市民のための環境学ガイド ( 安井 至氏)

クボタによるアスベスト被害 07.03.2005
http://www.yasuienv.net/AsbestosKubota.htm

 

(各紙の記事についての論評 略)

 

C先生:アスベストというものが、そもそも何で、何に使われていて、どんな規制があるのか。そして、曝露経路として何があって、そして、どんな結果が予想されるのか。その基本的な道筋を解説しよう。

A君:本性、用途、規制、曝露経路、予想される影響ですね。了解。

(1)アスベストとは何か
 アスベストとは、日本語だと石綿と呼ばれます。鉱物の一種で通常の意味で毒性がある訳ではない。成分は、通常の石や土と変わらない。ということは、食器(陶器、磁器)とも余り変わらない。すなわち、舐めたからといって、害が出る訳ではない。これがまず、重要なことの一つ。
 それでは何が悪いのか、というと、一つは、
繊維状であること。もう一つは、粉塵になること。そもそも微粉を大量に吸入することは、肺にとって良い訳が無い。ケイ肺病と呼ばれる病気が、歴史的に鉱山従事者などでは多く発生していた。しかも、繊維状だと、肺の組織に刺さるのか、悪影響が大きい。ただし、サイズや肺の中での溶けやすさなどによってどのぐらい悪影響があるかが、議論されていて、やはり、アスベストが悪そう。
 アスベストは、鉱物学的には、いくつかに分類されます。
青石綿:クロシドライト。白石綿:クリソタイル。茶石綿:アモサイト。その他に、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトなどなどの名称のものもあります。
 なぜか、青石綿がもっとも悪いことになっているのですが、その理由が明瞭に述べられている文書を発見できませんでした。
 最近では、人工繊維類がかなり大量に使用されていますが、ガラスファイバー・ウール、ロックウール、スラグウールなどなど。しかし、これらの人工的な繊維類がアスベストと同程度に悪いという事例は無さそうです。恐らく、体内で多少溶けるとか、何か理由があるのでしょうが。

B君:アスベストは、いわゆる毒物とは違う。舐めたら毒、触ったら毒、という訳ではないことをまず理解する必要がある。
 このような繊維状の鉱物は、人工的な繊維を作ることができるようになる前には、極めて貴重な存在だった。紙や天然繊維などでは耐えることができないような耐候性もあって、補強材としてこれほど便利なものは無かったのだ。

A君:そろそろ用途の議論になっていませんか。
(2)用途
 化学的に極めて安定で、しかも繊維状であることが多くの用途を生み出しました。
 もっともなじみだったのが、中学時代の化学の実験で、ブンゼンバーナーを使ってビーカーを加熱するときの石綿網。化学的に安定なだけでなくて、耐熱性もある。鉱物だからある意味当然ですが。

用途表
(a)補強材
 アスベスト+セメント:ガラス繊維などでは、セメントのアルカリ性に耐えない。溶けてしまうけど、アスベストなら大丈夫。
 アスベスト+フェノール樹脂?:ブレーキライニング。自動車を止めるブレーキ。これには、昭和4年以来、大量のアスベストが使われていた。命に関わる重要部品なので、代替品がなかなか見つからなかった。 
(b)保温材・耐熱コーティング
 鉄骨コンクリートのビルの場合、火災があると、鉄骨の温度が上がると強度が下がる。そのため、表面に繊維状物質を吹き付けて断熱層を作る。そのために、アスベストほど優れた特性の物質は無かった。現在でも、健康問題を別にすればベストだろう。
(c)吸音材
 繊維を吹き付けることによって、多孔質の状態になるので、吸音材になる。
(d)フィルターなど
 日本酒のフィルターなどにも使われていた。

B君:ブレーキ用のアスベストは、なかなか面白い存在だ。ブレーキが利かなくては、人の命が失われる。しかし、アスベストを使うと、これまた人の命が失われる。果たして、どちらをどのぐらい考慮すべきなのか。

A君:
(3)規制の話に行きます。関連しますので。

 もともと平成7年から、
アモサイト:茶石綿、クロシドライト:青石綿を製造、輸入、譲渡、提供、使用することが禁止されていました。しかし、クリソタイル:白石綿、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトの使用はOKでした。

 平成15年10月16日、労働安全衛生法施行令の一部改正によって、平成16年10月1日から、
以下の10製品について石綿(クリソタイル:白石綿、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライト)を1%以上含むものは、製造等が禁止されました。
(→
石綿 08年完全禁止へ

 1.石綿セメント円筒:今回問題になったのが、これ。
 2.押出し成形セメント板
 3.住宅屋根用化粧スレート
 4.繊維強化セメント板
 5.窯業系サイディング
 6.クラッチフェーシング
 7.クラッチライニング
 8.ブレーキパッド
 9.ブレーキライニング
 10.接着剤

B君:そうか。平成16年の10月からブレーキパッドも石綿無しと見て構わないのだ。代替品が開発されたということなのだろう。

C先生:最近、高性能なブレーキパッドは、カーボン繊維とカーボンとの複合材料とか、金属とカーボン繊維を接着剤で固めたものなどが使われているのではないか。価格は高いのだろうが、コスト削減よりも、健康が重視される社会になったということだろう。

B君:この規制が、労働衛生関係の規制であるところが、意味深い。例えば、ブレーキパッドにしても、ブレーキを掛ければ当然その中に含まれていた石綿は環境に排出されるのだが、そのときには、すでに形状が変わっていて、毒性物質だとは見なされない。

A君:ただし、建設材料の場合には、やはり石綿への曝露を注意しないと。特に平成7年以前に建築された建築物には、使用されている可能性が無いとは言えないので。

C先生:そろそろ曝露経路の話になったぞ。

A君:
(4)曝露経路
 現時点での曝露は、やはり
古い建設物の解体時に発生する粉塵にほぼ限られるものと思われます。

B君:簡単だな。水道管に使用されていた石綿補強のセメント管は、もう無くなったのか。

A君:まだ20%ぐらいの水道管は石綿補強のもののようですね。

B君:まあ、水中にアスベストがただよっていても、それを飲んだからといって、何が起きる訳でもない。

A君:それが、
(5)予想される影響の話です。
 まず、水道管中のアスベストは、それを交換し、処理する段階での曝露はありうるものの、現在のものをそのまま使っている限り、ヒトへの曝露は勿論ないわけではないのですが、考えるだけ無駄といったものです。
 その理由は、アスベストの人体への悪影響は、主に
肺に吸入されることによって引き起こされるからです。

B君:一部の超心配派は、水道水中のアスベストが肺に入ると言うかもしれない。

A君:実際、浄水器メーカーでは、そう言っています。浄水器、特に、逆浸透膜法の浄水器メーカーは、「水道水1リットル中に多い所で実に180万本、平均でも92万5千本ものアスベスト繊維が含まれていました。アスベスト繊維は直径の平均が0.036ミクロンと言う極めて小さなものであり、最も小さなものでは0.02ミクロンしかありません。この様な針状結晶体は、従来の浄水器では除去不可能です。0.0001ミクロンの逆浸透膜を採用しているXXXX浄水器なら微小なアスベストでも除去できます」、といった宣伝をしています。

B君:これに騙される人もいるだろう。
口から入ったこのような無機物は、まず、そのまま対外に排泄される。問題無い。

A君:飲料・食物中のアスベストが引き起こす人体影響は、疫学で結果が出せるほどのものになるとは思えない。

B君:まあ、屁理屈を言っている浄水器にはご注意を。そんな嘘をつくようなメーカーのものだと、浄水器としての基本性能そのものが怪しい可能性があるので。

C先生:日本で、青石綿:クロシドライトの使用量がもっとも多かったのが、1974年のことらしい。となると、40年間の潜伏期間だとすると、2014年ぐらいまで、悪性中皮腫なる病気は増える可能性がある。

A君:短期高濃度曝露の場合には、潜伏期間がもっと短いのではないでしょうか。

B君:今回のクボタの事件、小野田セメントの報告などをもう少々解析しないと分からない。

C先生:この他にも、イグサを染色する泥、しかも熊本県八代産の染土の中に、石綿が混入していてうという話があって、その染色業には、中皮腫が多いとか。

A君:読みました。しかし、畳屋には別に中皮腫が多いということは無い。

C先生:アスベストの話は、かなり特殊な病気がでることが特徴なので、比較的因果関係が分かりやすい。そのためもあって、今回、クボタは、住民にまで多少の見舞金を出すことにしたのだろう。本HPの読者の中に対象者が居るとは思えないが、もしも、悪性中皮腫なる診断を受けた場合には、なんらかの原因追求を行った方が良いかもしれない。
 それ以外の人は、禁煙をお奨め。どうも、中皮腫の発症と喫煙の関係は大きいようなので。