ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

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2021/10/1   Ford Motor、114億ドルを投じ、電動ピックアップトラックと3つの電池工場を建設

Ford Motorは9月27日、114億ドルを投資し、米国に電動ピックアップトラック F-150 Lightning Electric Truck の組立工場と、3つの電池工場を新設すると発表した。

2025年に操業を開始する予定。

3つの電池工場については設立を交渉中のFord とSK InnovationのJVのBlueOvalSKが建設、運営する。今後詳細を詰め、所定の手続きを経て設立する。

バッテリー工場に両社がそれぞれ44億5000万ドルずつを投資し、組立工場にはFord単独で25億ドルを投資する。

テネシー州Stanton にBlue Oval Cityを建設する。電動ピックアップトラック「F-150 Lightning Electric Truck」の組立工場と、新JVのBlueOvalSKのリチウムイオン電池工場及び主要サプライヤーの拠点とリサイクル施設が建設される。投資額は56億ドル。

ケンタッキー州Glendale には58億ドルを投じてBlueOvalSK Battery Parkを建設する。新JVのBlueOvalSKが2つの電池工場をつくる。

電池工場の年間能力はテネシー工場が43GWh、ケンタッキー工場が86GWhで、合計129GWhとなる。フル稼働時にEV約220万台のバッテリーを供給できる。

SK Innovationとしての米国での年産能力は、同社が単独で建設中の21.5GWh(2022年量産開始)と合わせ150.5GWhとなる。

これに対し、LG Energy Solutionは単独でミシガン州Hollandに5GWhを持ち、GMとのJVでオハイオ、テネシーに各35ギガワット時(合計70ギガワット時)を建設中である。
同社は更に、
2025年までの5年間で米国に45億ドル以上を投資、少なくとも2工場を建設、能力を70GWh増やすと発表した。全て完成すると145GWhとなる。

2021/3/18 LG Chem、米国で車載電池増産

 

Fordは9月22日、バッテリー原料リサイクル企業のRedwood Materialsと提携し、 バッテリーリサイクル工場を建て、電気自動車のバッテリーサプライチェーンをつくると発表した。

Redwood Materialsは、Teslaの元CTOのJB Straubelが創業したリサイクルスタートアップ企業で、バッテリーセルの製造過程で発生する廃棄物や、携帯電話のバッテリー、ノートパソコン、電動工具、モバイルバッテリー、スクーター、電動自転車などの家電製品をリサイクルしている。Panasonicや、Envision AESCの米国のバッテリー工場も利用しているという。創業者のJB Straubelは、廃棄されたバッテリーや使用済みのリチウムイオンセルから、再利用可能な貴重鉱物資源を回収することで、同社を「Virtual Mining」(ビットコインのマイニングでなく、仮想鉱山業)の大手にすることを目指している。

今回、FordはRedwoodに5000万ドルを出資する。

FordはBlue Oval Cityに今後大量に投入される電気自動車のためのクローズドループ・システムを構築する。まず、 電池リサイクルでニッケルやコバルト、リチウム、銅などの材料を平均で95%以上回収、回収した材料は、負極の銅箔や正極活物質として再び電池に使用する。これにより、海外で採掘されているリチウムやコバルト、ニッケルなどの原材料を米国内で調達できるようにする。

同社は「当然ながら、バッテリーを製造する際に現在使用している多くの原料の輸入依存度を下げることにもつながる。それによって原材料の採掘も減らすことができる。これは今後、この分野の規模を拡大していく上で、非常に重要なこと」としている。



2011/10/1 Sanofi の新型コロナワクチン開発 

フランスのSanofiは9月28日、開発中の mRNAベースのCOVID-19ワクチン候補のPhase 1/2 治験の結果は成功で、買収したTranslate Bio社のmRNA とこれを包み込む脂質ナノ粒子 (LNP) の可能性を確認するものであり、SanofiのmRNA 戦略をサポートするものであると発表した。

しかし、Sanofiは同日、このワクチンについてPhase V 治験に進まないことを決めたと発表した。mRNAベースの ワクチンの供給が十分であることを勘案し、従来から進めてきた遺伝子組換えワクチンの開発の最終段階に注力するとしている。

経緯は次の通り。

Sanofiと英国のGlaxoSmithKline(GSK)は2020年4月14日、両社の技術を活かし、COVID-19に対するアジュバント添加ワクチンを開発すると発表した。

Sanofiでワクチンを担当するSanofi Pasteurは、遺伝子組換えDNA技術をベースとするS-タンパク質COVID-19抗原を提供する。
遺伝子組換えDNA技術により、ウイルスの表面に検出されたタンパク質と正確に一致する遺伝子配列を作成することができる。抗原をコード化するDNA配列を、Sanofiが米国で開発に成功し承認された遺伝子組換えインフルエンザワクチンの基盤となったバキュロウイルス発現プラットフォームに組み込む。

GSKは、実証済みのパンデミックアジュバント技術を提供する。

Sanofiの遺伝子組換え技術をベースとするCOVID-19ワクチン候補の開発は、米国保健福祉省(HSS)の一部門である米国生物医学先端研究開発局(BARDA)との協力の下で、同局の資金提供を受けて実施された。

SanofiとGSKのワクチンは、米政府の爆速ワクチン計画(Operation Warp Speed)の対象に選ばれている。2020年7月31日に米政府が21億ドルを支払い、5000万人分を確保した。


しかし、SanofiとGSKは2020年12月11日、試験計画を遅らせると発表した。

第1/2相臨床試験で、18〜49歳の被検者においてはCOVID-19から回復した人に匹敵する免疫応答が示されたが、高齢者において十分な免疫応答が得られなかったことから、すべての年齢層において十分な免疫応答を得るために抗原の濃度を改善する必要性が示された。

2021年2月に改善された抗原を用いて第2b相臨床試験を実施する。開発計画が成功すれば、2021年第4四半期に実用化の見込みとしている。

2021/1/8 新型コロナワクチンの委託生産 広がる

COVID-19が蔓延する中、英国ではAstraZeneca、ドイツではPfizerと組むBioNTech  がワクチンの供給を始めたが、フランスでは同国の代表的な医薬品企業であるSanofiがワクチンを供給できないこととなり、国内で同社に対する批判が生じた。

このため、Sanofiはまず、Pfizer/BioNTech のワクチンを2021年夏からSanofiの独フランクフルトの工場で生産することを決めた。
Johnson & Johnson のワクチンもフランス工場で充填・包装を受託、Modernaワクチンも
米ニュージャージー州の工場で充填など製剤化を行う契約を結んだ。

別途、Sanofiは米国でmRNAワクチンの開発を行うTranslate Bio社と提携していたが、この関係を深めることとした。

Translate Bio社は、独自のmRNA技術基盤「MRT」を利用した感染症のmRNAワクチン、嚢胞性線維症など肺疾患のmRNA医薬の開発を手掛け、脂質ナノ粒子(LNP)を用いた送達システムの開発も充実化させている。

Sanofiワクチン部門のSanofi PasteurとTranslate Bioは2018年に、Translate BioのmRNAワクチン創製技術を活用する最大5品目、3年間の開発協力で最初の契約を締結した。
2020年3月、期間を4年以上に延長して新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンの開発で連携すると発表した。
2020年6月23日、感染症に対するmRNAベースのワクチンの共同開発とライセンスに関する現行の契約を拡大すると発表した。

2021312日 、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2 に対する新規mRNA ワクチン候補MRT5500 の第I/II 相臨床試験の開始を発表した。
 

2021年8月3日、SanofiはTranslate Bio を32億ドルで買収する契約を締結、9月14日に買収が完了し、100%子会社とした。

ーーー

今回、Translate Bioの新規mRNA ワクチン候補の第I/II 相臨床試験結果は良好であったが、Phase V 治験に進まないこととした。

これからPhase V 治験を始めても、承認を得た時点では既にPfizer/BioNTechとModernaのmRNA ワクチンが十分に供給され、あまり相違点のない3番手では販売面で劣るとみたと思われる。

今後、mRNA型ワクチンを季節性インフルエンザなどの疾病向けに開発する。既に2021年6月に季節性インフルエンザ向けmRNA型ワクチン候補のヒトを対象とした臨床試験を開始している。一価インフルエンザワクチン候補のLNPが異なる2つの候補で、安全性と免疫原性を評価する。

COVID-19に対しては、GSKと提携して開発している組換えタンパク質ワクチンの開発を進める。進行中のPhaseVの有効性、安全性の研究と並行し、ワクチン接種を終えた人の免疫力を高める「ブースター接種」の研究も含めた。本年夏に米、豪、仏、英でブースターの研究を開始した。


2021/10/2 米、政府機関の閉鎖回避 12月までのつなぎ予算成立

米議会上下院は9月30日、10月1日から始まる2022会計年度の一部資金を手当するつなぎ予算案を可決した。

 

米下院は9月21日、本年12月3日までのつなぎ予算と、連邦政府の債務上限の適用を2022年12月16日まで凍結する措置を一体化した民主党提出の法案を可決した。

しかし、上院共和党は9月27日、この法案を本会議で採決することを否決した。60票が必要だが、共和党、民主党から各1議員が棄権したほか、民主党の1議員が反対にまわった。

2021/9/23 米下院、つなぎ予算・債務上限凍結一体化法案を可決 

つなぎ予算については、9月30日までに通さないと政府機関閉鎖となる。

このため、つなぎ予算と連邦政府の債務上限凍結を切り離し、まず、つなぎ予算を通すこととした。

9月30日にまず、上院が可決した。

  共和党 民主党 民主系
無所属
合計
賛成 15 48 2 65
反対 35     35
合計 50 48 2 100

その数時間後に下院が可決した。

  共和党 民主党 合計 欠員
賛成 34 220 254  
反対 175   175  
棄権 3   3  

合計

212 220 432 3

その後、バイデン大統領が署名して成立、これにより、連邦政府機関の一部閉鎖がギリギリで回避された。

ーーー

別途、下院は9月29日遅くに債務上限適用を2022年12月まで凍結する法案を可決した。民主党の2人が反対に廻った。

  共和党 民主党 合計 欠員
賛成 1 218 219  
反対 210 2 212  
棄権 1   1  

合計

212 220 432 3

上院民主党トップのシューマー院内総務は「早ければ来週にも」採決する可能性があるとしたが、共和党が再び阻止すると予想されている。

イエレン米財務長官は9月28日、連邦政府の資金が10月18日にも枯渇し、米国がデフォルト(債務不履行)に陥る恐れがあると議会に警告した。

 

付記 

上院は10月7日、債務上限を4,800億ドル引き上げる法案を可決、下院は10月12日に可決した。バイデン大統領は10月14日にこれに署名、成立した。

2021/10/12   米上院、債務上限の一時引き上げ可決 

ーーー

なお、インフラ投資法案の下院での議決が難航している。

米上院は8月10日、インフラ包括法案を賛成69、反対30で可決した。

さらに、3兆5000億ドル規模の予算決議を50対49の賛成多数で可決した。(下院での可決後に、これに基づく具体的な予算案を通す必要がある。)

両案は下院に廻ったが、政権と民主党のペロシ下院議長は3兆5000億ドル規模の予算決議を先に通すことを決めた。
インフラ法案は反対が少ないが、3兆5000億ドルの方は民主党内にも反対があるため、まず、予算決議を通してから、インフラ法案を通すという戦術である。

しかし、民主党内で進歩派10人がインフラ包括法案を先に通すことを強く求めた。この全員が反対すると下院で法案が通らないため、ペロシ議長が、超党派のインフラ投資法案を9月27日までに採決すると約束し、ようやく8月27日に予算決議を可決した。

2021/8/26  米下院、3.5兆ドルの予算決議案を可決

ペロシ議長はその後、インフラ投資法案の採決日を9月30日に修正した。

しかし、議会民主党は9月30日、同日中をめざしていたインフラ投資法案の採決を見送った。

民主党内の急進左派が子育て支援などの「3.5兆ドル法案」(今回は予算決議は通っている。これに基づく具体的な予算案のこと)を可決するまでインフラ法案に賛成しないと主張し、財政膨張を懸念する中道派議員は3.5兆ドル法案の規模圧縮を要求し、与党内の調整がつかなかった。
(ペロシ議長は、予算決議をとおすために、9月27日までにインフラ投資法案を採決すると約束しており、議長にとっては約束違反である。)



2021/10/3 田辺三菱製薬、カナダ子会社のCOVID-19ワクチン候補の日本における臨床試験開始

田辺三菱製薬は9月30日、連結子会社のカナダのMedicagoが開発しているCOVID-19の植物由来のウイルス様粒子ワクチン(開発番号:MT-2766)について、10月2日より日本において第1/2相臨床試験を開始すると発表した。2022年3月までに日本での承認申請をめざす。

付記

田辺三菱製薬は12月17日、 カナダにおいて承認申請を実施したと発表した。

付記

2022年2月24日、カナダで承認を取得した。商品名:COVIFENZ

付記

MedicagoはWHOに承認申請しているが、WHOの関係者は2022年3月16日、Medicagoが開発した植物由来の新型コロナウイルスワクチンは、同社がタバコメーカーのPhilip Morrisからの出資(田辺三菱60%、Philip Morris 40%)を受けていることを理由に、WHOの緊急使用承認を「受けられない可能性が非常に高い」と発表した。タバコや武器会社との提携に関するWHOの「非常に厳しい」ポリシーに抵触する恐れがあるため、緊急使用承認が一時停止されているという。

Medicagoは植物由来のウイルス様粒子(VLP:Virus Like Particle)技術を用いた新規ワクチンの研究開発に特化したバイオ医薬品会社で、遺伝子操作によって植物の細胞内にVLPを生成させ、効率的に抽出・精製する独自技術を有している。

田辺三菱製薬は2013年7月12日、Philip Morrisと共同で、カナダのMedicago Inc.の全株式を取得することで同社取締役会と合意したと発表した。
両社は買収後のMedicagoを、田辺三菱60%、Philip Morris 40%のJVとして運営する。

報道では現在の出資比率は田辺三菱が67%、Philip Morrisが33%となっている。

2013/7/19     田辺三菱製薬、カナダ医薬品会社Medicagoを子会社化

Medicagoは下記の技術を持つ。

 Proficia™  植物の葉でのワクチン製造 
         
2016/2/26 田辺三菱製薬、タバコの葉からインフルエンザワクチン
 
 VLP    遺伝子情報を持たないウイルス様粒子(
体内でウイルスの増殖がなく安全性に優れる)

 VLPExpress™  新ワクチンを早く見つける手法

ーーー

ワクチンは毒性を弱めた微生物やウイルスを使用、弱い病原体を注入することで体内に抗体を作り、感染症にかかりにくくする。
但し、弱いとはいえ病原体を接種するため、まれに体調が崩れることがある。

ウイルスはcapsid というたんぱく質でできた殻の中に、遺伝子(DNAやRNAなどの核酸)を収めている。
ウイルス様粒子(VLP)は、capsidの殻を持つため、生体はこれを認識して免疫反応を起こし、通常のウイルスに対するのと同様に抗体をつくって攻撃を仕掛ける。

遺伝子情報を持たないため体内でウイルスの増殖がなく、安全性にも優れる有望なワクチン技術として注目されている。

一般にワクチンは受精卵などに接種し増殖させるが、Medicagoは生育の早いタバコ属の植物からワクチンをつくる技術の開発を進めている。
植物の細胞内に遺伝子操作によってVLPを生成させ(
Proficia technology) 、効率的に抽出・精製する独自技術で、VLPを安価に短期間で大量に製造することを可能としている。

植物からヒト用のワクチンをつくる初の事例になる。

生育が早い植物を使うため、5〜8週間で効率的に生産でき 、「コストを抑えられる見込み」。新たな変異ウイルスへの対応を巡っても、最短6週間程度というファイザー製などに迫る。

2〜8℃度で冷蔵保存できる ことも利点である。

 

田辺三菱製薬は2020年7月15日、カナダのMedicagoが、新型コロナウイルス感染症用のワクチンの第1相臨床試験を開始したと発表した。

第1相臨床試験では、@単剤、AGlaxoSmithKlineのアジュバントまたはBDynavax社のアジュバントを添加したワクチンを、3用量(3.75、7.5、15 micrograms)のグループにわけて、21日間隔で2回接種し、安全性と免疫原性を評価したが、最終的にGlaxoSmithKlineのアジュバントを添加することとした。(既報のSanofiワクチンもGSKのアジュバントを使っている。)

2020/7/17 田辺三菱製薬、カナダ子会社の新型コロナウイルスワクチンの第1相臨床試験開始を発表 

カナダ、米国、英国、ブラジル、アルゼンチン、メキシコで約24,000人の治験参加者を対象にした第2/3相臨床試験の第3相パートの投与を終了し、現在結果を解析している。

海外で実施した試験および本試験のデータを用いて、早期の日本における承認取得をめざす。

新しい技術のため、有効性、安全性が明確に示せるかどうかが課題となる。

国内の承認申請時までに米国、英国、カナダ、ドイツ、フランス」のいずれかで承認又は緊急使用許可(EUA)が取れていると「特例承認」が得られる。

Medicagoは2024年までにカナダと米国で合計年10億回分の生産能力を確保する。カナダ政府と最大7600万回分を供給する契約を結んでおり、2021年末までの実用化をめざす。

日本でも需要を見極めたうえで国内生産を検討する。


2021/10/4 三菱ケミカル、結晶質アルミナ繊維事業を譲渡 

三菱ケミカルは9月30日結晶質アルミナ繊維事業をApollo Global Management Inc.関連会社が投資助言するファンド保有する特別目的会社に譲渡すると発表した。

アルミニウム源とケイ素源を原料に、独自の製法により作られる結晶質アルミナ繊維は耐熱性に優れ、1,600℃という超高温下でも安定した機能性を発揮する上、1,300℃でも実用的な弾力性(クッション性)を維持する。

主に製鉄所などの炉内断熱材や、自動車の排ガスを浄化する触媒コンバータにおいて走行中の振動や衝撃からセラミック触媒担体を守るサポート材として、長年に亘り世界中で実績を有しており、その他さまざまな分野でも応用可能である。

近年の各国での自動車排ガス規制の強化や新興国を中心とする世界的な自動車需要の伸長を受け、需要は堅調に推移しており、今後も一定の成長が期待される。

しかし、グローバルに電気自動車への移行が進むため、本事業の持続的な成長を期する上では、新用途開発や成長分野への投資が不可欠な状況となっている。

三菱ケミカルでは、
同社グループが保有する製品群や技術では十分なシナジーをもって本事業の変革・成長を図ることは難しいとの判断に至り、売却を決めた。

株式譲渡によって約540 億円の利益を見込んでおり、「財務体質の改善」「成長事業への投資」及び「株主への還元」のバランスを図りつつ、企業価値の向上をめざして活用する。

 

Apollo側では、化学業界と自動車業界の両方におけるグローバルな専門知識を活用して、価値提案と製品提供をさらに強化できるよう支援するとしている。

同ファンドは本年6月に昭和電工からアルミ缶およびアルミ圧延事業を買収しているが、これは日本でそれに次ぐ2件目である。

ーーー

三菱ケミカルホールディングスはこれまで、統合、買収を相次いで行い、事業が膨れ上がっている。

 

三菱ケミカルホールディングスでは4月1日付で社長が交代し、新社長にベルギー出身の Jean-Marc Gilsonが就任した。

1963年生まれで、1989年に米 Dow Corning入社(日本に5年駐在)。2014年からに食品や医療関連素材を扱うフランスの RoquetteのCEO。

同氏はインタビューで次のように述べている。

「脱炭素」などの基準で事業の選別を始める。化学業界の事業環境が大きく変わる中で、収益構造の転換を進める。

化学産業は高付加価値化が課題だが、Well-being(健康、栄養など)、Connectivity(通信、デジタルなど)、Sustainabilityをキーワードに顧客に最高の価値を提供できる企業を目指したい。

基準とするのが、@強みがあるかA業界が伸びているかBカーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)につながるか――の3点。「全てにチェックマークをつけられなければ、将来は投資引き揚げの対象とする」。

主力の石油化学事業も「ポートフォリオ改革のレビュー対象の一つ」。

事業構造の見直しなどで「時価総額を数年以内に世界の競合並みにする」。

短期的には電気自動車(EV)やリチウムイオン電池、半導体製造工程向けの素材などの高付加価値品で構成する機能商品と、ヘルスケアに重点を置く。

今回の結晶質アルミナ繊維事業の売却は、新社長の方針による第1号と思われる。
現時点では売れているが、ガソリン自動車が電気自動車に替わっていき、長期的にじり貧になるのを見越してであろう。


石油化学やコークス事業など、同氏の上の3つの基準(すべてを満たす必要あり)から見た場合、選別の対象となる事業は数多い。

欧米では多くの企業が脱石油化学などで抜本的な改革を行い、成功している。
しかし、日本では、需要家とのつながり、従業員対策その他、問題が多過ぎ、これまでに例は少ない。
(放出する事業にとって代わる事業を見付けられない、見つけてもやっていく自信がないことも。)

Gilson社長の指導力でどのように理念を実行していくか、注目である。

 


2021/10/5 大日本住友製薬 と大塚製薬 、精神神経領域の新薬を共同開発・販売 

大日本住友製薬と米国子会社 のSunovion Pharmaceuticals、及び大塚製薬は9 月30 日、大日本住友製薬とSunovion が精神神経領域で開発中の4つの新薬候補化合物について、全世界を対象とした共同開発および販売に関するライセンス契約を締結した 。

大日本住友製薬は2009年9月に米国の医薬品会社 Sepracor Inc. を買収した。同社は中枢神経領域、呼吸器領域等に特化した特徴ある事業を展開する製薬会社で、米国市場においては複数の高く認知された製品を保有し、開業医から専門医までをカバーする強固な販売網を有している。

大日本住友製薬は当時、統合失調症治療剤「ルラシドン」のグローバル展開を図っていたが、買収によりルラシドンの速やかな市場浸透、早期の売上最大化を図ることと、米国での開発パイプラインの一層の強化を狙った。2010年10月にFDAからルラシドン塩酸塩「Latuda」の販売許可を取得した。)

2010年10月に、 Sepracor Inc.と大日本住友製薬アメリカを合併し、Sunovion Pharmaceuticals Inc.とした。社名は、太陽(Sun)の力強さと革新(Innovation)を組み合わせた。

2009/9   大日本住友製薬、米国医薬品会社Sepracor Inc.買収


共同開発する4剤は次の通り。

  予定適応症 開発段階
SEP-363856(ulotaront)  統合失調症  米 Phase V、日本・中国 Phase U/V
SEP-4199   双極I型障害うつ  米 PhaseV、日本 PhaseV準備中
SEP-378614   米 PhaseT
SEP-380135   米 PhaseT

提携の概要:

1.開発

 Sunovion は大塚製薬に4化合物の全世界での共同開発・販売権を許諾

 大日本 住友製薬グループ(日、米、中国、シンガポール)は大塚製薬と共同で開発する。

2. 販売

 米国、カナダ、日本、アジア(中国、台湾、シンガポール、タイ、ベトナム、マレーシア) では大日本住友製薬グループが売上計上
 国・地域ごとに大日本住友
製薬グループと大塚製薬が原則共同プロモーションを行う 。

 欧州を含む 41 の国・地域では大塚製薬が売上計上
 (その他の地域については今後検討)。
 

3. すべての臨床試験、各国・地域における承認申請や販売に関する費用および利益は、Sunovion と大塚製薬で折半

4. 対価

 大塚製薬はSunovionに対し 、
 契約一時金として 270 百万米ドル、

 4 化合物の開発マイルストンとして 620 百万米ドル(追加適応症の数によっては
上回る可能性あり)および
 販売マイルストンを支払う可能性

大日本住友製薬は2022年3月期に300億円を利益計上

 

大日本住友製薬は非定型抗精神病薬「Latuda」の米国での独占販売期間終了や将来の環境変化を見据えた取り組みとして、グローバル規模でのパートナリングによる持続的な成長を目指しており、今回の提携はその大きな一歩 としている。

大日本住友製薬が米国で年約1800億円を販売する主力薬「Latuda」の物質特許は2019年1月2日に失効した。しかし、用途特許や製剤特許はなお有効であり、2018年12月に後発薬各社との間で和解が成立し、後発薬の登場を2023年2月以降に4年遅らせることに成功した。

2019/1/25 大日本住友製薬、主力薬「ラツーダ」の特許で 後発薬各社と和解

大塚製薬は、2002年の米国での抗精神病薬の発売からはじまり、現在に至るまで長期にわたり、自社の強みとパートナーシップの機会を活かしながら精神神経領域で新しい治療を提供してきた。現在はアルツハイマー型認知症による行動障害の治療薬の開発や世界初のデジタルメディスンの展開など新たな分野での取り組みも進めてい る。

本契約により、長年にわたり培ってきた経験やネットワークを活かし、両者で患者にとってのさらなる価値を届けることができることと期待してい るとしている。

ーーー

大塚製薬は、中枢神経領域では、世界中で販売する抗精神病薬「ABILIFY」に続き、新たな治療の選択肢として、持続性注射剤(月1回製剤)「ABILIFY Maintena」を2013年に米国で発売、現在では50カ国以上で販売している。

新規抗精神病薬「REXULTI」は、統合失調症と大うつ病補助療法の適応症での承認を米国FDAより同時に取得し、2015年に米国で発売した。日本と欧州でも統合失調症の適応で2018年に承認を取得し、展開国を拡大している。

2015年に米国Avanir Pharmaceuticals を買収、同社は情動調節障害の治療薬「NUEDEXTA」を米国で販売するとともに、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病に伴う症状の治療薬などを開発している。

 

その他、がん領域では、造血幹細胞移植前治療薬「Busulfex」を自社およびパートナー会社を通じて世界50カ国以上で販売しており、全身放射線照射に取って代わる骨髄移植前の処置薬として標準薬剤治療法を確立している。
また、米国ARIAD Pharmaceuticals(2017年に武田薬品が買収)との間で難治性の慢性骨髄性白血病の治療薬の日本を含むアジア10カ国・地域の共同開発・商業化の契約を締結し、2016年から日本で販売を開始した。

循環器・腎領域では、バソプレシンV2-受容体拮抗剤「Samsca」は、経口水利尿薬としての新しい価値や使用方法が医療現場で浸透、また、腎臓の難病である常染色体優性多発性のう胞腎(ADPKD)の世界で初めての治療薬として2014年に日本で承認を取得し、世界約30カ国・地域で「JINARC / JYNARQUE」の製品名で販売している。

眼科領域では、ドライアイ治療剤「ムコスタ点眼液」、緑内障治療剤「ミケランLA点眼液」「ミケルナ配合点眼液」を販売している。

 


2021/10/6 三井化学韓国SKCとのポリウレタン原料事業合弁解消  

三井化学韓国の SKC Co., Ltd.は9月30日ポリウレタン原料事業統合したJVのMitsui Chemicals & SKC Polyurethanes Inc.合弁契約解消する と発表した。

両社は2015 7 両社のポリウレタン原料事業を統合し、成長市場需要獲得新規事業のグローバルな展開収益性向上目指してシナジーの最大化りながら共同運営を 行なってきた。

しかし、両社の考え方の違い(三井化学高機能品バイオ製品により着実収益向上させていく方針SKCはグローバル進出などの成長重視する方針 )徐々齟齬すようになり、 合弁解消を決めた。

後記の通り、JV設立に当たり、三井化学の事業は海外事業を含め合弁会社Mitsui Chemicals & SKC Polyurethanesの100%子会社としていた。
このため、解消に当たり、100%子会社を三井化学が引取り、これを除いた合弁会社をSKCのものする。

ーーー

三井化学は2001年4月に自社の事業と武田薬品の事業を統合し、三井武田ケミカルとした後、2006年4月に三井化学ポリウレタンと改称、2009年4月1日に吸収合併した。

2013年時点でのポリウレタンの状況は次の通り。(単位:t /年)

    TDI MDI PPG
大牟田工場 旧 三井化学 120,000 60,000 -
鹿島工場 旧 武田薬品 117,000 - -

錦湖三井化学韓国)

錦湖石油化学 -        200,000 -
名古屋工場 旧 三井化学 - - 57,000
徳山分工場 旧 武田薬品 - - 50,000

千葉ポリオール(日本曹達10%)のPPG 28千トンを2012/6に停止している。
 

三井化学は2014年2月6日、ポリウレタン材料事業とフェノール事業、高純度テレフタル酸(PTA)の再構築を発表した。

TDI 及びMDI事業は、中国を中心とするアジアでの大規模な新増設による市況悪化のため収益が低迷している。

同社のウレタン部門の営業損益は2012年度が -26億円であったが、2013年度は -52億円と悪化している。

今回、汎用ウレタン原料は、国際競争力が劣位の鹿島TDI、大牟田MDIを2016年12月末に停止し、国際競争力を十分有する他のプラントで、最適生産体制による同事業での勝ち残りを図る。

三井化学は2014年12月22日、韓国SKCとの間で両社のポリウレタン材料事業を統合する合弁契約を締結したと発表した。

ポリウレタン材料の総合メーカーとして、極東アジアから中国、ASEAN、欧州、米州まで、両社のネットワークを利用してグローバルに顧客に価値を提供する。
SKCは蔚山でポリオール原料のPOを生産しており、コスト競争力がある原料調達が可能になる。

三井化学は2015年3月23日、ポリウレタン材料事業の統合について、合弁会社の骨子を発表した。

合弁会社(韓国法人)    Mitsui Chemicals & SKC Polyurethanes Inc.
その100%子会社(日本法人) 
三井化学 SKC ポリウレタン
                                                                     三井化学の事業を海外事業を含め、100%子会社とした。

事業範囲  SKC側の事業はポリオール→システム製品のみで、三井側は全てを扱っている。

SKCは蔚山にPO/SM併産設備(180/400千トン)とEvonik/Uhde法の100千トンのHPPO processの2系列のPOプラントを持つ。

 

工場と製品   色塗り部分が三井化学に戻る。    数字は能力(千トン)

      TDI MDI Polyol System  
三井化学   大牟田 120
(受託)
       
 合

 弁

 会

 社
三井化学
SKC

ポリウレタン
日本 徳山     40   旧 三井化学
名古屋     50  
インド Vithai Castor Polyols     8   旧三井化学
子会社
Jayant Agro-Organics  50% 
伊藤製油 10%  
韓国 錦湖三井化学 麗水   610     Kumho Petrochemical 50%
中国 天津天寰ポリウレタン       天津 蝶理 14.9%
蘇州
佛山三井化学SKCポリウレタン       佛山 100%
タイ Thai Mitsui Specialty Chemical       Siam Resin and Chemicals 48%
インドネシア MCNSポリウレタンインドネシア       三井物産ケミカル 14%、Pintu Mas 5%
マレーシア MCNSポリウレタンマレーシア       Scientex 30%
本社直属 韓国 蔚山     180  

旧 SKC

中国 Beijing Mitsui Chemicals &
SKC Polyurethanes
     

旧 SKC 100%子会社

米国 MCNS Polyurethanes USA      
ポーランド MCNS Polyurethanes Europe      
メキシコ MCNS Polyurethanes Mexico      

JV 設立後に設立、稼働

インド MCNS Polyurethanes India      
ロシア (計画)       (〇) 現在、計画中

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三井化学は、当該ポリウレタン原料事業構造改革加速さらなる企業価値向上めるとしている。
なお三井化学SKC 両社本提携解消後までの良好関係性まえ必要範囲協力関係けていくともしている。

 

合弁解消の理由として、三井化学(高機能品バイオ製品により着実収益向上させていく方針)とSKC(グローバル進出などの成長重視する方針 )徐々齟齬すようになったとしている。

汎用ウレタン事業については、三井化学は、国際競争力が劣位の鹿島TDI、大牟田MDIを2016年12月末に停止し、国際競争力を十分有する他のプラントで、最適生産体制による同事業での勝ち残りを図ることを決めている。これについてはSKCは事業をやっておらず、新規に工場を建設するという動きは全くない。両社とも現状維持と見られる。

残るのはシステム製品である。

これについては、SKCは蔚山に原料POの2工場とポリオール工場をもつ。既に中国、米国、ポーランドにシステム製品事業を単独で行なっていた。これを世界中に拡大しようというのは当然のことであろう。
JV設立後に、メキシコとインドで新工場を稼働、ロシア(サンクトペテルブルクの特別経済区)での投資を決めている。

JV設立時に 三井化学は、ポリウレタン材料の総合メーカーとして、極東アジアから中国、ASEAN、欧州、米州まで、両社のネットワークを利用してグローバルに顧客に価値を提供するとしている。

何故SKCのグローバル進出などの成長重視する方針が受け入れられないのだろうか。

これは口実で、何らかの利害対立があるのだろうか。



2021/10/7    ヘリオス、新型コロナウイルスによる重症肺炎の治療薬候補を承認申請へ

バイオ企業のヘリオスが、新型コロナウイルス患者の死亡原因の一つである重症肺炎などに生じる呼吸不全を治療する新薬候補について、2021年内にも厚生労働省に製造販売承認を申請すると報じられた。最終段階の臨床試験(治験)で良好な結果を確認した。

急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome:ARDS)は、重症肺炎、敗血症や外傷などの様々な疾患が原因となり重度の呼吸不全となる症状の総称で、炎症性細胞が活性化され、肺の組織である肺胞や毛細血管に傷害を与える。その結果、肺に水がたまり、重度の呼吸不全が引き起こされる。

ARDSは一般的に、原因となる疾患や外傷が発生してから24〜48時間以内に発生すると言われており、発症後の死亡率は全体の30〜58%とされ、極めて予後が悪い疾患である。

日本におけるARDS患者数は12,000人程度と推測されている。

ARDSに対する治療として、集中治療室で気管チューブやマスクを使った人工呼吸管理による呼吸不全に対する治療が行われるが、人工呼吸器の使用が長期化すると、患者の予後が悪くなる。
薬物療法も行われるが、現時点において、ARDSを発症した際の生命予後を直接改善できる治療薬はない。

ヘリオスの急性呼吸窮迫症候群(ARDS)治療法は、ARDSと診断された患者に米国のAthersys, Inc が創製した幹細胞製品MultiStem®(HLCM051) を一定の時間内に静脈投与するもの。

体性幹細胞には、神経幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞など複数の種類があり、生体のさまざまな組織に存在する。Athersysの創製した幹細胞製品MultiStem®(HLCM051)は、ヒト骨髄由来の細胞製剤である。

ARDSを発症した患者に静脈投与されたHLCM051は、肺に集積して過剰炎症を抑制し、さらに損傷を受けた組織を保護し、修復を促進することで肺機能を改善すると考えられる。これらの作用により、人工呼吸器からの早期脱却、死亡率の低下などが期待されている。

Athersysの創製したHLCM051は、ヒト骨髄由来の細胞製剤で、凍結保存により長期保管が可能、免疫抑制剤が不要、静脈注射(点滴)で投与された細胞は体内へ蓄積することなく消失、といった特徴を有している。

 

ーーー

ヘリオス(Healios)は旧称 日本網膜研究所で、2011年に設立され、2013年9月に改称した。

Healiosは、Helios(太陽の神)とHeal(癒す)の二つの言葉から構成され、難治性疾患治療の新たな希望の光と、疾患に侵された患者様を癒していきたいという願いが込められている。

同社の事業の1つはiPSC再生医薬品事業で、iPS細胞を分化誘導して人体と近似の機能を持つ細胞を作製し、その細胞を移植する

  開発コード 対象 地域 開発段階  
がん免疫 HLCN061 固形がん 日本・欧米 前臨床試験 遺伝子編集Natural Killer細胞を自社で開発
細胞置換 HLCR011 滲出型加齢黄斑変性 日本 同上 大日本住友製薬と共同開発
HLCR012 萎縮型加齢黄斑変性 欧米 同上  
HLCL041 代謝性肝疾患 日本 同上  

2013/12/4  大日本住友製薬と理研認定ベンチャーのヘリオス、iPS細胞由来医薬品を共同開発

もう一つの事業として、ヘリオスは米国のAthersys, Inc が創製した幹細胞製品MultiStem®(HLCM051)を用いた国内におけるARDSの治療法の開発・販売権を取得し、新規の細胞治療法を開発している。

Athersysは、人の寿命を延ばし、生活の質を向上させる治療薬候補品の探索や開発に注力する国際的なバイオテクノロジー企業で、開発中の MultiStem を用いた細胞治療医薬品は、特許取得済みの成人由来の量産可能な幹細胞製品である。

現在、心血管、神経、炎症、免疫系の疾患領域を適応症として複数の臨床試験実施し再生医療製品としての評価を行っている。

Athersysは2020年4月に新型コロナウイルス感染症を起因とするARDS患者を対象とした第II/III相試験を開始した。
 
ヘリオスは、2016年にAthersys, Inc.とライセンス契約を締結し、体性幹細胞再生医薬品の開発を開始した。

日本国内における MultiStem®を用いた脳梗塞の治療を目的としたしい細胞治療医薬品の開発および販売に関する独占ライセンス契約
脳梗塞以外の適応症についてはライセンス
オプション契約

2018 年6月に同社との提携を拡大し、日本における急性呼吸窮迫症候群に対する開発・販売ライセンスを取得した。

現在の状況

  開発コード 対象 地域 開発段階  
炎症 HLCM051 脳梗塞急性期 日本 Phase 2/3 先駆け審査指定
ARDS 日本 Phase 2 希少疾病用再生医療等製品指定 申請準備中

脳梗塞の治療:
脳梗塞は脳の血管が詰まり、その先の細胞に栄養が届かなくなり、脳の働きに障害が起きる。脳組織の壊死によって発症早期に大きな炎症がひき起こされ、炎症はそれから数日間続き、脳梗塞の病態が悪化する。
一般的に脳の血管に詰まった血の塊を溶かす「血栓溶解療法(t-PA治療)」や、閉塞した脳動脈内の血栓を直接回収する等で血流を再開させる「機械的血栓回収療法」が用いられるが、「血栓溶解療法」の適応は発症後4.5時間以内、「機械的血栓回収療法」でも8時間以内に限定される。
このため脳梗塞発症後から時間が経過した後でも、治療に効果的である新薬の開発が待ち望まれている。

HLCM051は、免疫応答の場である脾臓で炎症免疫細胞の活性化を抑制することにより、炎症や免疫反応を抑えて神経細胞の損傷を抑制、さらに、抗炎症性細胞を増殖させ、栄養因子を放出することで神経保護作用などが期待される。

 

同社は8月6日、ARDS患者への治験の結果を速報した。

投与後28 日間のうち人工呼吸器を装着しなかった日数は、標準治療群は11日に対し、HLCM051 投与群 は20日
投与後90日の死亡率は、
標準治療群は42.9%に対し、HLCM051 投与群 は26.3%
安全性に問題は認められず。

引き続き本治験のデータの解析を続けるとともに、規制当局との相談を続けながら、製造販売承認申請に向けた準備を進める。


2021年8月、ヘリオスはAthersys, Inc. との契約を変更し、商用化に向け新たなライセンスを取得するとともに、今後Athersysへのさらなる戦略的投資を可能にする新株予約権引き受ける契約を締結した。

日本国内における脳梗塞急性期およびARDS を対象とした治療薬の製造ライセンスを取得

日本国内向け治療薬の商用製造に関わる試験費用および製造キャパシティの拡張等に際し、その費用の一部を負担
(将来の支払い
マイルストン金から減額)

脳梗塞急性期および ARDS 以外の新たな適応疾患(最大2疾患)を対象とした治療薬の開発・製造・販売に関するライセンスを取得するオプション権取得

Athersysの普通株式を最大10 百万株新たに購入する権利を取得

2018年3月提携関係の強化のため、同社株式 1,200 万株(21百万ドル)を取得、8.7%の筆頭株主
2020年3月に400万株(7百万ドル)を追加取得、これで9.4%の出資となる。

 


2021/10/8 台湾の鴻海、米EV新興Lordstown Motors の工場買収 

台湾の電子製品受託生産大手、鴻海精密工業(Foxconn)は9月30日、米新興電気自動車メーカーLordstown Motors Corp が保有する組立工場を2億3000万ドルで買収し、新型ピックアップトラックの生産を引き継ぐと発表した。今後6カ月以内に契約完了を目指す。

Lordstown Motors は経営の混乱からEVの自社生産を断念し、鴻海に生産を委託する。鴻海にとっては米国初のEVの生産拠点となる。

基本合意は次の通り。

鴻海は2億3000万ドルで工場を買収する。ハブモーター組立ライン、バッテリーモジュール、梱包ラインなど一部の資産や、特定の知的財産権は含まれない。

鴻海は5000万ドル分のLordstownの普通株も購入する。

鴻海がLordstownのフルサイズのピックアップトラックEnduranceを同工場で組み立てるための受託生産契約を交渉 (この契約締結が工場購入の条件)

鴻海は、EVメーカーFisker Incと提携しており、同社からも生産を受託する。

鴻海とFiskerは本年5月、Project PEARというプログラムで新しいEVを共同開発・生産する契約を交わした。Personal Electric Automotive Revolutionの頭文字を取っているプロジェクトPEARの車両はFiskerブランドとして北米、欧州、中国、インドで販売される。
生産準備は米国で2023年末までに始まる予定で、2024年に本格生産に入る。

鴻海はEV事業の本格参入を目指し、「全世界に工場を造る」(劉董事長)としている。7月には、米国ではウィスコンシン州と立地協議を進めていると公表していたが、その後、交渉難航が伝えられ た。

今回、戦略を変更し、Lordstownの工場買収に踏み切った と見られる。劉董事長は、今回の合意について、鴻海が「北米でEVの生産能力を前倒しで確保する目標」の達成に寄与すると述べた。

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GMは2018年に3つの工場の閉鎖と、ミシガン州Hamtramckの工場をEVトラックの生産に切り替えることを発表した。
その後、全米自動車労組(UAW)との協議が長引く中で長期のストライキもあったが、2019年秋に合意にこぎつけ、工場の再編計画が具体的に動き出した。

その一環として、GMはオハイオ州 Lordstownの自動車生産工場を閉鎖し、設備の一部をEVトラック専業の地元のスタートアップ企業Lordstown Motors に売却した。

Lordstown Motorsは2021年後半から、Lordtownの旧GM組立工場でピックアップトラック「Endurance」の生産を開始する計画を立てていた。

2021年1月にLordstownのEnduranceの予約注文が10万台に達したと発表されたが、2021年3月に空売り筋のHindenburg Research(以前に Nikola Motorに関して「試作品と技術が全て偽の詐欺企業」と発表)がLordstown Motorsについて、「収益も販売可能な製品もない会社であり、その需要と生産能力の両方について投資家を欺いていると考えられる」と発表した。

その2カ月後、Lordstownは、「資金不足のためEnduranceの生産台数が約2200台からわずか1000台に半減する可能性が高い」と報告した。

同社は本年6月、米証券取引委員会への届け出で「Going Concernの前提に疑義が生じている」と開示した。初のピックアップトラック開発に必要な現金が不足する恐れがあり、資本を追加調達できなければ向こう1年以内に存続できなく可能性があると説明した。

6月14日にCEOとCFOが直ちに辞任した。自動車の予約注文に関する発表の一部に不正確な内容が含まれていたことも明らかにした。

その後、投資会社Yorkville Advisorsが運用するヘッジファンドが、3年間で4億ドル相当の株式を購入することに合意したことが7月26日に明らかになった。

しかし、自社生産を諦め、鴻海に生産委託することとしたもの。

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「全世界に工場を造る」とする鴻海精密工業は2021年1月、中国の電気自動車の新興メーカーである拝騰(Byton)と提携し、EVの量産に乗り出すと発表した。2022年1〜3月期の量産を予定する 計画であった。

拝騰(Byton)は南京が拠点で、2020年1月にSUVの量産モデル「M-Byte」を発表、“Tesla Killer”、“Red Killer” と呼ばれた。

丸紅は2020 16日、拝騰との資本業務提携を発表した。戦略的パートナーとして、モビリティ事業EV バッテリーマネジメント事業、海外事業を中心に協業するとした。

しかし、直後から資金繰りが悪化し、2020年夏に事業停止に追い込まれた。

拝騰は2021年1月に鴻海との提携を発表したが、再度資金繰りが悪化、一部の債権者が7月に南京市の裁判所に「破産重整」と呼ばれる再建型の倒産手続きを申し立てた。

拝騰は鴻海と提携する一方で、2020年9月に設立した関連会社「盛騰汽車」にEVの開発や生産などの主要な事業を移管している。 これには中国国有自動車大手、中国第一汽車集団などが出資しており、盛騰のEV関連事業は継続するとみられる。


2021/10/9   WHO、マラリアワクチン使用を初めて推奨  

WHOは10月6日、英製薬大手の GlaxoSmithKline (GSK)が開発したマラリア予防のワクチンRTS,S/AS01(商品名 Mosquirix)の使用を初めて推奨すると発表した。これまでWHOの基準を満たすマラリアワクチンは存在していなかった。

GSKのワクチンは、PATH Malaria Vaccine Initiative と組んで開発された。
これは米国のNPO団体のPATH (Program for Appropriate Technology in Health) がBill & Melinda Gates Foundationの寄付を受けて1999年に始めたプログラムで、「マラリア撲滅」を目指して国際的なマラリアワクチンの研究開発を強力に支援 するものである。

GSKは2015年7月、欧州医薬品庁が、世界初のマラリアワクチン Mosquirixに6週〜17カ月の乳幼児を対象とした使用について科学的見地にもとづく承認勧告を行ったと発表した。これはサハラ以南のアフリカで乳幼児に予防接種を始める根拠となる。

WHOは2019年4月、アフリカの3カ国で年間約36万人の子どもを対象にマラリアワクチンの接種を始めると発表した。

2019年以降、ガーナ、ケニア、マラウイのアフリカ3カ国で試験的に80万人以上の子供に接種して効果を調べ た。マラリアの発症を39%、重症化を29%防ぐことができることが分かった。

直接の効果は大きくないが、殺虫剤コーティングの蚊帳などその他のマラリア対策を組み合わせることで、毎年26万人以上とされるマラリアの犠牲になる子供たちから数万人を助けられるとしている。

テドロス事務局長は「マラリアワクチンは長い間実現できない夢だった。30年以上かけて作られたこのワクチンが公衆衛生の歴史を変える」と述べた。

ーーー

マラリアは、ハマダラ蚊に寄生するマラリア原虫により感染し、発症する。

ハマダラ蚊が産卵のため吸血する際、蚊の唾液腺に集積していたマラリア原虫が ヒトの体内に侵入する。ヒトの体内で形を変えながら増殖を繰り返し、マラリアを発症させ、別の蚊が吸血する際に再び蚊に感染する。 これによりマラリア感染を拡大させる。

マラリアワクチンは、ウイルスではなく、マラリア原虫を対象にするもので、3つの種類がある。

 感染阻止ワクチン:原虫(スポロゾイト形態)のヒトへの感染を阻止する。
 発病阻止ワクチン:ヒト体内で赤血球期原虫(メロゾイト形態)の増殖を阻止する。
 伝播阻止ワクチン:ワクチン接種後の血を吸ったハマダラ蚊の中でマラリア原虫(オーシスト形態)の発育を阻止する。


https://www.ds-pharma.co.jp/press/pdf/pr20200403.pdf

GSKのワクチン(RTS,S)は感染阻止ワクチンで、原虫が血液に入った時に肝臓に移り、成長し、増殖するのを防ぐ。

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GSK以外にも多くの企業がマラリアワクチンを開発している。

愛媛大学プロテオサイエンスセンターと大日本住友製薬は2020年4月3日、米国のNPO団体のPATHProgram for Appropriate Technology in Health)と3進めている「新規マラリア阻止ワクチンの前臨床開発プロジェクト、公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金GHIT Fund)の助成案件に選定されたと発表した。

このワクチンはヒトから蚊への原虫感染サイクルを断つことができるマラリア伝阻止ワクチン候補製剤である。

ワクチンを接種した人には効果はないが、その血を吸った蚊の中のマラリア原虫が激減するため、さらなる感染の拡大を防ぐワクチンとして期待されている。コミュニティー全体をマラリア感染から守る。

2020/4/8   愛媛大学と大日本住友製薬、新規マラリア伝搬阻止ワクチン開発へ

赤畑渉博士が米国で設立した創薬ベンチャー VLP Therapeuticsは2019年2月4日、独自技術 i-αVLP (inserted alpha VLP) Technology で開発したマラリアワクチン候補 VLPM01の新薬臨床試験開始届(IND)が米食品医薬品局(FDA)により認可され、フェーズ I/IIa の患者登録を開始したことを明らかにした。Walter Reed Army Institute of Research で臨床試験が実施される。

2019/3/5   マラリアワクチンの臨床試験 開始

Pfizerと共同で新型コロナウイルスワクチン(mRNAワクチン)を開発したドイツの BioNTechは2021年7月26日、この経験を生かして mRNA技術に基づく初のマラリア予防ワクチンを開発し、2022年末までに臨床試験を開始する目標を明らかにした。同社はまたアフリカ大陸における生産能力拡大に向けた取り組みの一環として、アフリカでのワクチン生産も検討している。

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現在、世界で年間40万人以上がマラリアで死亡し、5歳以下の子どもが約3分の2を占める。症例と死亡者の9割以上がアフリカに集中している。

以前はハマダラ蚊の駆除にDDTが使用され、効果を挙げていた。

しかし、レイチェル・カーソンが1962年、著書「沈黙の春」でDDTの生態系への影響を指摘、他の研究者からも発がん性やホルモンに似た作用があるという報告が相次いだ。このため、80年代に各国で使用禁止となった。

スリランカでは1948年から62年までDDTの定期散布を行ない、それまで年間250万人を数えたマラリア患者の数を31人にまで激減させることに成功していたが、DDT禁止後には僅か5年足らずで年間250万人に逆戻りした。

WHOは2006年915日、マラリア蔓延地区においてDDT室内散布を推奨すると発表した。以前のように戸外で散布し、ボーフラ駆除で蚊の繁殖を防ぐものではない。

2006/10/23  WHO、マラリア防止にDDT使用を推奨

国際的にDDTの製造、輸入・使用を制限している条約には2004年に50カ国以上が締結し発効された「残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約」があるが、DDTに関しては、条項として、「WHOの勧告及び指針に基づいた疾病を媒介する動物の防除に限り、安全で効果的かつ入手可能な代替品がない場合はDDTの製造と使用を認める」としている。
2007年の第3回締約国会議においては、一部の国で伝染病防止のためにDDTを引き続き使用する必要性があるとの結論が示されており、今後も必要性確認のための評価を行うことが議決されている。

現在、住友化学のピレスロイド系殺虫剤を練り込んだ長期残効型防虫蚊帳 Olyset Net が、WHOからも使用を推奨され、広く使用されている。今後もワクチンと併せて使用されると見られる。

2013/6/8 住友化学のOlyset Net  

これについては、経緯を記した本が出版されている。

2017/7/29 本の紹介 「日本人ビジネスマン、アフリカで蚊帳を売る: なぜ、日本企業の防虫蚊帳がケニアでトップシェアをとれたのか? 」 

2020年9月14日のNHK TV「逆転人生」で、ドキュメンタリー「マラリアを予防せよ 命の蚊帳を世界に届ける」が紹介された。


2021/10/11     2021年ノーベル化学賞

2021年のノーベル化学賞は独Max-Planck-Institut のBenjamin List所長と 米Princeton UniversityのDavid MacMillan教授に与えらえた。

受賞理由は「不斉有機触媒の開発」“for the development of asymmetric organocatalysis” )で、次のように説明している。

触媒は化学者にとって基本的なツールだが、研究者たちは、原則として、金属と酵素の2種類の触媒しか利用できないと長い間信じていた。

Benjamin ListDavid MacMillanは、2000年に互いに独立して、第3のタイプの触媒作用を開発した。これは不斉有機触媒と呼ばれ、小さな有機分子に基づいて構築される。ノーベル化学委員会の委員長は、「この触媒作用の概念は、独創的であると同時に単純である。実際、多くの人が、なぜ以前にそれを考えなかったのか疑問に思っている」と述べている。

有機触媒は、より活性な化学基が結合できる炭素原子の安定したフレームワークを持っている。これらには、酸素、窒素、硫黄、リンなどの一般的な元素が含まれていることがよくある。
これは、これらの触媒が環境に優しく、安価に製造できることを意味する。有機触媒の使用が急速に拡大しているのは、主に不斉触媒作用を促進する能力によるものである。

分子が構築されているとき、2つの異なる分子(注 光学異性体)が形成される状況がしばしば発生する。これは、手と同じように、お互いの鏡像である。
化学者は、特に医薬品を製造する場合、これらのうちの1つだけを必要とすることがよくある。

有機触媒作用は2000年以来、驚異的なスピードで発展してきた。2人はこの分野のリーダーであり続け、有機触媒を使用して多数の化学反応を促進できることを示している。これらの反応を使用して、研究者は新しい医薬品から太陽電池の光を取り込むことができる分子まで、あらゆるものをより効率的に構築できるようになった。このように、有機触媒は人類に最大の利益をもたらしている。

ーーー

光学異性体は鏡に映った像のように左右が反対の立体構造を持つ化学物質である。

医薬品などの場合、通常このうち一方しか役に立たない。医薬品のサリドマイドでは片方に鎮静効果があり有用だが、もう片方に奇形を起こす作用があったため悲惨な薬害をもたらした。

これまでの化学合成では両方のタイプが半分ずつできてしまうため、有用なタイプだけを効率よく作り出すことが難しかった。150年前にフランスのパスツールは「人工的な方法では不可能」とした。

これを解決したのが、野依良治博士、元MonsantoのWilliam Knowles、Scripps Research InstituteのBarry Sharplessで、2001年のノーベル化学賞を受賞した。

授賞理由は「触媒による不斉合成反応の研究」で、不斉触媒を使って光学異性体を作り分ける技術である。

こうした作り分けは生物の体内で起きている生化学反応でしかできないとされていたが、野依博士は1966年、28歳の若さでこうした物質の作り分けを可能とする「不斉触媒」のアイデアを発表、1980年に実用的な触媒を開発することに成功し、有用物質だけを量産する技術の確立に貢献した。

野依教授らの成果は香料や医薬品の生産など、1980年代以降、様々な分野で実用化された。

https://www.knak.jp/munikai/FYI/noyori-n.htm

「触媒的不斉合成」は医薬品化学・精密有機合成の発展に大きく貢献 したが、大きな問題があった。

これまで、触媒には金属と酵素(生体内の反応)の2種類の触媒しか利用できないと考えられており、不斉合成にはパラジウムなどの金属触媒が使われた。

しかし金属触媒は、高活性なものが多い一方で、金属自体が高価・有毒・廃棄困難であったり、触媒自体も水や酸素に不安定で取扱い困難なものが多かったりと、問題が多かった。医薬品などで反応生成物に金属の混入があると大変である。

この問題を解決したのが今回の「有機触媒」である。触媒活性を有する金属を含まない低分子有機化合物のことで 、炭素の骨組みと酸素や窒素、リンなどの元素で構成され、構造が簡素なため、取扱いや構造のチューニングが簡単であり、安定・安価・環境に優しいなどの利点がある 。(「有機触媒」は2000年にMacMillan定義した。)

この触媒は金属を使わないことから、医薬品などを作る際にも、より安全に作ることができるし、安価に作れる 。

ーーー

触媒には金属と酵素(生体内の反応)の2種類の触媒しか利用できないと考えられていたとしたが、実は1971年にUlrich らが最初の有機触媒としてタンパク質を構成するアミノ酸の一つであるL-プロリを発見している。ビシクロケトンを不斉合成した。

この報告以来、どういうわけか長くプロリンは不斉触媒として用いられなかった。

しかし、2000年にこれが急転換した。

2000年に、Benjamin Listらによりプロリンを用いた分子間直接的不斉アルドール反応 (List-Barbas Aldol Reaction)がアメリカ化学会誌に報告された。

分子間反応でもプロリンが不斉触媒として有効に働く、ということを示した初めての例で、これ以降、有機触媒研究のブームに火がついた。

 

David MacMillanはMacMillan触媒を開発した。種々のα-アミノ酸から容易に調製可能であり、エナールを基質とする不斉共役付加反応を高い不斉収率にて進行させる。

2人は有機触媒の分野の研究で大きな貢献をしたことが評価され、受賞した。選考委員会は、彼らが開発した有機触媒を利用することで新たな医薬品などを効率的に作り出せるようになったとしてい る。

現在では、不斉有機触媒はインフルエンザ治療薬「タミフル」の生産工程の効率化や、太陽電池で用いる分子の合成など幅広い分野で応用されている。

ーーー

Benjamin List氏は2018年から北海道大学の 化学反応創成研究拠点 (ICReDD) の主任研究者として有機触媒を用いた新規反応開発に係る研究に取り組んでおり、2020年5月から特任教授 になっている。

北大の化学反応創成研究拠点 (ICReDD) は医薬品など新素材の開発につながる化学反応を計算科学や実験科学などを融合して効率良く見つけるのが目的で2018年に創設された 。国が年7億円の補助金を支出し、国内外の卓越した研究者約75人が研究している。同氏はこれに共感し、ICReDDのスローガンとして「化学反応のデザインと発見を革新する」を考案した。

 


2021/10/12   米上院、債務上限の一時引き上げ可決 

米上院は10月7日、政府の債務上限を一時的に引き上げる法案を可決した。下院は10月12日に可決する予定。
ただし、本格的な問題解決ではなく、単に2カ月だけ時間稼ぎをしただけである。今後も緊張が続く。

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米国では債務上限が法律で決まっている。予算の運営のためには、別の法律により、これらを引き上げる必要がある。

2019年7月22日に2021年7月末まで債務上限の2年間棚上げを決めたが、その期限がきた。

2019年3月1日時点の債務上限の22兆289億ドルに、それ以降 7月31日までに追加で借り入れた約6.5兆ドルを加えた28.401兆ドルが新しい債務上限となり、上限を引き上げるか、凍結するかを新たに決めるまでは、借入は出来ない。

2021/7/26 米国、債務上限復活 

また、10月1日から始まる新年度の予算も月末までに通る可能性はなく、政府機関閉鎖を避けるためには暫定予算が必要である。

このため、下院は9月21日、本年12月3日までのつなぎ予算と、連邦政府の債務上限の適用を2022年12月16日まで凍結する措置を一体化した民主党提出の法案を可決した。

2021/9/23 米下院、つなぎ予算・債務上限凍結一体化法案を可決 

しかし、上院共和党は9月27日、この法案を本会議で採決することを否決した。60票が必要だが、共和党、民主党から各1議員が棄権したほか、民主党の1議員が反対にまわった。

このため、民主党はつなぎ予算と債務上限を切り離し、とりあえずつなぎ予算を通すこととした。

上下院は9月30日に、10月1日から始まる2022会計年度の一部資金を手当する12月3日までのつなぎ予算案を可決した。

2021/10/2 米、政府機関の閉鎖回避 12月までのつなぎ予算成立  

別途、下院は9月29日遅くに債務上限適用を2022年12月まで凍結する法案を可決したが、上院では共和党が反対を続けた。

 

つなぎ予算否決なら政府機関閉鎖となり、債務上限を引上げ又は凍結しなければ米国がデフォルトとなるため、共和党もあくまで反対し続けることは出来ない。

しかし、強硬に反対を続けるのは、来年秋の中間選挙のための選挙戦略である。債務増の原因が民主党にあることを選挙民に印象づけ、民主党反対にまわらそうとするものである。

民主党は現在、10年で総額3.5兆ドル規模の財政支出をめざす法案の成立をめざしている。共和党の上院でのフィルバスターを使っての採決拒否を防ぐため、過半数で可決できる「予算決議案→財政調整措置」を使う。

共和党はこれに反対しており、債務上限を引き上げるざるを得ないのは民主党のこの法案のためであると主張、民主党の責任で債務上限を引上げろと主張している。

他方、民主党は財政赤字はトランプ政権時の多額の支出も影響しており、共同で2022年12月までの凍結法案を通すべきだと主張した。

最終的に民主党は、共和党上院トップのマコネル院内総務の案に乗らざるをえなくなった。

@まず債務上限を4,800億ドルだけ引き上げる。これは12月3日までの債務借入額に相当する。

A民主党は現在単独での可決を目指して進めている10年で総額3.5兆ドル規模の支出法案を修正し、債務上限を本格的に引き上げる法案を折り込む。

これによると、債務上限引き上げは「予算決議案→財政調整措置」方式により上院で共和党の反対、民主党の賛成(同数の場合、上院議長である副大統領が1票)で可決することになり、共和党は民主党が債務を引き上げたと主張できることになる。


上院は10月7日、債務上限を4,800億ドル引き上げる法案を審議した。

まず、法案を審議するかどうかについて投票した。共和党内でマコネル院内総務の案に反対し、徹底反対を主張する議員がいるなかで、11名の議員が賛成し、合計の賛成が61票となり、フィリバスターは禁止され、法案は過半数で議決できることとなった。

  共和党 民主党 民主系
無所属
合計
賛成 11 48 2 61
反対 38     38
棄権 1     1
合計 50 48 2 100

このあと、法案が審議され、共和党の2議員が棄権したため、50対48で可決された。

  共和党 民主党 民主系
無所属
合計
賛成   48 2 50
反対 48     48
棄権 2     2
合計 50 48 2 100

下院が議決するのは確実で、大統領の署名を得て、法案となる。

 

付記

下院は10月12日、可決した。バイデン大統領は10月14日にこれに署名、成立した。

  共和党 民主党 合計 欠員
賛成   219 219  
反対 206   206  
棄権 6 1 7  
改選後 212 220 432 3

 

但し、予算は12月3日までのものである。債務も同日頃までの借入で今回の上限に達する。

両党はそれまでに10月1日からの年度の予算を通す必要がある。民主党はそれまでに10年で総額3.5兆ドル規模の支出法案に本格的な債務上限引上げを折り込み、可決する必要がある。

しかし、民主党内で、党内の急進左派が子育て支援などの「3.5兆ドル法案」(予算決議に基づく具体的な予算案)を可決するまでインフラ法案に賛成しないと主張し、財政膨張を懸念する中道派議員は3.5兆ドル法案の規模圧縮を要求し、与党内の調整がつかない状況である。

とりあえず、政府機関閉鎖とデフォルトは回避したが、たった2か月延ばしただけである。今後も緊張は続く。


2021/10/12  国際課税の新ルール、136カ国・地域が合意 

経済協力開発機構(OECD)は10月8日、2013年から本格的な交渉を続けてきた新たな国際課税の新ルールに、136カ国・地域が最終合意したと発表した。

経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対処するための二本の柱からなる解決策」に関する声明に参加した。

下記の2項目について、2023年からの実施を目指す。およそ100年前に整備された現在の課税ルールが転換されることになる。

1) 巨大ITなど多国籍企業の税逃れを防ぐ「デジタル課税」を導入

2) 法人税の引き下げ競争に歯止めをかけるため各国共通の「法人税の最低税率」を15%にする。

10月13日にワシントンDCで開催されるG20財務大臣会合に提出され、その後、10月末にローマで開催されるG20首脳会議にも提出される。

各国・地域は2022年に条約の締結や法改正を進め、2023年から導入する。

付記 G20財務相・中央銀行総裁会議は10月13日、この合意を支持した。

付記

2022年7月16日閉幕したG20 財務相・中央銀行総裁会議の議長総括で、巨大ITなどに課すデジタル課税について「2023年前半までの多国間条約への署名」を求めると明記した。当初の計画から1年遅れ、発効は2024年にずれ込む見通し。

OECD加盟国など約130カ国が2021年10月に合意した際、いずれも2023年の導入を目指していた。
 

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経済のデジタル化に対応した国際的な法人課税ルールを巡り、経済協力開発機構(OECD)加盟国を含む130カ国・地域が7月1日に大枠合意した。

G20財務相・中央銀行総裁会議は7月10日、経済協力開発機構(OECD)が事務レベルで合意した内容をG20として承認した。法人税の国際的な最低税率とデジタル課税の同時決着をめざす。

制度の詳細を詰め、10月の最終決着をめざす。OECDの交渉に参加した139カ国・地域のうち、8カ国がまだ合意に加わっていないが、こうした国にも同意を呼びかける。

この時点ではEU加盟国のうち、Ireland、Estonia、Hungary が参加していない。

2021/7/5 法人課税強化、大枠で国際合意 

その後、交渉参加国は140か国となったが、今回、アイルランドやハンガリーなどを含め世界のGDPの90%以上を占める136カ国・地域 が合意し、OECD/G20の全加盟国が支持した。

ケニア、ナイジェリア、パキスタン、スリランカの4カ国がまだ参加していない。

今回合意した内容は次の通り。

 

1) デジタル課税:

現在のルールでは、多国籍企業が、ある国で膨大な利益を上げていても、恒久的施設を持たない限り課税できない。
国境を越えインターネットを通じて動画や音楽などのコンテンツを提供している企業に対しては、恒久的施設が無い場合、法人税を課税することができない。

今後は、恒久的施設を持たない国でも一定の課税ができるようにし、各国間の利益と課税権のより公平な配分を確保する 。

 対象企業:世界全体の利益が200億ユーロを超え、かつ、利益率が10%を超える多国籍企業 (約100社)

 新ルール:

@売上高の10%を超える超過利益の25%を市場のある国に再配分する。

 下図の通り、売上高の10%を超える利益の25%を市場国に売上高比で配分する。

A各国が独自に導入したデジタルサービス税などは廃止する。
 

 影響:毎年1,250億米ドル超の利益に対する課税権 が市場国へ再配分されると見込まれている。

 実施:2022年に


付記

移行期間の対応で米欧が対立した。
米国は現在の課税を即座に撤廃するよう求めたが、欧州各国は発効までの先行きが不透明だとして独自課税を続ける意向を示した。

これについて、米国と欧州5カ国(英、仏、イタリア、スペイン、オーストリア)は10月21日、妥協案に達したと発表した。

内容は下記の通り。

欧州各国はデジタル課税の国際条約が発効するまで独自のデジタルサービス税を続ける。
新枠組みの下で支払うべき税を超える部分は、将来の納税額から控除される。

米国は5カ国に警告していた報復関税措置の導入を取りやめる。

米国はトルコとインドにも制裁関税を検討しているが、両国は今回の合意に含まれていない。

2) 法人税最低税率

世界的な最低法人税率を導入する。

 対象企業:売上高が7億5,000万ユーロの企業

 最低税率:15% 7月の大枠合意では「少なくとも15%」だったが、修正の結果、参加を留保していたアイルランドも加わった。

 具体的措置:低い税率の国に子会社を作った企業には、親会社がある国は15%との差額分の法人税を親会社に上乗せする。

 例外措置:@現地で操業している子会社(工場などがあり、従業員がいる)の場合、税負担の大幅増を回避する特例措置

        子会社の税額を計算する際、対象利益から有形資産や支払い給与の5%に相当する金額を 差し引くことカーブアウトを認める。
        有形資産は当初8%、支払い給与は10%を除外対象とし、次の5年で年0.2%分ずつ1%分を下げ、次の5年で残り分を下げ、ともに5%とする。

      A制度開始の10年間は移行期間とする。(当初は5年であったが10年に延ばした。)

法人税率が9%と低く、ことし7月の大枠合意には加わっていなかったハンガリーは、提案した10年間の移行期間などが認められたとして参加した。「現在の法人税率9%は変わらない。ハンガリーが勝利した」としている。

あるNGOは、「土壇場で10年間の猶予期間が設けられ、抜け穴もあり、実際には名ばかりだ」と批判している。

 影響:世界全体で年間約1,500億米ドルの追加税収が発生すると推定
    国際課税制度が安定し、納税者と税務当局にとっての税の確実性が高まることで、さらなる便益が生まれる。


2021/10/13   EU首脳、バルカン6カ国の加盟を確約 期限設定は見送り

 

EU加盟27カ国は10月6日、スロベニアで開いた首脳会議で、セルビアやアルバニアなどバルカン諸国6カ国の将来的なEU加盟を確約した。

EU首脳は、セルビア、モンテネグロ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニア、コソボ、アルバニアの6カ国について、司法改革や経済状態を含む基準を満たせばEUに加盟できるとの見解で一致した。声明で「EUは拡大プロセスへのコミットメントを改めて確認する」とし、「西バルカン諸国の欧州的な展望に対する揺るぎない支持」を表明した。ただ、これらの国の「信頼できる改革」や「公正で厳格な条件」などを注視するとも明記した。

更に、今後7年に亘ってインフラ整備や気候変動対策にあてる約300億ユーロの支援策を明記した。

しかし、移民・難民問題への警戒から2030年の加盟を目指すとする期限は設定しなかった。
フランスやオランダは、域内の自由な移動を認めるEUにバルカン諸国が加盟すれば難民の流入増につながる恐れがあると警戒、加盟期限の設定に反対した。議長国のスロベニアは2030年までの加盟を目指すことで合意するよう呼び掛けていたが、今回の首脳会議では期限の設定は見送られた。

付記

EUは2022年7月19日、北マケドニアとアルバニアの2国とEU加盟に向けた交渉を正式に開始した。

ーーー

西バルカン各国はこうした状況にいらだっており、セルビア、北マケドニア、アルバニアの3カ国は本年7月末、ヒトやモノ、カネの自由な移動を保障する独自の自由経済圏構想を立ち上げると表明した。

具体的には、3カ国間での労働や滞在許可証の取得手続きを簡素化する。貿易を促進するため貨物輸送の待ち時間を短縮するほか、税関などでのデータもやりとりする。順調にいけば構想は年内にも実現する見通しで、2023年からは相互の国境管理を撤廃することでも合意した。最終的にはモンテネグロなど他の周辺国も参加する可能性がある。

西バルカン諸国のEU加盟交渉がとん挫すれば、同地域と歴史的あるいは経済的に利害関係にあるロシアや中国といったライバルや敵対国が影響力を強めるとの懸念がくすぶっており、バイデン政権関係者も警戒している。

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英国が抜けて、現在のEU加盟国は27カ国。6カ国が加わると33か国となる。

バルカン半島の旧ユーゴスラビアのうち、スロベニアとクロアチアは既にEUに加盟している。

現在、残りの北マケドニア、ボスニア、セルビア、モンテネグロとコソボ、及び隣接のアルバニアがEU加盟候補となっている。

このうち、セルビアとモンテネグロが交渉が進展している。セルビアは2013年にクロアチアと同時加盟を狙ったが、セルビアから独立したコソボとの関係が正常化せず、EU側が先送りした。

北マケドニアとアルバニアは交渉開始待ちである。ブルガリアは言語をめぐる歴史認識の違いから、北マケドニアの加盟には反対している。

 

NATOとEUの加盟状況は下記の通り。旧ソ連

NATO EU
原加盟国 米国 対象外
カナダ
イタリア 1952
オランダ
フランス
ベルギー
ルクセンブルク
英国 加盟→離脱 1973
2020/1/31
デンマーク 1973
ポルトガル 1986
アイスランド

非加盟

ノルウェー
1952/2

ギリシャ

1981
トルコ 非加盟
1955/5 ドイツ(西ドイツ) 1952
1982/5 スペイン 1986
1999/3 チェコ 2004/5
ポーランド
ハンガリー
2004/3 エストニア 2004/5
ラトビア
リトアニア 
スロバキア
スロベニア
ブルガリア 2007/1
ルーマニア
2009/4 アルバニア 非加盟
クロアチア 2013/7
2017/6 モンテネグロ 非加盟
2019 マケドニア
非加盟 アイルランド 1973
オーストリア 1995
フィンランド
スウエーデン
キプロス 2004/5
マルタ
非加盟 スイス 非加盟
ボスニア・ヘルツェゴビナ
セルビア
コソボ
ベラルーシ
モルドバ
ウクライナ
30か国  

28→27

 


2021/10/14 ENEOS、ジャパン・リニューアブル・エナジーを買収

ENEOSホールディングスは10月11日、子会社のENEOSジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)株式取得を決定したと発表した。

Goldman Sachsのアセットマネジメント部門が運用するインフラファンド及びシンガポール政府投資公社GICから買収する。取得価額は2000億円で、2022年1月下旬ころに譲渡を受ける。

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ジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)は、2012年8月にGoldman SachsのGS Renewable Holdingsにより設立された。

これから大きく成長すると見られている産業分野に、自分たちでニュービジネスを立ち上げるという考えによるもの。

再生可能エネルギーについては、社内に The Goldman Sachs Alternative Energy Investing Groupを持ち、いろいろな活動をしている。

日本で再生可能エネルギーへのニーズが高まる中、大規模かつ長期的にクリーンエネルギーを提供するため、長期投資を視野に入れ、再生可能エネルギー事業を専門に行うJREを立ち上げた。

* Bloomberg のインタビュー記事 Goldman Rocks Japan Solar With New-Style Securities

2013年12月に、森トラストグループの森章代表が率いるMAプラットフォームがGS Renewable Holdingsへの資本参加を決めた。

シンガポールの政府系投資会社GICは2017年10月、GS Renewable Holdingsの株をMAプラットフォームから入手した。取得価額は百数十億円とされる。

GICは、旧称 Government of Singapore Investment Corporation で、シンガポール政府の投資会社の一つ。(他に、Monetary Authority of SingaporeとTemasekがある。TemasekはSingaporeの古称で「海の町」の意味) 

GICはホテルなど多くの日本の不動産に投資しているが、日本のインフラ、再生エネルギーへの最初の投資である。

日本の再生エネルギー買い取り制度は国際的にみて割高で、認定済みの施設には長期間、好条件の買い取り価格が約束されるほか、今後建設する発電施設もパネル設置や運営コストを削れば、十分採算があうとみた。

現在のGS Renewable Holdingsの株主はGoldman Sachsが75%、GICが25%となっている。両社とも売却で膨大な利益を得ると思われる。

 

ジャパン・リニューアブル・エナジーの事業の状況は次の通り。

 設備容量

  運転中 建設中 合計
太陽光 43件 346,585kW 6件 273,715kW 49件    620,300kW
陸上風力 4件  48,200kW 6件 184,200kW 10件    232,400kW
バイオマス 1件  24,400kW   1件       24,400kW
       
合計 48件 419,185kW 12件 457,915kW 59件   877,100kW

    詳細は https://www.jre.co.jp/business/list/

再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札として普及が期待されている洋上風力発電におい「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」のメンバーとして、風況観測や建設計画策定事業化検討積極的に取り組んでいる。

 年間売電量 598百万kwh  一般家庭約136千世帯分の年間消費電力量相当


ENEOSグループは、2040年長期ビジョンにおける「ありたい姿」として、「アジアを代表するエネルギー・素材企業」、「事業構造の変革による価値創造」、「炭素・循環型社会への貢献」を掲げ、石油精製販売をはじめとする基盤事業のキャッシュフロー最大化を図りつつ、石化、素材、次世代型エネルギー供給、環境対応型事業といった成長事業への戦略投資を積極的に進めている。

炭素・循環型社会への貢献」については、2040年に自社排出分のCO2についてカーボンニュートラルを達成することを目標としており、2022年度末までに国内外における再生可能エネルギー事業の総発電容量を100万kW超に拡大することを目標としている。

JRE全株式取得後ENEOSの国内外における運転中・建設中の再生可能エネルギーの総発電容量は 約122万kW(2021/9時点)となる。今後、ENEOSはエネルギー事業者としての知見と、JREの事業開発能力を結集して、日本を代表する再生可能エネルギー事業者を目指す。

また将来的には、発電量が変動する再生可能エネルギー電源を蓄電池や電動車両(EV)を用いて最適に制御するエネルギーマネジメントシステムと組み合わせることにより、CO2フリー電気を安定的かつ効率的に供給できる体制を構築する。現在、ENEOSグループが進めている将来のCO2フリー水素サプライチェーン構築への貢献が期待できるとしている。


2021/10/14 あぶらとり紙でパーキンソン病を早期診断

順天堂大学、花王、 Preferred Networksらの研究グループは9月11日、パーキンソン病 患者皮脂中のRNA(リボ核酸)に病態と関連した特有の情報が含まれることを発見したと発表した。さらに皮脂RNA情報を用いた機械学習モデル がパーキンソン病の診断方法になりうることを明らかにした。

将来的にはあぶらとりフィルムで顔の皮脂を拭き取るだけで、疾患の早期診断につながる技術の確立を目指す。

パーキンソン病は日本で2番目に多い神経変性疾患で、運動に関する症状や自律神経障害、認知機能低下が徐々に進行する。

現在のところパーキンソン病を根治するための治療方法は存在していないが、早期に確定診断を行ない、適切な治療を継続することで症状をコントロールすることができるため、より簡便な検査方法が求められている。

パーキンソン病では皮脂の増加を伴う脂漏性皮膚炎などいくつかの皮膚症状が高頻度に併発することが知られているため、「皮脂にはパーキンソン病と関連した情報が含まれる」との仮説を立て、共同研究を実施した。

花王はヒトの皮脂に含まれるRNAを解析する独自の技術を開発し、2019年に機械学習や深層学習などの人工知能関連技術を保有するPreferred Networksと共同研究を始めた。

今回、パーキンソン病患者の病状を正確に反映するバイオマーカーを探索する順天堂大学も参加し、早期診断への応用を目指す研究を進めた。

 

あぶらとりフィルム1枚を用いて顔全体から皮脂を採取し、採取した皮脂からRNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いて網羅的にRNA発現量を測定した。

皮脂RNA解析の結果、パーキンソン病の病態と密接に関係するミトコンドリア に関連した複数のRNAが増加する傾向が示された。

次に、皮脂RNAの情報と機械学習モデルによってパーキンソン病を判別できるか検証した。

その結果、皮脂RNAに含まれる情報を用いて機械学習モデルを構築することで、パーキンソン病を精度よく判定することができることが示された。

但し、パーキンソン病の診断は、鑑別しなければならない類似の疾患が存すること、皮脂RNAの変化に関しても日々の生活などの外的要因が完全には精査されていないといった課題がある。

研究グループでは、類似の疾患との鑑別診断が可能な機械学習モデルの構築や、精度向上のために制御が必要な日常生活の影響について検討を続けており、パーキンソン病の新たな検査方法の開発を目指している。

本研究成果は、英国科学雑誌の「Scientific Reports」誌のオンライン版に9月20日付で公開された。

Non-invasive diagnostic tool for Parkinson’s disease by sebum RNA profile with machine learning

 

 


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