ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

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2009/5/1   積水化学、合わせガラス用中間膜事業を拡大

積水化学は「合わせガラス用中間膜」の事業を戦略事業と位置付け、グローバルに展開しているが、4月27日、Celanese からポリビニルアルコール(PVA) 樹脂事業を173百万ドルで買収することを決めたと発表した。

中間膜は、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂を製膜化することにより製造するが、その原料サプライチェーンは以下の通り。

酢酸 → 酢酸ビニルモノマー(VAM) → PVA樹脂PVB樹脂→合わせガラス用中間膜

今回、PVB樹脂の原料のPVA樹脂事業を買収することにより、安定的な原料供給体制を構築するとともに、需要地生産の促進、原料面での技術シナジーの発揮等、サプライチェーンの強化を図る。

買収するのはセラニーズのPVA樹脂事業に係る資産(設備、棚卸資産および知的財産権等)。
生産拠点はセラニーズ米国子会社のCelanse Ltd.のCalvert City, Ky.と Pasadena, Texas 及びスペイン子会社のCelanese Chemicals Iberica S.L.の Tarragona の3工場で、能力は12万トン年。 

当該部門の2008年の売上高は296百万ドル。

同社ではセラニーズのPVA樹脂事業を譲受けるため、米国およびスペインに2009年5月に子会社を設立する。

付記 6月9日発表

設立する子会社の概要
1)米国
  Sekisui Specialty Chemicals America, LLC
    Sekisui America Corporation 100%
2)スペイン
 Sekisui Specialty Chemicals Europe S.L.
    Sekisui Europe B.V. 100%

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積水化学は、建築用と自動車用に「合わせガラス用中間膜」を製造販売している。

ガラスは割れると細かく鋭利な破片となって飛び散る性質を持っているため、フロントガラスには合わせガラス採用が義務づけられている。

2枚のガラスの中間膜を挟み込むことで、耐貫通性と飛散防止性をもたせる。
また、ニーズにあわせて遮音膜、遮熱膜、遮音・遮熱膜など高機能中間膜の需要も増えている。

遮音中間膜は、従来の中間膜層 2層の間に遮音層(コア層)を設ける3層押出技術により製造。
遮熱中間膜は紫外線に加え、太陽光中の熱線(中赤外線)を大幅にカットする。

同社は自動車向けの中間膜では世界で42%のトップシェアを誇っており、2010年度に44%を目指す。

同社の中間膜及び原料の生産拠点は以下の通り。

  工場、子会社 場所 稼動時期 生産品
製膜 滋賀 水口工場 滋賀県甲賀市 1960年 通常膜、遮音膜、遮熱膜、遮音・遮熱膜
SEKISUI S-LEC Mexico S.A. de C.V メキシコ・クエルナバカ市 1971年 通常膜
SEKISUI S- LEC B.V. オランダ・ルールモンド市 1997年 通常膜、遮音膜
SEKISUI S-LEC (THAILAND) CO.,LTD. タイ・ラヨン県 2002年 通常膜
積水中間膜(蘇州)有限公司 中国・江蘇省蘇州市 2004年 通常膜
SEKISUI S-LEC AMERICA, LLC. アメリカ・ケンタッキー州 2007年 通常膜、遮音膜
原料 滋賀 水口工場 滋賀県甲賀市 1960年 PVB樹脂
SEKISUI S- LEC B.V オランダ・ヘレーン市 2007年 PVB樹脂
アメリカ子会社 アメリカ・テキサス州 今回
 買収
PVA樹脂
アメリカ・ケンタッキー州
スペイン子会社 スペイン・カタルーニャ州

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Celanese の基はドイツのHenri Dreyfusが1913年に設立したCellonit Gesellschaft Dreyfus (セルロイド製造)で、その後、航空機用ペイント、その原料の酢酸の製造を行った。英国、米国にも進出、第一次大戦後の需要減でアセテートの製造を始めた。

1961年に米Celanese はヘキストとの合弁で Ticona を設立、1964年には米 Celanese は日本でダイセルとの合弁でポリプラスチックを設立している。

1987年にヘキストがCelanese を買収したが、1997年にヘキストは事業再編でTiconaを分離、1998年に化学部門を新セラニーズとして分離した(Ticonaはセラニーズ子会社となる)。

2004年にBlackstone Capital PartnersがTOBでセラニーズを買収したが、2007年に
Celanese株式の売却を完了した。

Celanese は酢酸を原料に、以下の製品を製造販売している。


セラニーズは現在、南京産業パークで大規模酢酸コンプレックスを操業しており、子会社Ticona超高分子量ポリエチレンほかの事業を展開している。

2007/2/22 セラニーズの中国での活動 (Celanese の酢酸事業概況も)

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今回、Celansese が買収するPVA(ポバール)は、クラレがビニロン繊維の原料として世界に先駆けて工業化した。
クラレがシェア世界第一位。

クラレは岡山(96千トン)と中条(28.3千トン)にプラントをもつが、中条は酢ビの生産停止で特殊品が中心となっている。

クラレは1996年10月、シン
ガポールに日本合成化学との50/50JVのポバールアジアを設立し、Sakra島に能力40千トンのプラントを持つが、2008年1月付けでクラレ 100%になった。

クラレは2001年にClariantのPVA、PVB事業を買収、Kuraray Specialities Europe GmbH を設立した。ドイツ・フランクフルトのPVA 50千トン、PVB 16千トンのプラントを手に入れたが、現在の能力はPVA 70千トン、PVB 20千トンとなっている。

酢酸関連については 2006/5/20 酢酸業界

 


2009/5/2 注目会社 2009年3月決算:信越化学 

3月決算の発表が始まった。

信越化学は長い間、増収増益を続けてきたが、金融危機を原因とする需要の落ち込みで、減収減益となった。
但し、その状況下でも塩ビは営業損益で黒字となっており、全体の減益幅も小さい。
配当は10円増配し、年間100円とする。

連結決算                        単位:百万円(配当:円)
  売上高 営業損益  経常損益 当期損益  配当
中間 期末
08/3  1,376,364  287,145  300,040  183,580  40.0  50.0
09/3  1,200,813  232,927  250,533  154,731  50.0  50.0
増減   -175,551   -54,218   -49,507   -28,849  10.0   -
営業損益対比(億円)
  08/3 09/3 増減   2009年
上期 下期
有機・無機化学品   995   951   -44     555   396
  塩ビ系   315   367   52     182   185
  シリコーン系   431   336   -95     228   108
  その他   249   248   -1     145   103
電子材料  1,621  1,122  -499     794   328
  半導体シリコン  1,411   984  -427     699   285
  その他   210   138   -72      95    43
機能材料   260   257   -3     154   103
調整    -4    -2    2      -2    0
合計  2,871  2,329  -543    1,501   827

半導体シリコンは期後半から、幅広い分野でデバイス需要が急速に減少し、大幅な減益となった。
シリコーンも期後半から幅広い分野で需要が減退した。
これらの下期の営業損益は、上期のそれから半分以下になっている。

信越半導体グループ(信越半導体、SEHアメリカ、SEHマレーシア、SEHヨーロッパ、SEH台湾)の経常損益推移は以下の通り。

それに対し、シンテックは住宅市場の低迷が続く中、世界中での拡販により高水準の稼動を継続し、これにより塩ビ系は前期比でも増益となった。

Shintech は12月決算。
米国基準では「経常損益」概念はないが、税引前損益から特別損益を除外したもの。

なお、米国の他のPVCメーカーは各社とも下期に減益となっており、特にGeorgia Gulf Polyone は大幅赤字となっている。

Shintechの場合は荷造設備を含め、輸出体制が以前から整っており、国内の需要不振にもかかわらず、世界各地域への輸出によりフル生産を行ったのが、他社との違いである。
また、大部分のVCMの供給を受けるダウとの間で、共存共栄の考え方から製品値下がりの一部をダウが負担する契約になっていると言われており、これも影響していると思われる。

それにしても、SABICさえ損益が激減している10〜12月を含む下期でシンテックが増益となっているのは驚異的だ。


2009/5/4 水俣病 53年

水俣病発生を行政が把握してから53年を迎えた5月1日、熊本県水俣市で犠牲者を悼む慰霊式があった。

与野党が今国会に出した被害者救済法案をめぐる修正協議 を始めたのをふまえ、斉藤環境相は式典のあいさつで「一刻も早く(救済の)枠組みが整理されるよう願う」と述べ、今国会中の救済法案成立への期待を表した。

ーーー

与党は3月13日、「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の最終解決に関する特別措置法案」を国会に提出した。

2009/2/17 水俣病与党プロジェクトチーム、チッソ分社化法案を今国会提出へ

これに対し、民主党は4月17日、「水俣病被害の救済に関する特別措置法案」を参議院に提出した。

  与党案 民主党案
対象疾病 1)四肢末梢優位の感覚障害 1)四肢末梢優位又は全身性の触覚又は痛覚の感覚障害
2)口の周囲の触覚又は痛覚の感覚障害
3)舌の二点識別覚の障害
4)求心性視野狭窄
5)大脳皮質障害による知的障害、精神障害又は運動障害
被害者給付金 150万円 300万円
医療費等
 
療養費
療養手当:月額10,000円
医療費:
 自己負担分相当額
 療養手当:公健法の療養手当と同等額
 特別療養手当:月額10,000円
最終解決に向けた取組 公害健康被害補償法
 
地域指定等の解除
    
     ー
事業再編計画
 
事業譲渡(チッソ分社化)

当初の基準は、「四肢抹消の感覚障害のほかに視野狭さくや中枢性難聴など複数の症状の組み合わせ」であった。
最高裁は2004年の関西訴訟判決で、「一定の条件があれば感覚障害だけで水俣病と認められる」とした大阪高裁の判断を支持した。

与野党法案が出そろってから初の与野党協議が4月24日、国会で開かれたが、両案の隔たりが改めて浮き彫りになった。

与党から「民主党案は救済対象を広げすぎではないか」などの指摘があった。
但し、一時金については与党の150万円から増額する方向で与党と民主党の合意が図られる見通しとされている。

一方、チッソ分社化について民主党は「現時点ではとても容認できない」との見解を示した。

ーーー

付記

水俣病未認定患者の救済法案をめぐる与野党協議が6月12日開かれ、与党側が与党法案の修正案を示した。

前文で「政府の責任を認めおわびしなければならな い」と明記。
救済対象は「四肢末梢優位の感覚障害を有する者」の条文に「準ずる者」との表現を追加
新保健手帳に代わる「水俣病被害者手帳」の交付も追加

地域指定解除については二案
 「関係自治体の長や地域住民の意見を広く聴く」と条件をつけて文言を残す案
 「地域指定解除」の文言を削除して「水俣病問題の最終解決の実現に伴う必要な措置を講じる」と言い換えた案

チッソ分社化
 事業会社に「地域経済の振興と雇用確保に資する」ことを求め、国 や熊本県の努力義務を条文に追記。

「原因企業の責任逃れ」
 「訴訟が続く間は補償を担う親会社は清算できない」とする説明資料

ーーー

西日本新聞は4月23日の社説で以下の通り述べている。

加害企業の事実上の消滅につながるチッソ分社化には、患者団体などに「責任逃れだ」との強い反発がある。私たちも同感ではあるが、補償費確保などを考えると、チッソのありようは避けて通れない問題だろう。
加害責任と救済責任を明確にしたうえで、チッソの補償費支払い能力を維持する仕組みを、与野党協議で救済法案とは別に練り上げてもらいたい。

水俣病の地域指定解除は「何をか言わんや」である。地域指定が解除されれば患者認定も当然なくなる。それは行政的には水俣病問題の終結を意味する。

水俣病被害の全容はいまだつかめていないのだ。新たな救済策実施にあたっては、民主党案に盛り込まれた「国による速やかな被害実態調査の実施」こそ最優先されるべきだろう。
それを怠れば、新救済策も14年前の政治決着の二の舞いになってしまう。

ーーー

民主党によると水俣病患者数は以下の通り。

      補償 人数
救済 公害健康被害補償法患者 行政が感覚障害と運動失調など複数症状の
組み合わせにより認定
1,600万円〜1,800万円 補償   2,962
1995年 政治解決* 医療手帳 四肢末端優位の感覚障害 チッソから一時金260万円、
国・県から医療費自己負担分全額、
月額約2万円の療養手当
 11,152
保健手帳 感覚障害以外で一定の神経症状 医療費自己負担分(上限付き)支給   1,222
司法救済 85年8月 2次訴訟(福岡高裁) 600〜1,000万円補償     4
04年10月 関西訴訟(最高裁)
 チッソは二審で確定(51人)
 国・県分のみ上告(45人)
37人へ計7,150万円
8人は賠償取消
(但し二審判決で支払済みで変更なし
    51
新保険手帳 *  関西訴訟で国側が敗訴し、復活 医療費自己負担分支給  21,190
未救済 公健法認定申請者 最高裁判決後     6,393
その他 国賠訴訟等原告     1,688
不知火患者会      1,662
新潟水俣病       17
水俣病被害者互助会        9

* 医療手帳、保健手帳、新保険手帳は、認定審査、認定訴訟取り下げが条件
  保健手帳、新保険手帳は、補償はなく、
医療費補助のみ 


2009/5/5 韓国鉱物資源公社、ボリビアでリチウム鉱開発へ

韓国鉱物資源公社(Korea Resources Corporation)は4月29日、ボリビアでのリチウム鉱開発共同推進のため、ボリビア国営鉱業公社(Corporacion Minera de Bolivia COMIBOL) とMOUを締結したと発表した。年480トンの生産を予定している。

COMIBOLは2008年6月18日、韓国鉱物資源公社(旧称 大韓鉱業振興公社)、LS-Nikko Copper など5社からなる韓国企業連合 とCorocoro 銅鉱山を共同開発する契約を締結している。
確認埋蔵量は1500万トンで、
COMIBOLと韓国企業連合が55対45の比率で株式を保有、210百万ドルの投資額を全額韓国が負担する。

LS-Nikko Copperは、日鉱金属、三井金属、丸紅の「日韓共同製錬」と韓国のLGグループ:LG電線、LG産電、LG商事の50/50出資でLG-Nikko として設立、2003年にLG電線がLGグループを分離、LS−Nikkoに改称した。日鉱は日本側の80%、全体の40%を出資。

付記

韓国鉱物資源公社はチリではサムスン物産とともに150万 ドル規模のリチウム鉱山開発を進めており、アルゼンチンではLG商事と鉱山開発に取り組んでいる。

同公社は7月にアフリカのニジェールにあるテギダ・ウラニウム鉱山の株式買収に成功した。この鉱山から韓国のウラニウム年間使用量の 10%に当たる400トンを安定的に供給できるようになった。

付記

韓国の製鉄会社Poscoと国土海洋部は2010年2月2日、「海洋溶存リチウム抽出技術商用化共同研究開発事業協定」を締結、2014年までにそれぞれ150億ウォンずつを投資し、リチウム商用化のためのプラント設備を建設することにした。

国土海洋部と地質資源研究院は2000年から海洋溶存資源抽出技術開発を推進し、2009年5月、海水からリチウムを抽出する技術を確保した。
国土海洋部は「国内の技術は日本が30年間開発してきた類似技術に比べて効率が30%以上高い世界最高水準」とし「商用化作業が成功すれば、2015年以降は年間2万−10万トン規模のリチウムを生産する工場を稼働することになる」と説明した。

これとは別に、ボリビアのMorales大統領は4月21日、フランスのBollore Group とリチウム開発事業の交渉を始めると述べた。

付記

石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、住友商事、三菱商事、経産省、日本貿易保険、国際協力機構ボリビア事務所長からなる官民合同ミッションは、6月4日、首都ラパスでエチャス鉱山冶金大臣と面談し、ウユニ塩湖のリチウム資源開発をJOGMECを含む日本の関係企業と共同で行い、これに対して関連する政府関係機関が様々な支援を行うことの重要性と、その具体的進め方につき日本側の考え方の説明を行った。

この結果、ボリビア側としては国家事業として自ら炭酸リチウムの生産を行う考えであるとしつつも、日本からの技術的・資金的協力につき強い期待が表明された。
また、今後、開発に必要となるインフラ、技術データ等に関する情報交換及び将来の開発体制につき定期的に協議を行っていくことに合意した。

付記 2010/4

韓国紙の報道によると、ボリビアには日韓仏3カ国が支援攻勢をしてきたが、ボリビア政府は最近、最も経済的なリチウム抽出法を提示した国に開発優先権を与えるとし、国外搬出を禁止してきたウユニ湖の塩水を3カ国に研究用として提供した。

ウユニ湖は海抜3000メートルの高地帯にあり、自然蒸発がうまく進まない。 またリチウムと性質が似たマグネシウムの含有量がチリやアルゼンチンに比べ3倍ほど多いため、従来の工法を適用するのも難しい。自国の技術では経済性あるリチウムを抽出できないという。

付記

三井物産はカナダのCanada Lithium Corp.がケベック州の鉱山で生産するリチウムの独占的な営業権を取得した。
2013年から年2000トン程度を輸入する。

ーーー

ノートパソコンや電気自動車用にリチウムイオン電池の増産が続く中で、原料である無機化合物、炭酸リチウムは重要性を増している。

しかし、炭酸リチウムの供給には大きな問題がある。

世界のリチウム鉱の2007年の生産量と埋蔵量は以下の通り。(含有リチウム換算)
  http://www.jetro.go.jp/world/cs_america/cl/stats/pdf/lithium.pdf

  生産量 確認可採
  埋蔵量
確認埋蔵量
チリ  9,400トン  3,000千トン  3,000千トン
ボリビア   ー   −  5,400
ブラジル   240   190   910
アルゼンチン  3,000   na   na
中国  3,000   540  1,100
米国  非公表   38   410
カナダ   710   180   360
ポルトガル   320   na   na
ロシア  2,200   na   na
ジンバブエ   600   23   27
合計  25,000  4,100  11,000

中国はチベット自治区がリチウムの産地で、中国最大のリチウム生産を誇る扎布耶(Chabyer ザブイェ)塩湖では昨年、生産拡張工事を決めた。投資総額は10億8400万元で、拡張工事終了後には、年産能力は、リチウム2万トン、酸化リチウム5000トン、金属リチウム500トン、高純度リチウム200トン、リチウム材30トン、リチウム化合物490トンとなるという。

しかし、中国ではレアアース(希土類)について「レアアース生産・輸出の厳格な規制を求める建議」が全人代に提出され、中国で幅広い注目を集めている。リチウムについても輸出を規制する可能性は強い。

2009/4/22 中国がレアアースの輸出を制限? 

 

リチウムの埋蔵量ではチリとボリビアが全世界の80%近くを占める。

現在チリで採掘されているのはアタカマ塩湖(Salar de Atakama)にある塩の鉱床。
未開発で世界の埋蔵量の
50%近くを保有するボリビアの資源はウユニ塩湖(Salar de Uyuni)にある。

また、アルゼンチンで採掘されているのはオンブレ・ムエルト塩湖(
Salar de Hombre Muerto)で、米国のFMCのリチウム部門であるFMC Lithiumが独占的に生産を行っている。

付記

豊田通商は2010年1月19日、豪州 Orocobre Limited と、アルゼンチンのOlaroz塩湖でのリチウム資源開発のための事業化調査を約する覚書を締結した。
事業化調査の結果をもとに、共同出資会社を設立し2012年より生産を開始する予定で、2014年には、炭酸リチウム年間15,000トン、塩化カリウム年間36,000トンの生産を目指す。

豊田通商が先ず25%を出資するが、その後、政府が独立行政法人を通じて、その3〜4割を出資する方針。

ーーー

いずれも太古の時代には内海であった塩田(salt pan)で、現在標高3000 メートル以上の高地の極めて厳しい自然条件の下にある。

チリではアタカマ塩湖の塩水(底の岩塩と表面の塩の固まりの中間に塩水層がある)を汲み上げ、プールで天日乾燥し、アタカマ塩湖から200キロ離れたアントファガスタ港湾都市で炭酸リチウムを生産している。
チリ鉱業化学会社(
Sociedad Quimica y Minera de Chile:SQM)とドイツのChemetallのチリ現地法人が生産しており、前者がアタカマ塩湖鉱区10ヵ所のうち9ヵ所の利権を所有している。

2001年10月にカナダのPotash Corporation of Saskatchewan がSQM株の18.3%を買収し、2004年に37.5%にまで引き上げている。

世界の4割を生産しているSQMは、本業であるヨード、硝酸塩カリウムの増産に注力しており、リチウム増産のめどは立っていない。(増産には新鉱区の開発が必要と言われている。)

付記
SQMは2009年秋、2割の値下げを打ち出した。
この結果、夏に8$/kgであった取引価格が2010年に5$に低下した。
これは、新規リチウム開発に対する牽制とみられる。

SQMなどのコストは2$前後とみられるが、新規開発の場合、5$では採算が厳しいとされる。

ボリビアについては、日本や欧州の企業がボリビアのリチウム採掘を求めているが、Morales大統領は石油の国有化を行っており、ウユニの資源開発は許可されないだろうと見られていた。

2009/2/7  ボリビア、BP系ガス田を国有化

リチウム採掘を管轄するボリビア国営鉱業公社 (COMIBOL) のトップは、「わが国の天然資源に関しては、以前の帝国主義採掘モデルはボリビアでは二度と繰り返さない」としている。
大統領
も何度も「リチウムのある塩湖は世界のものではなく、ボリビア国民のものである」と述べている。

今回の改正憲法では、
国家の目的と機能(9条)のなかに「自然資源の責任ある利用の促進及びその工業化の促進」を掲げ、
先住民族の権利(30条)に「そのテリトリーにおける自然資源の開発による利益を受ける権利」を挙げている。

自然資源については、
「鉱物資源、水資源、炭化水素、森林、生物多様性などはボリビア国民の所有物であり、国家によって管理される」(348、349条)、
「国家は自然資源の探査・開発・工業化・輸送流通を管理・監督する」(351条)、
「炭化水素(天然ガスや石油)は国家管理の下に置かれ、ボリビア石油公社によって生産・流通が行われる。但し特定の事業を私企業と契約によって行うことを妨げるものではない」(359条他)と規定している。

   
http://cade.cocolog-nifty.com/ao/2009/02/post-ca8e.html

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COMIBOLは2010年春にリチウムとホウ素、マグネシウム、カリウムを塩湖から回収する実験プラントの発注先を決定して、2013年に商業用プラントの操業を開始することを計画している。

総額200億円規模の事業で、三菱商事、住友商事、韓国のLG、フランスの企業家Vincent Bollore が政府に対し、陳情を行った。

住友商事は、リチウムを海水から効率的に回収する技術を持つ北九州市立大学国際環境工学部の吉塚和治教授(分離工学)と提携している。
海水を濃縮し、マンガン酸化物とリチウムイオンを結合させて、リチウムを回収する技術で、従来の濃縮水に炭酸ナトリウムを投入して沈殿させる方法より効率が良い。

三菱商事は大株主として三菱自動車の再建を支援するが、その切り札の一つが、2009年夏に市場投入する電気自動車。三菱商事の試算によると2020年代には世界の自動車の半数が電気自動車へシフトし、原料の炭酸リチウムの需要は急拡大する。
このためボリビアの権益確保に動いた。

ボリビアのMorales大統領は4月21日、フランスのBollore Group とリチウム開発事業の交渉を始めると述べた。

Bollore Groupはイタリアの自動車メーカーのPininfarinaと電気自動車製造のJVを持っており、時速125kmで2時間走れる電気自動車用にリチウム電池を開発している。

大統領は今年の訪仏時にBollore 本社を訪問し、Bollore 社長と一緒に電気自動車に試乗した。

大統領は「ボリビア政府は天然資源のコントロールを絶対に手放さない」とし、政府の“absolute control” と、利益の60%を求めている。
また、
リチウムが欲しければボリビアで電気自動車を製造することを提案すべきだとしている。

ーーー

また、アタカマ塩湖の採掘現場の自然破壊も問題となっている。

採掘し放しで、使った塩素も垂れ流しで、水が汚染されているという。

http://www.dailymail.co.uk/home/moslive/article-1166387/In-search-Lithium-The-battle-3rd-element.html

環境対策の電気自動車が環境破壊を起こすことになりかねない。


2009/5/6  非上場会社 2008年12月決算

非上場会社の12月決算の発表(決算公告)が出揃った。
各社とも、大きな減益となっている。

ーーー

東燃化学

  
東燃ゼネラル石油 100%
  川崎に東燃コンビナート (PE、PPは三菱化学に譲渡)

                      単位:百万円
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益
07/12  273,100   27,100   27,500   16,600 
08/12  293,300   11,400   11,200   6,600
増減   20,200  -15,700  -16,300  -10,000

ーーー

日本ユニカー (PE)

  東燃化学 50% / ダウ(UCC)50%

                      単位:百万円
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益
07/12  52,550   2,211   2,146   2,104
08/12  51,184   -992  -1,166   -727 
増減  -1,366  -3,203  -3,312  -2,831

ーーー

日本ポリエチレン (PE)

  
日本ポリケム(三菱化学)58% / 日本ポリオレフィン(昭電/新日石)42%

                      単位:百万円
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益
07/12  170,154   5,880   5,554   3,379
08/12  178,358    400    606   123
増減   8,204  -5,480  -4,948  -3,256

ーーー

日本ポリプロ (PP)

  
日本ポリケム(三菱化学) 65% / チッソ 35%

                      単位:百万円
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益
07/12  205,397   4,756   4,179   2,792
08/12  206,819   1,047    305   156
増減    1,422   -3,709  -3,874  -2,636

  注 2003年度は1-9月は日本ポリケム(1-8月はPE+PP9月は PPのみ)
    
10月から日本ポリプロ(ポリケム+チッソ)

ーーー

サンアロマー (PP)

  Basell
50% / SKDサンライズ(昭電65%/新日石35%) 50%

                      単位:百万円
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益
07/12  67,401   4,095   4,110   3,280
08/12  69,524   1,542   2,106   1,284
増減   2,123   -2,553  -2,004   -1,996

ーーー

ヴイテック (PVC)

  
 三菱化学 85.1% / 東亞合成 14.9% 

                      単位:百万円
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益
07/12  41,813   -338   -642   -468
08/12  45,206  -1,992  -2,365  -3,025 
増減   3,393  -1,654   -1,723  -2,557
   2008年12月末の累積損益は -16,978百万円
 
  2000/12 の営業損益は開示なし

 


2009/5/7 三菱樹脂、エンプラ製品でグローバル展開

三菱樹脂は5月4日、世界最大手のエンジニアリングプラスチック製品(EPP)の加工メーカーであるQuadrant AG(本社:スイス)とEPP事業の世界展開の一環として、戦略的提携を行うことに合意したと発表した。

同社の基盤事業のEPP事業は1966年に米国 The Polymer Corporation と合弁で日本ポリペンコを設立し、モノマーキャスティングナイロンを中心とするEPPの加工・販売事業の展開を開始したが、現在も日本のみでの展開となっている

今回の提携で以下を狙う。
EPP事業における世界的リーディング企業としての地位の実現
・ワールドワイドな生産体制の確立と海外展開の促進
・事業シナジーの発現

付記 両社の事業領域

注 三菱化学のエンプラは三菱ガス化学とのJVの三菱エンジニアリングプラスチックで扱っている。

The Polymer Corporation は1989年にDSMが買収、更に2001年にQuadrant DSMEPP事業を買収したため、日本ポリペンコは現在は、三菱樹脂とQuadrant のJVとなっている。

今般、三菱樹脂とQuadrant の創業者4人が、オランダに50/50の合弁形態での持株会社Aquamit B.V.を設立し、この持株会社がQuadrant の株式の公開買付けを実施し、100%を取得する。

持株会社の資本額は2,598千ユーロ(約 3.4億円)
Quadrant 株式の買付総額(予定)は約162百万スイスフラン(約146億円)

付記

三菱樹脂は9月9日、買収完了を発表した。
TOBにより、出資比率は33%から95.33%に上昇、取得総額は約133億円。

付記

三菱樹脂は2013年5月22日、Aquamit N.V.の50%をQuadrantの創業者グループから買収し、100%子会社にしたと発表した。

2013/5

 ⇒

 

 

 

なお、発表にはないが、日本経済新聞(2009/5/5)によると、三菱樹脂は買収費用を全額負担し、役員も派遣して実質的な経営権を握る。持株会社は三菱樹脂の連結子会社となる。

付記

三菱樹脂とQuadrant AGは、2011年7月1日付で、両社の日本拠点となる日本ポリペンコ及びQuadrant EPP Japanの2社を統合すると発表した。

(1)社 名 :クオドラント ポリペンコ
(2)出資比率 :三菱樹脂 38%
          クオドラントグループ(3社) 62%
(3)事業内容 :エンジニアリングプラスチック製品の製造・販売

ーーー

Quadrant 1996年設立で、2001年にDSMのEPP 事業を買収した。

DSMEPP事業は、1976年のErta買収に始まり、その後、Sheffield PlasticsPolymer Corporation を買収した。
しかし、
DSMがライフサイエンスと機能材料に集中することを決め、EPP事業をQuadrant に売却した。
DSMは2002年に石化事業をSABICに売却している)

  Formica →Erta n.v. DSM        Polymer Corporation Quadrant
1933 Formica設立(ベルギー)
(plastic buttons)
     
1936 熱可塑性樹脂の
injection moulding
process
     
1936 nylon      
1946     設立(米国)  
1947     Polypenco特許
(nylon extruding
)
 
1948 Erta n.v.と改称      
1957     Polypenco 設立(英国)
(nylon and PTFE)
その後、欧州、
日本ほかに展開
 
1967 Cestidur SA (France)買収
(Polyethylene HD plate)
     
1976   DSMErta 買収    
1983   Sheffield Plastics USA買収
  (Polycarbonate plate)
   
1988     DSMがPolymer Corp、Polypenco 買収  
1996       Quadrant設立
Symalit AG 買収
熱可塑性フッ素樹脂素材)
2001   QuadrantがDSMのEPP事業買収、Quadrant Engineering Plastic Productsに改称。
2005   QuadrantがPoly Hi Solidur買収
   (world market leader in UHMW-PE products)

Quadrant は現在、世界19箇所に製造・販売拠点を有し、2,400名の従業員を抱える。

会社概況 http://www.quadrant.ch/download/2008/unternehmenspraesentation.pdf

最近の業績は以下の通り。(百万スイスフラン)

  2007 年12 月期 2008 年12 月期
売上高  811.8(730.6億円)  733.4(660.1億円)
EBITDA   98.4( 88.6億円)   68.0( 61.2億円)
当期利益      39.6( 35.6億円)   10.8(  9.7億円)

2009/5/8 ダウ、16億ドルの増資、Dow AgroSciences の売却も検討

ダウは4月30日、第1四半期決算を発表した。

前期の大赤字を考え、ほとんどの人が赤字を予想していたが、黒字決算となった。

     単位:百万ドル
  09/1Q 08/1Q 増減   08/4Q 増減
Sales   9,087  14,824  -5,737    10,899  -1,812
EBIT    159   1,385  -1,226    -1,422   1,581
税引前損益    17   1,264  -1,247    -1,600   1,617
税引後損益    24    941   -917    -1,552   1,556
 
EBIT
  09/1Q 08/1Q 増減   08/4Q 増減
Performance Plastics    30   329   -299     -479   509
Performance Chemicals    115   271   -156      174   -59
Agricultural Sciences    338   331     7      34   304
Basic Plastics     4   427   -423     -315   319
Baisic Chemicals    -92   159   -251     -237   145
Hydrocarbon & Energy    -   -   -      -69    69
Unallocated & Other   -236   -132   -104     -530   294
合計    159  1,385  -1,226    -1,422  1,581

Liveris CEOはこの結果を、Dow AgroSciences が好調であったこと、在庫が減って操業度が上がったこと、固定費削減を理由としている。

ーーー

同社はつなぎ融資の条件変更、R&H買収条件の変更、減配等々により、Rohm & Haas の買収を完了することが出来た。
R&Hの製塩事業の子会社
Morton Salt の売却も行った。

2009/4/3 ダウ、Rohm & Haas の買収を完了

しかし、クウェートのPICとの合弁会社 K-Dow Petrochemicals 設立破談で予定した売却代金が入らなくなり、R&H買収のための多額の借入金が残っており、これを不安材料にStandard & Poor's は4月1日にダウの格付けをBBBからBBB-(ジャンクボンドの1ランクだけ上)に引き下げ、Moody's も422Baa3 (同)に引き下げ、"negative outlook”(否定的な見方)としている。

借入金返済の対策が実現しなければ、ダウが最も恐れているジャンクボンドへの格下げが避けられない。

ーーー

ダウは55日、16.25億ドルの増資を発表した。

10億ドルは一般の増資で、得られた資金は借入金返済に充てられる。

残り6.25億ドルは今回のRohm and Haas 買収にあたり、R&Hの大株主のPaulson & Co.Haas Familyの財団に買収代金の一部として合計30億ドル(当初の25億ドル+Haas財団に追加の5億ドル)の永久優先株を供与したが、この一部を普通株に換えるもの。

ーーー

Liveris CEO第1四半期決算発表時に、次のようないろいろの事業の売却の努力を行っていると述べた。

1)オレフィンと誘導品の事業
  
K-Dow 問題でクウェートと交渉を続けているが、平行して同様の仕組みの交渉を2つの国営石油会社と交渉している。

  また、いくつかの地域の事業のパートナーと事業売却の交渉をしている。(
4060億ドル)
   ・Total Group
との合弁のオランダの石油精製 Total Raffinaderij Nederland NV のダウ持分(45%)の売却
   ・東南アジアのオレフィン及び誘導品JVのダウ持分の売却

2)芳香族事業(重要だが、必ずしもダウの戦略にとってコアではない)
  SBR、SBラテックス (10〜20億ドル)

3)独立した非戦略事業(20〜30億ドル)
  Rohm and Haas のパウダーコーティング事業
  (
Dow Advanced Materials にとって戦略的意義を持たず、また、コーティングの需要家と競合している)

4)Dow AgroSciences
 
 これはダウにとって戦略事業だが、この事業の評価と、戦略的方向付けをしている。
  可能性としては、完全売却、JV、上場など。

これらの事業の価値は、およそ250億ドルに達する。このうち、40億ドルの実現はつなぎ融資の期間内に可能とみている。

付記

ダウは5月20日、2つの事業の売却が決まったと発表した。

1)塩化カルシウム事業:210百万ドルで
2)
Total Raffinaderij Nederland N.V. (上記)のダウの持分(45%)Valero Energy 725百万ドルで.

2) についてはその後、合弁相手のTotal が先買権を行使して買収、それをロシアのLukoil ConocoPhillips20%所有)に売却した。Total 55%/ Lukoil 45%JVとなる。

ーーー

ダウは、石油化学を合弁事業化し(asset-light)、市場志向の機能性事業のポートフォリオによる高機能で収益の伸びの高い企業とする戦略をとっている。

しかし、石化事業をクウェートとのJVにし、それで得た資金で Rohm and Haas を買収するという戦略が、金融危機による石化事業の価値の低下とクウェートの政治問題で崩れ、ダウにとって儲け頭のDow AgroSciences の売却さえ、検討せざるを得なくなった。

他の事業の売却が出来ず、Dow AgroSciencesを売却せざるを得なくなれば、Liveris CEOの戦略に狂いが生じる。

2007年春に、汎用品事業の切捨てを主張するダウの役員が、ダウの売却話に加わったとして解雇されている。

2007/10/22 Dow の買収情報漏洩事件で新たな展開


2009/5/8 コスモ石油、韓国でパラキシレン製造へ

5月7日の日本経済新聞夕刊は、コスモ石油が韓国石油大手のHyundai Oil Bank (HDO)と合弁で、韓国でパラキシレンの生産に乗り出すと報じた。

コスモ石油では、「前向きに検討しておりますが、現時点において決定しておりません」としている。

報道内容は以下の通り。

・両社はともに産油国アラブ首長国連邦・アブダビの政府系投資会社(国際石油投資会社:IPIC)が筆頭株主となっている。
 資金と技術を持ち寄って高い成長が見込める中国などの市場を開拓する。

・9月をメドに韓国に折半出資の新会社を設立。
 新会社はソウル南西に位置する瑞山市大山のHDO製油所内にある年産38万トンのパラキシレン設備を買い取る。

・2013年に同製油所内で年産80万トンと世界最大規模の新設備を増設し、生産能力を118万トンに高める。
 年間売上高2千億-3千億円を目指す。

付記

コスモ石油は6月9日、合弁会社設立の基本合意を発表した。
(その後、社名を
HC Petrochem とした)
   付記 2011年12月、
Hyundai Cosmo Petrochemical Co., Ltd.に改称。

合弁会社
 ・設立時期 :2009年9月予定
 ・出資比率 :当社 50%、HDO 50%
 ・事業内容 :パラキシレンおよびその他関連製品の製造・販売
 ・設備規模 :a)HDOより譲渡予定のナフサを原料とする既存パラキシレン製造設備
          (HDO大山(デサン)製油所既設・2009年譲渡予定)
           ナフサスプリッター−55,000BPD
           ナフサ脱硫装置−24,000BPD
           接触改質装置 −21,500BPD
           BTX装置 −パラキシレン生産量
380,000トン/年   ベンゼン120,000トン/年
           その他パラキシレン事業に関わる設備(タンク等)
         b)ミックスキシレンを原料とする新規パラキシレン製造設備
          (HDO大山製油所に2013年新設予定)     付記 2013年2月商業運転開始
           BTX装置 −パラキシレン生産量
800,000トン/年   ベンゼン130,000トン/年
           その他パラキシレン事業に関わる設備(タンク等)

併せて同社では、協業化のさらなるシナジーを創出するために、四日市製油所内にミックスキシレン蒸留装置を新設することを決定した。
<新設ミックスキシレン蒸留装置概要>
 1.建設予定地 四日市製油所
 2.
ミックスキシレン生産能力 300,000トン/年
 3.完成予定 2011年11月  

ーーー

現在の韓国のパラキシレンメーカーは次の通り。(千トン)

会社名 立地 能力
GS Caltex Oil Yeochun  1,200
KP Chemical Ulsan   750
Samsung Total Daesan   600
S-OIL (双龍精油) Onsan   650
SK Energy Ulsan   650
Hyundai Oil Bank Daesan   360
Total  4,210

* Hyundai Oil Bank情報では能力は380千トンではなく、360千トンとなっている。

ーーー

コスモ石油には、UAEのIPIC が約900億円を投じコスモに20%出資し、筆頭株主になっている。

Hyundai Oil Bank は現代グループが1964年に極東石油として設立、一時シェルとのJVとなったが、1993年にHyundai Oil Bank と改称した。

1999年にIPIC50%を取得、2002年に更に20%を取得し、現在70%を所有している。
残りは現代重工業の
19.87%を初めとして現代グループが合計28.74%、残り1.26%4人の株主が所有している。

IPIC2008年に持株の半分の売却をGSカルテックスなどと交渉したが、現代重工業が株主間契約に反するとして売却を防ぐための法的手続きを行った。

付記 2009/11/21 現代グループ、Hyundai Oilbank の経営権を奪還

Hyundai Oil Bank は大山に36万バレル/日の製油所をもつ。
製油所に隣接してベンゼンプラント(
11万トン)とパラキシレンプラント(36万トン)をもち、製品はほとんどを中国、台湾、東南アジアに輸出している。

コスモ石油とHyundai Oil Bank 20084月、石油事業包括協力覚書を締結した。コスモとIPICとの共同事業テーマの一つである「IPICと密接な関係にある会社との連携による製品融通や共同投資のための国際的、互恵的ネットワーク構築」の一環。

両社は今後のアジア太平洋での需要の増大を背景に域内の石油産業の一層のグローバル化が進展するという認識を共有し、製品融通・マーケティング協力等により 両社が計画中の製油所の高度化設備をフルに活用することで相互発展の機会を創出すべく、以下の分野について、検討委員会を設置し協業可能性を検討する。

1)供給とトレーディング(Supply & Trading
   石油製品・半製品・石油化学製品融通等による製油所供給体制最適化
   中国やその他アジア太平洋共同マーケティング

2)石油精製(Refining
   両社の将来の精製装置高度化も踏まえた技術協力・研修生交流
   製油所オペレーションの効率性向上やコスト低減に資する情報共有

3)一般事項(General
   リテールマーケティング情報やその他情報の共有

ーーー

今回のコスモ石油/Hyundai Oil Bank のパラキシレン計画は、実はHyundai Oil Bank と同じく IPICが出資するスペインのCEPSA (Compañía Española de Petróleos, S.A.) との間で交渉が行われていた。

20077月、Hyundai Oil Bank CEPSA は覚書を締結した。

・両社で50/50JVを設立
Hyundai Oil Bank の大山製油所に2010年までにベンゼン(30万トン)、パラキシレン(80万トン)プラントを建設
Hyundai Oil Bank の既存プラントを引き継ぐ。

今回の計画はコスモ石油がCEPSAの代わりに入るということになる。

IPICCEPSAの株を買い増して47%を抑える予定で、IPICが世界戦略を考え、アジアの計画はコスモ石油とHyundai Oil Bank の組み合わせとした可能性がある。

ーーー

IPICはスペインのCEPSA25%を出資していたが、何故か現在の出資比率は9.5%に下がっていた。

現在の出資比率:
 
Total(フランス) 48.8%
 Santander Bank(スペイン) 32.5%
 Union Fenosa(スペイン)  5%
 IPIC 9.5%

付記 その後、2009年に47.1% にまで増やしたが、2009年8月にTotal から48.83% を買収、最終的に100%をおさえた。

今回、IPICSantander持株を33億ユーロで買収することを決めたと伝えられた。Union Fenosa の持株も買収し、合計持株比率を47%とする。

参考 2008/8/19 スペインのCEPSA、上海でフェノール/アセトン生産を計画

ーーー

IPIC 実質政府100%出資で、Abu Dhabi National Oil CompanyADNOC)が 50%ADIAAbu Dhabi Investment AuthorityNational Bank of Abu Dhabi)が 50%を出資する。

IPICは活動を全世界に広げている。

UAE 内陸油田ハブシャンからの全長360kmの原油パイプラインとフジャイラ港でのタンクターミナルの建設
フジャイラにて50万バレル/日の能力の輸出を主体とした製油所の建設
オーストリア 石油、ガス会社OMVに17.6%の出資
石化会社Borealisに65%の出資
  2006/11/10 
OMVとBorealis、オーストリアとドイツで石化増強

AMI Agrolinz Melamine International 50%出資(OMVが残り50%
日本 コスモ石油に出資
韓国 Hyundai Oil Bankに出資

付記 2009/11/21 現代グループ、Hyundai Oilbank の経営権を奪還

パキスタン パキスタンのPak-Arab Refinery Co.株式40%を保有(残りはパキスタン政府)。
キスタン政府との間で30万バレル/日規模の製油所建設を検討中(IPICが74%出資予定)
オマーン Oman Polypropylene に出資(出資するGulf Investment Corporationを通して)
エジプト Arab Company に出資
スペイン CEPSAに出資(47%にアップ)
中央アジア 2008/8/27 Abu Dhabi IPIC、中央アジアに進出
カナダ 2009/2/24 アブダビのIPIC、カナダのNOVA Chemicals を買収

 


2009/5/9  注目会社 2009年3月決算−2

損益の変動の大きな会社の決算を順次分析する。

ーーー

JSR

これまで会社を支えてきた多角化事業が大幅減益となった。

多角化事業は売上高 1,464億円で、うち、半導体材料が505億円、フタットパネル・ディスプレイ材料が592億円となっている。
下期はこれらの営業損益がほとんどゼロにまで落ち込んだ。

連結決算                        単位:百万円(配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益  配当
中間 期末
08/3  406,967  60,010  56,063  36,994  16.0  16.0
09/3  352,502  30,347  31,111  13,981  16.0  16.0
増減   -54,465  -29,663 -24,952  -23,013   -   -
営業損益対比(億円)
  08/3 09/3 増減    2009年
  上期 下期
エラストマー  112   80   -31     60  20
エマルジョン   15   5   -10     -1   6
合成樹脂   30   13   -17     13   0
多角化事業  443  205  -238    190  15
合計  600  303  -297    262  41

ーーー

カネカ

化成品(塩ビ)、機能性樹脂(MBSほか)、エレクトロニクス(超耐熱性ポリイミドフィルムや液晶関連製品、太陽電池)、合成繊維が大幅減益となった。
太陽電池の減収減益は円高の影響が大きいとしている。

連結決算                     単位:百万円(配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益 配当
中間 期末
08/3  502,968  35,745   33,866  18,817  8.0  8.0
09/3  449,585   7,604   5,844  -1,850  8.0  8.0
増減   -53,383  -28,141  -28,022  -20,667   -   -
営業損益対比(億円)
  08/3 09/3 増減    2009年
  上期 下期
化成品   52   -5   -56     18  -23
機能性樹脂  120   30   -90     37   -7
発泡樹脂製品   -1   13   14     -1   14
食品   28   38    9     9   29
ライフサイエンス   53   59    6     34   25
エレクトロニクス   91   -9  -100     20  -29
合成繊維   66   12   -54     17   -5
全社  -52  -62   -10    -32  -31
合計  357   76  -281    102   26

 

ーーー

出光興産

石油製品は、上期はアジアの需要増を背景として製品輸出マージンが好調に推移し、夏場以降は原油価格の下落によりコストが大幅に低下して収益が向上、前年の営業損失から大幅な収益改善となった。

しかし、石油化学製品は下期に入り、需要減少、売価の下落で大きな赤字となった。

同社はこれまで棚卸資産評価を年度別後入先出法を採用していたが、当期より、四半期別に変更した。
また、当年度より適用される「棚卸資産の評価に関する会計基準」により、ネット売却価額まで簿価を切り下げた。
この影響は前者が538億円の益、後者が328億円の損、差引き210億円の益となっている。

連結決算                     単位:百万円(配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益 配当
中間 期末
08/3  3,864,263   55,891  60,695   4,837  75.0  75.0
09/3  3,798,489  102,411  89,289   3,323  75.0  75.0
増減   -65,774   46,520  28,594  -1,514   -   -
営業損益対比(億円)
  08/3 09/3 増減    2009年
  上期 下期
石油製品  -78   564   642    255   309
石油化学製品  186  -213  -399    -30  -183
石油開発  433   498   65    359   139
石炭   29   190   161     30   150
その他  -11   -10    1
全社   0   -5   - 5      0   -5
合計  559 1,024  465    614  410

ーーー

新日本石油

上記の出光興産は在庫評価を後入先出法を採用しているため、前年末の在庫の影響をあまり受けない。

しかし、新日本石油をはじめ、ほとんどの会社は総平均法を採用しているため、今回のように原油価格が激減した場合、前年末の高い在庫が当期の損益に大きく影響を与える。

2009/2/2 新日本石油の業績

新日本石油の場合、この影響が4,470億円の多額にのぼり、経常損益では前年比で5,511億円の採算悪化となった。
在庫の影響を除くと、経常損益は前年比で逆に638億円の改善になる。

石油化学製品の経常損益は356億円の赤字となった。

連結決算                     単位:百万円(配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益 配当
中間 期末
08/3  7,523,990   263,962   275,666   148,306   6.0   6.0
09/3  7,389,234  -312,506  -275,448  -251,613  10.0  10.0
増減   -134,756  -576,468  -551,114  -399,919   4.0   4.0
経常損益対比(億円)
  08/3 09/3 増減    2009年
  上期 下期
石油製品   1,313  -3,757  -5,070      476  -4,233
石油化学製品    226   -356   -582     -114   -242
石油・天然ガス開発   1,113   1,211    98      219    992
建設・その他    105    148    43       1    147
合計   2,757  -2,754  -5,511      582  -3,336
             
在庫影響   1,679  -4,470   6,149      791  -5,261
             
在庫影響除き            
 石油製品   -363    713   1,076     -315   1,028
 合計   1,078   1,716    638     -209   1,925

国際会計基準では先入先出法か総平均法が定められており、日本で採用されている後入先出法は認められない。

企業会計審議会は、日本でも国際会計基準(IFRS)の任意適用を開始、2012年をめどにIFRSを強制適用するかを判断するとの方針を示している。

このため、海外の石油会社は在庫影響を除いた損益を、BPReplacement cost profits、Shell はCCS (Current cost of supplies) profits などとして報告している。

2009/2/4 BPの損益

 


2009/5/9 最近の原油価格

5月8日のWTI原油価格終値は58.70ドル/バレルと、半年振りの高値となった。(11月11日終値が59.33ドル)

2009年の平均は45.59ドルとなっている。

東京市場ドバイ原油の8日の終値も57.20ドル/バレル、東京市場オープンスペックナフサも485ドル/トンと、いずれも半年前の水準に戻った。

 


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