ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。
最新分は http://blog.knak.jp/


2007/10/15 Al Gore にノーベル平和賞、英国では裁判沙汰

ノーベル賞委員会は10月12日、記録映画「An Inconvenient Truth」などを通じて地球温暖化防止を訴えているAl Gore 前米副大統領(59)と、温暖化防止研究を政策決定に生かすための国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)に2007年ノーベル平和賞を授与すると発表した。

ノーベル賞委員会は「人為的な気候変動に関する知識を広め、対策の基盤構築に努めた」と授賛理由を説明した。
Gore氏を「温暖化対策の理解を深めるため最も尽力した個人」とたたえ、IPCCの活動については「人間活動と温暖化の関連で共通認識を作った」と評価している。

Al Gore に対しては大統領選への出馬の要請が出ている。

2006/2/17 ドキュメンタリー映画「An Inconvenient Truth」 

なお、“An Inconvenient Truthはアカデミア賞(長編ドキュメンタリー賞)を獲得している。

気候変動に関する政府間パネル(lPCC) 科学、影響、対策の3つの作業部会に分かれ、最新の分析をまとめる国連機関。130カ国以上から約4000人の専門家が参画し、発表済みの成果を評価して確度の高い情報を提供する。温暖化をめぐる各国の政策に影響を及ぼしている。最初の報告書は90年で、今回が4回目。

第1作業部会(科学)は本年2月に、今世紀末の平均気温が1.1〜6.4度上昇すると予測。
 
 http://www.knak.jp/blog/2007-02-1.htm#ipcc 

第2作業部会(影響)は
本年4月に、気温上昇が2〜3度を超えれば、世界で経済的損失が生じると指摘した。
  http://www.knak.jp/blog/2007-04-1.htm#ipcc-2

第3作業部会は本年5月に対策編を発表。
  (
http://www.knak.jp/blog/2007-05-1.htm#ipcc-3
 

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他方、英国ではこの記録映画が裁判沙汰になっている。

本年2月に英国政府は温暖化に関する授業の一環として 3,385 の中学校にDVDを配る計画を明らかにした。

これに対してある父兄が、この映画はプロパガンダであるとして、回収することを求める訴訟を起こした。
そして、その立場を述べるサイト
Straight Teaching を開設している。
    
http://www.straightteaching.com/

裁判で High Court (民事第一審)の判事は生徒にこの記録映画を見せるのは政治的行為であるとし、映画の禁止はしないが、教育の中立を守るため、指導書付きで映画を見せることを求めた。

判事は、この映画は多くの部分が科学的調査や意見に基づいてはいるものの、単なる科学映画ではなく、政治的映画であると結論付けた。

裁判のなかで、11カ所の問題が議論となった。いずれも映画のなかの注目点である。

Mount Kilimanjaro の雪解けが温暖化のせいであるとされている。
  政府の専門家はこれが正しくないと認めざるを得なかった。

ice cores の証拠が、65万年に亘ってCO2の増加が気温上昇を引き起こしていることを示しているとしている。
  裁判では、CO2と気温の上昇の間に800年から2,000年のラグがあることが明らかになった。

・Hurricane Katrina が温暖化によって引き起こされたとしている。
  政府の専門家は単発の事象を温暖化のせいにするのは
"not possible" と認めざるを得なかった。

・ Lake Chad が干上がったのが温暖化のせいとしている。
  政府の専門家はそうではないと認めざるを得なかった。

北極の氷がなくなり、北極熊が溺れ死んだという研究が示されている。
  事実は、4頭の北極熊が特に激しい嵐のために溺れ死んだだけであった。

温暖化でメキシコ湾流がとまり、欧州が氷河時代に入ると警告している。
  これは科学的にはあり得ないとの証拠がある。

温暖化でサンゴ礁の白化を含め、種の減少に繋がるを批判している。
  政府はこの主張を支持する証拠を何も見つけられなかった。

Greenland の氷が溶け、海面が危険なほど上昇するとしている。
  
Greenland の氷が数千年間溶けないとの証拠がある。

・南極の氷が解けているとしている。
  実際には南極の氷は増えている。

海面が 7m も上昇し、何百万もの人が移住を余儀なくされるとしている。
  実際には次の
100年での海面の上昇は40cm とみられており、大量移住のおそれはない。

・海面上昇で太平洋のいくつかの島の島民がNew Zealand に移住を余儀なくされたとしている。
  政府はこれを証明できず、裁判所はウソであるとみなした。

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なお、デンマークの政治学者で「環境危機をあおってはいけない―地球環境のホントの実態」(The Skeptical Environmentalist)を書いた Bjorn Lomborg は、Al Gore のノーベル賞受賞について、"An inconvenient peace prize" と題して、次のように批判している。

IPCC は世界が気候変動の結果どうなるかを苦労してまとめたが、Al Gore は怖い怖いと言っているだけだ。

Gore の受賞は、世界が他にするべきことを放置して、ますます、気候変動のみに力を注ぐことになってしまう。

我々は気候変動の遠い先の影響を心配しながら、現在直面している問題については放置している。
毎年、栄養不良で400万人が死亡し、エイズで300万人が死亡し、室内・室外の大気汚染で250万人が死亡し、微量栄養素やクリーンな飲み水の不足で200万人が死亡する。

金も注意能力も十分ではない場合には、先ず最善の解決策で問題に取り組むべきだ。

http://commentisfree.guardian.co.uk/bjrn_lomborg/2007/10/an_inconvenient_peace_prize.html


2007/10/15 ダウに新しい買収話?

Dow Chemical 11月6-7日に予定していた機関投資家向けの説明会を延期したことが、買収するのか、JV設立か、買収されるのかとの憶測を呼んでいる。

同社では投資家向けの案内のメールで、「変身戦略を進めるなかで多方面で確固とした進展があったが、長期的な株主価値を高めるため、今後も多くの機会を探って行きたい」と述べているが、説明会は2、3か月延期するとしている。

アナリストは説明会の延期は極めて異常で、何かが起こっているに違いないとしている。
事業の一部または全体の買収のオファーを受けているのではないかと噂されている。

 

付記 機関投資家向けの説明会延期は下記の詰めのためであった模様。

     2007/12/14 速報 ダウとクウェートのPIC、グローバル石化JVを設立

    2007/12/19 ダウとPIC のグローバル石化JV 詳報


2007/10/16 中国のSP Chemicals、スチレンモノマーに進出

シンガポール系の化学会社で、中国で第4位のイオン交換膜法クロルアルカリメーカー、第5位のアニリンメーカーのSP Chemicalsは918日、スチレンモノマー進出を発表、 9月27日に江蘇省泰州市政府と契約書を締結した。
揚子江沿いの泰州市の泰興経済開発区(
Taixing Economic Development Zone)に 146百万ドルを投じて年産32万トンのSMプラントを建設する。
資金の1/3は内部留保、残りは銀行借入を考えている。
2008年第3四半期に着工し、2009年末完成を目指す。

原料エチレン、ベンゼンのソースについては明らかにしていない。技術については、まだ決まっていない。

江蘇省と隣の浙江省は中国で最も重要なSM市場であり、成長が著しい。同社によれば2006年の両省のSMの需要は約350万トンとなっており、同社では需要の中心の泰興経済開発区にプラントを建設することにより、この成長する需要に応えたいとしている。

中国の2006年のSMの生産量は1,924千トン、輸入量は2,343千トンで、消費量は4,261千トン、自給率は45%となっている。
2006年の両省のSMの需要約350万トンは全国の需要の80%となる。

また、SP Chemicals は既に泰興経済開発区にVCMプラントを建設中で、そのエチレンタンクやair separator などをそのまま利用できるメリットもあるとしている。

付記 

SP Chemicals 200811月、金融危機、SMの価格状況を勘案し、計画を少なくとも2年延期すると発表した。

ーーー

SP Chemicals はシンガポールの投資会社Panasia Investment Pte Ltd.1995年に Asiawide Chemicals Pte Ltd と改称)が1995年に中国に100%子会社の Singpu Chemicals Industries (Taixing) Co., Ltd として設立したもの。
その後、2005年に
親会社は SP Chemicals Ltd.、子会社は SP Chemicals (Taixing) Ltd. に改称した。

SP Chemicals (Taixing) はイオン交換膜法クロルアルカリとアニリンのプラントを有していた。
  塩素:
132千トン、ソーダ:150千トン
  アニリン:45千トン

その後、同社はMedium-Term Strategic Business Plan に基づき拡大を続けてきた。

1) Co-generation
 当初は60MWを計画していたが、電力需要の増大を見込み、2基合計 120MW を建設した。

2) 第4期増設計画
  それぞれの能力を倍増した。
  
 塩素:264千トン、ソーダ:300千トン
   アニリン:90千トン

3) EDCベース VCM プラント建設
  能力 200千トン

  同社はVCM と PVC の事業化を検討したが、建設費のアップを受け、VCM を先行することとした。

4) 第5期増設計画
  電解、アニリンの増設中で、増設後の能力は、
   塩素:396千トン、ソーダ:450千トン
   アニリン:
135千トン

今回、新しくスチレンモノマーが追加される。

同社では将来は原料安定確保のために上流のエチレン、PVCなど誘導品への進出も考えている。

ーーー

シンガポールのSP Chemicals は本年4月にベトナムのPhu Yun 省との間で、同省のHao Tam-Vung Ro に石化コンプレックスを建設する覚書を締結した。

12億ドルを投じて、クロルアルカリ、アニリン等の工場を建設する計画で、詳細はFSの結果次第としている。

 


2007/10/16 速報 NY原油最高値更新、史上初めて86ドル台に

15日のニューヨークのWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物相場は一時 1バレル 86.22ドルまで上昇して9月20日に付けた過去最高値(84.10ドル)を大幅に更新、終値も過去最高の86.13ドルとなった。

米国内の原油在庫が減少していること、トルコ軍がイラク北部のクルド人居住地域を攻撃するとの見方が強まったことが理由とされている。

最近のWTI価格と東京市場の原油、ナフサ価格の推移は以下の通り。数字を四角で囲んだのは過去最高値。

当面、以下のサイトで毎日更新
 
http://www.knak.jp/index.html

10月16日の日本経済新聞は 『「季節外れ」の原油高騰 異変示す5つの不思議』 という記事を掲載している。

最近の原油価格の騰勢は、米国のガソリンシーズン真っ盛りの夏に高値をつけ冬に向けて下落という近年のバターンとは明らかに異なっているとし、錯綜した原油市場の5つの不思議をまとめている。

▼需給は本当に逼迫しているのか?
 米国の原油在庫は決して少ないわけではなく、製油所の老朽化と能力不足による製品供給が問題。

▼ガソリン価格は大幅に下がってきた。製品主導なら原油は下がるはずだが?
 実は原油価格はユーロ換算では、昨年の高値61ユーロ、9月の高値は59ユーロで驚くほどの上昇ではない。

▼需給よりもマネーが高値の主因としたら一体誰が買っているのか?
 正体不明ながら、店頭市場での買いが当業者を通じて市場に入ってきている。

▼WTI(ウエスト・テキサス・インターミディェート)高は米国のローカルな需給の反映?
 NYMEXの受け渡し場所での現物在庫が過剰から過少へと転じてきたことの反映に過ぎない。

▼石油輸出国機構(OPEC)が増産を決めたのになぜ上がる?
 市場はOPECのメッセージを無視しているようにみえる。


2007/10/17 Ineossilica 事業を実質譲渡

Ineos は1011日、Ineos Silicas 事業を Carlyle Group PQ Corporation と統合すると発表した。
Carlyle Group 新会社 PQ Corporation 60% を、Ineos が残り 40% を所有することとなる。
統合の条件は明らかにされていない。

統合新会社は売上高は10億ドルのスペシャリティ無機化学品、触媒(Zeolite)及び工業用ガラスビーズのグローバルなメーカーとなる。
* Zeolite は、結晶中に微細孔を持つアルミノ珪酸塩の総称

INEOS Silicas は2001年にICIから買収したCrossfield部門で、シリカ、ケイ酸塩、ゼオライト
などを扱う
ICIは1997年にUnileverから4部門を買収したが、そのうちの一つ。

2006/6/14  事業買収で急成長した化学会社 

PQ Corporation は1831創立で、旧称は Philadelphia Quartz Company
2007
6月にCarlyle Group が買収した。

同社の事業は@ silica 事業、A触媒(Zeolite)事業、Bマグネシウム誘導品事業から成っている。
更に100%子会社のPotters Industries 道路用等の工業用ガラスビーズのトップメーカーである。

ガラスビーズは道路の白線や黄線へ混入し、小さなレンズと塗料の組み合わせで「再帰反射特性」(ヘッドライトから出た光がビーズで屈折、塗料で反射されて効率よく運転者の方へ帰る)を発揮する。

Potters Industries
日本では東芝 51% のJV 東芝Ballotini を運営していたが、2001年3月に合弁を解消し、Potters 100% のPotters-Ballotini としている。


2007/10/17 速報 原油・ナフサ価格

10月16日はいずれも大幅に上昇し、過去最高を更新した。

  東京市場ドバイ原油 終値 78.10$/bbl
 
東京市場オープンスペックナフサ 終値 762$/
 
NY原油(WTI) 一時 88.2$/bbl、終値は 87.61$/bbl

OPECは16日、原油相場の急騰はファンダメンタルズに基づいていない、原油は十分に供給されているとの声明を発表した。
OECD加盟国の在庫は過去5年の平均水準を上回っており、主因は投機筋の動きと指摘した。

 当面、以下のサイトで毎日グラフ更新
 
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2007/10/18 BASF、上海でのTHF製造再開

BASFは操業を中止していた上海のCaojing のTHF(tetrahydrofuran )プラントの操業を2009年の終りか2010年初めに再開する。

THFはPolyTHF(R)の原料で、PolyTHF は弾性スパンデックス繊維の原料となり、繊維用途以外にも熱可塑性ポリウレタン及びポリエーテルエステルエラストマーの原料として使用されている。

BASFは米国ルイジアナ州Geismar と ドイツのLudwigshafen 及び韓国の蔚山にTHFPolyTHF の工場を持っているが、これらの工場では他社と同様に1,4-ブタンジオールを原料としてTHFを製造している。
(四日市事業所でも主に中国繊維市場向けに
THF/PolyTHF を生産していたが、2006年上半期中に生産を終了した。)

2002年5月、BASFは上海のCaojing にある上海化学工業団地に、年産6万トンのPolyTHFおよび年産8万トンのTHFの統合生産設備を新設すると発表した。
ここでは BASFが新たに開発したブタンから直接THFを生産し、その後PolyTHFを生産するという独自の技術を初めて採用することとした。従来必要とされていた1.4-ブタンジオールの中間工程を省略することができる。

同設備は、世界最大のPolyTHF生産設備となり、急速な拡大を遂げている中国のスパンデックス市場に製品の供給を行っていくことを狙った。

2003年7月に起工し、2005年3月に先ずPolyTHF プラントが生産を開始した。隣接の THF プラントはその後立ち上げた。

しかし、THF プラントは2006年の第1四半期に技術的理由で停止し、その後スタートしていない。
2006年11月、同社はこのプラントの塩漬け(mothball )を発表した。
上海の
PolyTHF プラントには同社の海外のプラントからTHF を供給することとした。

ーーー

BASF は2007年9月、高弾性スパンデックス繊維や熱可塑性ポリウレタン及びポリエーテルエステルエラストマーなど、PolyTHF の使用が増加している分野を中心に、アジア太平洋地域におけるテクニカルサービス体制のさらなる強化を図るため、2007 年末までに、BASF ポリウレタンスペシャルティ社(中国)の上海浦東拠点に PolyTHF のアプリケーションラボを新設することを発表した。

最新のポリマー分析論を応用したさまざまな試験設備を用意し、個々の顧客ニーズに対応できるようにする。少量サンプル用のラボスケール合成設備も設置する。

ーーー

今回の生産再開に当たり、新しい設備を追加し、THFの原料としてブタンのほか1.4-ブタンジオール の使用も出来るようにした。
更に、THFとともに、無水マレイン酸の製造も可能となる。2010年初めからの実施を考えている。

同社ではこれにより、最も有利な原料の選択の柔軟性、PolyTHF の原料供給元の柔軟性、無水マレイン酸生産による新市場開発の3つの柔軟性を確保することになるとしている。

付記

BASFは20091月15日、韓国ウルサンの1,4ブタンジオール(BDO)とテトラヒドロフラン(THF)の生産を永久に停止すると発表した。

ウルサンのPolyTHFプラントは中国を含む海外の同社の生産拠点からの原料で生産を継続する。
ウルサンのPolyTHFの主用途はスパンデックスで、このほか、接着剤、コーティング、熱可塑性エラストマー向けの特殊グレードも生産している。

BASFのTHFの生産拠点はドイツのLudwigshafen、米国のGeismar、中国の上海、マレーシアのKuantan の4箇所。
BDOの生産拠点はこれらのほか、千葉の5箇所で、BDOの能力は世界全体で535千トンとなっている。
またPolyTHFの生産拠点はウルサンとLudwigshafen、Geismar、上海で、能力は185千トンとなっている。

付記 2013/3
BDO能力はGeismar、Ludwigshafen、Caojing、Chiba、Kuantanの合計で535千トン。
PolyTHF はGeismar、Ludwigshafen、Ulsan、Caojingで合計 250千トン。

新疆美克化工(Markor)とのJVで庫爾勒市BDO 100千トン、PolyTHF 50千トンを生産する。


2007/10/18 速報 米国住宅着工件数 14年半ぶり低水準

9月の米国住宅着工件数は年率換算1,191千戸となり、1993年3月の1,083千戸以来、14年半ぶりの低水準となった。
これは過去最高の2006年1月の半分に近い。

1-9月の単純平均では1,407千戸となっている。

先行指数の許可件数も4ヶ月連続減少の1,226千戸で、1993年7月以来の低水準となった。
エコノミストは住宅市場の落ち込みは来年7-9月期まで続くと予想している。

参考 2007/8/19 サブプライムローン問題の波紋

    2007/10/1 日米住宅着工件数減少


付記

野村ホールディングスは10月15日、サブプライムローン問題で1―9月に総額1,456億円の損失を計上すると発表した。
同社は米国での住宅ローンの証券化事業から完全に撤退する。

また、経営再建中の三洋電機は10月16日、半導体事業の売却を断念した。
8月末に実施した入札で 1,100億円と最も高い買収額を提示した国内独立系買収ファンドのアドバンテッジパートナースと15日を期限に最終調整を進めていたが、サブプライムローン問題などの影響でアドバンテッジの資金調達に目途が立たなくなったのが理由。

サブプライム問題が国内企業のM&A案件にも影響を与え始めた。


2007/10/19 ペルーでブラジル、インド、韓国の3社が石油・石化事業構想

ペルー南東部のアマゾンのジャングルにCamiseaガス田がある。同ガス田の天然ガス埋蔵量は13Tcf(兆立方フィート)、コンデンセートの埋蔵量は6億バレルとされる。

同ガス田は、1980年代半ばにShell 等により発見されたが、約20年間にわたってさまざまな困難に遭遇し、思うように開発が進められない状況が続いていた。

しかし、SanMartinガス田とCashiriariガス田の開発が行われ、2004年8月にようやく首都リマ等への供給が開始された。

生産された天然ガスとコンデンセートは現地のプラントで天然ガスとNGLに分離され、天然ガスは、リマまで全長714kmのパイプラインで輸送され、NGLはPisco近郊のParacasの分留プラントでLPG、ナフサ、軽油などに加工される。

なお、Pampa Melchorita 地区でこの天然ガスを液化、輸出するLNGプロジェクトに丸紅が参加した。(後述)

Camiseaプロジェクトの開発・生産を行う上流部門、パイプライン敷設を含む輸送・配給の下流部門及びLNGプロジェクトの参加者は以下の通りとなっている。(青字はオペレーター)

  開発・生産 輸送・配給 LNGプロジェクト
Pluspetrol (アルゼンチン)  36  22.2  
Hunt Oil (米国)  36  22.2   50
SK(韓国)  18  11.1   20
Tecpetrol(アルゼンチン)  10    
Technit(アルゼンチン)    23.4  
Sonatrach(アルジェリア)    11.1  
Tractebel(ベルギー)     8.0  
Granay Montero(ペルー)     2.0  
Repsol (スペイン)       20
丸紅       10

Camiseaガス田では更に開発が計画されている。

地図は JOGMECから(http://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/1/1580/0703_04_funaki_peru.pdf

 

このペルーで、ブラジルのPetroBras、インドのReliance、韓国のSKの3社が石油・石油化学事業構想を打ち出している。

ーーー

ブラジルのPetroBras

20069月、Petrobras とペルー国有の PetroperuPerupetro はペルー国内の炭化水素資源の開発や工業化など7分野での協力・提携に関する覚書に調印、本年10月に1年間の延長が決まった。

協力の内容は以下の通り。

・老朽化が目立つTalara Refinery の近代化
・燃料や潤滑油の流通・販売への投資(サービスステーションのチェーンなど)
Bayóvar Terminal の近代化
・天然ガスの利用:
LNG, GTL, Petrochemicals
biodiesel and ethanol projects
・未開発の深海、陸上での石油資源探査、開発の評価

ーーー

インド Reliance

Petroperu Reliance Industries はこのたび、ペルーでの石油資源探査、開発、掘削、精製、及び石油化学での協力を探る覚書を締結した。

Petroperu の社長によると、来年入札が予定される新しいブロックでの開発を共同で行なうことで合意した。ペルー北東部のジャングルでの重質油の開発に参加する可能性がある。

精製に関してはReliance Petroperu Talara refinery を近代化し、現在の62,500 b/d 100,000 b/d に拡張する計画にも関心を有している。
更に両社は長期的な問題として、エタンベースの石油化学計画にも関心を有している。

ーーー

韓国 SK Energy (旧称 SK Corporation

SK Energy はこのたび、ペルーでのエネルギー関連投資の拡大を考えており、また20億ドルの石油化学計画の交渉をしていることを明らかにした。

SKは現在、Camisea などで原油換算 80,000b/d の生産を行なっている。同社は現在開発中の新立地での生産を期待しており、またLNG project にも参加している。また最新の入札で海底油田の権利を取得している。

同社は1996年に最初にペルーに投資をして以来、9億ドルの投資を行なっている。
SKの社長は109日にペルー大統領と会見し、20億ドルの石油化学計画について話をした。(詳細は発表していない)

ーーー

ペルー政府は石油化学産業に対する税務上の恩典の法律制定を検討している。

ーーー

丸紅は2007年8月29日、ペルーのLNGプロジェクトに参加するため、SKエナジーが保有する持分30%のうち10%分を購入する契約書に調印した。

首都リマから南へ約170kmの太平洋沿岸Pampa Melchorita で Camiseaガス田から送られる天然ガスを液化、輸出するもので、ガス処理施設、LNG液化プラント(年間生産量445万トン)、LNG貯蔵タンク2基、積み出し施設、発電施設などを建設する。プロジェクトの総事業費は約38億ドル。

LNGはRepsol 18年間にわたり販売権を持つが、丸紅は同社と売買契約を締結しており、北中米西海岸に最も近く、極東地域にもアクセスが可能という地理的特性を持つことから、市場拡大が期待される環太平洋地域に競争力のあるLNGを供給する。

丸紅は現在、中東・カタールのLNGプロジェクトに7.5%、西アフリカ・赤道ギニアのLNGプロジェクトに6.5%の権益を保有しているが、今回はそれらに次ぐ3つ目の案件で、北中南米地域におけるLNGプロジェクトに日本企業として初めて参画する。

 


2007/10/19 ニューヨーク原油市場で初の90ドル台

18日のニューヨークのWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物相場は、通常取引終了後の時間外取引で一時1バレル=90.02ドルまで上伸し、史上初の90ドル台を記録した。

通常取引の終値は 89.47$/bbl 過去最高となっている。

18日の東京市場の原油、ナフサも過去最高を記録している。

当面、以下のサイトで毎日グラフ更新
 
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2007/10/20 韓南石油化学、中国企業に出資

山東省の維坊亞星化学(Weifang YAXING Chemical)はこのたび、韓国企業2社と出資に関する覚書を締結したと発表した。
亞星化学に対して、
ロッテグループの韓南石油化学が10%、他の1社が1% 出資する。
亞星化学と韓南石油化学は山東省維坊に塩素化ポリエチレンのJVを持っている。

亞星化学は80年の歴史をもち、塩素化ポリエチレン、塩ビ、イオン交換膜法苛性ソーダなどを扱っている。
苛性ソーダは能力
120 千トンで、Uhde の技術と設備を使用している。

亞星化学は1990年にHoechst から年産 6,000トンの塩素化ポリエチレン設備を輸入して事業を始めた。
現在では生産能力は 110,000トンに達しており、23カ国に輸出し、世界市場の40%を占めている。

韓南石油化学との塩素化ポリエチレンの 50/50 JVは 維坊亞星ロッテ化学(Weifang Yaxing Lotte Chemical)で、2005年に40千トンでスタートし、最近45千トンに拡張した。

 

亞星化学はヒドラジン水和物の生産で Lanxess とのJVをもっている。
LANXESS Yaxing Chemical (Weifang) Company で、Lanxess55% 出資している。

能力は世界最大級の12千トンで、LanxessのテキサスBaytown 工場からプラントを移管した。

2004年にJVを設立し、2005年末から中国及び世界市場に供給しているが、Lanxessでは、大きな生産能力、高品質、先進的なプロセス工学の3つの点で中国のヒドラジン水和物のトップメーカーであるとしている。


2007/10/22 Dow の買収情報漏洩事件で新たな展開

本年春に、Dow の買収話--- Kohlberg Kravis Roberts が半分、中東のSaudi ArabiaKuwaitBahrainQatarUAEOman の投資家が残り半分を出資して過去最高の500億ドルでDowを買収---の報道がなされた。

直後の4月9日、Dowの取締役会は声明を発表し、「会社はLBOについて議論したことがない」とした。

そしてDowは4月12日、Executive Vice President Romeo Kreinberg ともう一人が、Dow の行動基準に極めて不適切に、また明らかに違反し、会社の被買収に関して第三者に話をしたとして解雇したと発表した。

   2007/4/13 速報 Dowが買収情報漏えいで役員を解雇  

その後の報道によると、買収の幹事とされる JPMorgan Chase の役員がDow のCEO Andrew Liveris に対し、2人が買収話に参加したことを明らかにしたとされる。

Liveris CEO が現在の事業での改革を考えているのに対して、Specialty Plastics and Chemicals を担当するKreinberg は汎用品事業の切捨てを主張し、意見が対立していたとも報じられた。

その後、両者は互いに告訴をしている。

ーーー

今回、Kreinberg JPMorgan Chase をミシガン連邦地裁に訴えた。

JPMorgan Dowが繰り返される買収の噂のソースを探しているときに、Dowに黙って買収の協議をしていたことを明らかにせず、永年の顧客のDow を騙したとの主張である。

JPMorgan 「ユダ」 と呼び、2006年の末からオマーンとクウェートの投資家とDow の買収の話を始めたが、2007年に噂が市場に出回り、CEOが怒っているのを知り、その失敗を補うため、CEOとの仲が悪いとされるKreinberg の責任にしたとしている。

CEOがJP Morgan との会議の席で、「首を取りたい」と言って、Kreinberg を買収話に巻き込むのを手伝うよう求めたとしている。

DowはKreinberg が買収の協議に参加しただけではなく、聞かれたときにDow に伝えなかったとしているが、Kreinberg 自身は協議に参加していないとする。
事実は、オマーンの
DowのJVでの会議中に、JP Morgan がやってきて、Dow の買収提案をした際に支援が得られるかどうかを知るため、CEO以外のDowのトップとの会合を求めたという。Kreinberg は秘密情報はなんら明らかにせず、もし買収提案がなされても、Dowは防御するか、門前払いをするだけだと答えたとしている。

JP Morgan では、この主張は法的にも事実上も根拠のないもので、却下されると確信しているとしている。

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付記

Dow と2人の元役員の争いは、2008年6月2日、和解で解決した。

2人は会社に言わずにダウのLBOの話し合いに出たこと、Dowによる解雇は当時の事情では適切なものであったことを認めた。
会社は2人の過去の業績を認めた。
和解条件は明らかにされていない。


2007/10/23 DuPont、廃棄物問題裁判で敗訴

米国West Virginia 州のHarrison CountySpelter の町で、112エーカーの土地を砒素、鉛、カドミウムの産業廃棄物で汚染し、地域住民の健康に被害を与えたとして、DuPont とニューヨークのT.L. Diamond & Co. に対して住民10人による集団訴訟が行なわれ、10月1日から裁判が行なわれた。

DuPont 1899年に火薬工場用に土地を買収し、1910年に亜鉛精錬所をつくった。
同社は1950年にこれを売却し、持ち主はその後何度か代わった
T.L. Diamond 1975年から亜鉛の精錬を行ない、亜鉛粉末と酸化亜鉛を生産した。
しかし、
2001に環境当局が、この土地が住民の健康に緊急の、重大な危険を含んでいると指摘したため、廃業した。

DuPont T.L. Diamond の廃業後、クリーンアップの責任を引き受け、土地を再購入し、2006年にクリーンアップを完了した。
(裁判では両社の売買契約に基づき、
T.L. Diamond の義務はDuPont に引き継がれていると認定された)

 

4つの観点ごとに陪審員の決定が行なわれた。

1)廃棄物処理に関するDuPont の責任

DuPont は州の検査、安全基準に適合しているとしたが、11人の陪審員はDuPont が公的私的な迷惑を起こしたこと、公害物質を私有土地に流したことを認め、DuPont に責任と過失があったとして住民の勝訴となった。

2)住民側の健康診断要求

原告は近辺住民に対して今後40年間にわたり、肺、皮膚、胃、膀胱、腎臓の癌と、腎臓機能、認識能力及び鉛中毒の検査を要求した。
鉛は流産、低出生体重、記憶認識能力障害、 骨脆弱性、心臓血管などを引き起こす可能性がある。

陪審員は砒素、カドミウム、鉛汚染に曝された7,000人の住民に対し、今後40年間、DuPont が検査費用を負担することを決定した。

DuPont West Virginia 州とOhio州との州境にあるWashington, WV.工場 (上の地図参照)での水道水汚染で住民の検査費用を負担している。
テフロン製造のための化学品 パーフルオロオクタン酸アンモニウム塩 が住民の健康を害したかどうかを確かめるため、
West Virginia州とOhio州の住民7万人の検査を行なっている。

 

3)公害物質除去費用の負担

陪審は住居や事業所から危険物質の除去のため、DuPont 55.5 百万ドルの負担を命じた。

住民側は、今後危険に曝されることのないよう、徹底的に復旧することを求めた。
特に土の汚染とほこりによる汚染を問題視している。
このため、家を空けて、クリーニングを行い(特に屋根裏)、エアコンのダクトを取り替える、廃棄物置き場の近くの土を入れ替えることを求めている。
2,159 の住居、457 のトレーラーハウス、205 の事業所の処理に62.9 百万ドルが必要とみられており、DuPont 負担の55.5 百万ドルは1戸当たり19,700 ドルとなる。

DuPont 側は、廃棄場所の浄化し、シートと種子付きの表土で覆っていると主張した。

4)懲罰的賠償

10月19日、陪審は2日間の審議の後、DuPont に対して、有毒な砒素、カドミウム、鉛を亜鉛精錬所用地に故意に捨て、周辺の数千人の住民の健康への危険を起こしたとして、196.2百万ドルの懲罰的賠償を命じた。

原告側は、DuPont が環境当局を巧みに操り、危険性について住民に嘘をついてきたと主張していた。
テストやクリーンアップの費用を避けるため、多くの「小さな嘘」をついて繰り返し住民をミスリードしてきたと批判した。

これに対しDuPont は、州や連邦政府の規則に従ってきたし、自発的に112エーカーの土地の廃棄物を取り除き、シートときれいな土で覆ったとした。
連邦政府の
Superfund 計画は廃棄物の焼却などを含んでおり、効果が少なく、遅く、生活の質を損なう可能性があるが、同社ではそれではなく、自発的な改善計画を取っていることはむしろ賞賛されるべきだとした。  

 

一連の陪審の判断はこれで終わった。

これに対し、DuPont 側は、「この施設で、このコミュニティのために、正しいことをやってきたのに、不当に罰せられることになる」とし、この懲罰的賠償の判決について州最高裁に控訴すると述べた。
DuPont 1950年に施設を手放し、46年後に戻ってきた。以前のこの施設の多くの所有者のなかでDuPont のみが、環境保護庁と協議しながら施設を浄化し、コミュニティを援助してきた」としている。

 

参考 2007/6/18 DuPont のダイオキシン裁判 

なお、2005年の本件の最初の裁判、漁師が空気と週に4回は食べていた牡蠣からダイオキシンを取り込み多発性骨髄腫となったという件で、牡蠣漁師に 14百万ドルの賠償、妻に150万ドルの慰謝料、合計15.5百万ドルの損害賠償が認められ、DuPont が州最高裁に控訴していたが、州最高裁は2007年10月、事実に誤りがあるとして、裁判のやり直しを命じた。

医者の多発性骨髄腫の原因に関する証言の取扱いなどに問題があるというもので、反対意見を出した判事は証言には問題はなく、多数意見の判事はDuPontが大量の有害物質を流したこと、DuPontのダイオキシン排出を政府が認めていること、DuPontがダイオキシンの人体への悪影響を認識していることを無視していると批判した。

 


2007/10/24 Basell のSpheripol 法 PP 能力、累計で20百万トンに

Basell は108日、カタール石油がMesaieed 工業都市に建設する新しい年産70万トンのPPプラントに同社のSpheripol 法が採用されたと発表した。

建設するのは、カタール石油の子会社のQatar Intermediate Industries Holdings が70%、韓国の韓南石油化学(ロッテグループ)が30%出資するJVで、PP のほか、エチレン、プロピレン、ベンゼン、SM(600千トン)、PS(220千トン)を生産する。
エチレンからプロピレンへの変換設備も設置する。
本年7月に合弁契約を締結した。予算は26億ドルで、2011年に生産開始の予定。
基本設計と建設管理業務はFoster Wheeler が受託している。

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Basell はまた、本件の成約により、同社のSpheripol 法を使用するPP の累計能力が20百万トンの大台を突破したと発表した。

Basell BASFTargorShellMontell、両社の合弁Elenacを統合して設立されたが、PP技術に関しては、TargorNovolen 技術MontellSpheriol 技術があった。
EUの独禁当局は許可条件として、ポリプロピレン生産能力の一部放棄やPP技術の1つを放棄するなどを求めた。
そのため、
MontellSpheriol技術を残し、TargorNovolen技術をABB Lummus と Equistar の80/20 JV のNovolen Technology Holdings に売却した。

Basell ではSpheripol 法はMontecatini - Montedison - Himont - Montell - Basell と続いてきた同社の50年の絶えざるPP の技術改良の歴史の結果で、バルク法とガスフェース法の改良により、原料消費と廃棄物を少なくする利点があり、35カ国で採用されているとしている。

1960s: 第一世代触媒(低生産性、高価、取扱い困難)
1970s: 第二世代触媒(高生産性、触媒残渣の処理不要、但しアタクチックはまだ多い).
1980s:
第三世代触媒(高生産性・高選択性、触媒残渣・アタクチックの処理不要、プロセス簡素化、高品質)
1982: Spheripol technology

METI の「世界の石油化学製品需給動向」によると2007年の全世界のPPの能力は47.8 百万トンとなっており、同法は約40%を占めることとなる。

なお、Basell は以下の技術を提供している。

Spheripol -- PP technology for the production of homopolymer, random
and heterophasic copolymers.
Spherizone   latest generation PP technology based on new multi-zone
circulating reactor technology
Metocene PP   technology for the production of specialty PP products
using single-site catalyst systems
Spherilene   advanced swing gas phase process for the production of
LLDPE, MDPE and HDPE
Hostalen   leading low-pressure slurry process for the production of multi-modal
HDPE
Lupotech G   fluidised bed gas phase process for the production of
HDPE and MDPE
Lupotech T   leading high pressure tubular reactor process for the production of
LDPE and EVA copolymers

続く

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