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これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。
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2008/9/15 New York 原油、一時100ドル割れ 

9月12日のニューヨーク原油先物市場でWTI原油が一時99.99ドル/バレルと、4月2日に一時100ドル割れして以来、5ヶ月ぶりに100ドルの大台を割った。終値は101.18ドル。

14日(日曜)午前の時間外取引では更に下がり、一時98.84ドルまで下がった。

投資ファンドが原油市場から離れる中で、各国の景気低迷での需要減予想で下落した。

付記

週明け15日(月曜)は、リーマン・ブラザーズの破綻で信用不安による世界的な景気悪化懸念が台頭。原油需要が減少するとの見方から2月中旬以来となる95ドル割れを記録、終値は先週末比で5.47ドル安の95.71ドルとなった。
その後の時間外取引では一時、91.56ドルまで下がった。  

原油価格は昨年10月上旬に上昇を始め、本年2月中旬まで、90ドルと100ドル寸前の間で上下した。

昨年1231日の終値は95.98ドルであったが、本年の初取引の12日に一時100.00ドルとなった。(終値は99.62ドル)

これは個人で取引会社ABSを経営するRichard Arens が「後世に名を残したい」と1,000バレル(最低取引単位)を100$/バレルで購入したもの。
その後、99.40ドルで売却したため、600ドルで名を残したことになる。

13日にも一時100.09ドルを付けたが、終値ベースでは219日の100.01ドルが最初となる。

ところで、日本経済新聞報道によると、今回の100ドル割れも、ABSRichard Arens 1,000バレルの売り注文によるものとのこと。

現在のところ、年初来の平均は114.20ドルとなっている。

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化学業界にとっては、ここにきての原油価格下落は好ましいものではない。

確かに最近は原油価格が上がり過ぎ、需要家が最終需要家に価格を再転嫁できず、需要の減退につながる事態にまでなったが、これまでは中国の需要の増大により需給が逼迫し、国際市況が上がったため、国内需要家に原油価格上昇分を転嫁でき、石化メーカーの業績は急速に好転した。

中国バブルがはじけつつあるため、国際市況は原油価格下落幅以上に下がるのは必至である。
その中で国内価格も、各社が減産に転じた今、原油価格の下落以上の下落につながり兼ねない。

過剰能力下で過当競争に走った1990年代の苦難の時代に戻る可能性が強い。

いつまでも「ガラパゴス鎖国」を続けるわけにはいかない。

 


2008/9/16 米ラスカー賞に遠藤章・東京農工大名誉教授

Lasker Foundation 913日、優れた医学研究者に贈る「ラスカー賞 Lasker Award 」の今年の受賞者を発表した。

 基礎医学研究賞(Albert Lasker Basic Medical Research Award)
   Victor Ambros  (54) University of Massachusetts Medical School, Worcester
   David Baulcombe  
(56) University of Cambridge
   Gary Ruvkun
(56) Massachusetts General Hospital, Boston and Harvard Medical School
   * microRNAs の発見

 臨床医学研究賞(Lasker-DeBakey Clinical Medical Research Award )
   遠藤 章 Akira Endo (74) Biopharm Research Laboratories, Inc., Tokyo
   * Statin の発見

 特別貢献賞(Lasker-Koshland Special Achievement Award in Medical Science )
   Stanley Falkow (74) Stanford University School of Medicin
   * 51年にわたるバクテリアの研究

ラスカー賞医学分野で画期的な成果を上げた研究者に贈られるもので、Albert Lasker と、彼の妻 Mary Woodard Laskerによって1946年に始まった。

ラスカー賞はしばしば「アメリカのノーベル生理学・医学賞」とも呼ばれる。実際、ラスカー賞を受賞した人のうちの75人が、さらにノーベル生理学・医学賞を受賞した。

日本人ではこれまで、下記4名が基礎医学研究賞を受賞している。
  1982年 花房秀三郎 がんの発生する仕組みの解明
  1987年 利根川進   多様な抗体が作られる遺伝的原理
  1989年 西塚泰美   「Cキナーゼ」の発見とその機能の解析
  1998年 増井禎夫   細胞分裂のカギを握る物質の発見

付記

2009年のBasic Medical Research Awardは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を世界で初めて作成した山中伸弥・京都大教授(47)と、分化した細胞を受精卵に近い状態に戻す「初期化」のプロセスを切り開いた英ケンブリッジ大のJohn Gurdon博士(76)が受賞した。

臨床医学部門の遠藤章・東京農工大名誉教授の受賞業績は、血液中のコレステロール値を下げる物質「スタチン」の発見。
治療薬として製品化され、心臓病の治療や予防に大きな進歩 をもたらしたことが評価された。

遠藤氏は三共(現第一三共)の研究者だった1973年、コメの青カビがつくるスタチンを発見。これが血液中のコレステロール値を下げることを動物実験で確認した。

Statin はHMG-CoA還元酵素の働きを阻害することによって、血液中のコレステロール値を低下させる薬物の総称である。

付記

米の非営利組織「全米発明家殿堂(National Inventors Hall of Fame)」は2012年3月1日、「スタチン」を発見した遠藤章・東京農工大特別栄誉教授が発明家の殿堂入りをすると発表した。

殿堂入りは、米国の特許を持ち、その発見が人類の福祉に貢献していることなどを評価して選考される。

発見の経緯は同氏の著書、岩波科学ライブラリーの「新薬スタチンの発見 コレステロールに挑む」に詳しく書かれている。

ーーー

1960年代初めまでに、高コレステロール血症が冠動脈疾患の重要な危険因子の一つであることが明らかになっていた。

同氏は三共在職中にコレステロール低下剤の開発を目指し、カビやキノコなどの中にコレステロールの合成阻害物質があると考えて微生物を調べ、1973年に青カビからコレステロール合成阻害剤スタチン1号のコンパクチンを発見した。

ラットのテストでは効果がなかった(理由あり)が、たまたま行なったニワトリのテストとその後の犬のテストで劇的な効果があった。

しかし安全性で疑問が出て、お蔵入り目前となったが、他に治療方法がない重症患者に医師の判断で投与してもらい、成功、再復活した。

遠藤氏は1978年に三共を退職、東京農工大で研究を続け、モナコリンを発見した。

Merck 1976年に三共からコンパクチンのサンプルや資料を受け取り、研究をしていた。
同社もモナコリンと同じものを発見したが、特許出願日の差で日本などではモナコリンの特許が成立した。(米国では先発明主義で
Merck のメビノリンの特許が成立)

1980年、三共は突如、コンパクチンの研究を中止した。(理由は明確でない)
このため「発がん性」の噂が世界に広まった。

1984年、Merck は三共の中止を受けて中断していたロバスタチン(モナコリンとメビノリンの総称)の臨床試験を再開した。
徹底的なテストで安全性を確認した。

1986年、FDAMerck のロバスタチン(商品名メバコア)の新薬承認を決定した。

現在、高コレステロール血症や心筋梗塞などの治療・予防薬として7種(日本では6種)のスタチンが商業化され、100カ国以上で販売され、3000万人が服用しているとされる。

  主な商品名 製薬会社 備考
アトルバスタチン リピトール アステラス製薬/Pfizer  
シンバスタチン リポバス(Zocor) 万有製薬/Merck  
ピタバスタチン リバロ 興和創薬  
プラバスタチン メバロチン(Pravachol) 第一三共/Bristol-Myers Squibb 1989年
フルバスタチン ローコール Novartis Pharma/田辺三菱製薬  
ロスバスタチン クレストール 塩野義製薬/AstraZeneca  
ロバスタチン メバコール Merck 1987年
セリバスタチン セルタ、Baycol Bayer/武田薬品 副作用のため各国で回収

7つの大規模臨床試験から、スタチンは悪玉LDLコレステロールを25〜35%下げ、心臓発作の発症率を25〜30%下げるのに加え、脳卒中の発症率も25〜30%下げることが示された。
そのため、スタチンは「動脈硬化とコレステロールのペニシリン」「ペニシリンと並ぶ奇跡の薬」と呼ばれる。
さらに、アルツハイマー病、骨粗鬆症、多発性硬化症と一部の癌を予防することも示唆されており、「万能薬」とも呼ばれる。

2005年の世界の医療用医薬品売上高ベストテンにはスタチンが2つ入っている。
  @リピトール(
Pfizer/アステラス) 12,963百万ドル
  Gゾコール(リポバス)(
Merck)   4,382百万ドル


2008/9/17 中国で粉ミルク汚染

中国では粉ミルクを飲んだ乳幼児が腎臓結石となるケースが相次ぎ、甘粛省で乳児1人が死亡したほか、北京、上海両市や江蘇、山東、安徽、湖南各省などで発症が確認された。

中国当局は14日、新たに1人の乳児が死亡したことを明らかにした。 汚染粉ミルクによる死者が報告されたのはこれで2例目。
衛生当局によると、腎臓結石などにかかった乳児は1200人を超えており、340人は入院治療を受け、このうち53人が重症だという。
(
政府は17、患者数が6244人になり、3人が死亡したと発表した。18日、更に1人死亡、計4人 

衛生省などの調査グループは、病気になった乳児の尿からメラミンの成分を検出しており、「結石は汚染粉ミルクが原因」と結論づけた。

石家荘三鹿集団(河北省石家荘市)は9月11日夜、8月6日以前に出荷した同社製の乳幼児用粉ミルクにメラミンが混入していたとして、該当製品700トンをすべて回収することを決めたと発表した。

衛生省は13日、三鹿集団が製造した粉ミルクに有機化合物メラミンが混入 し、同製品を摂取した乳幼児に腎臓結石などの健康被害が生じているとして、同社に生産停止を命じたと発表した。

石家荘市政府は12日、「粉ミルクの原料の牛乳を買い取る過程で、不法分子が利益を上げるため牛乳を水で薄め、メラミンを添加した可能性がある」と説明している。
地元捜査当局は関係者78人を取り調べており、立件に向け本格捜査に乗り出した。(16日までに4人を逮捕した。)

新華社電によると、三鹿集団はは8月上旬に製品からメラミンを検出したため、石家荘市の関連部門に報告した。
市共産党委員会と市政府は緊急会議を行い、疑いがある製品の全面回収とメラミンを含む製品が再度市場に出回ることの絶対阻止を同社に指示した。
8月初めに事態が分かったのに発表を今まで抑えたのは、北京五輪開幕(8月8日)直前だったための隠ぺいではないかと批判が高まっている。

下記の22社のなかには、北京五輪で棄権した陸上男子110メートル障害競争の劉翔選手がイメージキャラクターをつとめる、中国の大手乳製品メーカー「内モンゴル伊利実業集団」が含まれている。

乳児2名の死亡は五輪開催前であった。

ーーー

中国政府は16日、三鹿集団のほか、国内の粉ミルクメーカー21社の製品からメラミンが検出されたと発表、製品回収を命じた。

国家品質監督検査検疫総局が全国109社のメーカーの491品目を調べたところ、22社69品目からメラミンが検出された。

広東省のメーカーの製品はバングラデシュ、ミャンマー、イエメンなどに輸出されていた。

汚染粉ミルクが台湾でコーヒー牛乳や月餅などの加工用として使われたとみられることが14日までに台湾の衛生当局の調査で分かった。

中国の乳製品は半加工品として日本に輸出されるケースもあるとされる。

中国の国家品質監督検査検疫総局が北京の日本政府大使館に対し、日本に輸出した事実はないと伝えたが、「三鹿集団」の製品は輸出許可を与えていないというだけで、他社の製品については触れていない。

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付記

問題の三鹿集団(San Lu)にはニュージーランドの乳業大手Fonterraが43%を出資、3人の取締役を派遣している。

FonterraのCEO Andrew Ferrierは9月15日、声明を発表した。

三鹿の取締役会で8月2日に、幼児用粉ミルクにコンタミ問題があることが報告された。
Fonterraが事件を知ったのはこれが最初。
この時点でFonterraはすぐ製品回収を行なうよう、強く主張した。

記者会見で、どうして早めに公表しなかったのか、と問われ、「合弁会社の少数株主として再三催促したが、三鹿は中国当局の指示に従わざるを得なかった」と答えた。

Helen Clark 首相は、ニュージーランド政府は、このコンタミ事件を地方政府が隠蔽しているのを知り、直ちに中国政府に連絡したとしている。
外相が9月5日、直接中国を訪問、本件について中国側に対応を要求したという。

ーーー

付記

香港政府の食品安全センターは9月19日、日清食品が香港で販売するデザートの原材料に、化学物質メラミンが検出された中国の大手乳業メーカー「伊利」の乳製品が使われていたと発表した。日清がセンターに連絡し、製品の回収を始めた。

回収されるのは、山東省青島の食品工場で製造された、香港のデザート「糖水」シリーズの「チャ・チャ・デザート」。アズキや豆がベースのおしるこ風のレトルト製品。

丸大食品も製品の回収を始めた。
中国山東省にある子会社で製造し、日本に輸入している「クリームパンダ」、「抹茶あずきミルクまん」、「グラタンクレープコーン」の3品に伊利集団の牛乳を使用していた。
その後、住金物産の中国子会社が製造し、丸大が輸入した「角煮パオ」、「もっちり肉まん」も回収を始めた。

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食品のたんぱく質含有量は窒素の測定値を基に計算される。
デンマークのビール醸造者
Johann Kjeldahl が19世紀後半に開発した方法で、強い酸で試料を溶かし,有機物質の分解で生じた窒素をアンモニアに変え、アンモニアの量で元の試料が窒素を、即ちタンパク質をどれだけ含んでいたかを調べる。

メラミンC3H6N6〕は尿素〔(H2N)2C=O〕 とアンモニアを高温で反応させて工業的に合成しており、窒素含有量は67%と非常に高い。
このため、牛乳を水で薄めたことをごまかすため、メラミン混入でたんぱく質含有量を多く見せかけようとしたと見られる

 

2007年3月、米国とカナダでメラミンが違法に添加されていたペットフードを食べた数百匹の犬と猫が原因不明で死亡した。

FDAは中国の2社、江蘇省徐州Xuzhou Anying Biologic Technology Development Co. と山東省の Futian Biology Technology Co. Ltd.を突き止めた。

両社の製品は成分が小麦グルテンと米プロテインと表示されていたが、実際には単なる小麦粉であった。

中国では、メラミンには栄養価はないが、検査で蛋白質が入っているように見せかける安価な添加物として、動物飼料生産者は何年もの間メラミンを飼料に添加してきたという。

   2007/5/19 中国製医薬品とペットフードから毒性物質 

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日本でも汚染米が問題になっており、中国のことを言っておられない。

付記

中国国家品質監督検査検疫総局は9月19日、汚染米が原料に使われたアサヒビールの焼酎を輸入停止にするとともに、日本から輸入される酒類に対する安全検査を強化すると発表した。


2008/9/17 原油・ナフサ価格速報(2008/9/16)

16日のWTI原油価格は一時、90.51ドルまで下がった。

 


2008/9/18  米国の8月の住宅着工件数 900千戸割れ

米商務省が17日発表した8月の住宅着工件数(季節調整済み)は年率換算で895千戸となった。(前月は修正後 954千戸)
市場予想平均の950千戸を大きく下回った。
年率 900千戸割れは、1991年1月の798千戸以来、約17年半ぶり。

本年の平均は1,010千戸で、
1993年(1,288千戸)以来 14年ぶりの低さであった2007年から345千戸も少ない。

6月(1,089千戸)は既報の通り、ニューヨーク市の新しい建築基準が7月1日に施行されることから、ニューヨーク市で6月に多数の集合住宅の建設許可が出されたためであり、実質的には減少傾向が今も続いている。

米国の住宅市場の調整は長期化が必至の情勢で、混乱が続く金融市場への影響が懸念される。


2008/9/19  BASFがCiba買収へ

BASFは9月15日、スイスの特殊化学薬品メーカー Ciba を買収する意向だと発表した。
Cibaの経営陣は株主に対して、この買収提案を受け入れるよう要請している。臨時株主総会を開催する。

買収価格は1株につき50フランで、この価格は12日の終値の32%増しで、発表前30日間の平均の60%のプレミアムとなる。
負債などを含め、61億フラン (約5700億円) の買収となる。

付記

11月20日、BASFはTOBの結果、持株比率が94.59%になったと発表した。

 

BASFでは、買収によりスペシャリティケミカル分野を拡大し、主導的地位を高めるとしている。

プラスチック分野ではCibaの添加剤は、特にUV安定剤や酸化防止剤でBASFの事業を強化する。
Cibaのコーティング機能材もBASFの既存事業を拡張する。
製紙化学品では両社が事業を行っているが、Cibaの事業は収益性維持に苦労しており、両事業を統合し、マーケットリーダーになるとともに、抜本的リストラが可能となる。
水処理剤ではCibaは強い立場にたっており、BASFの事業を強化する。

また、特に水処理剤ではCibaの事業により開発途上国での活動を拡大できる。
研究開発面でも補完効果が期待できる。

買収提案に当たり、BASFスイスの製造基地とR&D を維持することを約束している。

Cibaは長年にわたって経営難にあり、その将来をめぐりさまざまな噂が立っていた。ここ数日は、マイヤー会長の辞任の噂が流れていた。

Ciba取締役会と経営委員会は、スペシャリティケミカル分野での構造変化、特に業界再編の動き、及び事業展開のシフトとそれに伴うリスクを勘案して、買収提案に賛成するとしている。

Cibaは、「プラスチック添加剤、コーティング機能材、製紙・水処理剤における卓越したイノベーション能力とアプリケーションの専門的知見を通して、スペシャライズド・ケミカル・エンジニアリングの分野で、BASFの戦略とオペレーションを強化する。」とし、「同時に、BASFのグローバルな研究、生産、マーケティング基盤とともに、重要な原材料および中間体についての統合は、Cibaにとって大きなメリットとなる。両社は、これまで長期にわたり、広範囲なサプライヤーと顧客の関係を維持してきた。」と述べている。

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BASFは昨年来、買収を検討している。

新聞報道では、買収相手として、W. R. Grace や、米国のスペシャルティケミカルのRockwood、ドイツのスペシャルティケミカルの Cognis も候補に上がっているとされていた。

    2008/8/1 BASFがW. R. Grace 買収?  

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Cibaは旧称 Ciba Specialty Chemicals で、2007年に改称した。
Specialty Chemicals メーカーの枠を超え、その周辺の技術や専門知識、サービスを含めて、顧客に「Value beyond chemistry(化学を超えた価値)」を届けるという、設立当時からのスローガンに近づくことを目指した。

Ciba は合成染料を中心に発展、医薬品、合成樹脂、農薬、写真機材などで事業を拡大した。
Geigy はコールタール染料、医薬品、さらにDDTの発明を機に農薬にも進出した。

CibaとGeigy は1970年に合併してCiba Geigy となり、1992年にCibaと改称、1997年1月にSandozと合併し、生命科学分野に特化したNovartis となった。
同年3月、Specialty chemical 分野(添加剤、コンシューマーケア、ポリマー、顔料、染料)は独立し、Ciba Specialty Chemicals として発足した。

Sandozから分離したClariant とCiba Specialty Chemicals は1998年11月に合併の合意をしたが、同年末までに破談した。

なお、Novartis は2000年に種子事業を分離、AstraZeneca の農薬部門と統合し、Syngenta を設立している。

 

Ciba の2007年の部門別損益は以下の通り。(単位:百万スイスフラン)

  売上高 営業損益
Plastic Additives  2,161   306
Coating Effects  1,837   195
Water&Paper Treatment  2,525   90
全社    -157
Total  6,523   434

  1スイスフランは約95円


2008/9/20 Solvay、タイのビニルチェーン拡大

Solvay 911日、タイの子会社 Vinythai Map Ta Phut でのPVCの70千トン増強計画が完了し、PVC能力が280千トンになったと発表した。(一部ペースト塩ビを含む)

同社は2004年11月に、電解とVCMの能力倍増を発表、2006年4月にPVC能力の70千トン増強を発表した。

PVCについては今後、400千トンに増強し、電解-VCM-PVCのバランスの取れた、競争力あるビニルチェーンの確立を目指す。

  増強前      増強後 将来計画
苛性ソーダ  133千トン  266千トン    
塩素  120千トン  240千トン    
EDC  160千トン  320千トン    
VCM  200千トン  400千トン    
PVC  210千トン    280千トン  400千トン
Vinythai の現在の株主は以下の通り。  
  Solvay  49.99%  
  PTT Chemical  24.98%  エチレンメーカー(NPC とTOCが合併)、エチレン供給
  Charoen Pokphand Group  11.87%  タイの財閥

付記

@Solvayはタイのエピクロ事業をVinythaiに移管した。
A2009年12月、TOBを発表、50%の出資比率を更に高める。

同社はVCMの能力倍増に伴い、2005年3月、タイのPVCメーカーAPEX Petrochemical に年間150千トン、5年間のVCM供給契約を締結、合わせて、同社にPVC48千トンの製造委託を行なった。

APEX Petrochemical 塩ビシート等のメーカーのAPEX が塩ビレジンに進出したもので、当初、伊藤忠、チッソ、小原化工が出資したが、経営が行き詰まり、2002年に日本側は撤退した。

更に、Vinythai 20079月、Map Ta Phut にあるAPEXの設備(120千トン)を購入する契約を締結した。
これにより合計能力を330千トンとし、既に発表している70千トン増強と合わせると、VCM能力に合った400千トン能力となる。

しかし、2007年11月になり、Vinythai APEXの設備購入を取り止めると発表した。
APEX側が契約の期限内に買収条件の履行を怠ったとしている。

今後は、時期を見て、自力でPVC能力を400千トンに拡大する。

ーーー

タイには両社のほか、Siam Cement の子会社 Thai Plastic & Chemicals (TPC)PVC事業を行っている。

タイのVCM、PVC能力推移(単位:千トン)
VCM
  2005  06  07  08
TPC-- ---------------  440  440  500  500
Vinythai  200  400  400  400
合計  640  840  900  900
 
PVC
    2006  07  08
TPC ----- Map Ta Phut  380  500  500
Bangkok  100    0    0
TPC Paste Resin   35   35   35
Vinythai  210  210  280
Apex Petrochemical  100  120  120
合計  825  865  935
 
   2007/10/10 タイ TPC、バンコックのPVC設備をベトナムに移設

タイのPVCの需給は以下の通り。(The Federation of Thai Industries、単位:千トン)

  2005 2006 2007
生産  773  737  841
消費  495  472  467
輸出  317  301  406
輸入   39   36   32

中国需要が減少し、中国の輸出が輸入に匹敵するようになってきた今、Vinythai の拡大戦略がうまくいくかどうか、疑問。      

タイの石油化学については 2006/6/8 タイの石油化学の現状 

 


2008/9/22 薬害肝炎訴訟、田辺三菱製薬が和解

田辺三菱製薬は9月19日、薬害肝炎訴訟に関し、全国原告団・弁護団との間で訴訟を解決するための「基本合意書」を締結することが取締役会で承認され、9月29日に締結すると発表した。28日に葉山夏樹社長らが原告患者らに直接謝罪する。

各高裁および各地裁に係属中の訴訟は、「基本合意書」締結後、原告側が順次、同社及び子会社ベネシスへの損害賠償請求を放棄することによって終結する。

政府との間では薬害C型肝炎救済法成立を受け、本年1月15日に原告・弁護団と舛添厚労相による基本合意書の調印式が行われ、順次和解が行なわれている。

残る被告企業の日本製薬も和解を受け入れる方向で、同訴訟は2002年10月の初提訴から丸6年で全面解決に向かう。

付記

全国原告団・弁護団は12月14日、残る日本製薬との間で、和解の基本合意書を結んだ。
今後、原告が損害賠償の請求権を放棄し、訴訟を終結させる方針。

    過去の経緯 2008/1/16 薬害肝炎救済法 成立 

同社は今後、厚生労働大臣との間で、特別措置法による給付金支給等業務に要する費用の負担の方法およびその負担割合について協議決定する。2008年3月期決算において「HCV訴訟損失引当金」として 11,200百万円を計上しているが、今後の協議の結果により負担額が変動する可能性があるとしている。

舛添厚生労働相は本年1月、これまでの薬害事例などを参考に「企業が2:国がという比率になる」と説明している。

これまでの薬害エイズ訴訟、サリドマイド訴訟、キノホルム(スモン)訴訟、薬害ヤコブ訴訟では、ミドリ十字の入っている薬害エイズ事件のみ、企業と国の負担が3:2(企業負担 60%)で、他はすべて2:1(企業負担 66.7%)となっている。

(同社の引当のベースは同社の主張する3:2ベースではないかと思われる)

ーーー

1月15日の原告・弁護団と政府の和解基本合意書締結の後、原告側は、謝罪などを求めた「全面解決要求書」を製薬会社3社に送付した。

三菱ケミカルホールディングスの小林社長は社員向けの新年挨拶で、「今後、行政、司法当局とともにこの問題の早期解決に向け、誠実かつ真摯に対応していかなければなりません。」としたが、話し合いは難航し、製薬会社との訴訟は継続された。

報道によると、
1)青森県での集団感染発生以降、多くの医療機関でカルテなどが廃棄された、
2)418人の症例リストなど感染者情報を厚生労働省に報告しただけで、感染を知らないまま病状が進行した人がいる、
の2点の責任を巡って交渉が難航していたという。

今回の合意書案では、会社側は原告団が示した基本合意書案をほぼそのまま受け入れ、
製薬企業が薬害の発生と拡大を防げなかったことの責任を認め謝罪するほか、
青森県で集団感染が判明した1987年以降、被害実態調査を怠ったため医療記録が廃棄された事実や、薬害の可能性がある患者418人の症例リストを放置した事実などを踏まえ、企業が再発防止を誓う内容で、
更に、企業は被害の実態調査や情報開示、新薬の開発などに努め、患者側との継続的な協議の場も設ける、となっていると報じられている。

会社側は今年1月からの和解協議で「1審判決で血液製剤の投与の事実を認められなかった原告との和解は困難」との主張を崩さなかった。
このため、全員一律の解決を求める原告団は、裁判での和解は困難と判断、損害賠償の請求権を放棄する形で訴訟を終結させることとした。

締結後、国と和解が成立した患者は順次、田辺三菱とベネシスに対する賠償請求を口頭弁論で放棄する。
(患者は国との和解により補償を受ける)

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また、集団訴訟に加わったが、方針の違いで全国原告団を離れ、早期解決を目指して和解交渉を進めていた原告一人が9月17日、大阪地裁で田辺三菱製薬と和解した。

原告側が賠償請求を放棄し、田辺三菱側がC型肝炎患者救済のため、治療薬の開発に最大限努力することが条件。

原告は当初、NPO「肝炎家族の会」との間で協議会を設置するを求めていたが、会社側が難色を示したため、この条項を外した。

ーーー

薬害肝炎訴訟原告の福田衣里子さんは9月18日、次期衆院選長崎2区に民主党公認として立候補することを表明した。
長崎2区では、元防衛相の自民現職久間章生氏などが立候補を表明している。

ーーー

付記

2008年10月2日の毎日新聞は「記者の目」で本件について書いている。

「田辺三菱製薬の謝罪に疑念−−原因・責任、明らかに」というタイトルで、「和解協議の場となった大阪高裁を担当し、同社の隠ぺい体質や被害者軽視の姿勢を目の当たりにしてきただけに、薬害の発生責任を認め、再発防止を誓う言葉を額面通り受け取っていいのか疑念を抱いている」として、これまでの同社の姿勢を批判している。

「信頼される企業に生まれ変わるには、薬害を発生させた原因を自ら究明し、責任の所在を明らかにすることが大前提となる。社長の謝罪は、そのスタートラインに過ぎない」としている。

    http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20081002ddm004070122000c.html


付記 薬害肝炎訴訟基本合意書 要旨 

フィブリノゲン製剤および第9因子製剤(以下、各血液製剤)にC型肝炎ウイルスが混入し、多くの方々が感染するという薬害事件が起き、感染被害者および遺族の方々は長期にわたり、肉体的、精神的苦痛を強いられている。

全国原告団・弁護団と田辺三菱製薬およびベネシス(以下、両社)は、各地裁で一定範囲で両社の法的責任を認める1審判決がなされたことなどを踏まえ、紛争を解決するため、次の通り基本事項を合意した。

一、責任と謝罪、および再発の防止

両社は、本薬害事件について、各血液製剤によるC型肝炎ウイルス感染被害者の方々に甚大な被害が生じ、被害の拡大を防止し得なかったことについての責任を認め、感染被害者および遺族の方々に深くおわびする。

両社は、さらに、今回の事件の反省と以下の事実を踏まえ、命の尊さを再認識し、製薬会社として薬害ないし医薬品による健康被害の再発防止に最善かつ最大の努力を行うことを誓う。

(1)獲得性の傷病について、各血液製剤の投与を受けたことにより、C型肝炎に感染された方々が多数生じたこと

(2)C型肝炎に感染された方々およびその家族の方々が、感染、発病、治療等により、長期にわたり肉体的・精神的苦痛を被ったこと

(3)各血液製剤によるC型肝炎感染被害拡大防止のため、その時々の科学技術水準を踏まえて、製薬会社としてさらなる措置を講じることができたと考えられること

(4)青森県での集団感染発生から数えても現在までに20年以上が経過し、その間に多くの納入医療機関で投与の事実を立証しうるカルテなどの医療記録が廃棄された実態が存すること

(5)いわゆる418人リストの感染被害者情報については、両社は情報を旧厚生省に報告した。一方、感染被害者には、2007年まで、いわゆる7004医療機関の公表とそれに伴う検査の呼び掛け以外の対応がなされず、リスト掲載者の中には、感染の事実を知らないまま病状を進行させた者も存すること

二、恒久対策等

(1)被害実態調査

両社は、本件薬害の実態調査に関し、国および医療機関による各血液製剤の投与を受けた者の確認の促進、被投与者への検査の呼び掛けに協力し、保管する各血液製剤の納入実績データや、収集した感染症(副作用)報告等のデータを一定の場合に開示する。

(2)新薬の開発

両社はC型肝炎ウイルス感染被害者の治療のための新薬開発に努める。

(3)検証会議への協力

両社は、国が設置する「薬害肝炎事件の検証および再発防止のための医薬品行政の在り方検討委員会」に対して、社内に現存する資料を提供するなどして協力する。

(4)継続協議

恒久対策について、両社は全国原告団・弁護団と継続協議をする場を設定する。


2008/9/23 ミドリ十字と田辺三菱製薬

田辺三菱製薬は薬害肝炎訴訟で和解するが、この問題は薬害エイズ事件と同様、ミドリ十字が起したものである。
田辺三菱製薬は合併を通じて、これを引き継いだ。


田辺三菱製薬の推移は以下の通りで、1998年4月に吉富製薬がミドリ十字と合併し、2001年10月に更に三菱東京製薬と合併した。

吉富製薬や三菱化学は合併に際して、薬害肝炎問題をどう見ていたのであろうか。

当時の記事を調べてみた。

薬害患者による提訴こそ、両合併の後の2002年10月であるが、両合併のはるか以前に大問題になっている。
1988年にミドリ十字は緊急安全性情報を配布し返品を要請している。

   企業  薬害エイズ  薬害肝炎
1976 ミドリ十字   フィブリノゲン製造承認
1980   ↓   米国で同製剤の承認取り消し
1985   ↓ 厚生省専門家会議で
初のエイズ認定
不活化処理方法の変更
(危険性を一層高めた)
1988   ↓   返品要請(以後、販売数量激減)
1989   ↓ 損害賠償請求訴訟  
1996/3   ↓ 和解  
1997/2 吉富製薬/ミドリ十字 合併発表     
1998/4 合併→吉富製薬    
2000/4 社名変更→ウェルファイド    
2000/11 ウェルファイド/三菱東京製薬 合併発表    
2001/10 合併→三菱ウェルファイド    
2002/10     提訴
2007/10 三菱ウェルファイド/田辺製薬合併
  →田辺三菱製薬
   
2008/1     薬害肝炎救済法成立

両合併に際して、薬害エイズ問題は懸念されているが、肝炎問題は一切表面に出ていない。新聞記事も触れていない。

吉富製薬の場合は厚生省などからの要請もあったと思われるが、三菱の場合は成長戦略による判断のようだ。

ミドリ十字が薬害エイズ被害者への和解金支払いや不買運動の影響などで業績が悪化し、自主再建を断念したのは明らかであったが、肝炎問題について同じようなことになるとの懸念を持たなかったのであろうか。

ーーー   

1997年2月、ミドリ十字と吉富製薬は同年10月1日付で合併すると発表した。(手続面で1998年4月1日に延期された)

ミドリ十字
は約240億円に上る薬害エイズ被害者への和解金支払いや不買運動の影響などで業績が悪化し、96年9月中間期に71億円の最終損失を計上していた。自主再建を断念し、吉富に事実上の救済合併を仰ぐ。

2008/1/24 資料 薬害エイズ事件 

吉富製薬は1940年に武田長兵衛商店(武田薬品工業)と日本化成工業三菱化学によ武田化成として設立され、1946年に吉富製薬と改称した。東証1部上場。

両社トップは「独自の判断」を強調するものの、突然の合併劇の背景には厚生省の後押しがあったとみられた。
厚生省は、
ミドリ十字が経営悪化によって薬害エイズ問題の責任を全うできなくなる事態を最も心配していたため、合併による経営基盤の強化は患者の将来への不安解消にもつながるとの薬務局長談話を発表した。
「厚生省が間に入り、吉富の大株主である武田に救済を依頼した」との観測は根強かった。

吉富製薬は以下のように述べた。

合併は中長期的にみて吉富にとってもプラスであり、あくまで吉富とミドリの自主的な判断。

ミドリは企業イメージこそ失墜したが、生物学的製剤技術や国際展開で独自の強みを持つ。
同社が開発中の遺伝子組み換え型アルブミンは将来300億円規模の市場との予測もある。
エイズの遺伝子治療薬も開発中で、米国子会社Alpha Therapeutic も持つ。

吉富は企業規模こそミドリよりも大きいが国際化は遅れている。
医療費抑制策進行で規模拡大の必要性が高まっている。

ミドリの和解金240億円の残額は101億円だが、両社合計の株主資本は1,287億円と余裕があり、ミドリの業績が回復していることから心配はしていない。

あくまで「自主判断」としているが、ミドリ十字の救済であることを匂わしている。

HIV訴訟はミドリにとって大変な問題だが、二度と薬害を起さないように社内体制を充実しており、信頼できると思う。
ミドリは血液製剤で大きなシェアを持っており、もし生産中止になれぱ医療面で大きな影響を与えることになる。

武田薬品は「一部上場企業の吉富製薬が決定することであり、当社は吉富の経営判断を尊重する」とのコメントを出した。

日本経済新聞は、「新会社はミドリから和解金だけでなく、企業の社会的責任をすべて引き継ぐ。血友病患者以外のHIV感染者との和解交渉もある。ミドリは歴代3社長の逮捕・起訴で厳しく問われた企業倫理に対し社会的に十分こたえたとはまだ言い難い。新会社が新たに抱えた課題は極めて大きい」としている。

ーーー

その後、(合併会社が改称した)ウェルファイドは危機に陥った。

米国の血液製剤子会社Alpha Therapeutic が2000年7月に米食品医薬品局から製造設備の無菌性試験のやり方などについてクレームを受け、再試験と製造・出荷の停止を命じられた。
この結果、Alpha Therapeutic の2000年12月期は180億円の最終赤字に陥り、ウェルファイド本体も初の連結赤字が避けられない見通しとなった。
同社の株価は1,700円台から瞬く間に800円を割り込んだ。
最安値で算出した時価総額は約2千億円で、海外の製薬企業からTOBをかけられかねないとの懸念が出た。

ミドリ十字はAlpha Therapeutic を Abbott から買収した。
ミドリ十字の血液製剤の問題は
、Alphaから輸入していた原料血漿にHIVが混入していたことから起こった。

その後の合併後の2003年に、三菱ウェルファイドはAlpha Therapeutic の血漿採漿部門をBaxter Healthcare に、血漿分画事業をProbitas Pharma に譲渡し、米国における血漿分画事業から撤退した。

ーーー

2000年11月、ウェルファイドと三菱東京製薬の合併が発表された。

合併は三菱化学が主導したと言われる。

三菱化学は主力の石油化学事業の収益が厳しく、収益牲が高い医薬品事業を21世紀のグループの大きな柱に据えた。
三菱化学は1999年10月に東京田辺製薬を吸収合併し、医薬部門を分離して三菱東京製薬を設立したが、売上高は900億円に過ぎなかった。(ウェルファーマは1,991億円)

東京田辺製薬と田辺製薬はともに田邊五衛商店から出ているが、資本関係は無かった。
東京田辺製薬は1900年代初頭に田邊五兵衛商店から田邊元三郎商店として独立し、その後東京田辺製薬と改組した。
一時期、田辺−東京田辺間で東日本・西日本の営業地域分けを行っていたこともある。

外資が対日攻勢をかける中で、医藥品事業を国内大手の一角まで押し上げることが必要であった。
当時の三菱東京製薬の富沢社長は「国内で5位以内でなければ、存在感をもって生き残るのは難しい」と危機感を募らせていた。
「海外製薬会社との連携は必要だが、国内5位の基盤ができれば、海外の大手とも一方的な強者・弱者の関係でなく、話ができるようになる」としている。

ウェルファイドとは前身の吉富製薬の発足時からつながりは深かった。
また、三菱にとって、「ほかの選択肢はあまり無かった。」

ウェルファイドも「世界的に存在感のある企業にしたいが、今の規模では力不足」としており、上記のように海外企業からの買収懸念もあり、両社の思惑が一致した。

ウェルファイド側は「国内勢との合併による規模の拡大→経営の独立性を保ちながら欧米企業と提携」という構想を述べているが、三菱化学が合併会社・三菱ウェルファーマの筆頭株主となり、更に田辺製薬との合併で田辺三菱製薬となって三菱ケミカルホールディングスの三本柱(三菱化学、三菱樹脂、田辺三菱製薬)の一つとなり、上場はしているが、完全に三菱ケミカルの一員となっている。

医薬品メーカー 売上高ランキング 単位:億円
     
 2000年3月期連結売上高    参考 2008年3月期(中外は12月決算)
1 武田薬品工業  9,231
2 三共  5,897
3 山之内製薬  4,336
4 塩野義製薬  4,002
5 エーザイ  3,024
6 第一製薬  3,005
7 藤沢薬品工業  2,891
  三菱ウェルファーマ  
8 大正製薬  2,752
9 ファイザー製薬  2,061
10 ウェルファイド  1,991
11 中外製薬  1,955
  三菱東京製薬   900
 :
1 武田薬品工業   13,748
2 アステラス製薬   9,726
3 第一三共   8,801
4 エーザイ   7,343
  田辺三菱製薬(実質)   4,094
5 中外製薬   3,448
6 田辺三菱製薬   3,156
7 塩野義製薬   2,143
8 大日本住友製薬   2,640
9 大正製薬   2,497

注. 田辺三菱製薬(2008/10誕生)の2008年3月期売上高の上期は三菱ウェルファーマ分のみ。
   田辺製薬の上期分を加算すると4,094億円となり、念願の国内5位となった。
   (但し、他社も拡大しており、上位との格差は大きく、「大手の一角」にはなっていない。)

 

富沢社長の当時のインタビューでも、ウェルファイドの米国血液製剤事業については触れているが(「海外血液事業に魅力はない」)、ミドリ十字時代の肝炎問題については全く触れておらず、懸念していないように思われる。

薬害エイズ問題が解決を迎え、肝炎問題についてはある程度のリスクは認識していても、他に代替案がないなかで、一気に大手の一角に躍進できることを重視したのかもしれない。


2008/9/24 ベネズエラ石油公社、日米伊露などと天然ガス事業で合意

ベネズエラの国営石油会社(PDVSA)は9月19日、日本や米国、イタリア、ロシアなど7カ国10社の企業と天然ガス開発や液化、輸送事業Delta Caribe Oriental LNG Projectで協力する覚書を交わした。

調印式に出席したチャベス大統領は「2012年にガス生産量を現状の63億立方メートルから115億立方メートルに引き上げる」と述べた。

ベネズエラでは現在、沿岸2箇所(@ Plataforma Deltana、A Mariscal Sucre)で天然ガスの開発を行なっている。
前者@は
PDVSA Chevron、後者AはPDVSA単独で行っている。

今回調印したのは、 三番目のBlanquilla 島及び Tortuga 島付近でのガス開発のコンソーシアム結成と、3箇所のガスをそれぞれ、Cigma 液化基地に輸送して3系列のLNG設備を建設する契約で、投資額の合計は196億ドルに達する。

@AからのLNGの輸出は2013年に、Bは2016年に始まる予定。

各計画への参加者は以下の通り。
  米国の
Chevron
  カタールのQatar Petroleum
  アルゼンチンのEnarsa
  ロシアのGazprom
  イタリアのEni
  ポルトガル の Galp EDP
  日本の三井物産/三菱商事のチームと伊藤忠

  三井物産/三菱商事のチームは@とAのLNG計画に、伊藤忠はAのLNG計画に参加する。

ガス開発

LNG

@Plataforma Deltana's block 2 PDVSA 61%
Chevron 39%
PDVSA 60%
Portugal's Galp 15%
Chevron
 10%
Qatar Petroleum 10%
Mitsubishi-Mitsui 5%
US$6.4bn
AMariscal Sucre field PDVSA PDVSA 60%
Portugal's Galp 15%
Argentina's Enarsa 10%
Mitsubishi-Mitsui 5%
Itochu 10%
US$5.2bn
BBlanquilla and Tortuga PDVSA 20%
Gazprom 30%
Petronas 20%
Eni 20%
Portugal's EDP 10%
US$700mn PDVSA 60%
Gazprom 15%
Petronas 10%
Eni 10%
Portugal's EDP 5%
US$7.3bn

 

新しいBの計画では、採掘したガスはMargarita島を経由してCigma のLNG設備に運ばれる。

Chavez 大統領は大統領宮殿での調印式で、「歴史的な出来事だ」と述べた。
大統領はまた、
Chevron の参加を感謝、賞賛し、同国は米国とのよりよい関係を歓迎すると述べた。

ベネズエラは石油の国有化を決め、各石油会社は国営石油会社 PDVSAと条件交渉を行なった。
ChevronTotalBPStatoilHydroPDVSAの条件を呑み、Minority partner として操業を続けることとしたが、ConocoPhillips Exxon Mobil はこれを拒否し、争っている。(ConocoPhillips は最近、合意に近づいたとしている)

関連記事 2008/2/20 速報 WTI原油価格 過去最高値更新 

 


2008/9/25 WTI原油取引で相場操縦の疑い

米商品先物取引委員会(Commodity Futures Trading CommissionCFTC)は取引開始以来の上昇幅を記録した9月22日のニューヨーク原油先物相場に不自然な動きがあったとして、相場操縦の疑いで 調査を始めた。

WTI原油価格は22日が最終売買日であった10月物は一時、130.00ドル/バレルまで急騰、終値も120.90ドルとなった。

米政府による金融危機打開策への期待感で需要減少観測が後退したというのが理由。

前週末の19日終値(104.55ドル)と比較し、最高値では25ドル、終値でも16ドル強の値上がりで、取引開始以来の上昇幅を記録した。
9月16日の一時安値 90.51ドルと比較すると、22日の最高値は実質4日で40ドル弱もの上昇となる。

取引量が9月初旬のピーク時の1割弱まで落ち込むなか、相場が下がると予想して10月物を売っていた金融機関が、予想に反し相場が上昇したため、買い戻しを急いだことから、更に高騰した。

清算が1ヶ月先の11月物の終値は109.37ドルで、10月物の価格は異常であると言える。

23日、24日は、金融市場の救済策が成立したとしても需要減は続くとの見方で、続落した。
24日発表の米エネルギー情報局(EIA)が発表した米週間石油在庫統計では、原油在庫は150万バレルの減少となっており、市場予想(250万バレル減)ほどは減少していない。石油在庫と同時に発表される製品需要は減少基調が続いており、需要の弱さが再確認された。

CFTCでは、10月物の異常な値上がりについて、原油先物価格をつり上げた参加者がいないか、NYMEXに取引情報の提出を求めた。

CFTCの法務部門では、「誰か違法な市場操作をしていないか、調査を行なう。先物市場をおもちゃにするのは許せない」としている。
CFTCは誓約した上での証言や、最近の取引資料情報の提供を求める。

 


2008/9/25 DuPont、社長・CEOにEllen J. Kullman を選任

DuPont 9月23日、取締役会がEllen J. Kullman 女史52歳)を10月1日付けで社長に、2009年1月1日付でCEOに選任することを決めたと発表した。
現在の会長兼CEOの Charles O. Holliday, Jr.
60歳)は当面、会長を続け、追って Kullman に会長を譲る。

付記

DuPont取締役会は2009年10月30日、Kullman CEOを12月31日付けで会長に指名した。
Hollida
y会長は取締役を辞任する。

DuPont 206年の歴史で、女性がトップの地位に座るのは初めて。

Holliday会長は、「この10年間を通じ、わたしは、デュポンが市場重視型のサイエンスカンパニーに生まれ変わるための革新をリードするという、またとない役割を享受し、資源に限りのある世界情勢において、最も困難かつ急を要する人々のニーズに対し、そのいくつかの解決に道を開くことができました」「会社の変革を行い、収益性や利益を増やし、次世代を担う有能かつ力強いリーダーたちを育ててきた今、新しいリーダーへの継ぎ目なく変わる時期に来たと考えています」と述べている。

Kullman 新社長は1988年にGeneral Electric からDuPont に移った。
2002
2から2006年6月まではDuPont Safety & Protection部門を担当、20066以降、副社長として同社の5事業のうちの4事業(Coatings & Color TechnologiesElectronic & Communication TechnologiesPerformance MaterialsSafety & Protection businesses)の責任者であった。
この
2年間は広くHollidayの後継者と見られており、CEOを引き継ぐ教育を受けてきた。

Forbes 誌は最近、Kullmanを世界で最も力のある100人の女性の一人に選んでいる。
最近、
General Motors の社外取締役に選任された。

Kullman は4つのコア分野(農業、safety and protection、開発途上国市場、コスト低減)に注力し、DuPont の収益力を伸ばしたいと述べている。


2008/9/26 ジェネリック医薬品の世界最大手、日本進出 

ジェネリック医薬品の世界最大手のイスラエルのTeva Pharmaceutical Industries Ltd. が日本市場に本格参入する。

Teva Pharmaceutical 924日、日本で興和との折半出資会社を設立して、日本市場に本格参入すると発表した。
合弁会社は興和テバ(
Teva-Kowa Pharma Co., Ltd.)で、両社の研究開発、製造、物流、マーケティングの力を合わせ、日本市場で高品質のジェネリック医薬品の供給を行なう。
2009年から営業を開始し、2015年に売上高10億ドル(約1000億円)を目指す。

Teva Pharmaceutical 2007年の売上高は 9,408 百万ドル(約1兆円)。
うち、北米が
5,428百万ドル、欧州が2,645百万ドル、その他が1,335百万ドルとなっている。
世界中に
28千人の従業員を抱え、イスラエル、北米、南米、欧州で生産している。
同社は更に
20087月に、米国のBarr Pharmaceuticals を買収している。

因みに、日本のジェネリック最大手の沢井製薬の20083月期の業績は、売上高が376億円、営業損益が40億円、当期損益が17億円となっている。

興和は多種類の事業を行っている。
  医用関連機器
  繊維・ファッション
  生活材・産業用素材
  医薬品・ヘルスケア品
  レンズ・望遠鏡 
  医用関連機器
  IT・映像・放送

医薬品では、キャベジンコーワ、コルゲンコーワ、キューピーコーワゴールドなどが知られている。

 

付記 2008/11/11

中堅薬会社のあすか製薬(帝国臓器製薬とグレラン製薬が合併)は、後発医薬品で世界6位のActavis Groupアイスランド)と提携する。
2009年4月をメドに国内で開発・販売の合弁会社「あすかアクタヴィス製薬」(あすか55%、アクタヴィス45%)を設立、低コストで原材料を輸入し、需要が広がる後発薬市場での競争力を高める。

ーーー

2006年の世界のジェネリック企業ランキングは以下の通りで、Teva は圧倒的首位である。(単位:百万ドル)
2007年以降、これら各社にも大きな動きがある。

順位 企業 売上高 備考
1 Teva Pharmaceutical イスラエル 8,410 Barr Pharmaceuticals を買収
2 Sandoz ドイツ 5,960 Novartis generic 部門
3 Merck ドイツ 2,400 Mylan generic 部門を買収
4 Ratiopharm ドイツ 2,210  
5 Watson Pharmaceuticals アメリカ 2,000 Andrx を買収
6 Actavis Group アイスランド 1,850  
7 Stada Pharm ドイツ 1,620  
8 Mylan アメリカ 1,600 ドイツMerck のgeneric部門買収
インド Matrix Laboratories 71.5%を買収
9 (Barr Pharmaceuticals) アメリカ 1,590 Teva Pharmaceutical が買収
10 Dr. Reddy's Laboratories インド 1,510  
11 Ranbaxy Laboratories インド 1,340 第一三共が買収

ーーー

日本では2008年4月に処方箋様式の再変更が行なわれるなど、医療費削減のためのジェネリック医薬品使用促進策が打ち出されており、普及が急速に進む可能性がある。

現在、後発薬の金額シェアは約5%で市場規模は年間4千億円前後だが、今後4、5年で1兆円超にまで拡大する見通し。

日本でもジェネリック医薬品分野で動きが出始めた。

1)2007年4月 インド Zydus Cadila が日本ユニバーサルを買収

Zydus Cadila は日本ユニバーサル薬品の全株式を買収した。
日本ユニバーサルと取引がある医薬品卸を通じて全国に4千カ所ある製品納入先の医療機関に販路を広げ、ザイダスの後発薬を 売り込む。

2)2007年10月 インド Lupin Limited共和薬品工業の株式の過半数を取得

Lupin は研究注力型のジェネリック企業で、プネ市に最先端の研究所を有し、抗結核薬及びセファロスポリン(抗感染症)、CVS(心血管系)のグローバル・リーダー。
両社は2005年8月か
らジェネリック医薬品に関する協力契約を締結し、共同開発を推進してきたが、より密接な関係を構築する。
共和薬品では、日本市場における主導的立場を担うために邁進すると共に、Lupinと共に
グローバル戦略を積極的に推進するとしている。

3)2008年5月、田辺三菱製薬が長生堂製薬と資本業務提携

田辺三菱製薬は、2008年4月にジェネリック医薬品のプロモーション及び販売会社として田辺製薬販売を設立した。

今回、長生堂製薬の株式の過半数を取得し、包括的な業務提携を行なって、この分野で豊富な事業経験と基盤を有する同社の製品ラインナップ、営業・生産基盤と、田辺三菱製薬の事業基盤を融合し、この分野のリーディング企業を目指す。

4)2008年6月、第一三共がインドRanbaxy Laboratories を買収へ

第一三共はインドのRanbaxy Laboratories Limited 50.1%以上を取得する契約を締結し、TOBを実施した。

同社の狙いは以下の通り。

売上高の増大と今後の成長機会の確保
 「先進国市場+新興国市場」「イノベーティブ+ロングセラー」の双方を視野に入れた「複眼経営」へ
新興市場への足がかりの獲得
コスト競争力
研究開発力

ーーー

インドではジェネリック医薬品が主要産業の一つとなっている。

インドでは1971年以降、「物質特許」がなく、「製法特許」のみであったことも影響している。
(2005年にWTOの要請を入れて特許法を改正し、物質特許を35年ぶりに復活した)

世界大手がインドに進出すると同時に、インド勢は海外に進出している。

Dr. Reddy's Laboratories は2006年にドイツの betapharm を買収、
20084には BASFが米国ルイジアナ州に保有する委託製造事業部門および関連施設を買収した。

Ranbaxy も2006年3月にルーマニアのTerapia 324 百万ドルで買収、欧州進出への足がかりとしている。


2008/9/27 Clariant、会社分割か?

スイスの新聞は、スペシャルティケミカル会社 Clariant CEO交代後に分割されると伝えた。ソースは明らかにしていない。

同社は
@
Textile, Leather & Paper Chemicals
A
Pigments & Additives
B
Masterbatches
C
Functional Chemicals
4部門から成るが、報道によると、@のTextile, Leather & Paper Chemicals 投資会社に、AのPigments & Additives は競争相手に売却され、BとCだけが残る。

その場合、売上高は半減する。

2007年実績 (単位:百万スイスフラン)
  Sales Operating
Income
Textile, Leather & Paper Chemicals  2,332    40
Pigments & Additives  2,076    77
Masterbatches  1,380    102
Functional Chemicals  2,745    194
Corporate     -135
Total  8,533    278
  1スイスフラン 0.9US$

 

本年9月4日、同社は10月1日付けのCEOの交代を発表した。
2006年に就任したばかりのJan Secherが退社し、Dr. Hariolf Kottmann が就任する。

Jan Secher は7月に事業買収をしたいとしていた。
分割案は新CEOのDr. Kottmann の考えによるもので、場合によっては会社全体の売却もあるとみられている。

ーーー

同社は Sandoz の化学品部門が1995年にスピンオフして出来た企業で、Sandoz そのものは1997年にCiba-Geigy と合併し、生命科学に特化したNovartis となっている。Clariant 1997年にHoechst の化成品部門を買収している。

同社は2006年11月にリストラ構想を発表した。5億スイスフラン(500億円弱)を投じて、工場を10%減らし、2200人の減員を行い、製品数も最低25%減らし、これにより長期の利益ある成長を図るとした。

これに基づき、5番目の事業である Life Science Chemicals の受託製造ビジネスを2007年5月に International Chemical Investors Group に売却している。(中間体ビジネスはFunctional Chemicalsに統合)

      2006/11/23 Clariant 、リストラ構想発表  

しかし、これだけでは不十分と見て、今回の案が出たと思われる。

上図で見るとおり、同社は事業の売却を続けている。
  クラレにPVA/PVB、信越化学にセルロース、その他
  このほか、
Hoechstのスペシャルティ事業を統合した際に受け入れた吸水性樹脂事業をBASFに売却している。


但し、縮小均衡ではやっていける筈はなく、全体の売却の可能性も大きい。

 


2008/9/29 中国粉ミルク汚染事件のその後

中国では石家荘三鹿集団(河北省石家荘市)の粉ミルクを飲んだ乳幼児が腎臓結石となるケースが相次ぎ、死者は5人となった。
WHOによると、中国ではメラミンによって5万4000人以上の子供が要治療となり、現在1万2900人が入院中という。

    2008/9/17 中国で粉ミルク汚染 

河北省政府は9月14日、容疑者19人の身柄を拘束したと発表した。
うち18人は牧場、乳牛飼育団体、搾乳所の経営者で、残る1人は添加剤を不法販売していた業者。
彼らはタンパク質の測定値を引き上げて不法に利益を図ろうと、原料の牛乳にメラミンを混入したと供述している。

付記
2009年11月24日、最高人民法院の死刑執行の命令に基づき、河北省石家庄市中級人民法院は、「三鹿」ブランド粉ミルクのメラミン混入事件を起こした、張玉軍被告と耿金平被告の2人に死刑を執行した。

国家質量監督検験検疫総局(質検総局)は、育児用粉ミルクに対する特別検査を緊急に行なった。
メーカー109 社の育児用粉ミルク491品目を検査
、以下の22社の69品目からメラミンが検出された。

石家荘三鹿集団、上海熊猫乳品、青島聖元乳業、山西古城乳業、江西光明英雄乳業、宝鶏恵民乳品、
内蒙古蒙牛乳業、中澳(マカオ)合資多加多乳業(天津)、広東雅士利、湖南培益乳業、 
黒竜江省斉寧乳業、山西雅士利乳業、深セン金必氏乳業、施恩(広州)嬰幼児栄養品、 
広州金鼎乳制品、内蒙古伊利実業、烟台澳美多栄養品、青島索康栄養科技、
西安市閻良区百躍乳業、烟台磊磊乳品、上海宝安力乳品、福鼎市晨冠乳業

ーーー

問題の三鹿集団(San Lu)にはニュージーランドの乳業大手Fonterraが43%を出資、3人の取締役を派遣している。

FonterraのCEO Andrew Ferrierは9月15日、声明を発表した。

三鹿の取締役会で8月2日に、幼児用粉ミルクにコンタミ問題があることが報告された。
Fonterraが事件を知ったのはこれが最初。
この時点でFonterraはすぐ製品回収を行なうよう、強く主張した。

記者会見で、どうして早めに公表しなかったのか、と問われ、「合弁会社の少数株主として再三催促したが、三鹿は中国当局の指示に従わざるを得なかった」と答えた。

Helen Clark 首相は、ニュージーランド政府は、このコンタミ事件を地方政府が隠蔽しているのを知り、直ちに中国政府に連絡したとしている。
外相が9月5日、直接中国を訪問、本件について中国側に対応を要求した。

中国当局によると、三鹿集団がメラミン混入を市政府に報告したのは北京五輪開会直前の8月2日、市が河北省に報告したのは9月9日だった。

WHOの北京事務所長は9月26日、中国衛生省からWHO北京事務所への通報が9月10日夜だったことを明らかにし、「中央政府への問題発生の報告が遅れたことは深刻だ。報告が早ければ多くの人たちが危険な粉ミルクを避けることができた」と述べた。

WHOは9月26日の会見で、「生後6カ月間までのすべての乳児には母乳 だけを与えることを推奨する」との見解を発表し、粉ミルクの使用を控えるよう訴えた。
「授乳のために母親の労働環境を整備すべきだ」(食品安全の担当者)としている。

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共産党中央と国務院は9月13日、「国家重大食品安全事故1級対応体制」を発動し、緊急対策指導チームを立ち上げた。
 ・衛生部門:昼夜を問わず被害乳児を治療(国務院が乳児への無料治療を発表)
 ・品質検査部門:24時間態勢で全乳製品を検査
 ・工商総局:「問題粉ミルク」の押収・回収
 ・農業部:不合格牛乳は源から断つ

国家質量監督検験検疫総局(質検総局)は粉ミルクに続き、全国の牛乳のメラミン検査を行なった。
市場の70%以上を占める知名度の高いメーカー、蒙牛・伊利・光明・三元・雀巣(ネスレ)の牛乳に有害物質のメラミンが混入していないかどうかを重点的にサンプリング調査した。
その結果、蒙牛・伊利・光明の牛乳の一部からメラミンが検出され、質検総局はこれらの回収撤去を命じた。

中国国務院は9月18日、食品の品質検査免除制度を撤廃する旨の通知を出した。

中国では「食品品質検査免除制度」(1999年12月5日発布 「製品品質業務に対するさらなる強化問題に関する国務院決定」)があり、3回の品質検査に連続して合格した商品については、所定の厳重な検査を3年にわたり免除されていた。
メラミン検出が公表されたメーカー22社の大半が、「高水準で一貫性のある品質管理が行われている」としてこの資格を取得してい
た。「三鹿集団」も検査免除の資格を持っていた。

通知では、食品品質検査免除制度を廃止すること、各地方・各部門に対し食品の品質安全を確保するよう求めている。

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河北省では粉ミルク事件で責任者を処分、三鹿董事長も辞職した。
 石家荘市は市政府の農業担当であった副市長、牧畜水産局長を解任。
 河北省は食品薬品監督管理局長、質量技術監督局長を解任。
 石家荘市長も辞任した。

中国国務院は9月22日、国家品質監督検査検疫総局の李長江局長(閣僚級)の辞任を認めた。担当閣僚の事実上の更迭。

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香港政府の食品安全センターは9月19日、日清食品が香港で販売するデザートの原材料に、化学物質メラミンが検出された中国の大手乳業メーカー「伊利」の乳製品が使われていたと発表した。日清がセンターに連絡し、製品の回収を始めた。

回収されるのは、山東省青島の食品工場で製造された、香港のデザート「糖水」シリーズの「チャ・チャ・デザート」。アズキや豆がベースのおしるこ風のレトルト製品。

丸大食品も製品の回収を始めた。

中国山東省にある子会社で製造し、日本に輸入している「クリームパンダ」、「抹茶あずきミルクまん」、「グラタンクレープコーン」の3品に伊利集団の牛乳を使用していた。
その後、住金物産の中国子会社が製造し、丸大が輸入した「角煮パオ」、「もっちり肉まん」も回収を始めた。

大阪府の高槻市保健所は9月26日、4種類の同社商品からメラミンを検出したことを明らかにした。丸大食品も同日、自主回収した商品1種類と中国の工場に在庫として残っていた牛乳から、自社の分析でメラミンが検出されたことを明らかにした。

検査で検出されたのは「グラタンクレープコーン」、「クリームパンダ」、「抹茶あずきミルクまん」、「クリームまん」。

 

アジア各国では中国乳製品に対する禁輸措置が相次いでいる。

9月21日までに台湾やシンガポール、マレーシア、ブルネイが乳製品の禁輸措置をとった。
台湾ではインスタントコーヒーなどに使われていた植物性粉クリームからも微量のメラミンを検出、禁輸の範囲を植物性たんぱく製品まで拡大した。

ーーー

中国乳製品工業協会と中国連鎖経営(チェーン経営)協会の呼びかけのもと、蒙牛乳業、伊利実業、光明乳業はじめとした乳製品メーカー316社は9月23日、自主的に国家基準と業界基準を遵守する公約「品質信用宣言」を発表した。

ーーー

三鹿集団では、今回の汚染粉ミルク回収量は1万トンを超え、損害賠償額は7億元以上に達する見込み。患者の治療費については責任者として支払いの義務があり、負担は巨大で、破産に追い込まれる可能性がある。

同集団の流動資金はすべて粉ミルクの回収費用と損害賠償に回され、取引銀行は資金貸付を行わないだけでなく、過去の貸付金の返済を要求している。

河北省国有資産監督管理委員会は三鹿集団に人を派遣し、工場の早期の運転再開を目指して、集団の資産整理を進め、新たな引受先を探すなどしている。

三鹿集団の引き受け先としては、製品から有害成分メラミンが検出されていないため株価が大きく値上がりしている 北京三元食品が噂に上がっている。

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温家宝首相は9月27日、天津で開かれた「世界経済フォーラム(夏季ダボス会議)」で、本件について以下の通り述べた。

我々の現代化の課程で生産管理に問題がまだ多いことや、企業道徳、職業道徳、社会モラルをより重視すべきだということもさらけ出した。
こうした問題を解決するための包括的な計画を速やかに提出する。
食品や乳製品だけでなく、すべての中国製品を世界中の人々に安心を与えるものにする。中国の人民、世界の人々を失望させることはないと信じている。


2008/9/30 DuPont のこの10

既報の通り、DuPont は9月23日、取締役会がEllen J. Kullman 女史(52歳)を10月1日付けで社長に、2009年1月1日付でCEOに選任することを決めたと発表した。
現在の会長兼CEOの Charles O. Holliday, Jr.(60歳)は当面、会長を続け、追って Kullman に会長を譲る。

Holliday CEOは、「この10年間を通じ、わたしは、デュポンが市場重視型のサイエンスカンパニーに生まれ変わるための革新をリードするという、またとない役割を享受し、資源に限りのある世界情勢において、最も困難かつ急を要する人々のニーズに対し、そのいくつかの解決に道を開くことができました」と述べている。

Holliday CEOは、DuPont勤続38年。
テネシー大学を卒業後、
DuPont に入社、テネシー州 Old Hickory 火薬工場をスタートに、Fibers部門の事業分析、Pigments & Chemicals のマーケティング部長、Kevlar(パラ系全芳香族ポリアミド繊維)とNomex(メタ系アラミド繊維)の部長等を歴任、1990年にアジア太平洋部門の責任者となった。
1998年2月にCEOに、1999年1月に会長に就任した。
DuPontでは海外経験を持つ最初のCEO。

DuPontのスローガンをそれまでの“Better Things for Better Living” から、“The miracles of science”に変更、従来からの基礎研究の強みと新しいバイオ技術などとを統合した。また環境へのコミットメントも強化した。

 

DuPont ではこのトップ交代の発表に当たり、Holliday CEOの10年にわたる業績を列挙している。

DuPont は600億ドル超の戦略的改革を経て、科学を基盤に価値の高い製品およびサービスを提供する企業に転換。これらの構造改革が完了した2004年以後、税引前営業利益率は2ポイント上昇し、投資利益率は5ポイント、1株あたり利益は年率11%の伸びを示した。

DuPont はエネルギーおよび資源に限りのある世界情勢に対応し、再生可能資源を利用したバイオマテリアル、バイオ燃料、バイオスペシャルティ、バイオメディカルといった分野で製品の実用化を目指す当社最新の技術基盤、アプライド・バイオサイエンスを立ち上げた。

− 2007年、
DuPont の売上全体に対する新製品の売上比率は、2001年の24%から36%に増加。新製品の売上額は、この5年以上の間に50億ドル以上伸びた。また売上全体のうち、100億ドル以上が過去5年に販売開始となった製品によるものである。

DuPont は2005年11月以降、固定費の生産性を高めることで10億ドルの節約を果たし、発行済み普通株式の12%に当たる50億ドル分の普通株を買い戻した。

− ホリデー会長は産業界に「持続可能な成長」目標を紹介し、DuPont の顧客に提供する全ての価値の中核となる持続可能性を構築することでDuPont をリードし、完全にビジネスモデルと統合させた。現在、世界に認められたリーダーとして、DuPont は、持続可能性の概念を製品や業務に取り込み、顧客やバリューチェーン、消費者に影響を与える一方で、社内の環境への負荷を大幅に削減している。

DuPont はさらに、今年初めにグローバル規模のハイテク企業で構成され、経営陣が基準に従い業績評価を行うとする新たなpeer group を結成し、より大きな成長を目指す位置にあるという信頼感を示しました。この新しいpeer group は、DuPont のこれまでのpeer group に比べ2倍以上の収益増加率を生みだしている。

ーーー

同社の損益をみると、1999年頃と比べ、それほど増えていないように見えるが、1999年にはConoco 売却益、2001年には医薬部門売却益が含まれている。

  2007 2006   2001 2000 1999
Sales  29,378  27,421    24,726  28,268  26,918
税引前利益   3,743   3,329   * 6,844   3,447   1,690
税引後損益   2,988   3,148     4,328   2,314    219
Conoco売却益ほか(税引後)             7,471
Net income   2,988   3,148     4,339   2,314   7,690

* 2001年税引前損益には医薬部門売却益 6,136 を含む

 

売上高構成は大きく変わっている。 (単位:百万ドル)

   2007 1999年
Sales 主たる製品   Sales
Agriculture & Nutrition   6,842 Seed
Traits
Crop protection
Food ingredients
Food quality and safety
Agriculture & Nutrition -   3,019
Coating & Color Technologies   6,609 Titanium dioxide
Liquid and powder coatings
Coatings and application services
Performance Coatings
   & Polymers
  6,111
Pigments & Chemicals   3,660
Electronic &
Communication Technologies
  3,797 Circuit and component materials
flexographic printing systems
Photovoltaic materials
Refrigerants
Surfacing materials
Semiconductor fabrication and
   packaging materials
Wire & cable materials
   
Performance Materials   6,630 Engineering polymers
Flexible packaging resins
Industrial resins
Performance elastomers
Performance films
Specialty Polymers   4,255
Safety & Protection   5,641 Safety and operational consulting
   and training
Specialty, performance,
   and industrial chemicals
Corian sold surfaces
 (人工大理石)
Kevlar fiber
Nomex fiber and paper
Tyvek protective material
   and others selective barriers
  (不織布シート)

Specialty Fiber

  5,080
      Nylon   3,068
Polyester   2,401
Pharmaceutical   1,630
Other    178   Other    480
内部振り替え    -319   内部振り替え    -2,786
Net Sales  29,378   Net Sales   26,918
      他に Conoco   12,015

同社は石油会社 Conoco 1981年に合併したが、199986日に売却が完了した。
1999年の損益計算書では、中止事業として売上高からは除外、売却までの損益と売却益とが税引き後の特別損益として表示されている)

2001年にはPharmaceutical 部門をBristol Myers Squibb に売却、2003年にNylonPolyester 等の繊維部門をInvista として分離、2004年に Koch に売却した。

逆に、Electronic & Communication Technologies Safety & Protection を新設し、強化しつつある。
また、
Agriculture & Nutrition の売上高は倍増している。

 


2008/9/30  緊急経済安定化法案 否決、ニューヨーク市場 WTI 原油 大幅下落 

米議会下院は
9月29日、最大7,000億ドル(約75兆円)の不良資産を公的資金で買い取る緊急経済安定化法案を賛成 205、反対 228で否決した。共和党議員の大半が反対に回ったうえ、民主党でも多数が反対票を投じた。

民主党 140- 95
共和党  65-133
合計   205-228

国民の税金で金融機関を救済するという批判に対し、資金投入を3段階にするとか、対象金融機関の経営陣の報酬制限などの修正を加え、議会首脳は合意したが、党議拘束はなく、反対が上回った。

緊急経済安定化法案の骨子

最大7000億ドルを投じ、金融機関の不良資産を買い取る
買い取りは当初2500億ドル、その後、大統領判断で1000億ドルを追加。残り3500億ドルは議会の承認が必要
買い取りと引き換えに政府は金融機関の新株取得権を受け取る
買い取り対象の金融機関の経営陣の報酬を制限する
買い取り業務を監視する委員会を設置する
金融機関への時価会計適用について検証する

反対の理由としては、政府の介入に対する思想的反対、ウォール街の大物救済への反感、計画作成の性急さ、秘密主義への不満等が挙げられるが、最大の理由は下院の改選を5週間後に控え、有権者の反対の意向を重視したことで、特に改選が危ない議員は反対票を投じた。

付記

その後、預金者保護策の拡充(経営破綻時の預金保証上限額を10万ドルから25万ドルに引き上げ)や国民の理解を得るための対策を追加し、10月1日に上院で、10月3日に下院で可決、成立した。

しかし、成立後も、景気の先行き不安、石油需要の減少と懸念は消えず、石油価格は下落している。

 

直近まで、合意がなされたと報道されていただけにショックは大きく、景気の先行き不安がさらに高まり、石油需要の一段の減少が懸念された。

29日のニューヨーク原油先物市場のWTI原油価格は、これが報道されて急落し、終値は96.37ドル/バレルと、先週末の終値に対し10.52ドル、9.84%の大幅下落となった。

 


* 総合目次、項目別目次は
   http://www.knak.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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