・ガス OGX
 9 10 Amancio Ortega スペイン  250 ファッション Zara
10  6 Karl Albrecht ドイツ  235 ディスカウントスーパー Aldi Sud

 

日本人は22人(昨年は17人)で、上位は以下の通り。

世界
順位
  資産
(億ドル)
事業
 89 柳井 正、家族   76 ファーストリテイリング
 93 佐治 信忠、家族   75 サントリー
117 森 章、家族   63 森トラスト
127 孫 正義   59 ソフトバンク
143 毒島 邦雄、家族   54   SANKYO(パチンコ)
167 三木谷 浩史   48 楽天
201 山内 溥   42 任天堂
277 糸山 英太郎   34 新日本観光
307 滝崎 武光   31 キーエンス(電器機器)
437 三木 正浩   22 ABCマート(靴)

韓国からは李健熙・前(サムスン)会長をはじめ11人が入った。(昨年は4
李会長は72億ドルで100位、鄭夢九・現代/起亜車会長は36億ドルで249位だった。

それにしても、中国大陸部だけで64人もランク入りしたのはすごい。

参考 2010/3/6  中国の都市部と農村部所得格差が拡大

 


2010/3/17 独禁法改正案(審判制度廃止)閣議決定 

3月12日、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案」の国会提出が閣議決定された。

2009年6月に独禁法改正案が改正されたが、審判制度については、「2009年度中に検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずる」との付則を設け、衆参両院の付帯決議で「検討の結果として、現行の審判制度を現状のまま存続することや、以前の事前審判制度へ戻すことのないよう、審判制度の抜本的な制度変更を行うこと」とし、審判制度を廃止する方向性を明示した。

2009/6/5   独禁法改正案成立

政府は2009年12月に、審判制度を廃止し、東京地方裁判所に機能を移管すると発表した。

2009/12/12 公取委の審判制度廃止

法案の概要は以下の通り。

公正取引委員会が行う審判制度を廃止する。
  れに合わせ、審決取消訴訟における現行の下記規定を廃止する。
  1)実質的証拠法則(80条)
    公取委の認定した事実(実質的証拠のある場合)は裁判所を拘束するとの規定
   
  2)新証拠提出制限(81条)
   被処分者が裁判所に新たな証拠の申し出を出来るのは、
 公取委が審判手続きで正当な理由無しにその証拠を採用しなかった場合に限るとの規定
   
裁判所における判断の合一性、専門性の確保を図る観点から,排除措置命令等に係る抗告訴訟については,東京地方裁判所の専属管轄とするとともに,東京地方裁判所においては,3人又は5人の裁判官の合議体により審理及び裁判を行うこととする。(通常は一人の裁判官)
   
  なお、高裁では3人の裁判官によるのが原則だが、東京高裁での控訴審では5人の合議体で行うことが出来るとする。
   
適正手続の確保の観点から,排除措置命令等に係る意見聴取手続について,予定される排除措置命令の内容等の説明,証拠の閲覧・謄写に係る規定等の整備を行う。
   
施行期日は公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内で政令で定める日。

公取委発表 

「私的 独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案」の国会提出について
・法案の概要
・法案の概要(参考)  
・要綱  
・案文・理由
・新旧対照表
・参照条文

2010/3/18  化学遺産認定

日本化学会は、化学と化学技術に関する貴重な歴史資料の保存と利用を推進するため、化学遺産委員会を設置し、さまざまな活動を行っている。

歴史資料の中でも特に貴重なものを文化遺産、産業遺産として次世代に伝え、化学に関する学術と教育の向上及び化学工業の発展に資することを目的とし、このたび、第一回の「化学遺産認定」を行った。

認定化学遺産 第1号 杏雨書屋蔵 宇田川榕菴化学関係資料

宇田川榕菴(1798-1846)は『舎密開宗』(1838〜1846)を著わし、それまでこの国に知られていなかった化学という学問をはじめて体系的に 紹介した。
榕菴がその『舎密開宗』を著わすに当って渉猟した多くの蘭書の覚書やその稿本類など、多くの貴重な資料が一括して杏雨書屋に所蔵されている。

本認定化学遺産は、刊行手沢本、自書稿本類、肖像画、宇田川家伝来の蘭引等、延べ50点に及ぶ。

杏雨書屋5代武田長兵衞氏が、関東大震災により東京で貴重な典籍が灰燼に帰したことを大いに痛嘆し、私財をもって購入した日本・中国の本草医書の文庫。
1977年武田科学振興財団当財団が継承し、本草医書を中心とする図書資料館として開館した。

第2号  上中啓三 アドレナリン実験ノート

1900年、ニューヨークの高峰研究所において、高峰譲吉と上中啓三によってアドレナリンが発見され、結晶化された。これは世界で初めて単離されたホルモンである。

本認定化学遺産はこの研究経過を記した上中啓三の実験ノートで、この実験研究が行なわれた1900年7月20日から同年11月15日までの記述がある。

現在、上中啓三の菩提寺である兵庫県西宮市名塩の浄土真宗教行寺に所蔵されてい る。

第3号  具留多味酸(グルタミン酸) 試料

1908年、東京帝国大学の池田菊苗が昆布のうま味成分としてグルタミン酸を抽出、同定し、さらにそのナトリウム塩が強いうま味を呈すること を見いだし、調味料として工業的製法を確立した。
このグルタミン酸ナトリウムは鈴木三郎助によって「味の素」の名称で商品化された。

本認定化学遺産は池田が最初に昆布から抽出した「具留多味酸」試料で、現在、味の素株式会社「食とくらしの小さな博物館」(東京都港区高輪)に貸与され、一般に公開されている。

第4号  ルブラン法炭酸ソーダ製造装置塩酸吸収塔

わが国のソーダ灰製造は官営事業として1881年大阪造幣局から始まるが、民営事業としては山口県小野田に1889年7月、日本舎密製造会社が設立され、1891年から生産が開始された。

この創業時の工場は、現在の日産化学工業(株)小野田工場(山口県山陽小野田市)として継続され、同工場内に創業時の製造装置の一部が保存されている。

本認定化学遺産は、食塩と硫酸から硫酸ナトリウムを製造する工程で副生する塩化水素ガスの吸収塔(塩酸吸収塔)で、花崗岩製である。

付記 ルブラン法

2NaCl + H2SO4 → Na2SO4 + 2HCl
Na2SO4 + 2C + CaCO3 → Na2CO3(
ソーダ灰)+ CaS + 2CO2

ただし、この製法では大量の硫化カルシウムの廃棄物ができてしまい、生成する塩酸も用途がなければ大気中に放出され問題を起こすため、19世紀半ばにアンモニアを使い廃棄物の少ないソルベー法(アンモニアソーダ法)が発明され、この製法に取って代わられた。

第5号  ビスコース法レーヨン工業の発祥を示す資料

ビスコース法レーヨンは1901年にドイツで、1904年にイギリスで工業化されたが、日本では、鈴木商店の金子直吉の支援のもと、米沢高等工業学校教授秦逸三と大学同窓の久村清太の共同研究によって紡糸に成功し、1916年に米沢に設立された東工業米沢人造絹糸製造所で初めて工業化された。
1918年に東工業から帝国人造絹絲株式会社として独立、これが現在の帝人である。

本認定化学遺産はこの最初期の研究および米沢工場での工業化を示す、次の3資料である。
 (1)旧米沢高等工業学校(現山形大学工学部)旧秦研究室遺留品のレーヨン糸、ガラス製ノズル、実験器具
 (2)米沢工場初期の人絹糸
 (3)米沢人造絹糸製造所創業時の木製紡糸機模型

なお、東洋レーヨン(東レ)は1926年設立、新興人絹(三菱レイヨン)は1933年、東邦人造繊維(その後、東邦レーヨン、現在は帝人子会社で炭素繊維の東邦テナックス)は1934年の設立となっている。

レーヨンという名前は1910年に米国でAvtex Fibers がこれを発売する際に、人造絹糸の「人造」を嫌い、新たに考えた。強い光沢があることから、フランス語のRayon(英語のrays of light、光線)を製品名に採用した。

日本の各社はレーヨンを止めた際に社名を変更したが、三菱レイヨンは「光」ファイバーを主製品に持つことから、依然として同じ社名にしている。

第6号  カザレー式アンモニア合成装置および関連資料

日本窒素肥料株式会社は、1923年10月に日本で初めてアンモニアの工業的製造を開始した。
これは肥料製造、銅アンモニア法によるレーヨン製造などアンモニアを基本とした化学工業の展開の礎となった。

当時の合成塔、清浄塔、圧縮機が、旭化成ケミカルズ(株)愛宕事業場(宮崎県延岡市旭町)敷地内の「カザレー記念広場」に移設され保存されている。初合成時の運転日誌、創業期の写真などの資料も保存されている。

(日本窒素肥料株式会社延岡工場が独立し、延岡アンモニア絹絲株式会社となり、1946年に旭化成工業と改称した。)

 


2010/3/19  フィリッピン最大の石油会社PetronPPメーカーPetrocorpに出資 

フィリピン最大の石油会社Petron Corp.39日、石油化学事業の強化のため、 Vantage Stride (Mauritius) Ltd. からPetrochemical Asia (HK) Ltd.の株式の40%を買収したと発表した。詳細は発表していない。

Petrochemical Asia の子会社Petrocorp Bataanに年産 160 千トンのPP工場を持っている。

Petronは同じ Bataan に日産18万バレルの製油所を有し、国内に1300のガソリンスタンドを持つ。

2008年にBataanの製油所にFCCとプロピレン回収設備を設置、2009年にはBTX設備を稼動させている。
ベンゼン能力は
22,800トン、トルエンは150,000トン、混合キシレンは220,000トンとなっている。

Petron は以前の報告で、川下の石油化学に進出し、プロピレンやBTXを加工し、場合により最終製品まで作りたいとしている。また、買収や合併も考えるとしていた。

今回の買収により、Petronでは自社のプロピレンをPP原料として供給し、付加価値を高める。

同社は下記の通りフィリピンの食品・飲料大手 San Miguel Corp. の子会社となる。
今後、製品販売で
San Miguel のルートを使用することを考えている。

ーーー

Petronは当初、国営石油会社PNOC40%、Saudi Aramco が40%出資し、残り20%を上場していた。

2008年に英国の投資会社 Ashmore GroupSaudi Aramco から40%分を買収し、残り10.1%を投資家から購入、Petron 50.1%を取得した。同社はこのために子会社SEA Refinery Corpを設立した。
(比政府も
財政赤字対策としてPNOCの持分40%を手放さす意向を示していたが、最終的に政府は手放さないこととした。)

2008/7/26 英国投資会社Ashmore、フィリピンのPetron のマジョリティ買収

2009年1月、San Miguel 2年間でSEA Refinery Corp100%Ashmore Groupから購入する契約を締結した。
買収完了後には
San Miguel Petron50.1%を所有する。(残りのうち40%国営石油会社PNOC

San Miguel は飲料や食品加工などのコア事業以外への投資を検討している。

ーーー

フィリピンではエチレンセンターが計画されたが、なかなか進展せず、先行して誘導品が建設された。
しかし、その後もエチレンは実現していない。

ポリオレフィンメーカーは以下の通り。

メーカー 立地 製品 Capacity 製法
Petrocorp Bataan PP  160,000t BASF
Bataan Polyethylene
 →NPC-Alliance
Bataan PE(HD/LL)  250,000t BP
JG Summit Petrochemical Batangas PE(HD/LL)
PP
 200,000t
 180,000t
Union Carbide

PetrocorpChemical Industries of the Philippines, Inc. (CIP) Dr. Eusebio S. Garcia などにより設立された。
Petrocorpの正式名称はPetrochemical Corporation of Asia-Pacific

Petrocorpは採算悪化や原料プロピレン不足などで何度も操業を停止し、一時は伊藤忠からの製造委託で操業したこともあった。(原料のプロピレンは韓国、台湾、日本などから輸入しており、採算はよくなかった)

2004年頃から外資への売却を検討していた。

200811月には株主のCIP や関連会社(洗剤メーカーのCAWC LMG) は所有するPetrocorp の株式を全額評価減している。
(未確認だが、今回売却の
Petrocorp株式の残りは、同グループが依然保有していると思われる)

ーーー

Bataan Polyethylene は当初、BP39%、マレーシアのPetronas39%、住友商事が6%、現地株主のコンソーシアムのProfinda Holdings16%を出資して設立された。

その後、採算悪化からBPと住友商事が離脱を決め、その分をPetronasが購入する予定であったが、結局まとまらず、2003年に一旦清算された。

2004年に「プラスチック王」の異名を持つWilliam Gatchalian Metro Alliance Holdings and Equities (Manila)を通じてBataan Polyethylene の債権を世界銀行のIFCから買い取り掌握した。

GatchalianはイランのNational Petroleum Companyとの間でエチレンの長期供給契約を締結した。

2005年にイランのNational Petroleum Company Metro AllianceからBataan Polyethylene 60%を買収、同社をNPC-Allianceと改称した。

現在の出資比率は:
  
イランのNational Petrochemical Company 40%
  イランのInternational Petrochemical Company 20%
  Philippines Polimax Metro Allianceグループ) 40%

ーーー

JG Summit PetrochemicalJG Summit Holdings 80%/丸紅20%のJVとして設立され、1998年に稼動した。

その後、丸紅持株は17.72%となり、2007年に撤退しJG Summit Holdingsの100%子会社となった。

JG Summit 6つのコア事業を持つコングロマリット。
 ・消費財、食品:Universal Robina Corporation
 ・不動産、ホテル:Robinsons Land CorporationUnited Industrial Corporation (Singapore)
 ・通信、インターネット:Digital Telecommunications Phils., Inc.
 ・ペトロケミカル:JG Summit Petrochemicals Corporation
 ・航空:Cebu Pacific Air
 ・金融:Robinsons Savings BankJG Summit Capital Services Corporation


2010/3/20 水俣病集団訴訟で和解案

熊本地裁は3月15日、水俣病不知火患者会が国などに損害賠償を求めた集団訴訟(原告総数2126人)の第4回和解協議で所見を示し、年内に決着するよう要請した。

付記

鳩山首相は3月18日、これを受け入れる方針を表明した。熊本県知事も受け入れを表明した。

チッソは3月26日の取締役会で受け入れを正式に決めた。後藤舜吉会長が「和解することが水俣病問題の最終解決にかなうと判断し、所見を受け入れることにした」との 談話を出した。

水俣病不知火患者会は3月28日、和解案受け入れを賛成多数で決めた。

3月29日、第5回和解協議が熊本地裁で開かれ、双方は地裁が示した一時金210万円などの所見を受け入れて和解に基本合意した。

付記

関東の水俣病不知火患者会195人が東京地裁に起こした訴訟の和解協議が11月17日、東京地裁であり、原告と被告の双方が、原告に一時金210万円などを支払う和解案に基本合意した。

水俣病不知火患者会が熊本、大阪、東京の3地裁に起こしたすべての訴訟が、同じ水準の和解案で基本合意したことになる。

→ 不知火患者会については、東京地裁 で2011年3月24日、熊本地裁で25日、大阪地裁で28日、和解が成立した。

所見の内容は以下の通り。

【裁判所の立場】

和解協議を前進させ、和解による最終的解決を実現するには和解についての基本的な考え方を示すことが相当と判断した。審理経過や和解協議での双方の意見を踏まえ、所見を提示する。

【対象者の判定方法】

対象者の判定 原告と被告が設置する「第三者委員会」
 双方から2人ずつ、双方が合意した座長の計5人

 患者側主張 裁判所
 国側主張   第三者委員会

判定資料 「共通診断書」(患者を診てきた医師らが作成)と
「第三者診断結果書」(公的医療機関での診断) 
対象地域 国が認定してきた水俣市など以外にも熊本県上天草市と鹿児島県出水市の一部を含める。

他の地域に住んでいた被害者でも、メチル水銀化合物に汚染された魚介類を多く食べたことなど
一定条件を満たせば救済対象

対象出生年 1969年11月末生まれまでを原則
それ以降でも「へその緒」など、メチル水銀化合物の影響を受けた科学的データがあれば対象

*1968年にチッソがメチル水銀を含む排水を止めた。
 国は「1968年末に母親が妊娠していた場合、胎児期に水銀の影響を受けた可能性が否定できない」とし、
 1969年11月生まれまでを対象に含めるとした。
そのほかの事項 第三者委員会運営協議会で協議

【支給内容】

一時金 対象者1人当たり210万円

 患者側主張 関西訴訟最高裁判決の賠償額
          (450万〜850万円)相当
 国側主張  1995年の政治決着などを踏まえ
         150万〜260万円の幅

チッソが原告団に一括して支給
療養手当
入院療養を受けた者  月額17,700円
通院療養を受けた日数が1日以上で、  
  70歳以上の者  月額15,900円
  70歳未満の者  月額12,900円
国と熊本、鹿児島両県が設ける制度
一時金対象者に支給
療養費 自己負担分を対象者に手帳を交付し支給 国と両県が設ける被害者手帳制度
一時金加算額 29億5千万円 チッソが原告団に支給

一時金加算額は、被害者団体に対して、訴訟費用や活動経費などの補てんとして原因企業チッソが負担する補償金。
1995年の政治決着では「団体加算金」として、チッソが5被害者団体に支払い、救済対象外となった被害者への補償費用にも用いられた。
今回の政治解決では訴訟派の水俣病不知火患者会のほか、非訴訟派の水俣病出水の会、水俣病被害者芦北の会、水俣病被害者獅子島の会の3団体にも支払われる見込み。

【その他の施策】

国と関係地方公共団体は、地域振興、健康増進事業、調査研究、一定の要件を満たす健康不安者への健康診査・保健指導の実施に努める。

【責任とおわび】

チッソは責任とおわびの具体的な表明方法を検討する。
国と熊本県は水俣病特別措置法前文に掲げる責任とおわびについて、再度深く受け止め、その具体的な表明方法について検討する。

【紛争の解決】

原告と被告は前記の方法に従い、個別の原告の判定を行う。
すべての原告の判定が終了したときには、速やかに和解を成立させる。
和解の成立で、チッソの一時金支払いなどが行われるとともに、そのほかの請求放棄、認定申請の取り下げなどが行われることで、一切の紛争を解決する。
年内をめどに解決措置が終了するように努力する。

 


2010/3/20 ワシントン条約締約国会議、大西洋クロマグロ禁輸案を否決

カタール・ドーハで開催中のワシントン条約締約国会議は3月18日、第1委員会で大西洋・地中海産クロマグロの国際商業取引を原則禁止するモナコ提案について協議し、採決の結果、反対68、賛成20、棄権30の反対多数で同提案は否決された。
採決では、投票国の3分の2以上が賛成すれば可決される規約になっている。

委員会では、モナコ提案とは別に、EU議長国のスペインが、禁輸案を支持した上で来年5月まで発効を遅らせるEUとしての修正案を提出したが、賛 成43、反対72、棄権14で否決された。

2010/3/9 大西洋クロマグロが輸出入禁止? 

委員会では、モナコが禁輸の提案理由を説明し、ワシントン条約による管理を主張した後、各国が討議、日本は「大西洋クロマグロは持続的利用を図るべき漁業資源で、ICCATが的確に資源管理すべきだ」とモナコ提案への反対を表明した。

中国は漁業規制の波がクロマグロからサメ類などに飛び火し、フカヒレなどの貴重な食材の確保に影響が出ることを懸念し、日本と共同歩調をとった。

モナコやEUの案では、単一市場のEU内では取引可能であることに対し、禁輸が死活問題になるEU域外の漁業国が反対に回った。

リビアの代表は「マグロの国際取引禁止は先進国による陰謀だ!」と声高に主張し、議論の打ち切りと即時採決を提案、急転直下、否決へとつながった。
漁業国のアイスランドが秘密投票を求め、認められたことも、否決に貢献した。

モナコ案に反対した68カ国にはアフリカ諸国が目立った。 一方、賛成票はEU加盟国数を下回り、棄権30カ国の多くが欧州諸国であることをうかがわせた。

モナコは本会議での再提案を諦めたため、これで決着となる。

ーーー

委員会は3月18日、ホッキョクグマの禁輸案(「付属書T」掲載)を否決した。
ホッキョクグマは「付属書U」に掲載され、輸出には許可証が必要となっている。

提案国の米国は「毛皮や剥製の輸出入が乱獲を招いている」と主張したが、生息地のカナダは「適切な資源管理をしており、絶滅が危惧されるほど個体数は減っていない」と反論,、投票結果は賛成48、反対62、棄権11だった。

日本が最大の毛皮輸入国。米政府によると、1992〜2006年に国際的なホッキョクグマの毛皮取引は3237件で、58%を日本が輸入した。

ーーー

付記

3月21日の委員会はイランのザクロス山脈周辺に棲息するサンショウウオ(カイザーツエイモリ)の国際取引禁止を満場一致で採択した。

しかし、宝石サンゴを「付属書U」に掲載するという提案は、賛成64、反対59、棄権10で否決された。

米国とスウェーデンが「世界的な取り過ぎ防止が必要」として提出、1年半後の発効を求めたが、日本は「北太平洋での採取は厳格に管理されている。ワシントン条約による規制は不要だ」と主張、チュニジア、モロッコ、リビアなどの採取国も反対を表明 した。

宝石サンゴは、日本では高知県の伝統的な地場産品。
Tiffany
などは環境保護を理由に自発的にサンゴの販売を停止している。

3月22日の委員会は象牙の部分解禁を否決した。

象牙は「付属書T」掲載だが、タンザニアとザンビアは自然死した象の象牙を保有しており、1回限りで中国と日本に輸出し、代金を象の保護に充てる案を提出したが、「密漁助長」の懸念で否決された。日本は賛成票を投じた。

ケニアなど8カ国は一切の輸出を2028年まで凍結する強化案を提出したが、議論の末に取り下げた。

 

付記

3月23日には、米国とパラオがフカヒレをとるために乱獲され、数が減少しているとして、アカシュモクザメ(scalloped hammerhead)、ヒラシュモクザメ(great hammerhead)、シロシュモクザメ(smooth hammerhead)と、ヨゴレ(oceanic whitetip shark)を付属書Uに掲載することを提案したが、2/3の賛成を得られず否決された。日本や中国が反対した。

EUとパラオが提案したニシネズミザメ(porbeagle shark)の「付属書U」掲載は86対42、棄権8で僅差で可決された。
今回の会議での禁輸、規制案が可決されたのはこれが初めて。(日本政府は「漁業者がニシネズミザメだけを見分けて、輸出の許可を得るのは困難」との立場で反対した。)
しかし、最終日25日の全体会合で、この案は否決された。

なお、2002年11月に ジンベエザメ(Whale Shark)とウバザメ(Basking Shark)、2004年10月にホホジロザメ(Great White Shark)の大型ザメ3種の「付属書U」登録が決定している。
この保護の流れを大型ザメから中型ザメに拡大しようという動き。

全体会合では大西洋・地中海のクロマグロやホッキョクグマの付属書T掲載案、宝石サンゴやサメの付属書U掲載案が否決された。


2010/3/22 米製薬ベンチャーSucampo Pharmaceuticals、武田薬品との調停申し立て

米製薬ベンチャーのSucampo Pharmaceuticals3月15日、武田薬品工業が便秘薬のCollaboration and License Agreement(2004/10)に違反したと して、この契約の終了と損害賠償を求めて国際仲裁裁判所に調停を申し立てたと発表した。

Sucampoが開発した便秘型過敏性腸症候群治療薬アミティーザ(AmitizaTM、一般名:Lubiprostone) の売上高が当初予想を下回ったことなどを理由に「武田側が販促活動を怠った」として契約終了を要求していたが、武田側が要求を受け入れなかったとしている。

Sucampoによると、武田の米国での販売実績に不満を持ち、20094月に武田に対して「重大な違反」の通知をした。武田がAmitiza の売り上げ拡大の努力をせず、協力を断り、契約上決められた情報の提供を拒んだとするもの。
その後、契約に決められた90日以内に是正がなかった旨の通知をした。

同社によると、武田のAmitiza の販売高は2008年が193.4百万ドル、2009年が209.2百万ドルとなっている。

Sucampo Pharmaceuticals1996年に上野隆司博士と久能祐子博士により設立されたベンチャーで、人体で自然に生じる機能性脂肪酸から得られる化合物 Prostoneをベースにした医薬品の開発と商業化に注力している。

最初の製品がAmitizaで、成人向け慢性特発性便秘症治療薬として20061月に米食品医薬品局(FDA)より販売認可を受けた。

武田薬品は米国で 2006年4月にAmitizaの販売を開始した。

なお、日本では2009年2月にアボットジャパンが独占販売権を取得している。

Sucampo は2009年9月、EU地域でのアミティーザの販売承認申請を取り下げたと発表した。同社では、販売戦略に基づく判断とコメントし、米国や日本でのアミティーザ事業への影響を否定している。

付記

2012年7月、国際仲裁裁判所でSucampoの主張が認められず、武田との独占的供給契約は継続 、損害賠償についても認めらず。

2014年10月、武田に、米国・カナダに加え、日本および中国以外のすべての国におけるAMITIZAの独占的販売権を 供与。

ーーー

プロスタグランジンはアラキドン酸カスケードと呼ばれる一連の化学反応により合成される生理活性物質で、さまざまな薬理作用を持つが、プロスタグランジンの代謝物は活性を持たないと考えられていた。

1980年代に新技術開発事業団の早石生物情報伝達プロジェクトに参加した上野博士は、プロスタグランジンの代謝物でケトン基を有するものが活性を有することを発見し、プロストン(Prostone)と名付けた。

上野博士は、親族が社長を務める上野製薬で、久能祐子博士とともに緑内障・高眼圧症治療薬「レスキュラ点眼液」(一般名:Isopropyl unoprostone)の開発を進め、1994年に製造承認を取得し、藤沢薬品工業(当時、現アステラス製薬)と独占的販売契約を交わした。(200410月に眼科領域に強い参天製薬へ変更)

上野博士は1989年にアールテック・ウエノを設立、2001年に上野製薬からレスキュラの製造販売業務の承継を含む事業承継を受け、製造発売元になった。
レスキュラの日本(参天製薬)、韓国・台湾(アステラス製薬)以外での販売権は
Novartisに供与、現在、欧米40カ国以上で販売され、その原薬はアールテック・ウエノが供給している。

2009年4月にSucampo が米国とカナダの販売権を取得した。

上野博士と久能博士は1996年に米国にSucampo Pharmaceuticalsを設立し、複数のプロストン化合物の開発を開始。2002年に英国にSucampo Parma Europe、日本にスキャンポファーマを設立し、日米欧三極で医薬品を開発する体制を構築した。

アールテック・ウエノは、グループの中で、プロストン製剤の全世界への製造供給を担う。

上野博士と久能博士は、直接間接にアールテック・ウエノ及びSucampoグループの株式の過半を保有している。

Sucampo Pharmaceuticalsの業績は以下の通り。(千ドル)

  2009 2008
Revenues Research and development revenue   23,957 72,293
Product royalty revenue 38,250   34,438
Co-promotion revenue 4,541 4,826
Contract and collaboration revenue 603 566
Total 67,351 112,123
Operating expenses 65,006 81,052
Income from operations 2,345 31,071
Non-operating income, net 1,186 2,043
Income before income taxes 3,531 33,114
Net income -760 24,951

 


2010/3/23 米医療保険法案が成立へ

米下院は3月21日夜の本会議で、オバマ大統領が内政の最重要課題に掲げてきた医療保険改革法案を僅差で可決した。

共和党は費用が掛かり過ぎること、政府の権力拡大になることを理由に反対した。民主党から34人が反対に廻った。

オバマ大統領は21日からインドネシア、オーストラリア歴訪を予定していたが、最重要課題の同法案の審議が大詰めを迎える中での外遊について、与党・民主党から「賢明ではない」との声が出たため、外遊を延期し、成り行きを見守った。

昨年12月に上院が可決した案を先ず219対212で可決し、その後、上院と下院の民主党及びホワイトハウスで合意したその修正案を220対211で可決した。今週中に上院に送られ可決する予定。

付記

オバマ大統領は23日、下院で可決した上院案に署名、法律となった。
修正案は上院の可決待ち。

一方、13の州が医療保険制度改革が憲法違反だとして政府を提訴した。「憲法のどこでも、米国が直接あるいは罰則を科すとの脅しの下に、市民や合法的な住民がすべて適格な保険に加入するよう命じることは認めていない」としている。

フロリダ州司法長官が旗振り役で、サウスカロライナ、ネブラスカ、ミシガン、ユタ、ペンシルベニア、アラバマ、サウスダ コタ、アイダホ、ワシントン、コロラド、ルイジアナ州の司法長官が加わった。
このほか、バージニア州が単独での提訴に踏み切った。

付記
米バージニア州の連邦地裁は12月13日、医療保険改革法について、国民に医療保険加入を義務づけ、未加入者に罰金を科す条項を立法権の逸脱と指摘し、この条項が憲法に違反するとの判決を下した。
同様の訴訟では、ミシガン州など2カ所の連邦地裁が既に合憲判決を出している。

問題となった条項は「国民皆保険」を目指し、2014年までに加入を事実上、義務づけている。だが、この日の判断は、米国憲法には、ある商品を買わないとする個人の判断を規制する条項は見当たらないとした。
オバマ政権は今回の違憲判決を控訴する方針。

付記
米最高裁判所は2012年6月28日、米国民に保険の加入を義務付ける医療保険改革法について、主要部分を支持するとの判決を下した。

大半の米国民に2014年までの保険加入を義務付け、加入しない場合には罰金を課すというもの。全米50州のうち26の州、および中小企業を代表する団体などが違憲訴訟を起こしていた。

ロバーツ最高裁長官は「医療保険を取得しない特定の国民に対して罰金を課すことは、合理的に税金として位置づけられる可能性がある」とした。

最高裁の9人の判事のうち、ロバーツ長官を含む5人が支持、ケネディ判事ら4人が不支持だった。不支持とした4人は、医療保険改革法全体が違憲と判断した。

3月25日、上院は修正案を可決した。その際、手続き上の不備を手直ししたため、改めて下院で可決した。

オバマ大統領は3月30日、最終修正案に署名した。同法には学生ローンの支援策も盛り込まれている。

先進国で唯一なかった「国民皆保険」制度が事実上導入され、米国の医療保険制度は歴史的な転換を遂げる。

1912年にTheodore D.Rooseveltが革新党の選挙公約に公的医療保険を掲げたのが最初。
Clinton政権ではHillary Clintonがこれに取り組んだが、医療保険会社と製薬会社に潰された。

医療保険会社の次のようなCMが新制度への恐怖をあおり、世論をひっくり返した。

「皆保険制度になると政府が仕切る。保険料は上がり、自由な選択肢が奪われる。大量の無保険者が入るため医療の質が落ちる。」

Obama大統領が内政の最重要課題と位置づけた。
2009年2月の演説で、無保険者の削減と医療費の抑制を宣言したが、反対が強く、難航した。

2009年11月7日に米下院が僅差で可決した。
その後、12月24日に上院が内容の異なる法案を可決し、一本化作業が焦点となった。

下院での可決を受け、オバマ大統領は、「これが変革のあるべき姿 だ」と述べるとともに、米国民は「歴史の要請に応えた」と称賛した。「抜本的な改革ではないが、大きな改革だ」と述べ、法案の通過は「アメリカンドリームの土台にしっかりと置かれた礎石だ」と語った。

しかし、この法律は妥協の産物であり、日本のような皆保険制度でも、公共保険でもない。

利権がなくなるのに反対する医療保険会社や製薬会社などの医産複合体が、「政府が自分たちの生活に介入するのがイヤだ」とする一般大衆の感情論をけしかけ、反対に向かわせた。

最大の問題の野放しの医療費、医薬品費に変わりはない。

ーーー

米国では国民皆保険制度を導入しておらず、公的保険は高齢者や障害者向け(Medicare)、低所得者向け(Medicaid)などに限定されている。

2008年のこれらの加入者は合計8,560万人。
退役軍人向け医療保険を加えると8,800万人に達する。

このため、勤務先企業提供の民間保険か個人での民間保険加入しかない。

米国では医療費が非常に高い。

2000年のデータで、ニューヨークで盲腸手術が243万円(入院1日)

医薬品価格も規制がなく、年間20%ずつ薬価が値上がり。(日本の製薬会社の米国進出の大きな理由である)

2009年6月、オバマ大統領は製薬会社との間で、医薬品価格を今後10年で800億ドル値下げすることで合意した。

但し、これは10年間の処方薬の総額の予想 3兆6000億ドルの2%に過ぎない。
条件として、公約であったMedicare処方薬に関する値引き交渉を10年間見送り、外国からの安価輸入公約を破棄した。

医療保険は独占市場で、保険料は上げ放題である。

314都市のうち94%の地域で、1〜2社で市場支配
15州で1社が市場の50%以上を支配、7州で75%以上を支配

会社提供の保険の場合、保険料は1人当たり年間13千ドルにもなる。保険料は毎年上がり、過去10年で2.2倍。

GMがストを恐れて組合の要求をどんどん呑み、年金と健康保険を拡大し、破産に到った経緯は、
Roger Lowenstein “While America Aged” 「なぜGMは転落したのかーアメリカ年金制度の罠」に詳しい。

失業者や、保険制度のない企業の従業員は保険に入れず、現在4,700万人が保険に入っていない。
年収2〜4万ドルの層で41%、4〜6万ドルの層で18%となっている。

無保険者は全額支払が必要だが、医療費が高額のため、治療を受けられない。

医療保険なしの国民のうち年間45千人が死亡

歯科医療保険なしが1億人(3人に1人)

キューバからの亡命者が医者にかかれずに子供を亡くし、「キューバだったら、あの子は助かったのに」と嘆いたという。(キューバでは医療と教育は無料)

米国の保険では保険会社が全てを決める形となっており、保険に入っても万全ではない。

保険会社が病院や医師に治療方針を指示
どんな治療が保険の保障範囲に入るかを決めるのは保険会社
患者の年齢や健康状態で保険料に格差
過去の病歴などを理由に加入拒否

治療費が生涯限度額を超えれば保険会社は一銭も払わない

保険会社の保険料収入の最大47%は医療費以外(事務費、マーケティング費用、利益)に使われている。

ーーー

今回の法案の内容は以下の通り。  

保険会社

 ・既往症のある人の加入を拒否しない。
 ・独断的に保険を取り止めない。

 ・Insurance exchanges(非営利共同組合)の新設
   会社の保険制度のない中小企業や個人が保険に加入できる。
   決められた最低限の補償

 ・保険会社は保険料収入の最低8085%を医療費に使用

付保

 ・個人は健康保険に入る義務
  (入らない場合、所得の
2.5%までの罰金)

 ・従業員50人以上の会社は保険制度をもつ義務
  (違反はフルタイムの従業員
1人当たり2000ドルの罰金) 

 ・保険料補助
   貧困レベル所得の
4倍までの人を対象

 ・Medicaidの拡大
   貧困レベル所得(個人で
10,830ドル、4人家族で22,050ドル)の133%までが加入可能に

原資

 ・高コスト保険(個人で10,200ドル、家族で27,500ドル以上)に対し40%の税金

 ・Medicareのための税を1.45%から2.35%にアップ(個人で20万ドル、夫婦で25万ドル以上の所得に対し)

 ・医療機器、保険会社、新薬メーカーに課税

毎日新聞 2010/3/23

 

 詳細: http://www.nytimes.com/interactive/2010/03/19/us/politics/20100319-health-care-reconciliation.html?ref=policy#tab=0

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米議会予算局(CBO)は医療保険改革案によって、3,200万人の無保険者を新たに保険に加入させ、65歳未満の保険加入率は95%に拡大する。無保険者は2,200万人に減るとみている。

法案に基づく制度変更の総費用は今後10年で9,400億ドル。雇用者が医療保険を提供しなかった場合の罰金や高額保険へ の課税のほか、新たに高齢者向け公的保険への資金拠出を減らす修正を加えたことで、10年間に1380億ドルの財政赤字を削減できるとしている。

しかし、これで問題は解決しないという見方が多い。

医療グループ Mad as Hell Doctors Group の創始者は、この改革がアメリカの医療を破綻させている医療保険会社や製薬会社などの医産複合体を排除していないのが大きな問題だとする。

これが出来るのは政府が一括で運営責任を負う単一支払い皆保険制度だけだが、真っ先に選択肢から外された。

処方薬価格の交渉権を放棄したため、医療費設定のシステムは今までと同じである。
今後の薬価値上げで、保険の財源が確保できるかどうか不明である。

また、現在でも医療現場が破綻しており、新たに大量の患者を受け入れる余裕がないとの見方もある。

ーーー

これらの状況は以下に詳しい。

  堤 未果 「ルポ 貧困大国アメリカ」 「同 U」 (岩波新書)

この本はほかに、以下のようなアメリカの問題を取り上げている。
  貧困が生み出す肥満国民
  民営化による国内難民(人災だったハリケーン・カトリーナなど)
  教育費高騰と奨学金予算削減によるローン地獄と、その結果として学生の徴兵
  民営化された戦争(借金返済のための傭兵制度)
  崩壊する社会保障
  刑務所という名の巨大労働市場

これらにあるのは「行き過ぎた市場原理」というキーワードである。

 


2010/3/24 米国、人民元切り上げを要求 

米上院のシューマー(民主)、グラム(共和)両議員ら民主、共和超党派の議員団は3月16日会見し、中国が人民元の切り上げに応じない場合、厳しい罰則を科すことなどを明記した事実上の中国制裁法の制定を目指す考えを表明した。

オバマ米大統領は3月11日、米輸出入銀行の年次総会で演説し、今後5年間で輸出を倍増させ200万件の雇用を創設する目標を達成するため、「輸出促進閣僚会議:Export Promotion Cabinet」を設立すると発表した。
国務省、商務省、農務省、貿易代表部(USTR)の代表などで組織されるとみられ、輸出促進を最優先課題とする。

大統領は、中国に「市場指向の為替レート」へ移行するようあらためて呼び掛けた。世界経済の不均衡是正に不可欠な要素だと指摘している。

国際通貨基金(IMF)が3月1日に公表した資料では、ドルは依然として若干過大評価されており、中国人民元は大幅に過小評価されているとの見解を示した。「人民元の実質実効為替レートはドルと共に下落してきた。中期的な観点から大幅に過小評価されている」と指摘した。

参考 2009/11/9 米中 貿易戦争、更に激化

ーーー

中国は2005年7月23日に人民元の対ドルレートを2%切り上げた。

その後、順次引上げたが、2008年7月以降はほぼ同水準で推移している。
  (世界不況を受け、「通貨バスケット」を参考に人民元レートを決定する「管理変動相場」からドルリンクに)

中国の2月の輸出は前年比で45.7%の大幅増となった。

       輸出      輸入  
金額(億$ 前年比(%) 金額(億$ 前年比(%)  
2009
1
904.5 -17.5 513.4 -43.1  
 2 649.0 -25.7 600.5 -24.1  
 3 902.9 -17.1 717.3 -25.1  
 4 919.0 -22.6 788.0 -23.0  
 5 888.0 -26.4 754.0 -25.2  
 6 954.1 -21.4 871.6 -13.2  
 7 1,054.2 -23.0 947.9 -14.9  
 8 1,037.0 -23.4 880.0 -17.0  
 9 1,159.4 -15.2 1,030.1 -2.5  
10 1,107.6 -13.8 867.8 -6.4  
11 1,136.5 -1.2 945.6 +26.7  
12 1,307.2 +17.7 1,122.9 +55.9  
年計 12,016.6 -16.0 10,056.0 -11.2  
2010
1
1,094.7 +21.0 953.1 +85.5  
2 945.2 +45.7 869.1 +44.7  
付記          
3 1,121.1 +24.3 1,193,5 +66.0 2004年4月以来6年ぶりの貿易赤字
           

ビッグマック指数というのがある。経済専門 The Economistによって考案された。

ビッグマックはほぼ全世界で同一品質のものが販売され、原材料費や店舗の光熱費、店員の労働賃金など、さまざまな要因を元に単価が決定されるため、 総合的な購買力の比較に使いやすい。

Economist201016日号で2010年のBig Mac Index を発表した。

それによると、現在の各国の米ドル建て価格は、米国では13.58ドルに対し、日本では3.50ドルでほぼ同じである。
それに対し、中国では
1.83ドルと48%も安い。

最近のレートは1$6.83人民元で112.5人民元だが、中国で13.58ドルにするには1$3.49人民元でないといけないこととなる。

韓国のウオンも2010年でも米国の83%で、かなり安い。
ビッグマック指数でみる限りでは、日本の円は現在の円高が妥当ということとなる。

ーーー

温家宝総理は3月14日、第11期全人代第3回会議の閉幕後に記者会見を行い、以下の通り述べた。

  「中国傲慢論」などに対して:

中国は近年、確かに経済は急成長したが、都市・農村間の不均衡、地域間の不均衡に加え、人口の多さや基盤の弱さもあり、 まだ確実に発展の初級段階にある。

上海や北京の発展が中国全体を代表するものでないことがすぐにわかる。

私たちが小康社会(ややゆとりのある社会)の目標を実現するには、なお困難な努力が必要だ。 中等先進国となるには、少なくとも今世紀中頃まではかかる。現代化を真に実現するには、まだ100年からそれ以上の時間が必要だ。

  保護貿易主義について:

一部の国が輸出割合を高める必要があることは理解するが、理解できないのは、彼らが自国の輸出を高めるためにその通貨価値を切り下げ、反対に他国には圧力を加えてその通貨価値の上昇を迫ることだ。
これは一種の保護貿易主義的手法だと考える。

私たちは輸入拡大措置を講じる。昨年、最も困難な時期に、私たちは欧米に何度も買付団を派遣した。

中国の貿易は総量は大きいものの、50%が加工貿易で、60%は外資系企業または外資との提携企業による輸出貿易であるということだ。中国に対して制限措置を講じるのは、自国の企業に打撃を与えるのに等しいと いうことだ。

  人民元相場:

第1に、人民元相場は過小評価されていない。

昨年、37カ国中16カ国が対中輸出を伸ばしている。
EUは輸出全体は20.3%減少しているが、対中輸出は1.53%の減少に過ぎない。
米国は昨年輸出が17%減少したが、対中輸出は0.22% の減少に過ぎない。

第2に、世界金融危機が発生し、拡大していた期間、人民元相場の基本的な安定の維持は、世界経済の回復に重要な貢献を果たした。
2005年7月に人民元為替制度改革を開始して以来、
人民元の対米ドル相場は21%上昇し、実質実効為替レートは16%上昇した

温家宝首相は3月22日の会見で、次のように述べた。

この機会を借りて国際社会に1つのメッセージを伝えたい。
「中国は決して貿易黒字を追い求めておらず、その反対に輸入
拡大のために手を尽くそうとしている」。
国際収支の基本的均衡の維持は、私たちの長期的な努力の方向だ。昨年の中国経済の成長は主に内需によるもので、貿易黒字も徐々に減少している。今年3月上旬までに、すでに赤字も生じている。

成長パターンの転換は長期的で困難な課題だ。米国は失業者200万人という数字で政府が非常に焦っているが、中国が抱える就業人口圧力は200万人ではなく2億人だ。中国の都市部と農村部との間には大きな格差がある。
第12次五カ年計画の策定においては、成長パターンの転換加速を重要な位置に据えなければならない。


2010/3/25  Teva Pharmaceutical、独Ratiopharmを買収

後発医薬品世界最大手のTeva Pharmaceutical Industries3月18日、ドイツ2位で世界6位の後発医薬品メーカー、Ratiopharmを36億2500万ユーロで買収すると発表した。買収手続きは年末までに終える見通し。

買収後のTevaは年売上高で162億ドルと新薬大手に並ぶ規模となる。従業員は計4万人でうち欧州は1万8000人となる。

Teva2009年の売上高は139億ドル、うち80%以上が北米と欧州となっている。
従業員は
38千人で、製造拠点はイスラエル、北米、欧州、中南米。

Ratiopharm2009年の売上高は16億ユーロ(約22億ドル)で従業員は5500人。

世界のgeneric医薬品メーカー大手は下記参照

  2010/3/5  
日本のジェネリック市場の動き

Tevaは日本で興和と合弁会社興和テバを開始するなど世界規模で事業拡大を加速している。PfizerNovartis Sandoz)、Sanofi-AventisBayerなど新薬メーカーが後発薬強化に動くなか、M&Aで対抗する。

ーーー

RatiopharmAdolf Merckleの一族のVEM Vermoegensverwaltung GmbHの子会社で、VEMはほかに、ドイツ最大の医薬卸のPhoenix Groupやドイツ最大のセメント会社HeidelbergCement AG を持っている。

Adolf Merckle2009年1月、列車に飛び込み、自殺した。

VEM Vermoegensverwaltung 2008年にVolkswagen の株の下落を見込んで空売りを行ったが、Volkswagen 20%株主の Porscheが株の買い増しを発表し、2日間で株価が4倍になり、大きな損失を負った。(20091月にPorsche持ち株比率は50.76%となり、子会社化した。)

 

HeidelbergCementも金融危機で建材の需要が激減し、株価が70%下落している。

Adolf Merckleは自殺前、銀行団と50億ユーロ(67億ドル)の負債について交渉していた。

その後、VEM Vermoegensverwaltung は銀行団と繋ぎ融資で合意、その条件としてRatiopharmを売りに出した。
多くの企業が買収に乗り出し、最終的に
Teva Pharmaceutical と、アイスランドの後発薬メーカーActavis Group、及びPfizer3社が残っていた。

Teva は他社よりも少なくとも2億ユーロ高い価格をオファーしたと言われている。Pfizerが最後に値上げをしたが、及ばなかった。

Teva に負けたPfizerRatiopharm次ぐStada Arzneimittel を狙うのではないかとみられている。


2010/3/26 Rio Tinto Chinalco、ギニアの鉄鉱石開発でJV 

Rio Tintoは319、同社と中国アルミ業公司(Chinalco)がギニアの Simandou鉄鉱石開発でJVを設立する覚書を締結したと発表した。

付記 2010年7月29日、正式契約締結

Rio Tintoは現在、 Simandou project の95%の権利を有している(残り5%世銀のIFC)が、その持分を新JVが受け継ぐ。
Chinalcoは2〜3年で開発費13.5億ドルを投入し、JVの47%を取得する。プロジェクト全体の比率はRio Tinto50.35%Chinalco44.65%IFC5%となる。
事業範囲は鉄鉱石開発のほかに、
海岸までの700kmの鉄道とConakry市の南での港湾設備建設を含んでいる。

ギニア政府がプロジェクトの20%までを買収するオプションを有しているが、その場合、3社は出資比率に応じて売却する。

Simandou ギニアの南東部にあるワールドクラスの鉄鉱石鉱山で、FSは完了し、Rioは既に6億ドルを支出している。
完成後は年間
70百万トンの鉄鉱石を産出する計画。

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Rio Tinto は 2009年2月に、Chinalcoから現金で195億ドルの出 資を受けると発表したが、6月5日にこれを取り止めた。

2009/6/6  中国アルミのRio Tinto への出資 取り止め

これがあってか、中国の検察当局はRio Tinto社員を産業スパイと贈賄の容疑で逮捕している。

2009/8/18 Rio Tinto 事件と中国での贈賄事件

Rio Tinto は200910月、モンゴル政府との間でモンゴ ル南部のOyu Tolgoi 銅・ 金鉱山開発のための投資契約を締結したが、Rioはこの計画 をすすめるため、中国アルミ(Chinalco) と 交渉を行っていると伝えられた。

2009/11/28 Rio Tinto、モンゴルの鉱山開発で中国アルミと提携か?

 


2010/3/27 三井化学、新規ブタジエン製造技術を開発

三井化学は3月1日、エチレンからブタジエンを効率的に製造する新技術を開発したと発表した。

2つの新規触媒の開発に成功した。

新規エチレン二量化触媒
 (エチレン⇒ブテン)
固体触媒として世界で初めて高活性かつ長寿命を実現、シンプルなプロセスにより、高い競争力を持つ。
新規脱水素触媒
 (ブテン⇒ブタジエン)
従来触媒に比べて高活性かつ高選択率を実現、高い競争力を持つ。        

同社では2012年を目途に工業化に対応した技術の確立を目指す。

同社はブテンとエチレンからプロピレンを製造する独自の高性能触媒を使用したメタセシス技術を保有しており、今回の技術とメタセシス技術の組み合わせで、エチレンからブタジエンおよびプロピレンを自在に製造することが可能となる。

三井化学は2004年秋にルーマスのOCT(Olefins Conversion Technology)14万トン設備を稼動している。
ブタジエンを含むクルードC4留分10万トンを水添したあとエチレン4万トンを加えて反応させ年間14万トンのプロピレンを得るもの。

このほか、三井化学は出光興産、住友化学と共同で、C4留分からイソブテンを反応により選択的に重合させることでクリーン燃料に転換し、残るノルマルブテンを濃縮製造してエチレンと触媒反応させることでプロピレンに転換する研究を行っている。

本年1月25日に三井化学市原工場で高効率プロピレン生産システムの実証運転を開始した。
プロピレン生産能力
年産15万トンで、研究開発費約100億円(負担比率:出光 50%、住友 25%、三井 25%)。

2008/2/18 出光興産、住友化 学、三井化学の3社、プロピレン生産システムの研究設備建設着工

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ブタジエンは、主に自動車タイヤ向けの合成ゴム原料として使用されるが、中国などのモータリゼーショ ンの影響により、アジアを中心に高成長が見込まれている。

しかし、供給面では、今後中東ガスの天然ガスベースの安価な汎用エチレン誘導品の流入により、アジアのナフサクラッカーは減産となりブタジエンの生産も減少する。
(ブタジエンはナフサクラッカー由来で、天然ガスベースの場合は産出しない。)

このため、数年後にはアジア全体で100万トン以上のブタジエンが不足すると言われている。

日本経済新聞(3月26日)は「変貌する石化市場」特集でこの問題を取り上げている。
ブタジエンのアジアのスポット価格は現在、1トン2,000ドル超で、底値だった2009年初めから5倍に上昇した。この間、ナフサの上げ幅は2倍にとどまっている。
今後はブタジエン不足が現実味を帯びる。

三井化学では、今回同社が開発したこのエチレンからのブタジエン製造技術でブタジエンの需要増に対応すると共に、エチレンの高付加価値化により、国内ナフサクラッカーの競争力を強化するとしている。


2010/3/29 米投資会社の買収企業、EPSの生産開始

2009年9月に新疆ウイグル自治区の奎屯・独山子石化パークででペトロチャイナ独山子石油化学の第二期(1000万トンの製油所、100万トンのエチレン)が生産開始した。

自治区政府ではこれの誘導品計画の誘致を図っているが、現在唯一具体化した藍山屯河化学のEPS計画が3月初めに生産を開始した。

4億人民元を投じ たもので、生産能力は12万 トン。原料SMを同コンプレックスからパイプで受け入れる。製品は新疆ウイグルや中国北西部に主に供給する。
20087月に建設を開始し、当初はコンプ レックス完成に合わせ、2009年 に生産を開始する予定であった。

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藍山屯河化学(Blue Ridge Tunhe Chemical)は元は新疆屯河工貿(Xinjiang Tunhe Industry and Trade)で、2008年にBlue Ridge Capital Chinaが買収し、改称した。
同社は
新疆ウイグル自治区の昌吉市に11万トンのPETと6万トンのPBTを持つほか、ポリエステルチップ、PVC窓枠・ドア材、PVCパイプ、点滴灌漑ベルトなどを製造販売している。

Blue Ridge Capital China米国の不動産関連の投資会社Blue Ridge Capital と、中国のオンライン旅行サービス会社 eLong, Inc(藝龍旅行網)のトップのJustin TangとのJVである。

Blue Ridge Capital Chinaは2006年に住宅建築会社の買収を行ったが、2008年に中国への投資のために14.5億ドルを集めた。
経営不振に陥っていた新疆屯河工貿を90百万ドルで買収したほか、不動産、水処理、新エネルギー、環境保護などに投資している。

Blue Ridge Capital Atlantaに本拠を置く不動産関連の投資会社。

eLongは1999に米国で設立されたオンライン旅行サービス会社で、現在、北京に本拠を置き、従業員1800人で中国全体でサービスを提供している。2004年にNasdaq に上場した。
現在、
世界最大級の海外旅行予約サイトExpedia株式の52%を所有し、両社は提携している。

Expediaは1996年にMicrosoft 1部門がオンライン旅行予約サイトを開いたのが始まりで、1999年にスピンオフし、その後、ネットサイト複合企業IAC(InterActiveCorp) に買収されたが、2005年にIACの他の旅行事業と合わせ、再度スピンオフした。

Justin TangeLongの創業者の一人で会長、CEOを歴任、Expediaとの提携、Nasdaq 上場を行い、現在の大企業に育て上げた。現在、同社の全体戦略と経営の責任を負っている。

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ペトロチャイナ独山子石油化学の第二期は以下の通り。

製油所 1000万トン  第一期 600万トン
         
  エチレン   1,000千トン  第一期 220千トン
  HDPE    300千トン  第一期 200千トン
  LLDPE     −  第一期 120千トン
  All-density PE    600千トン  
  PP    550千トン  第一期 100千トン
  BTX    600千トン  
  SM      320千トン  
  PS    130千トン  
  EPS    120千トン  (藍山屯河化学)
  Butadiene    130千トン  
  SBR    100千トン  
  SBS     80千トン  

新製油所は2006年に開通したカザフスタンと中国を結ぶ石油パイプラインを通じて送られるカザフスタンの原油を処理する。

2006/5/29 中国−カザフ石油パイプライン正式稼動


2010/3/30 LyondellBasell の決算

LyondellBasellChapter 11からの離脱を求め、裁判所による再建案の承認を待っているが、同社の2009年決算が発表されている。

売上高は前年比で大きく減少した。
金利負担と工場閉鎖、退職金などの
Reorganization 関連費用が大きい。
2008年は、ノレン償却や在庫の評価減で営業損益が大幅赤字となった。)

                                 単位:百万ドル
  2007年 2008年 2009年 前年比
増減
Sales 17,120 50,706 30,828 -19,878
         
Operating Income 934 -5,928 317 6,245
金利 -283 -2,407 -1,777 630
その他損益 289 166 145 -21
Reorganization     -2,961 -2,961
税引前損益 940 -8,169 -4,276 3,893
Tax -279 848 1,411 563
純損益 661 -7,321 -2,865 4,456

Basell20071221日にLyondell Chemicalを統合した。また2008年にBasell がフランスのBerre l'Etang petrochemical complexにあるShell のリファイナリーを買収した。

売上高:
この結果、2008年の売上高は大きく増加しているが、
2009年の売上高は原油・天然ガス価格の暴落による販売価格低下、需要不振による販売数量減により、前年比19,878百万ドルの減少となった。

営業損益:
2008年の損益には、LyondellBerre Refineryの買収に関するノレン等の償却 4,982百万ドルと225百万ドル(合計5,207百万ドル)、及びLyondellBasell の在庫の評価減 1,256百万ドルの特別損失 6,463百万ドルを含んでいる。
これを除くと、
2008年は535百万ドルの利益で、2009年は若干のマイナスとなった。
2009年の営業損益は販売マージンは大きく低下したが、コストダウン効果が上回った。

金利:
2008年の金利急増はLyondell買収による借入金増による。

Reorganization
2009年には
Chapter11関連の費用やChocolate BayouのオレフィンやBeaumontのエチレングリコール工場の閉鎖費用、退職金、その他を含む。

税金:
2008年、2009年は税引前損益がマイナスのため、税金はそれぞれ
848百万ドル、1,411百万ドルのマイナス(利益)となった。(2008年の税引前損失にはノレン償却を含むが、これは税務上は損金に算入出来ない)

部門別の売上高、営業損益は以下の通り。

売上高
                                   単位:百万ドル
  2007 2008 2009 前年比
増減
Refining & Oxyfuels 478 17,370 10,835 -6,535
Olefins & Polyolefins-Americas 2,823 13,193 8,652 -4,541
Olefins & Polyolefins-others 13,145 13,489 7,128 -6,361
Intermediates & Derivatives 350 6,218 3,777 -2,441
Technology 363 434 436 2
Other -39 2 0 -2
Total 17,120 50,706 30,828 -19,878
Refining and
Oxyfuels
Refined petroleum products (gasoline, ultra-low sulfur diesel, jet fuel, aromatics, lubricants,
naphtha, VGO, LPG, bitumen, heating oil)
Gasoline blending components (MTBE, ETBE, alkylate)
Olefins &
Polyolefins
Polyolefins (HDPE, LDPE, LLDPE, PP, Catalloy process resins)
Ethylene, propylene, butadiene, benzene, toluene, ethanol.
Intermediates &
Derivatives
EO, EG, EO derivatives
Acetyls (VAM, acetic acid, methanol)
PO, SM, TBA, PG
Butanediol
Fragrance and flavor chemicals
Technology Licensing of polyolefin process technologies
Supply of polyolefin catalysts and advanced catalysts

営業損益
                                               単位:百万ドル
   2007          2008      2009  前年比
増減  
合計 うち
特別費用
除く
特別費用
Refining & Oxyfuels 21   -2,378 -2,965 587 -357 -944
Olefins & Polyolefins-Americas 61 -1,355 -1,243 -112 169 281
Olefins & Polyolefins-others 934 220 -198 418 -13 -431
Intermediates & Derivatives -42 -1,915 -2,057 142 250 108
Technology 152 202   202 210 8
Other -248 -134   -134 29 163
Current cost adjustment 56 -568   -568 29 597
Total 934 -5,928 -6,463 535 317 -218
  * 前年比増減は2008年の特別費用を除いた損益との比較


2010/3/30  輸入ナフサ通関価格(2010/2月)

3月30日に発表された通関統計では輸入ナフサ価格は以下の通り。

なお、昨年12月分と本年1月分の金額が当初発表分から修正されている。

  1月 2月 3月     計
数量(kl) 2,114,807 2,160,448   4,275,255
金額(千円) 96,155,885 100,187,448   196,343,333
@ (円/kl) 45,468 46,373   45,926

1-2月平均では45,926円となり、昨年第4四半期の40,544円から5,382円のアップとなっている。
国産基準価格ベースでは
47,900/kl となる。

過去の推移は以下の通り。(単位:円/kl)

  輸入平均   基準価格
4Q平均  50,047  52,000
09/1  21,500    
09/2  23,836    
09/3  28,632    
1Q平均  24,970  27,000
09/4  29,628    
09/5  30,783    
09/6  33,580    
2Q平 均  31,294  33,300
09/7  37,900    
09/8  39,507    
09/10  40,162    
3Q平 均  39,185  41,200
09/10  39,304    
09/11  39,854    
09/12  42,343    
4Q平 均  40,544  42,500
10/1  45,468    
10/2  46,373    
10/3      
平均  45,926    

基準価格は平均輸入価格に諸掛 2,000円/kl を加算(10円の桁を四捨五入)


2010/3/31 中国、Rio Tinto 社員に重刑 

昨年7月5日に拘束され、8月11日に逮捕され、本年2月11日に起訴されたRio Tinto社員4人に対し、3月29日に判決があった。

2009/8/18 Rio Tinto 事件と中国での贈賄事件

上海第一中級人民裁判所はRio Tinto の中国事務所長(中国系で豪州国籍)に収賄で7年、産業スパイで5年(但し、合計で10年)の禁固刑、100万人民元(146千ドル)の罰金を命じた。

他の3人(いずれも中国人)については、それぞれ、7年、8年、14年の禁固刑となった。
4人は合計9200万人民元の賄賂を受け取ったとされ、14年の禁固刑を受けた社員は最多額の賄賂を受け取ったとされる。

▽胡士泰(Stern Hu):非国家公務員収賄罪および商業機密侵害罪で懲役10年、財産没収、罰金100万元
▽王勇:懲役14年、財産没収、罰金520万元
▽葛民強:懲役8 年、財産没収、罰金80万元
▽劉才魁:懲役7年、財産没収、罰金70万元
 なお、違法所得は全て没収される。

4人は産業スパイ(刑法219条違反)と贈賄(163条違反:政府当局者以外への贈賄)の容疑で逮捕された。
実際には収賄であり、Rio Tintoもこれを認めている。
売り手が買い手から多額の賄賂を何故受け取れたのか、不明である。
被告4人はそれぞれ、商業機密侵犯事件の容疑で捜査の手が及ぶ と、賄賂を受け取ったことを自ら認めたとされる。

判決では、賄賂に加え、中国の鉄鋼会社から秘密情報を取得し、これにより中国がRio Tinto, BHP BillitonVale3社から輸入する鉄鉱石の価格を引き上げられたとした。4人は中国の鉄鋼会社の競争力を損ね、大きな損失を蒙らせ、中国の国益を損ねたとしている。

裁判所は同日、中国の鉄鋼会社の首鋼集団(Shougang)と莱蕪鉄鋼集団(Laigang)の役員各1名に対し、秘密情報をRio Tintoに漏らした罪で判決を下した。(内容は発表されていない)

弁護士はまだ4人と会っていないため、控訴するかどうかは分からないとしている。

オーストラリアの外相は、豪州の基準からみれば厳しすぎるとしながらも、中国の司法手続きを尊重するとし、豪州と中国の関係に影響を与えないと述べた。

但し、収賄行為があったことは認めながら、産業スパイについては詳細が明らかにされておらず、
"serious unanswered questions"があるとしている。中国はcommercial secrets の概念を明らかにしておらず、4人の問題にとどまらず、広く国際取引に携わるものの問題であると述べた。

情報では、価格交渉を進めるため、国営鉄鋼会社の生産量や在庫量を表した秘密の政府資料を入手しようとしたとされ、これらの資料により、Rio Tinto は 価格交渉上で有利な立場になるとしている。
Rio Tinto の 上海事務所から押収されたコンピューターに政府の秘密データがあったとされる。

4名は国家機密窃取の疑いで拘束されたが、罪名は、「国家機密窃取」から「商業機密侵犯」に「降格」した。
弁護士の推測では、捜査担当者は今回の事件が関わっ た機密内容と主体を考慮した結果、商業機密侵犯容疑が比較的妥当であると判断した模様。

但し、国営鉄鋼会社の生産量や在庫量の情報を得ただけだとすると、これが犯罪になるのであろうか?

確かに、日本の企業にとっても、今後の中国での情報収集活動に影響を与える。

Rio Tinto は判決後、収賄は中国の法律とRio Tinto の行動規範に反するものであり、4人を解雇するとの発表を行った。
4人が賄賂を受け取ったことについて、法廷に提出された疑いのない証拠を聞かされているとしている。


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