ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。
最新分は http://blog.knak.jp/


2007/6/16 太湖の水質汚染問題

2007/6/11 「中国のインターネット反対運動が石化計画を止める」の中で以下の通り述べた。

中国では2005年11月に発生した吉林石油化学の爆発事故やその他の多くの事故・環境問題で住民の不安が高まっている。
最近も
太湖のアオコ(藍藻)の発生で無錫市の飲み水供給が問題となっている。

無錫市の太湖水域は5月29日、深刻な汚染により、水道水から異臭を放ち、飲用できなくなった。単なるカルキ臭ではなく屋内の井戸の底に堆積した泥のような悪臭を放っているとのことで、翌30日にはさらに酷くなり、手を洗えば手が臭くなり、口を漱ぐことさえできない、料理したものも口に入れることが出来ないほどの臭いという。

このため住民はスーパーのミネラル・ウォーターを争って買いあさり、8人民元の水が 50〜60元にまで価格が高騰したという。

無錫市水道局は臭水汚染を認め、「今回の汚染は深刻で、浄水器や活性炭、強酸化剤を使用しても効果がなく、なすすべがない。市民に対しては、しばらくの間、精製水の使用を勧めること位しか出来ない」と伝えている。

国家環境保護総局によると、太湖では窒素とリンの量が2006年までの10年でそれぞれ2倍、1.5倍に増加。企業による汚染物質の排出が主因とみられる。

太湖は面積約2200km2、中国第3の湖で長江デルタの要。

太湖は広くて浅いタイプの湖底で、湖底には柔らかくて、有機質や栄養塩類を大量に含んだ灰黒色のヘドロが沖積し、これが太湖の深刻な二次汚染の原因となっている。その中に含まれる栄養物質が、湖水の水質の富栄養化と藻類の爆発的増殖による栄養塩類を作り出す元の一つとなっている。

早くも1990年に太湖の北側一部の水域にアオコが急激に発生し、湖水は異臭を放ち、無錫市への1日の給水量は25%減となり、116軒の工場が生産停止か半停止状態に追い込まれている。

無錫、蘇州の両市は、生活用水の80%を太湖から取水している。
(無錫から上海へは、東に128km
南京へは、西に183km。)

江蘇省無錫市で6月11日、太湖の水質汚染問題に関する国務院の座談会が開かれた。

温家宝総理は「太湖の水質汚染対策事業は長年行われてきたが、なお根本的な解決を見ていない。太湖の水質汚染事件はわれわれに警鐘を鳴らした。これを高度に重視しなければならない。汚染原因を徹底的に調査・分析し、これまでの事業を基礎として、総合的な管理を強化し、具体的な改善策と措置を研究し、立案しなければならない」との重要な指示を出した。

曽培炎副総理は席上で、「太湖周辺は人口密度が高く、経済が発展している。より高いレベル、より厳格な環境保護基準を適用し、より大きな決意で、より断固たる措置を採用し、環境管理を強化し、たゆまぬ努力を貫くことで、汚染問題の基本的な解決を図らなければならない」と強調した。

無錫市管轄の宜興市政府職員5人は、地元企業による汚染物質の違法排出への行政指導不足、監督不行届により、それぞれ行政過失記録、行政重大過失記録、懲戒免職の処分を受けた。

同市環境保護局も、5月30日から市内の企業439社の汚染物質排出状況を調査し、基準超過の9社に改善命令、3社に排出削減命令を出し、12社を行政処分とし、市政府に1社の操業停止あるいは移転を提言したことを明らかにした。

付記

温家宝首相は6月末に無錫で行われた対策会議で、飲み水問題を国家プロジェクトとして優先的に対処すると述べた。
問題となっているのは江蘇省の太
湖(Taihu Lake )のほか、安徽省の中国最大の淡水湖の巣湖Chaohu Lake)及び 雲南省のDianchi Lake(さんずい偏に真)の3つの湖。

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先日NHKスペシャル「激流中国 北京の水を確保せよ 〜しのびよる水危機〜」で北京の水不足が報道された。
都市の発展が急速に進み、必要な水の量は圧倒的に増えたが、主要なダムの貯水量はここ5年で、3分の1に減っており、「オリンピックを成功させるため」として農民を犠牲にしてでも北京の水を確保しようとしている。

対策として「南水北送」(揚子江の水を北京などの北方地域に送る計画で水路の総延長は3700キロ、総工費は約15000億円)が進んでおり、水路が作られているが、肝心の揚子江の水が汚染されて飲み水に適さないという。

これまでの中国の経済成長優先のツケがいろいろなところで出てきている。


2007/6/18 DuPont のダイオキシン裁判

DuPontMississippi 州のDeLisle 工場で20年近く大量のダイオキシンと重金属を排出していたとして2000人近い住民や元従業員から訴えられている。

環境保護団体のSierra Club が大企業との7つの闘い(ダビデとゴリアの物語)をSierra Club Chronicles というタイトルでビデオ化しているが、そのエピソード3で「 Dioxin, Duplicity & Dupont」というタイトルで本件を公開している。
住民や元従業員の証言を中心に経緯や背景、最初の裁判の内容を明らかにした
30分のビデオが見られる。
 
http://www.sierraclub.org/tv/episode-dupont.asp

20年ほど前に、周囲に工場の全くない大自然の中にDuPont の二酸化チタンの工場が建てられた。
住民は
DuPont の従業員になれて大変喜んだ。
しかし、そのうちに周囲に癌などの病人が増え、工場が大量のダイオキシンと重金属を排出していたことが分かった。

2000人近い住民や元従業員がDuPont を訴えた。

2005年に最初の裁判が行われ、陪審員は牡蠣の漁師が血液癌にかかったのはダイオキシンのためであると結論付け、14百万ドル(+その妻に150万ドル)の損害賠償を認めた。同社は州最高裁に控訴している。

付記

州最高裁は2007年10月、事実に誤りがあるとして、裁判のやり直しを命じた。妻への150万ドルも取り消した。

付記

新しい裁判は2008年5月に始まり、陪審員は6月5日、DuPont の逆転勝訴を決めた。

 

先日、第二の裁判が行われた。工場の近くに住む夫婦が20007月に8歳の娘が肝臓癌と心臓病で死んだのはダイオキシンのためだとして懲罰的賠償で30百万ドルの支払を求めて訴えた裁判である。
陪審員は今回は、
DuPont が工場からダイオキシンと砒素を出し続けたのは事実だが、娘の死はこれとは結びつかないと結論付けた。

最初の裁判では裁判所の判断(州最高裁も支持)により会社側証人の証言が認められなかった。今回は数人の証人が原告側の主張に反論している。

上記のビデオの中では、「原告は何度もバーベキューをしているが、バーベキューでもダイオキシンは出る」とか、「煙草を吸っているではないか」などの発言も裁判の中で行われている。

 

同社はこのたび、郡の判事に対し、残りの2000件弱の訴えを却下するよう求めた。
その中で同社は、原告がなんらか特定の被害を受けたのではなく、永年放出された化学品で将来起こりうる被害を恐れて訴えているだけであるとし、害を与えるかも分からない物質に触れたというだけでは被害を受けたことにはならず、そういう訴えは却下されるべきであると主張している。

判事はまだ結論を出していない。

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同社のホームページの工場案内のうちの DeLisle 工場のページには以下の記載がある。
  We Meet Environmental Requirements.
  Sustainable Growth is Our Cornerstone
  We are committed to Core Values
  Employees are the Key to Success
    http://www.titanium.dupont.com/NASApp/TTPORTAL/Mediator?action=231&reference=102510147180

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DuPont は世界最大の酸化チタンメーカーで、世界の生産の1/4を占めている。(DeLisle 工場は米国第2位の工場)

同社は全て塩素法でルチル型酸化チタンを製造している。(天然の酸化チタンにはルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の3種類あり、同じ化学式 TiO2 で示されるが、結晶構造が異なっている。)

同社は今月、テネシー州のNew Johnsonville 工場で酸化チタンの原料の四塩化チタンのプラント建設を開始している。

 

DuPont 19977月にICI から同社の全世界のポリエステル事業と、北米を除く酸化チタン事業の買収で合意した。
しかし、最終的に酸化チタンの買収は中止となり、紆余曲折の後、ICI のポリウレタン、芳香族、オレフィン事業とともに、Huntsman Chemicalに売却された。

Huntsman Chemical は昨年、英国のオレフィン、芳香族などの石化事業をSABICに売却したが、酸化チタン(顔料事業)はポリウレタン部門に属するアニリン、ニトロベンゼンとともに売却の対象外としている。
汎用石化事業の売却後のHuntsman における顔料事業の売上高比率は12%となる。

  2006/10/3 SABIC、Huntsmanから英国の石化子会社を買収
   

Huntsman は2006年8月、英国のGreatham の酸化チタン工場を5万トン増設し15万トンにすると発表している。

 


2007/6/19 ICI、Akzo Nobel による買収提案を拒否

2007/5/28 「次の買収は?で「SABICによるGE Plastics 買収が決まり、次の買収の噂がいろいろ出ている。」とし、その一つにICIを挙げ、次の通り述べた。

DowがICIを買収するという噂が流れた。(2007/4/7 DowICIを買収?) 

更に、Akzo Nobel のトップが Coatings 事業で大規模な買収を検討していると述べた。
買収候補がICIでないのかという質問にはノーコメントであった。

これに対してICIの会長はDow やAkzo Nobel による買収説を打ち消した。

Akzo Nobel は18日、ICIに内々に買収の提案をして拒否されたことを明らかにした。
報道によると、Akzo は4日に72億英ポンド(約1兆7500億円)での買収提案をしたが、ICIは安すぎるとして断ったとされる。

Akzo Nobel では「ICIも含め、戦略的機会を今後引き続き検討する」としている。
消息通は今回の拒否を受け、Akzoは間もなく正式な買収提案をするだろうと述べている。
AkzoMorgan Stanley を起用したことを認めている。

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Akzo Nobel は医薬品、塗料、化学品の三つの分野で活動しているが、医薬品では医療用医薬品事業(Organon Biosciences
、動物用医薬品事業Intervet:世界のトップ3の一つ)とバイオ事業(Nobilon International )を持っている。

本年3月に医療用医薬品事業のOrganon Biosciences を144億ドルで Schering-Plough に売却することで合意した。
同社ではその際に、投資や買収によって塗料及び化学品の最も魅力的な分野で成長を図るとしていた。

今回の買収はこれによる豊富な資金をもとに、ICIの塗料事業を狙ったものだが、同社自身が買収の対象となるのを避ける目的もあるとされている。

アナリストは、ICIが株主にAkzoTOBに応じるよう薦めるためには78億ポンド程度は必要だろうとし、Akzoにとってのメリットは、コストダウン、欧州でのICIとの価格戦争の終結及び、急速に拡大するアジアでのICIの事業の取得であるとしている。

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ICIは 2006/3/7 「ICIの抜本的構造改革」 記載の通り、既存事業のほとんどを売却し、スペシャリティ化学品を中心とした「新生ICI」に生まれ変わった。

その時点での同社の事業は、既存の塗料のほか、1997年にUnileverから購入した3事業=National Starch、香料(flavours & fragrance) のQuest、油脂化学界面活性剤のUniqema の合計4事業部門から成っていた。

同社は昨年6月には、Uniqema部門 Croda International に約915円で売却、昨年11月末には香料を扱う Quest 部門をスイスに本拠を置く Givaudan に約2,680億円で売却すると発表した。

売却額は退職年金不足額に充当するほか、負債の返済に充てられた。

この結果、同社は塗料事業とNational Starchに事業を集中、負債も縮減した。本年2月にはアナリストが買収の好対象であると述べている。
 
2006/11/30 ICI、Quest部門をGivaudanに売却  
  

ICIの塗料事業の売上高は第1四半期に前年同期の4%アップとなったが、アジア、欧州、ラテンアメリカでの伸びが住宅不振の北米の減を補う形となっている。

同社の欧州でのシェアは44%だが、北米では13%のシェアとなっている(No. 1 Sherwin-Williams )。中国ではDulux ブランドで日本ペイントに次いでNo. 2である。

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本件が明らかになったため、BASFやDow、インドのReliance Industries、ファンドなど他社もICI買収に乗り出すのではないかと噂されている。

付記

その後、Akzoは主要株主と協議を続けているが、難航している。

これに対して、ICIは英国のTOBや合併に関するパネル(Panel on Takeovers and Mergers )に依頼し、Akzoへの指示を出さすのに成功した。
指示は、
89までにきちんとしたTOBを行えというもので、それまでに行わない場合には6ヶ月間はTOBをやれないこととなっている。

ICIではパックマン策(Akzoへの逆TOB)の案も出ている。他社からのAkzoへのTOBの噂も出ている。


2007/6/20 中国政府、バイオ燃料と石炭液化計画 見直し

中国の国家発展改革委員会NDRCは、610に北京で行われたセミナーで、バイオエタノールと石炭液化計画を見直すことを言明した。
セミナーは中国工程院 (
Chinese Academy of Engineering) が主催し、デンマークの酵素メーカー Novozymes ノボザイムズ)が後援した。

1)バイオエタノール

NDRCは、中国は今後、穀物からのエタノール燃料生産計画を承認しないと言明した。
エタノールの原料となるトウモロコシが値上がりし、豚肉価格にも波及し始めたのが理由。トウモロコシを原料とするエタノールについては中国だけでなく世界中で大きな反対が出ている。

石油代替のエタノール燃料生産にはキャッサバサツマイモソルゴ (サトウモロコシ)、セルロースのような非穀物に切り替える。
トウモロコシベースのエタノールを生産している既存の4社については順次、非穀物作物に切り替えるよう要請する。

4社はJin YU Inc.(黒龍江省 10万トン)、Jilin Fuel Ethanol (吉林省 40万トン)、Tian Guan Group(河南省 20万トン)、BBCA Biochemical (安徽省 32万トン)で、合計生産能力は102万トン。中国は米国、ブラジル、EUに次ぐエタノール燃料の生産・消費国となっている。
更に、吉林省で60万トン、安徽省でFengyuan Group が32万トン、河南省でTianguang Groupが30万トンの工場を建設中。

 中国のバイオエタノールの状況はhttp://www.worldbiofuelssymposium.com/2005FEW-01-Liu.pdf 参照

黒龍江省の企業を所有し、安徽省の企業 BBCA Biochemical に20%を出資する中国最大の石油・食料の輸出入会社 China Oil and Food Corporation COFCO 中国糧油食品集団)では、今後サトウモロコシ を中心にしたいと表明した。近い将来、これを原料に年間500万トンのエタノール燃料を生産したいとしている。

  2007/1/27 中国のバイオ企業、BBCAグループ

現在のところ、トウモロコシの茎などから作るエタノールはコストが非常に高い。Novozymes 社は米国と中国でセルロースからのエタノール生産の商業化を図っており、中国ではトウモロコシの茎を集めるコストが安いので、米国に先駆けて成功するだろうと楽観視している。

中国ではエタノールをガソリンに10%混ぜた燃料が、東北地域などで売られており、エタノール混合ガソリンは、国内のガソリン消費の2割に達している。

 

2)石炭液化

NDRCは、中国の限られた資源と環境問題を評価した結果、石炭液化計画を見直すと表明した。
「石炭液化は石油依存からの離脱に役には立つが、エネルギーを多用しすぎる」としている。
大規模な生産能力を持つ政府のモデル事業は続けるが、小規模な設備は認可しない方針。

11次5ヵ年計画(2006-2010)では石油代替にバイオマス燃料や石炭液化のような代替エネルギー開発に投資をするとしていた。
中国は2006年に163百万トンの原油を輸入し、輸入依存度は47%から51.1%に上昇している。

NDRCによると、石炭液化は投資額が大きく、水を大量に使い、結果的に活用できるエネルギーの量は減っており、「多くのエネルギ一で少ないエネルギーを生産する技術」である。
内蒙古の計画では108万トンの設計能力で、投資額は65.8億ドル以上かかっている。
中国は大規模化のトライアルなしで液化計画を始めてしまい、技術も優れたものではないとしている。

中国政府は最近、再生可能資源の開発を重要な政府の戦略とし、水力、太陽光、風力、バイオマス、メタンなどの開発を進めるとした。
6月5日には、9年間の研究の結果として、南シナ海の海底の下から天然ガスハイドレート(燃える氷)の回収に成功している。

 

参考  2006/6/21 石炭液化事業 

     2006/6/22 南ア・サソールの石炭液化技術 

     2006/6/23 中国の石炭化学 

     2006/7/21 中国政府、石炭化学を規制 

 


2007/6/21 遺伝子組み換えトウモロコシに問題?

フランスのNGOのCRIIGENはこのたび、Monsantoが開発したGMOトウモロコシのNK603(商品名Round-up Ready)のラットのテストで、これを食べさせたラットと食べさせないラットとの間で、腎臓、脳、心臓、肝臓の機能などを示す数値に明らかな差が生じており、これに毒性があることを意味する可能性があるという研究を発表した。

Greenpeaceは「この研究はGMOトウモロコシに健康面でのリスクがあることを示しており、現在の安全性評価が信用できないことを示している」とし、他のGMOを含めて、直ちに市場から回収し、承認を取り消すよう要求した。

CRIIGENは本年3月に、Monsanto の他のGMO トウモロコシ MON863 の承認申請に使われたラット90日試験の生データを入手し、独自に解析して、体重や血液と尿の生化学検査の結果に問題があると発表している。
食品安全情報blog には「生き物なのでこれくらいの変動はある。差があると言っているものも増えたり減ったりで一定の傾向はない」とのコメントがある。 http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20070316 

付記

2007/6/28 EFSA

欧州委員会の要請により、European Food Safety Authority (EFSA) は遺伝子組換えトウモロコシMON863の動物での90日間混餌投与試験の統計学的評価についてのSeraliniらによる論文を精査し、EFSAのMON863の安全性に関するリスクアセスメントに影響するかどうか検討した。EFSA専門委員会による詳細な統計学的評価と解析により、GMOパネルは、このデータの再解析は何ら新しい問題点を指摘するものではない、と結論した。

CRIIGENはフランスのNGOで、遺伝子工学技術が生物、環境、農業、医学並びに公衆衛生、食品に直接または間接的に、または短期的、中期的、長期的に与える影響について研究するとしている。

NK603は、既に日本やEU、米国などで食品用や飼料用として承認されており、日本では飼料として流通しているという。

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昨年、遺伝子組み換え大豆が危険だと主張するロシア人研究者が、市民団体の招きで来日し、全国を講演して回った。

ロシア科学アカデミー高次機能・神経行動学研究所のイリーナ・エルマコヴァ博士で、親ラットに遺伝子組み換え大豆を混ぜた餌を食べさせ、生まれた子ラットにも与える実験をしたところ、生後3週間までに約6割の子ラットが死んだと報告した。

(1)通常の飼料とモンサント社が遺伝子組み換え技術により開発した除草剤耐性大豆、(2)通常の飼料と非組み換え大豆、(3)通常の飼料のみを与え、子どもを生ませ、子ラットも同様に飼育したが、子ラットの死亡率が、(1)だと55.6%、(2)だと9%、(3)だと6.8%だった。

しかし、遺伝子組み換え大豆は「生で」、非組み換え大豆は「加熱して」与えており、「生」の豆にはレクチンやトリプシンインヒビターなどの毒物が存在しているため、意味のない実験であった。

実際には、同様の実験がすでに南ダコタ大学で行われており、マウスに四代に渡って遺伝子組み換え大豆を食べさせたが、非組み換え大豆を食べさせた場合と何の違いもなかったという。

松永和紀さんの「メディア・バイアス」に詳細が載っている。

  2007/5/3 松永和紀著「メディア・バイアス」 

 

今回のCRIIGENの発表については、U欧州委員会は欧州食品安全機関に研究内容の詳しい分析を要請、日本の食品安全委員会も情報収集を始めた。

結果の早い公表が待たれる。

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付記

国立医薬品食品衛生研究所安全情報部の主任研究官、畝山智香子さんは「食品安全情報blog」 (2007-06-29)で以下の通り書いておられる。

グリーンピースの発表とは異なり、論文形式ではなく単なるコメント。モンサントの提出したNK603の試験データについて些細なことにただ文句をつけているというもの。

結論として実験をしたのがモンサント社だからダメ、スライドやネズミが全部公開されていないからダメ、農薬と同じさらに長期で複数の齧歯類を使った安全性試験が義務ではないからダメ、というような関係ない主張。

しかし上述のように(*)セラリーニ教授の統計手法に問題有りと明言されてしまっている以上、説得力はない。

* NK603の論文の筆者は上記のMON863 の報告と同じSeralini教授。
MON863についてのEFSAの
6/28の発表は、畝山さんによると、「大量の文書だが、要するにSeralini らの使った統計手法とその結論は間違っているということ」。


2007/6/22 ニューヨークで潮力発電開始

2007/6/12 「海洋温度差発電の実証プラントで海水淡水化」で海洋温度差発電について述べた。最近、潮力発電所の建設が各地で行われている。
 
 

世界で最初の潮力発電所は1966年11月に完成したフランスのランス潮汐発電所(Rance Tidal Power Plant)で、フランス・ブルターニュ地方のRance川河口にあり、フランス電力公社が運用している。

この付近は潮位差が大きく最大潮位差が13.5m、平均潮位差8.5mにもおよぶ。
Rance川河口を幅700mにわたって2基のダムで堰止め、建設された。24基のタービンによる最大定格出力は240MWで、年間の発電量は約6億kWh、平均出力は約68MWである。

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(米国)

ニューヨーク市の潮汐発電は RITE Project (Roosevelt Island Tidal Energy Project) と呼ばれ、マンハッタン島の東岸を流れるイーストリバーの川底にVerdant Power 社が開発した潮力稼動水力発電タービンを順次 6基設置した。
2,400時間の連続稼動に成功し、11日に式典が行われた。

電力はRoosevelt Island のスーパーと駐車場に供給され、併せてタービンの魚への影響の調査が行われている。

今後、同島周辺及び国連本部近くに300のタービンを置く計画で、完成すれば8,000戸の家庭が消費する電力に相当する10MWを発電する。

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エネルギー技術企業の米 Independent Natural Resources は、本年央に同社の波力タービン Seadog を北カリフォルニアのHumboldt Countyの沖合に設置することを検討している。

これが成功すれば、ポンプ16基を設置し、約600世帯分の電力を生成するプロジェクトが実施される。

 

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(英国)

英国のエネルギー開発会社Marine Current Turbines Ltdは 6日北アイルランドに商業用の潮力発電施設 (SeaGen Tidal Energy System) を建設することを明らかにした。

発電施設は、北アイルランド東部ストラングフォード湖 (
Strangford Lough) に建設される。一部がアイリッシュ海と通じており、双方を行き来する潮力で湖底に取り付けた2枚のプロペラを回転させ発電する仕組みで、設備容量は1.2MW、約1,000世帯分の電力需要を賄うことが可能という。

同社は3年以内に英国沿岸で10MWまでの SeaGen を設置し、資金面と規制面で許されれば、2015年までに500MWまで増やしたいとしている。

今回のプロジェクト実施に当たり、コンサルタントが大学とタイアップして包括的な環境調査を実施した。

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(韓国)

韓国の西海岸は干潮と満潮の差が大きく、仁川(インチョン)付近では最大で9メートル(平均で6.5メートル)にもなる。

これを利用した2つの潮力発電計画がある。
安山市の始華湖計画と、仁川市の江華島計画である。

始華湖は干拓事業によって内海の浅い海を12.6kmの堤防によって閉めきってできた6,100haの人工湖で、湖周辺を農業や工業用地として大規模に開発、始華湖は淡水化しその水を農業用水や工業用水として利用する計画であった。

堤防の工事は1987年に着工し、1994年に完成した。

しかし、工業排水や生活排水が湖に流入し、湖の水質が極端に悪化、また重金属汚染も起こったため、淡水化は'98年に断念され、堤防の水門を開放して海水を湖に入れることで、水質改善を図ることになった。

この水質管理の一貫として、より多くの海水交換をおこなうための新しく作られる水門を利用して潮力発電所も作られることになった。

海洋水産部は、2001年7月に24万kWの潮力発電所建設計画案を初めて公開した。
10基の水車が作られ総発電力は254MW、年間の総発電量は55,200万kwhになる予定で、2010年に発電が始まる。

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仁川市は3日、韓国中部発電や大宇建設コンソーシアムと、江華潮力発電所の共同開発事業のためのMOUを締結した。

2014年にかけ約 2,300億円を投入し、江華島、喬桐島、西剣島、席毛島の4島を全長7795mの潮力ダム防潮堤で結んだ後、水力発電機32機を設置し、2015年から発電を開始する予定。

今回建設される予定の江華潮力発電所の発電容量は812MWで、フランスのランス潮力発電所(240MW)や建設中の始華湖潮力発電所(254MW)をはるかに上回る世界最大規模となる。

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(オーストラリア)

オーストラリアのEnergetech 社は昨年12月、シドニーの約240km南に、「波力エネルギーを商業利用する世界初のプラント」、Wave Energy Generator を設置した。

放物線状の開口部を備える幅40メートルの486トンのタービンが、その形状のおかげで幅広い波面をとらえて波を空気室に送り込む。狭い空気室内では波の上下動により、勢いよく水が噴出する。そして、これによって発生する高速の空気流が、空気流の出入に関係なく同方向に回転するよう制御されたタービンを回転させるという仕組みである。


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潮力発電ではないが、電源開発(Jパワー)はインドネシア・ジャワ島における海水揚水発電を検討している。

5月にインドネシア国有電力会社PT PLN (Persero
と協力協定を締結したが、初期検討対象のひとつが海水揚水発電である。

同社は1999年3月に沖縄やんばる海水揚水発電所の実証試験運転を開始した。
沖縄本島北部に位置し、上部調整池に海水を汲み上げ、最大使用水量26m
3/s、海面との有効落差136mを利用し、最大出力3万kWを得る世界初の海水揚水発電所で、5年間の実証試験運転を経て、2004年から発電運転を行っている。

揚水発電に用いる下部調整池の築造が不要となるほか、上部調整池以外のほとんどの発電所設備が地下設備となることから、地表の改変面積を小さくするメリットがある。

 


2007/6/23 ベトナムの枯葉剤被害者による訴訟

枯葉剤Agent Orange のベトナム人被害者による裁判の事前ヒアリングが618日、米国第二巡回控訴裁判所で行われた。

Dow ChemicalMonsantoのほか、35社の農薬メーカーを相手取って、300万人以上のベトナム人被害者を代表して「ベトナム・Agent Orange/Dioxin 被害者協会」が行った集団訴訟で、これを却下した下級審の決定を不服として控訴したもの。

これら化学会社はベトナム戦争中にagent orange を米軍に供給し、広範なダイオキシン被害をもたらした直接の責任があるとし、補償と浄化、医療検診、支援を求めている。

米軍は1961年から1971年までに南ベトナムの550万エーカーの土地に繰り返し枯葉剤Agent Orangeを散布した。この結果、米軍とベトナム人双方に多くの被害が出ている。

1984年の和解の結果、Dow ChemicalMonsanto など7社は被害を受けた米軍人に対して180百万ドルの補償を行った。米政府も毎年15億ドルの予算で対象者に補償を行っている。
しかし、ベトナム人については全く補償のないままである。

控訴裁のヒアリングでは裁判官は、戦争で使われた毒物が直接人を殺すためではなく、数年後に被害が出たという場合、国際法に違反していないのではないかと発言した。
ナチスが死のキャンプで使ったガス
Zyklon B の場合はメーカーが有罪となっているが、それとは異なるケースではないかとした。

会社側の弁護士も戦争での毒物の使用で罰せられた前例はなく、判事が本件を取り上げた場合、戦場での意思決定に影響を与えると警告した。イラクでの劣化ウラン弾の使用に触れ、現実の外交に影響を与えるとした。

戦争中に毒物の使用を承認した大統領の責任も問題になるが、原告側は国家主席の免責特権により訴訟の対象としていない。

判事は本件を取り上げるかどうかを数ヶ月かけて決める。取り上げられた場合も判決が出るまでに数年はかかると見られている。

付記

米連邦最高裁は2009年、「枯れ葉剤は人間を標的とした毒物として作られたものではない」として原告の元ベトナム人兵士らの請求を棄却したニューヨーク連邦高裁の判断を支持し、原告敗訴の判決を言い渡している。

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付記

アメリカ側もようやく、この問題で動き出した。

6月22日、1960年代以降初めてベトナム元首として訪米中のNguyen Minh Triet大統領はBush大統領と会見した。
席上、ダイオキシン問題が取り上げられた。Bush大統領は議会が最近、ダイオキシン問題援助の予算を承認したことを伝えた。

また、Ford Foundationがベトナム大統領の訪米に合わせ、「U.S.-Vietnam Dialogue Group on Agent Orange/Dioxin」を立ち上げた。
両国の政治家、科学者、事業家を集め、Agent Orange の人間及び環境に与え続けている影響への具体的対応を行う。
旧米軍基地のダイオキシン除去と周辺住民の健康対策、ダイオキシン関連患者の治療・教育センター、ダイオキシン試験ラボなど、5つの優先度の高い分野を2年間で対応する。


2007/6/25 米投資会社、中国のSMメーカーを買収

米国の投資会社Ewing Management Group は本年上半期に中国の2社を合計1億ドルで買収したと発表した。

一つは浙江省
杭州市に本拠を置く中国有数の園芸会社(名称不明)で、幅広い種類の植木や花卉の開発の先端技術を所有している。同社は植木や花卉の中国最大の生産者で、中国でいくつかの研究センターや生産センターを運営している。この数年の売上高の伸び率は驚異的であるとされている。

もうひとつが江蘇省常州市のSMメーカーのDonghao Chemical (東昊化学)で、現在のSM能力は20万トン。江蘇省には多数の発泡PS(EPS)メーカーがあり、中国のSMの全使用量の6割を消費している。

付記 
8/1の報道では、
Ewing Management 80%を所有、残り20%は中国の投資家が所有する。社名は変更せず。
なお、同社の
SM能力は現在21万トンで、新プラント20万トンを建設中。2008年末完成予定。

ーーー

Donghao Chemical は自らもEPSを生産しているが、常州市の周辺のEPSメーカーに供給することも狙い、SM進出を図った。
当初は香港の
China Railway United Materials との50/50JVで、2003年末に15万トンのプラントをスタートし、1年後に倍増する計画を立てた。
しかし、この計画は実現せず、2年遅れで2005年末に自社で15万トン設備をスタートさせた。
その後、手直しで順次能力を増強し、本年3-4月に18万トンから20万トンに増強している。

同社は資金力が無く、昨今の原料価格高騰で原料調達に支障をきたしていた。

ーーー

買収したEwing Management Group はテキサス州ダラスに本拠を置く投資会社で、 製造業や資産集約型産業の企業を買収し運営することを目的としている。

同社は以前はCarlyle Group に属し、Carlyle Management Group と称した。
2004年にCarlyle Group から円満に分離し、10億ドルの資金で再スタートした。

同社はDonghao Chemical について、建設費が世界のどこよりも安いこと、輸入品に対して物流費が安いことなどで競争力があるとしており、いろいろな増強計画が既に出来ており、短期間で実施できるとしている。

同社のCEOは、今回取得した2社は競争力と成長の可能性を持っており、同社としてファイナンス面と拡大戦略の実施面で支援できるとしている。経営そのものは従来の経営者に任せる模様。

ーーー

投資会社による中国企業の買収は珍しい。

園芸会社の買収は面白そうだ。今後も需要は伸びると思われる。
しかし、原料を持たない
Donghao Chemical の買収が成功するかどうか、見ものである。
特に業績が悪化した場合の対応が問題であろう。

ーーー

最近、欧米での化学会社の買収が盛んである。それが遂に中国まできた。

しかし、日本の化学会社の買収の話が全くないのは、どうしてであろうか。
全く魅力がないからとしたら、悲しむべきことであろう。


2007/6/26 BPGazpromにロシアのガス田売却 

BPは6月22日、ロシアの合弁会社TNK-BP が保有する東シベリアのKovykta ガス田などの権益をロシア政府系エネルギー会社、Gazpromに売却する、と発表した。ロシア政府から圧力を受けたため。

TNK-BP は東シベリアのKovykta ガス田の権益を持つRusia Petroleum 社の持分62.89%と、ガスの輸送・販売会社 East Siberian Gas の持分50%Gazpromに譲渡する。Gazprom は代価として$700-$900 百万ドルを支払う。
Rusia Petroleum の他の株主はロシアの投資会社Interros Irkutsk の地方政府)

同時に、BP TNK-BP Gazpromとの間で世界中で共同でエネルギー事業に長期的に投資する戦略的協調のMOUを締結した。
将来、今回の
MOUで合意された大規模な共同投資や資産スワップなどが実施された暁には、TNK-BP Kovykta ガス田の25%+1株をその時の正当な価格で取得するオプションを持つ。

Kovykta ガス田は確認埋蔵量約1兆9000億立方メートル。TNK-BP はパイプラインを建設し中国、韓国などにガスを供給する計画だった。

エネルギー資源の国家管理、外資排除を強めるプーチン政権にBPが屈した形。ロシア当局はKovyktaガス田の生産量が計画を下回っているとして、BP側に開発免許の取り消しなどの揺さ振りをかけていた。

ロシア政府は昨年、Shell、三井物産、三菱商事が出資する「サハリン2」にも環境問題を口実に圧力を掛け、Gazprom 50%プラス1株を取得させた。Gazprom は本年3月にはエクソンモービルや丸紅などが主導する「サハリン1」との間で提携交渉に入った。サハリン1で産出する天然ガスを購入し、サハリン2のLNG施設を利用して輸出するほか、国内でも販売する考え。

ーーー

TNK-BP はロシアで3番目に大きい石油会社である。2006年に石油換算で日産 190万バレルの生産を上げた。
BPAlfa Access Renova group 50%ずつ所有している。

2003年、BPAlfa Access Renova はロシアとウクライナにそれぞれが所有する石油資産を共同で所有する戦略的パートナーシップの設立を発表、50/50所有の TNK-BP が設立された。上流部門から下流部門まで一貫操業を行ない、生産子会社15社、精製子会社5社(うちロシア国内は4社)、販売子会社11社を保有する。
Alfa Access Renova はTNK株97%とSidanko株56%を新会社に移管、BPはSidanko株25%、サハリン5の事業権益、モスクワのガソリンスタンドを新会社に移管した。

Alfa Access Renova 3社の連合。
Alfa Group は、ロシアの新興財閥で、ロシア最大の金融産業コングロマリットのひとつ。中心のアルファ銀行のほか、石油及びガス、消費財取引、保険業、小売業と電気通信分野などグループ企業は広範である。
Access Industries ロシア生まれの Len Blavatnik が設立し所有する米国の投資会社で、Basellを買収した。
Len Blavatnik Lyondell Chemical の株式を購入し、話題となっている。
 
参考 2006/6/15 Basellの買収 
     2007/5/16 Access Industries の会長、Lyondell Chemical の株式を購入 
Renova Holding はロシアの長者番付では第5位のViktor Feliksovich Vekselberg の所有するベンチャーキャピタル。

Tyumen Oil Co.TNK)は1995年に西シベリアのハンティ・マンシ自治管区の要請で100%ロシア国営企業として発足した。
1997年、1999年に政府株は公開され、
Alfa Group Access-RENOVAが50/50で買収した。

TNKは当初は中堅石油企業であったが、垂直統合、資本投資、生産会社の吸収合併、破産法を利用した企業買収を行い、大企業となった。石油会社のOnako、Kondopetroleum、Sidanko などを買収し、2002年末にはSibneftと折半出資でSlavneftの74.95%を落札した。

ーーー

TNK-BPはKovykta ガス田のガスを中国、韓国などに供給すべく、パイプライン敷設のFSを実施していた。
蒙古を経由するライン、経由しないライン(北朝鮮を経由するラインと経由しないライン)などが考えられていた。

 


2007/6/27 ペトロナス、ベトナムのPVCメーカーを子会社化

マレーシアのPetronasPetroVietnam とのPVC合弁会社の Phu My Plastics and ChemicalsPetroVietnam 持分43%を買収することで合意した。現在、政府認可申請を手続き中。

Petronas は自社所有の50%を含め、100%子会社の海外投資会社 Petronas International に移す。

この結果、
Phu Myの出資は以下の通りとなる。
  
Petronas International 93%
  
Vung Tau Shipyard  7%  (正式名は The Ship Building & Oil-Gas Services Company

Phu My はホーチミン市南東85kmのPhu My 工業区に10万トンのPVC工場を持ち、2003年から生産を行っている。

ーーー

ベトナムにはPVCメーカーが2社ある。いずれも日本の会社が参画して出来た会社である。

まず、三井化学が1995年にベトナムの要請に応えて、タイのTPCおよびベトナム国営企業との合弁でPVCの事業化を決め、ドンナイ省の工業団地に年産8万トンの設備を建設、98年から本格的な生産に入った。

会社名:Mitsui Vina Plastics & Chemical
株主  :三井化学 36%、三井物産 10%Thai Plastics & Chemicals TPC24%Vinaplast 15%Fercemco 15%

ーーー

Phu My Plastics and Chemicals は当初、ベトナム第二のPVCメーカーとして、Occidental 40%丸紅30%、現地 の PetroVietnamTramatsuco 各15%のJVとして計画されたが、1996年にOccidental が撤退、代わりにマレーシアのPetronas が参加してPetronas 40%、丸紅30%、現地30%事業化調査会社が設立された。

−−−

三井グループ及び丸紅は事業化の後にはベトナムが輸入関税を引き上げることを要請した。
具体的には、三井ビナはPVC8万トンを12万トンに引き上げる計画を持つが(将来的には原料クロルアルカリまで遡る計画も)、条件として輸入関税3%を25%に上げるよう要求した。

しかし、政府は国内の塩ビ加工業を守るという判断から輸入品への関税率(輸入課徴金を含む)を8%にとどめた。
アジア経済危機の影響が長引くベトナムでは、PVCの国内需要は年間10万トン前後で頭打ち状態で、三井ビナは安値の輸入品との競合を強いられ苦戦を続けた。

    −−−

輸入関税の引き上げが行われないことから、三井グループと丸紅はそれぞれ撤退を決めた。

三井化学と三井物産の両社は、Mitsui Vina の日本側持分を2000年8月末までにTPCに譲渡を完了、事業撤退した。
三井化学は国内では塩ビ関連事業については1996年4月に東ソー、電気化学と大洋塩ビを設立、PVC事業を移管し、VCM設備も休止している。
Mitsui Vina はTPC70% 出資で社名をTPC Vina Plastic & Chemical と改称、能力は手直しで12万トンとした。
(現在、10万トン増設中との報道がある)

  Mitsui Vina TPC Vina
三井化学   36%    −
三井物産   10%    −
TPC   24%   70%
Vinaplast   15%   15%
Fercemco   15%   15%

丸紅は2000年5月に事業化調査会社の持株を売却、新会社Phu My Plastics and Chemicals出資比率は以下の通りとなった。
    
Petronas 50%
    PetroVietnam 43%
    Tramatsuco 7% Baria-Vung Tau 州共産党委員会の商事部門)

Phu My は2002年末に10万トンのプラントの商業運転を開始した。

なお、2006年9月に、タイのTPCの取締役会が
Phu My PetroVietnam 持株の買収を承認したという報道があったが、実現していない。
今回、
Petronas International が93%の株主となった。Tramatsucoの7% Vung Tau Shipyard の所有となっている。

  当初 調査
 会
Phu My
Occidental  40%   −   −   −
丸紅  30%  30%   −   −
PetroVietnam  15%  15%  43%   −
Tramatsuco  15%  15%   7%   −
Vung Tau Shipyard   −   −   −   7%
Petronas
Petronas International
  −
 40%
 50%
 
 93%

ーーー

マレーシアのPetronas はベトナム政府から同国の石油化学事業の計画作成の委託を受けている。

同社はマレーシアのKeltih の石化コンプレックスに同国唯一のVCM会社Vinylchloride (Malaysia) を持っており、ベトナムの2社にVCM を供給している。

Vinylchloride (Malaysia) にも日本企業が参加していた。

同社は当初、マレーシア側(
Petronas Land & General)が50%三井グループ(三井東圧、三井物産)が50% を出資し、VCM 40万トン、PVC 10万トンの生産を計画した。

しかし、最終的に下記の出資比率で、VCM 40万トンのみでスタートすることとなり、
Petronas は代わりにベトナムのPhu MyPVC計画に参加することとした。
  出資比率 
Petronas 60%、Land & General 20%、Mitsui VCM 20%
    (
Mitsui VCM は三井東圧 50%、三井物産 50%)

その後、1999年9月に改組し、Petronas 60%、Mitsui VCM 30%、三井物産 10%となった。
また、同時に
Industrial Resins (Malaysia) Keltih PVC事業(15万トン)を譲り受けた。

Industrial Resins (Malaysia) Land & General 65%/三井物産 25%/東ソー 10%のJVとして設立され、Johor Bahru にPVC 20千トン、コンパウンド 30千トンでスタートした。

その後、
Keltih PVC 150千トンを建設したが、19999月に三井物産と東ソーが離脱してLand & General 100% となり、Keltih PVC Vinylchloride (Malaysia) に移された。

Johor Bahru PVCIndustrial Resins (Malaysia) のままで、能力5万トン。

なお、マレーシアには上記のVinylchloride (Malaysia) Industrial Resins (Malaysia) のほかに、日本ゼオンが以前出資していたMalaysia Electro Chemical Industry のペナンの5万トン、カネカ100%出資のKaneka Paste Polymer Gebeng のペースト3万トンがある。

三井化学のPVC事業からの離脱に伴い、Mitsui VCM は三井物産 95.778% 出資となったが、三井物産も本事業からの撤退を決め、20047月にVinylchloride (Malaysia) Petronas 100% となり、Mitsui VCM は同年8月に解散した。

  当初案 設立 改組 現状
Petronas  25%  60%  60%  100%
Land & General  25%  20%  −   −
Mitsui VCM  50%  20%  30%   −
三井物産  ー  ー  10%   −


タイのTPCも当初、地元のCEグループと、旭硝子出資のTHASCO Chemical(現在は旭硝子99.85%三井物産三井東圧の3社JVとして設立された。

同社については下記の最後の部分を参照
  2006/6/8 
タイの石油化学の現状


2007/6/27 速報 Basell がHuntsman Chemicalを買収

Huntsman Chemical は Basell Polyolefins による56億ドルでの買収に合意した。26日、両社が発表した。
現在の株価に34%のプレミアムをつけるもので、負債引継ぎを含めると96億ドルになる。
同社の57%を所有するHuntsman一族が買収に賛成した。
年末までに手続きが終了する予想。
 

Basell はGEプラスチックの買収にも乗り出したが、SABICに敗退している。  
Huntsmanは最近、スイスのClariantやCiba Specialty Chemicalの買収に関心を示していた。

Huntsman については下記参照
  
2006/10/3 SABIC、Huntsmanから英国の石化子会社を買収 
    

なお、Basell Polyolefinsを所有するAccess Industries のオーナーのLen Blavatnik は最近、Lyondell Chemical の株を「戦略的目的で」購入しており、LyondellとBasellの合併の可能性も噂されている。

 2007/5/16 Access Industries の会長、Lyondell Chemical の株式を購入 

付記

2007/7/5 Huntsman に新たな買い手  

BasellはHuntsman買収に関して、7/11までに買収価格の見直しの機会を与えられていたが見直しを行わないと発表した。
これを受け、Hexion (Apollo) はHuntsman買収の契約を締結した。

2007/7/18 Basell が Lyondell を買収


2007/6/28 中国、輸出抑制のため輸出増値税還付率を引き下げ

中国の財政部、国家税務総局は18日、国務院の承認を経て、「財政部と国家税務総局の一部商品の輸出増値税還付率の引き下げに関する通知」を公布した。これに基づき、7月1日から一部商品の輸出増値税還付政策を調整する。

輸出増値税還付とは輸出製品の購入の際の増値税、輸出製品の製造のための原料やサービスの購入時の増値税を払い戻すもの。

中国では財、サービスの販売時、輸入時には原則 17%の増値税(付加価値税)がかかる。(販売業者は、その購入又は製造にかかわる原料サービスの購入の代価に含まれる増値税の控除を受ける。)
製品の輸出に関しては増値税は免除され、その製品の購入又は製造にかかわる原料サービスの購入の代価に含まれる増値税に関しては、政策的にその全部又は一部がリベートとして払い戻される。

  中国の増値税及び輸出増値税還付に関しては下記を参照
    
2006/9/26  中国、輸出増値税リベート変更 

これまでも還付率が変更されており、昨年9月にも上記記事に記載の通り、一部変更された。
還付率が減ると、輸出の手取りが減り、輸出抑制の効果がある。

今回の調整の狙いとして、以下が挙げられている。
 ▽輸出の急激な増加を一層抑制する
 ▽中国の貿易黒字の膨張がもたらす問題点を緩和する
 ▽輸出商品構造を改善する
 ▽エネルギー消費量、汚染度が高い商品、資源性商品(材料となるもの)の輸出を抑制する
 ▽対外貿易成長モデルの転換と輸出入のバランスを促進する
 ▽貿易摩擦を軽減する
 ▽経済成長モデルの転換と経済・社会の持続可能な発展を促進する――など。

今回の調整の対象商品は2831品目に及び、税関が取り扱う商品目全体の37%に相当する。
2年続けての大幅な調整は、中国政府が貿易摩擦から人民元引き上げの声が高まるのを懸念していることを表している。

今回の調整内容は主に次の3点。
(1)エネルギー消費量、汚染度が高い商品、資源性商品(材料となるもの)553品目の輸出増値税還付を取り消す。

Salt, solvent oil, cement, liquefied propane, liquefied butane, LPG and other minerals;
 * BTX、Phenols、PO、その他を含む
  (オレフィンは昨年
9月に既に還付を取り消されている)
Fertilizers
Chlorine and dyes, and other chemical products
Leather
その他、絶滅危惧動植物やその製品、金属炭化物や活性炭、木製板や木材一次加工品、非鉄金属加工品、船舶など

(2)貿易摩擦を引き起こしやすい商品2,268品目の輸出増値税還付率を引き下げる。

Some of the chemicals 5%(一部8%)
  
EOAcetone無水フタル酸、酢酸ほか
Plastics, rubber products 5%
Paper products 5%
その他衣類、靴・帽子、バッグ、おもちゃ、植物油、石材や陶磁器、鉄鋼製品、コークス炉、オートバイ、ビスコース繊維など。

* プラスチックの多くは昨年13%から11%に下がっていた。

(3)10品目の輸出増値税還付を改め、輸出免税政策を適用する。(ピーナツ、油彩画、彫刻板、切手、収入印紙など)


2007/6/29 中国、外資の企業買収の審査を実施へ

中国で一部業種の基幹企業が外資により買収され、国家経済の安全が脅かされるとの懸念が高まっていることを受け、審議中の独占禁止法草案に新規定が盛り込まれることとなった。

24日に全国人民代表大会常務委員会で
中国で初めての独占禁止法の第二回審議が行われたが、その中で提案された。
草案は「外国企業による国内企業の買収やその他の形による国内企業の事業への投資については、N
ational security に関係する場合には関連法と規定に基づき審査を行う」となっている。

政府統計によれば、海外からの中国への直接投資のうち、外資による買収は2004以前は5%であったが、2004年には11%、2005年には20%と増加している。
更に、近年になって外国企業が国営の大企業や有名ブランド企業を買収するのが増え始めており、中国の経済的な
Security に懸念を生じている。

ーーー

中国では外国企業による買収について基本的なセキュリティチェックをする体制にはなっている。
昨年商務部と他の政府の5機関により出された規則では、外国企業による国内企業の買収が国の
Economic security に影響を与える場合、重要分野で行われる場合、又は有名な国内のブランドの移管を伴う場合には、商務部の承認を申請することが必要となっている。
それ以前には、商務部の審査、承認は
1億米ドル以上の買収・合併に限られていた。

ーーー

中国は外国企業による基幹部門の大企業の買収の審査や管理を更に強化することとなる。

NDRCでは外国企業による買収は政府のセキュリティチェックと独禁法上のチェックを受けることが必要だとしている。同時に、どんな買収がナショナルセキュリティに関係するのかなど、詳細な検討が必要だとしている。

ーーー

中国では早くも1994年に独禁法の設定を計画したが、それ以降10年以上が経過し、中国の社会主義的市場経済も成熟してきたため、独禁法がいよいよ必要になったと認識され、本年6月に第一回審議が行われた。


2007/6/30 東アフリカでもプラスチック袋 禁止へ

ケニアとウガンダはこのたび、環境への悪影響を抑えるため、ルアンダ、タンザニアに続き、薄いプラスチック袋の使用を禁止する。

ウガンダの財務大臣は新予算で、厚さ 30ミクロン以下のプラスチック袋の輸入と製造を禁止するとともに、他のプラスチック袋については120%の課税をすることを決めた。
71から施行される。

ケニアの財務大臣も同様の制限を科した。7月1日施行の予定であったが10月1日まで延期された。

タンザニアでは2006年に東アフリカ共同体East African Community)の先頭を切って、副大統領がプラスチック袋の全面禁止と、リサイクル可能な袋か生分解性の代替品への切り替えを命じている。

ルアンダは本年に東アフリカ共同体に参加したが、2005年に既に、厚さ100ミクロン以下のプラスチック袋の輸入と使用を禁止している。

注 東アフリカ共同体は2004年3月にケニア、ウガンダ、タンザニア3国で結成した関税同盟。

東アフリカではプラスチック袋が住宅地の道路わきでいたるところで廃棄されており、町のほとんどの下水はプラスチックで詰まっている。

ケニアの財務大臣は、今回の処理で環境に優しくリサイクル可能な袋の開発が促進されることを期待するとしており、ウガンダの大臣は今回の禁止は環境面での深刻な懸念とプラスチック袋や容器の処分が困難なことから導入されたとしている。

 参考 2007/3/3 ニュースのその後 − レジ袋税 


続く

最新分は http://knak.cocolog-nifty.com/blog/