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これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

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2018/10/15     新NAFTA協定に中国とのFTA締結制限条項、日本にも要求か 

中国商務部の報道官は10月11日、米国、メキシコ、カナダのNAFTAに代わる新たな貿易協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」の自由貿易協定(FTA)に関する条項について、「自由貿易圏の構築は開放・包摂の原則に基づくべきであり、他国の対外関係の力を制限するものであってはならないし、排外主義であってもならない」と述べた。

このほど合意に達したUSMCAには、
3ヶ国のいずれかが「非市場経済国」とFTAを結ぶ時は、3ヶ月前までに他の2ヶ国に通知しなければならず、
その場合、他の2ヶ国は6ヶ月後にUSMCAを離脱して、2国間の貿易協定を結ぶことができる
という排他的な条項があり、中国を狙い撃ちしたものとみられている。

報道官は、「中国が繰り返し強調してきたのは、WTOの多国間貿易ルールには、『非市場経済国』に関する条項はなく、加盟国の国内法の中にあるだけということだ。中国は一つの国の国内法が国際法の上に置かれることに反対し、一国の意思を人に押しつけるやり方にも反対する」と述べた。

 

「非市場経済国」について:

中国は2001年12月にWTOに加盟した。

中国は、WTO加盟に伴い、 アンチダンピング(AD) 措置及び相殺措置に係る規則・手続をAD協定及び補助金・相殺措置協定に整合化させることを約束している。

他方、中国以外のWTO加盟国が、中国産品についてAD 措置又は相殺措置に係る調査を行う際の価格比較及び補助金額の算定に関し、中国を「非市場経済国 (Non Market Economy)」として扱う特例が、加盟後15年間認められた。

「市場経済国」との認定を受けていない国の場合、ダンピング調査の際に、輸出価格は、国内価格との比較ではなく、経済発展レベルが近い代替国の価格と比較して判定される。EUは中国に市場経済国待遇を適用せず、しかも中国よりコスト水準の高い国を代替国に採用するケースが多く、この結果、ダンピングと判定される確率も高くなっているといわれている。

2016年2月までにロシア、ブラジル、ニュージーランド、スイス、オーストラリアなど81国が中国の市場経済国家の地位を認めた。

WTOは中国を「非市場経済国」と認定していたが、その根拠となっている条項は15年が経過する2016年12月に失効した。

2016/2/12 中国の「市場経済国」認定問題 

米政府は2016年11月23日、中国を「市場経済国」と認定しない方針を明らかにした。

欧州委員会は11月9日、輸入製品が不当にEU域内で安く販売された場合に適用する、反ダンピング課税の算出に関する制度改正案をまとめた。

WTO上の義務に違反して中国から損害賠償を求められるおそれのある事態を回避し、同時に「市場経済国」として認定することによってもたらされると考えられる安値競争に対抗できなくなるという事態をも回避するために、EU域内での新たな通商上の救済措置を策定することを選択したこととなる。

経済産業省は12月8日、中国のWTOでの立場について、引き続き「市場経済国」と認定しないことを決めたと発表した。

2016/12/1 米、中国の「市場経済国」認定見送り

中国商務部は2016年12月12日、同国の「市場経済国」認定を見送った米国とEUをWTOに提訴したと発表した。日本に対しても近く提訴に踏み切るとみられる。

2016/12/17     中国、「市場経済国」待遇で米欧をWTO提訴 

商務部の報道官が言う通り、2016年12月以降は、「WTOの多国間貿易ルールには、『非市場経済国』に関する条項はなく、加盟国の国内法の中にあるだけ」である。

ーーー

USMCA協定の第32.10条 「非市場国とのFTA」は次の通りで、中国とFTAを締結した国は、3国協定から除外されることとなる。

1.USMCA締約国の一ヶ国が非市場国とのFTAを交渉する場合、交渉開始の3ヶ月前に、他の締約国に通知しなければならない。非市場国とは、本協定の署名日前に締約国が決定した国である。

2.非市場国とFTA交渉を行おうとする締約国は、他の締約国から請求があれば、可能な限りの情報を提供すること。

3.締約国は、他の締約国がFTA協定と潜在的な影響を調査するため、署名日の30日前に他の締約国がFTA協定の条文、附属書、サイドレターなど見直す機会を与えること。
  締約国が機密扱いを要求する場合、他国は機密保持を行うこと。

4.締約国が非市場国とFTAを締結する場合、他国は6ヶ月前の通知により、本協定(USMCA)を終了し、残りの二国間協定とする。

5.二国間協定は、上記締約国との規定を除き、本協定(USMCA)の構成を維持。 

6.6ヶ月の通知期間を利用して、二国間協定を見直し、協定の修正が必要か決定する。 

7.二国間協定は、それぞれの法的手続を完了したと通知してから60日後に発効する。

https://ustr.gov/sites/default/files/files/agreements/FTA/USMCA/32 Exceptions and General Provisions.pdf

この条項は、貿易相手として米国を選ぶか、中国を選ぶかの二者択一を求めるものである。米国を捨てて中国を選ぶ国はないであろう。

 

日米は9月26日夕(日本時間27日朝)、「日米物品貿易協定(TAG:Trade Agreement on Goods )」の交渉入りで合意した。

その共同声明には次の記載がある。

日米両国は,第三国の非市場志向型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良く守るための協力を強化する。

したがって我々は,WTO改革,電子商取引の議論を促進するとともに,知的財産の収奪,強制的技術移転,貿易歪曲的な産業補助金,国有企業によって創り出される歪曲化及び過剰生産を含む不公正な貿易慣行に対処するため,日米,また日米欧三極の協力を通じて,緊密に作業していく。

2018/9/27 日米、物品貿易協定交渉へ、交渉中は自動車追加関税回避


今後のTAGの協議において、米国は上記のUSMCA の条項と同じものを要求してくると思われる。

日本は、ASEAN10か国+6か国(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)の東アジア地域包括的経済連携(RCEP:Regional Comprehensive Economic Partnership)の交渉中。

10月13日の閣僚会合では年末までの実質妥結に向け、「いよいよ大詰めの段階に入った。」(世耕経済産業相)
ただ、「さらなる改善の必要性」も指摘しており、各国間に意見の隔たりもある。

 

日本は中国を引き続き「市場経済国」と認定しないことを決定しており、USMCA と同じ条項が入ると、中国とはRCEP を締結できないこととなる。

USMCAも TAGも TPPも RCEPも FTAである。

トランプ大統領は自動車への追加関税で相手国を脅し、無茶な要求を通してきた。

パーデュー米農務長官は、共同声明の記述に反し、日本との農産品を巡る通商交渉で、日本がEUと結んだEPAや、TPPを上回る水準の市場開放を求める考えを示している。

日本政府は、共同声明で、「第三国の非市場志向型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良く守るための協力を強化する」ことで既に合意している。

今後のTAG交渉で、米国の要求を拒否できるであろうか。

WTOの多国間貿易ルールには、『非市場経済国』に関する条項はなく、加盟国の国内法の中にあるだけである。
日本が今すぐ、中国を「市場経済国」と認めてしまえば、上の条項は関係ないこととなるが・・・。

ーーー

これとは別に、ムニューシン米財務長官は10月13日、日本との物品貿易協定(TAG)交渉を巡り「為替問題は同交渉の目的の一つだ」と述べ、通貨安誘導を封じる為替条項を日本にも求める考えを明らかにした。

カナダ、メキシコとのUSMCAにはMacroeconomic Policies and Exchange Rate Mattersの章があり、競争のための通貨切り下げや目標レートを決めることでの不公正な通貨政策をやめ、透明性を増やし責任あるメカニズムをとるとの high-standard のコミットをしている。

通貨政策に関する項目を貿易協定に明記するのは異例で、韓国とのFTA改正の付属書にもあるが、韓国側はFTAとは別だとしている。

2018/10/4   NAFTA、3カ国協定を維持、USMCAに改称

なお、韓国の場合は強制力はないが、USMCA電話は対抗措置が取れる。現時点では問題のないカナダ・メキシコとの協定にこの規定を入れたのは、今後のFTA協定に入れるためだとされる。

日本は為替条項は絶対反対としているが、拒否できるであろうか。

 


 

2018/10/16  米国、中国国家安全省の経済スパイ逮捕

 
米司法省は10月10日、GE Aviation など米国の航空宇宙企業数社から企業秘密を盗もうとした疑いで中国国家安全省の経済スパイを逮捕、起訴したと明らかにした。
経済スパイと企業秘密窃の共謀と実行の4つの罪状で起訴された。

逮捕されたのは江蘇省の国家安全省第六處副處長徐燕軍Yanjun Xu)被告で、4月1日にベルギーで拘束され、10月9日に米国に身柄が引き渡され、逮捕された。

起訴状によると、Xu被告は2013年12月頃から 逮捕されるまで、米国内外の航空業界のリーダーと見られる複数の航空会社(
GE Aviationを含む)をターゲットとして活動。企業に勤務する専門家ら をリクルートし、当初は大学での講演などの名目で中国へ招待し、費用や報酬を払っていたという。

GE AviationはBoeing やAirbus にエンジンを供給しているが、現在、商業機や軍のヘリコプターの新世代エンジンを開発している。1年以上前から捜査が行われ、GE Aviation はFBIに協力してきたという。

徐燕軍、Qu Hui、又はZhang Hui と名乗り、江蘇科技促進協会の職員であると称していた。

南京航空航天大学(中国の産業情報部が設立)と密接に連絡を取っていた。

GE Aviationは徐燕軍のターゲットの一つで、同社を退職したエンジニアが2017年3月以降、南京航空航天大学にしばしばE-Mailを送っていた。

徐燕軍の支援のもと、そのエンジニアは南京航空航天大学で講演を行った。徐燕軍は旅費や報酬3500ドルを支払った。

その後、徐燕軍は重要な情報の提供を求めた。エンジニアは本年2月にファイルを送付、その後、徐燕軍は多くの質問を送った。

2月末に徐燕軍は欧州で会うことを求め、その時に情報を持参することを要求した。

徐燕軍は3月末にエンジニアと会うため、渡欧した。

これらは全て、FBIの監視下で進んだ。政府は4月1日にベルギーで彼を逮捕することを決めた。

関連して、9月末にシカゴに居住する中国人 季超群 が逮捕されている。中国の情報員に密かに協力し、米国の技術者や科学者をリクルートするのを助けたという。このうち7人は防衛関係のコントラクターの従業員で、全員が台湾か中国生まれで米国籍を持つという。

 

他国の現役の情報部員を逮捕するためには、十分な証拠を揃えていると思われる。

米国の司法当局にはベルギーでの逮捕権はないため、米国とベルギーの司法当局が十分打ち合わせた上のものであろう。

ベルギーがどんな罪状で逮捕できたのか、不明。

拘束から引き渡し(犯罪人引渡協定によると思われる)までに半年かかった理由も不明である。被告側の異議で時間がかかったと思われる。

John Demers 司法次官補(国家安全保障担当)は次のように述べている。

中国の情報部員が米国の航空宇宙企業から事業秘密とその他のセンシティブな情報を盗もうとした。これは単独の事件ではなく、米国を犠牲にして中国を発展させようとする広範な経済政策の一環である。我々は他国が我々の軍事力、我々の頭脳の成果を盗むのは我慢できない。

FBIの Priestap副長官は、「今回の中国情報部員の前例のない引き渡しで、中国政府が米国への経済スパイを直接監督していることが明らかになった」と述べた。

米国では共謀罪および経済スパイの量刑は最長15年。共謀罪および営業秘密窃取罪は最長10年。 加えて罰金が課せられる。
中国大使館や同被告の弁護士からのコメントは得られていない。

 



2018/10/17  独与党、バイエルン州で大敗 メルケル政権に打撃

 

ドイツで10月14日に実施された保守の牙城のバイエルン州(英語ではBavaria州)の議会選挙で、メルケル政権を支える保守与党、キリスト教社会同盟(CSU)が歴史的な大敗を喫した。

CSUの得票率は前回2013年の47.7%から37.7%に下がり、68年ぶりの低さとなった。連邦議会下院で連立を組むドイツ社会民主党も惨敗し、両党を合わせても過半数を下回る。

逆に緑の党と、極右政党ドイツのための選択肢(AfD)が大躍進した。

難民問題が票を左右した。

 

下院 (2018/3連立)

バイエルン州議会

今回 従来 差異
キリスト教民主同盟 (CDU) キリスト教
民主・社会同盟
(CDU/CSU)
246 連立
与党
399
キリスト教社会同盟 (CSU) 37.2% 47.7% -10.5%
ドイツ社会民主党(SPD) 153 9.7% 20.6% -10.9%
緑の党 67  

野党

 
310 17.5% 8.6% +8.9%
自由民主党(FDP) 80 5.1% 3.3% +1.8%
ドイツのための選択肢(AfD) 92 10.2% 0 +10.2%
左派党(The Left) 69 3.2% 2.1% +1.1%
無所属 2      
Free Voters of Bavaria       11.6% 9.0% +2.6%
その他       5.5% 8.7% -3.2%
合計 709     100% 100% -

 

メルケル首相はキリスト教民主同盟 (CDU) の党首で、バイエルン州のみを地盤とするキリスト教社会同盟 (CSU) と連携している。

2017年9月24日の連邦議会(下院)選挙で、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は709議席のうち246議席しか確保できなかった。

このため、自由民主党(FDP)や緑の党と連立協議を進めたが、決裂し、2018年2月に第2党の社会民主党(SPD)との大連立交渉がようやく合意した。

2018/3/17 メルケル首相 再選 

しかし、この連立内閣は肝心のCDU(全国組織)とCSU(バイエルン州のみ)の間で問題を抱えている。

バイエルン州は難民がドイツに入る際の入り口に位置し、100万人を超える難民を受け入れたメルケル政権への批判が根強い。

反難民の極右の台頭に対抗するため、CSUは難民抑制にかじを切った。

キリスト教社会同盟(CSU)の党首である Seehofer内相が、寛容な難民政策が「欧州を分断させた」と糾弾し、他のEU諸国で難民登録済みの場合はドイツへの入国を許さず、元登録国に送還する措置の即時導入を要求し た。

Merkel 首相は7月2日夜、対立していた Seehofer 内相と会談し、新たな難民対策で合意した。Seehofer 内相は先に表明していた辞意を撤回、連立政権崩壊の危機はひとまず回避された。
Merkel 首相はSeehofer 内相が主張する国境での入国拒否を認めなかったが、ドイツに向かう難民の「玄関口」にあたるオーストリアとの国境に管理施設 (transit centres)を設け、他のEU加盟国で難民申請登録した人々はその国へ送り返すことで合意した。送還は2カ国間協定を結んで行う。

一方で、Merkel首相が難民送還に動いたことで、右傾化を嫌う穏健な支持層の離反を招いた。

2018/7/2      EU首脳会議、移民問題で不十分な合意、ドイツ内相が辞任示唆 付記

 

今回のバイエルン州の選挙結果はこれを反映している。

メルケル政権の難民受け入れへの不満から、右寄りの支持層が極右政党ドイツのための選択肢(AfD)に流れた。

慌てたCSUは反難民に転じたが、今度は右傾化を警戒する穏健派が緑の党に流れた。

結局、左右両翼の支持を失うこととなった。

 

10月28日にはヘッセン州議会選挙がある。ここでCDUが敗北すれば、メルケル氏の党首としての立場がおかしくなる。

 


2018/10/18 米国の財政赤字

米財務省は10月15日、2018会計年度(2017年10月〜18年9月)の財政収支の赤字が前年度比17%増の7790億ドルだったと発表した。

2017年末に成立した大型減税で法人税収が減少したのが主因。赤字は3年連続で拡大し、6年ぶりの高水準となった。

 
  source: https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2018/02/hist07z1-fy2019.xlsx      


歳入は0.4%増の3兆3287億ドル。個人所得税は増えたが、税制改革で連邦法人税率を35%から21%に引き下げた影響で法人税収が22%減った。一方、鉄鋼やアルミニウムへの追加関税発動などで関税収入は2割増えた。

歳出は4兆1077億ドルで3.2%増えた。国防費(6%増)や社会保障費(4%増)が膨らんだほか、FRBの利上げで公的債務の利払い費(14%増)がかさんだ。

ムニューシン財務長官は声明で「無駄な歳出を削るとともに、強力な経済成長を実現してきたトランプ大統領の経済政策を進めれば、米国の財政は持続可能な方向に進む」と改めて強調した。

ーーー

米議会予算局(CBO) は本年4月9日の報告書で、米財政赤字は従来予想より2年早い2020会計年度(19年10月−20年9月)までに、1兆ドルを超える見通しであるとしている。

2017年6月の報告書では、米財政赤字が1兆ドルを超えるのは2022年度と見込まれていた。

CBOの報告書には税制改革の影響に関する新たな見通しが盛り込まれた。マクロ経済効果と債務返済費用の増加を考慮すると、今後11年間で財政赤字を約1兆9000億ドル増加させる見通し。

トランプ大統領が署名した減税や歳出拡大には、長期的な経済成長率を押し上げる効果はほとんどないという。



  


2018/10/19  米国の長期金利上昇と背景

トランプ米大統領は10月9日、ホワイトハウスで記者団に米連邦準備理事会(FRB)の利上げについて「早く動く必要はない」と述べた。「再びインフレにはならない」と説明し、利上げによる金融の引き締めよりも、経済成長を優先すべきだとの考えを示した。

大統領は翌10日夕、「FRBは間違いを犯している。彼らは(金融政策を)引き締めすぎている。FRBはクレージーだと思う」と利上げ路線を改めて批判した。

11月の中間選挙を控え、金利上昇を通じた経済の減速を避けるため、FRBを改めてけん制した。

大統領は10月16日、FRBについて「私の最大の脅威だ」と述べ、利上げ路線を再びけん制した。「利上げが早すぎるので(パウエルFRB議長がやっていることを)よく思っていない」と述べ、インフレ率は「非常に低い」として利上げを急ぐ必要がないとの持論を展開した。


金利上昇の背景は次の通り。

(1) FRBによるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標のアップ

米国は、2008年11月〜2010年6月の量的緩和策 QE1(Quantiative Easing Program-1 )、2010年11月〜2011年6月に実施されたQE2に続き、2012年9月にQE3 を開始し、以降、毎月850億ドルの債券買い入れを行ったが、2014年1月には、債券買い入れ規模を減らし、量的緩和(QE3)の縮小を継続する方針を決め、その後、毎月の債券買い入れを月850億ドルから順次減少させ、2014年11月には買い入れをゼロとした。

2015年12月16日に、米経済は2007-09年の金融危機による打撃を概ね克服したとの認識に立ち、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を 0%〜0.25% から0.25%〜0.50% に引き上げた。
その後、引き上げを続け、本年
9月26日に2.00〜2.25%に引き上げることを決定した。

年内は12月にあと1回の利上げが実施されると予想、2019年は3回、2020年は1回との見通しを示した。

 
2008/10 2.00%→1.00%
2008/12 1.00%→0.00%
    ↓   0.00%
2015/12 0.00%→0.25%
2016/12 0.25%→0.50%
2017/3 0.50%→0.75%
2017/6 0.75%→1.00%
2017/12 1.00%→1.25%
2018/3 1.25%→1.50%
2018/6 1.50%→1.75%
2018/9 1.75%→2.00%
2018/12 2.00%→2.25%

2018/9/27    FRBが本年3度目の利上げ

 

(2) FRBによる保有債券の縮小(市中のドルの減少→金利アップ)

FRBは2014年11月には債券買い入れをゼロとしたが、満期のきた債券については同額を買入し、残高は維持してきた。

しかし、FRBは2017年9月20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、2008年の金融危機後の量的緩和政策を完全に終結し、大幅に膨らんだ保有資産の縮小を始めると決めた。

但し、償還期限がきた分をそのまま償還すると、市場に出回るドルが減少し、FF金利アップと合わせ、長期金利がアップし、経済に影響を与える。

このため、FRBは10月から償還の時期が来た国債などを再び買い入れる額を少しずつ減ら すこととした。

年内の3か月は1か月当たり100億ドル(米国債が60億ドル、住宅ローン担保証券が40億ドル)を上限に資産規模を縮小する。

その後は3か月ごとに買い入れ額を減らし、1年後には1か月当たり500億ドル(米国債が300億ドル、住宅ローン担保証券が200億ドル)を上限に資産規模を縮小していく。

当月の償還額のうち、下記を超える額は再び買入する。(各月 億ドル )

  国債 住宅ローン
担保証券
合計
 
2017/10〜12 60 40 100
2018/1〜3 120 80 200
4〜6 180 120 300
7〜9 240 160 400
10〜12 300 200 500
累計 2,700 1,800 4,500
2019/12 累計 6,300-α 4,200-α 10,500-α

当月の満期額がこれを下回る場合は当然、
満期額がそのまま縮小額になる。

2017/9/23  米連邦準備理事会、資産縮小開始を決定

FRBの保有債券の状況は下記の通り。

今後は現行の圧縮ペースで固定し、ピークに2.5兆ドル近くあった残高は2019年末には2兆ドル割れをうかがう可能性が高い。

FRBの試算では、量的緩和は米長期金利を最大1%押し下げた。保有残高をどこまで減らすかはまだ決まっていないが、半減でも0.5%の金利上昇要因になるという。

 

(3) 中国の米国債売却

米財務省の10月16日の発表によると、中国の米国債保有は1兆1650億ドルと、7月の1兆1710億ドルから減少した。
外国勢の米国債保有残高で中国に次ぐ規模の日本は1兆300億ドルで、前月の1兆360億ドルから減った。サウジアラビアは27億ドル増加し過去最高の1695億ドル。

 

中国の駐米大使が2018年3月に、米国の関税への対抗策として米国債購入を縮小する可能性もあると示唆したことがある。

ムニューシン米財務長官は10月13日、中国が保有する米国債を両国間の貿易交渉で切り札として使ってくる可能性を巡り懸念してはいないと説明した。
  
「米国債市場は極めて流動性が高く、この問題がわれわれの交渉の中で議題に上ったことは全くない」と述べ、「米国債には多くの買い手がおり」、中国は「自由に自らがしたいように行動できる」と付け加えた。


 
2018/10/20  米国、日本や中国など6カ国を引き続き「監視リスト」に指定 

 
米財務省は10月17日、貿易相手国の通貨政策を分析した半期為替報告書を公表した。

Macroeconomic and Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States

日本と中国のほか、韓国、ドイツ、スイス、インドの6カ国を引き続き「監視リスト」に指定した。

貿易戦争を繰り広げる中国については、経済制裁に道を開く「為替操作国」と指定するのは見送ったが、報告書は「6カ月かけて再審査する」と同国へのけん制を強めている。

ーーー

2016年2月24日、2015年貿易円滑化・貿易履行強制法成立した。これはアンチダンピング法、相殺関税法および貿易救済法などを強化したものだが、上院の審議で為替操作国に対する措置が盛り込まれた。

対象は、重大な対米貿易黒字と実質的な経常黒字を有し、外為市場に対する長期かつ一方的な介入を行った米国の主要貿易相手国で、米財務省は次の基準で選ぶこととした。

重大な対米貿易黒字 対米貿易黒字が200億ドル(米国GDPの約0.1%) 以上
実質的な経常黒字 経常黒字がその国のGDPの3.0%以上
外為市場に対する介入 GDPの2%以上(ネットで)の額の外貨を繰り返し購入

財務省は2016年4月の報告で、3つの基準全てに当て嵌まる国はないことを確認したが、米国の主要貿易国の5カ国が3つの基準のうち2つに該当することを見つけた。
このため、新しい「監視リスト」を創設し、この5国を監視していくこととしたもの。

2016/5/2 米、日本や中国などを為替操作「監視リスト」に

その後の「監視リスト」の対象は次の通り。

  日本 中国 韓国 台湾 ドイツ スイス インド
2016/4
2016/10
2017/4
2017/10
2018/4
2018/10

日本は(1)と(2)で条件に抵触した。

中国は、2016/10以降は(1)の1つしか基準を超えていないが、対米貿易黒字が膨大なため、次回の報告書でも自動的に指定される。今回も同様である。

台湾は2017/4 に1つしか基準を超えなかったが、外為市場介入で対象外となったのが一時的かどうかをチェックするため、監視国に残った。2017/10からは外れた。

インドは、2017年第1・四半期から第3・四半期にかけて外貨購入を拡大した。通年では過去最大の560億ドルと、同国のGDPの2.2%の水準に達した。対米貿易黒字も230億ドルであった。

ーーー


今回の分析結果(2018年6月までの4四半期):

 

日本:モノの対米黒字700億ドルと経常黒字がGDPの4%で基準を超えた。

外為市場介入は過去7年間無しとなっている。

財務省は、着実な成長を利用し、構造改革を行うべし、とコメントしている。

 

中国:モノの対米黒字3900億ドルのみが基準を超えた。対米輸出は5250億ドル、輸入は1350億ドル。なお、サービスは米国の400億ドルの黒字。

経常収支は下図の通りで、サービスの輸入(海外旅行支出を含む)が大きく、モノの黒字を帳消しにしている。

付記 サービス収支の赤字の原因は旅行である。

 

 

外為市場への政府介入はない(±ゼロ)としているが、最近の人民元下落が大きく、注目している。為替介入をしないという中国政府ののG20での約束を重視 するとしている。

Treasury continues to place considerable importance on China adhering to its G -20 commitments to refrain from engaging in competitive devaluation and to not target China’s exchange rate for competitive purposes.
Treasury also strongly urges China to provide greater transparency of its exchange rate and reserve management operations and goals.

今回も、1つしか基準を超えていないが、対米貿易黒字が膨大なため、次回の報告書でも自動的に指定される。

 

韓国:モノの対米黒字210億ドル(前年の280億ドルからは減少)と経常黒字がGDPの4.2%で基準を超えた。

若干(GDP比 0.3%)の為替介入があったとみる。韓国政府が2019年から為替介入について開示すると発表したのを好感。

 

ドイツ:モノの対米黒字670億ドルと経常黒字がGDPの8.2%で基準を超えた。

EUメンバーのため、ドイツとしての為替介入問題はない。
 

スイス:経常黒字がGDPの10.2%で基準を超えた。為替介入は大きく、GDPの2.4%となっている。

インド:モノの対米黒字230億ドルで基準を超えた。インドの場合はサービスでも対米で40億ドルの黒字となっている。医薬とIT関係が中心。

インドは、2017年第1・四半期から第3・四半期にかけて外貨購入を拡大した。通年では過去最大の560億ドルと、同国のGDPの2.2%の水準に達した。
しかし、今回は介入はGDPの0.2%に止まり、「
GDPの2%以上(ネットで)の額の外貨を繰り返し購入 」という条件から外れる。

今回は、1項目だけの基準超えのため、次回も同様なら、リストから外れる。

 


2018/10/22 Saudi Aramco、浙江石油化工に出資  

Saudi Aramco はこのたび、浙江省舟山緑色石化基地で石油精製・石油化学計画を進めている浙江石油化工(Zhejiang Petrochemical )に出資することを決めた。10月18日に調印式を行った。
浙江省政府が保有する9%を取得したとされる。(浙江石油化工では中国の石油会社か外資に出資を求めようとしたが、成功せず、一時的に州政府が保有していた。)

Saudi Aramco は9月に、浙江石油化工の主株主の浙江榮盛控股集團(Zhejiang Rongsheng)との間で、本計画のための原油の長期供給契約を締結している。

 

浙江石油化工は2015年6月18日に設立された。

株主は、浙江榮盛控股集團 (60%)のほか、浙江桐昆控股集團有限公司Tongkun Group)と国有企業である巨化集團公司Juhua Group 国有の建設会社の舟山海洋綜合開発投資( Zhoushan Ocean Comprehensive Development Investment Co.)で、私企業と国有企業のJVである。

浙江榮盛控股集團は1989年創業で、石油化学、化学繊維、不動産、金融等を業とする。
石油化学と化学繊維事業では、水平&垂直戦略をとり、拡大している。BTXからPTA、PET、ポリエステルヤーンなどを生産している。

巨化集團公司は1958年設立で、フッ素化学、クロルアルカリ、石油化学製品、電気化学製品、ファインケミカルを扱っている。

浙江桐昆控股集團は、ポリエステルとポリエステルヤーンのメーカー。

浙江石油化工の計画では、立地は浙江省舟山緑色石化基地で、第一期と第二期に分かれ、それぞれ、石油精製 年産20百万トン、芳香族 520万トン、エチレン 140万トンとなっている。
石化製品では、エチレングリコール、LLDPE、HDPE、PP、PO、MMA、アクリロニトリル、ブテン-1、等々が含まれている。

この計画は、国の石油・石油化学の13期5か年計画( “13th Five-Year Plan” )に含まれている。

2017年7月に第一期の建設を開始した。

横河電機は本年3月、浙江石油化工から、第1期建設プロジェクト向けに、プロセスガスクロマトグラフ「GC8000」を受注した。

 

立地:浙江省舟山緑色石化基地: 火山列島を埋め立てている。

上海と舟山を結ぶ橋が計画されている。

 

 

主要石化製品能力(万トン)

  1期 2期
エチレン 140 140
EO/EG 5/75 10/65
EVA/LDPE - 10/30
LLDPE 23 21.2
HDPE 25.8 -
PP 89.42 90
ANM 27.04 -
MMA 9 -
PX 400 400
スチレン 120 60
ポリカーボネート 26 26

 


2018/10/23 Google、欧州でアプリ有料化、EUの競争法違反制裁に対応 

米Alphabet Inc. 傘下のGoogle は10月16日、欧州域内で売るスマートフォンについて、端末メーカーに無料提供していたメールや地図ソフトを有料化すると発表した。

欧州連合(EU)が7月に科した競争法(独占禁止法)違反による制裁に対応するため。

ーーー

Googleはスマホ用のAndroid 基本ソフト(OS)を無料で提供している。その上で動くアプリも無料としている。

Android 基本ソフトのなかで欠かせないのが Google Play Storeで、Android搭載スマートフォン/タブレットで利用できるアプリ、映像、音楽、電子書籍などが配信されている。

Googleはこれに目を付け、Google Play Storeのライセンス条件として、Chromeブラウザ(Google Chrome  browser) と Google検索アプリ (Google Search) のプリインストールをメーカーに要求している。

これまで、これらのソフトを無料で提供してきたのは、検索などのサービス経由で集めたデータによる広告で収入を確保できるからである。

しかし、欧州委員会はこれを問題とした。

Android は世界のスマホで88%のシェアを持っており、EUはGoogleがそのシェアを生かして検索などのアプリを「拡散」し競争をゆがめていると批判していた。

EUの欧州委員会は7月18日、Google に下記を問題として、43億4000万ユーロ(約5700億円)の制裁金を払うよう命じた。3カ月以内に同行為を改めなければ、さらに高額罰金を科すとした。

1) Googleのアプリストア (Google Play Store)のライセンス条件として、Chromeブラウザ(Google Chrome  browser) と Google検索アプリ (Google Search) のプリインストールをメーカーに要求。

欧州委員会の調査では、ユーザーはPlay Storeが入っているのが必須としている。

Googleは、Play Storeのラインセンスで、Google Chrome  browser と Google Search をプリインストールすることを条件とした。

2) Google検索アプリ(Google Search)のみをデバイスにプリインストールする一部の大手メーカーやモバイルネットワークオペレータにインセンティブ支払い。

3) Googleのアプリのプリインストールを希望するメーカーが、Google版ではないAndroidフォーク (Androidのベース部分だけを使用、独自のアプリを採用するもの)を販売するのを妨げた。

2018/7/27 欧州委員会、Googleに罰金5700億円 


GoogleはEUの指示を不服として10月9日に提訴したが、対抗策を取った。

EUの指示通り、インストールを強制しない代わりに、Google Search があったためにこれまで無償にしていた他のサービスの利用を有料化するというものである。

EUが問題としたGoogle Chrome  browser と Google Search をプリインストールすることを条件としない。

ブラウザーをGoogle Chrome の代わりにFirefoxにしたり、検索エンジンをGoogle Searchの代わりにMicrosoftのBing(元のMSN Search)などを使っても良い。

但し、Andoroid(OS)は無料のままであるが、Play Storeのほか、Gmail、Google Map、Youtube などを有料化する。

Andoroid が入ったスマホを販売するメーカーはGoogle に一定の対価を払わないとこれらアプリをスマホに標準搭載できなくなる。具体的なライセンス料は明らかにしていない。

 

10月26日以降に発売される端末について、裁定の結果が出るまでは今回の措置を続ける。

対象国はEU28カ国のほかアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーのEEA諸国となっている。EU圏以外での変更はない。

Googleでは、「Google検索とChromeを当社の他のアプリとともにプリインストールすることは、当社によるAndroidの開発と無償配布を資金面で支えていた 」とし、今回の有償化は欧州委の命令に従うための決定であることを強調した。


今回の措置はGoogle にとってはAndoroid 採用のスマホに自社の検索・閲覧ソフトが使われない可能性があり、他社にシェアを奪われ、広告収入が減る恐れがある。

ただ、検索ソフトは性能で Google が圧倒的な優位にあり、メーカーが他のソフトに切り替えるかどうか不明である。

Play Storeの入らないスマホをは考え難く、Gmail、Google Map、Youtube なども有料化されても入れないわけにはいかないと見られている。その場合、ライセンス料が端末価格に反映され消費者の負担が増す可能性が強い。

Googleの発表を受け、欧州委員会は次の通り述べた。

Googleに対しPlay Storeや他のソフトを有料にせよと求めていない。欧州委のルーリングに対応してどのように政策を変更するかは同社の責任である。対応策が有効なもので、欧州委の決定を尊重したものであるかどうかを注意深く見ていく。要は、他のブラウザーや検索エンジンがAndroid採用のスマホでGoogleと競ってやっていけるかどうかだ。

しかし、実際に欧州委員会の狙い通りになるかどうか、疑問である。Googleの対応策は欧州委員会にアピールするものである。

 


2018/10/24  日本の対中経常収支 

10月21日付の毎日新聞の「時代の風」で藻谷浩介氏(日本総合研究所)が 「誤った『選択と集中』 妄信ただす現実の確認」 というタイトルで書いている。

日本の停滞は「官民の組織はとにかく決定が遅く、実行に移らない」ため、「イノベーションが進まず、経済が成長せず、国際競争に立ち遅れるばかり」というのが一般的だが、むしろ全力で間違った方向に「選択と集中」を行い、それで行き詰る大組織も日本には多数ある、とする。

東芝は技術革新の余地の乏しい原子力に投資を続け、医療機器や特殊用半導体などのイノベーティブな部門を売却する羽目に陥った。
北海道電力や関電も、原発にこだわるあまり、LNG火力の整備が遅れた。(それに対し、中部電力は上越LNG火力を稼働させ、太平洋岸、日本海側どちらかを天災が襲ってもバックアップできる体制)

憲法9条改正が今の優先課題か?

少子化と段階世代退職に伴う人手不足を好景気とはやす。少子化を理由に小中高校の統廃合、地方国立大学を低予算で締め上げ、都会に比べ出生率の高い地方圏の子育てコストを増やすのは方向が正反対。

地震の巣に正対した辺野古の太平洋海上に軍事用滑走路を造成するというのは、意思決定のずさんさが目に余る「選択と集中」である。

ポイントは、決定し実行する、しないではなく、その前の事実認識の段階こそが重要だ。間違いを信じ込んだまま、何もしないか、間違った方向に突っ走っている。

事実誤認の例として、「グローバルイノベーション&バリューサミット」なる行事(聴衆の過半は在日外国人)の最終セッションで登壇し、聴衆に質問した。

「日本の経常収支は、2017年に中国(香港含む)に対して、5兆円の黒字、赤字、どっちか?」と聞いたら、ほぼ全員が「赤字」と回答したが、正解は5兆3000億円の史上最高の黒字である。

ーーー

財務省の貿易統計の主文には主要地域・国との統計が載っている。

中国(香港を含まず)は下記の通りで、赤字である。この印象が強い。

しかし、地域別・国際収支データを見ると下記の通りとなっており、藻谷氏の指摘通りである。

対中経常収支は順次赤字が減り、2017歴年で黒字化、香港を含めると2016年の3兆円の黒字が2017年は5兆円超えの黒字
 
   
対中貿易赤字は減少しつつあり、香港を含めると2017歴年に黒字化、サービス収支は対中で大幅黒字。
  
対中第一次所得も大幅黒字
   

中国全体でサービス収支は大幅赤字となっているが、下図のとおり、大半は旅行である。
日本の対中サービス黒字の理由は訪日中国人の「インバウンド需要」である。


2018/10/25  日揮、再生可能エネルギー由来の水素を用いたアンモニア合成と発電に世界で初めて成功

日揮は10月19日、再生可能エネルギーによる水の電気分解で製造した水素を原料とするアンモニアの合成、および合成したアンモニアを燃料としたガスタービンによる発電に成功したと発表した。

再生可能エネルギーを活用した水素ならびにアンモニアの製造とこれを燃料とした発電は世界で初めて。

日揮と産業技術総合研究所は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム「エネルギーキャリア」のもと、2014年から『新規アンモニア合成触媒および再生可能エネルギーによる水の電気分解で得られた水素を原料としたアンモニア合成プロセス』の研究開発を進めてきた。

本年5月には産業技術総合研究所、沼津工業高等専門学校、および日揮触媒化成と共同で、触媒に使用する担体や触媒の製造方法を改良することにより、低温・低圧下で効率的にアンモニアを合成できる新たなルテニウム触媒の開発に成功し た。

実証試験を通じて、新たに開発した触媒が低温・低圧で高い活性を有することを確認するとともに、再生可能エネルギーの使用時に課題となる急な運転条件の変更によるアンモニア製造量の変動に対応できることが検証できた。

このたび、太陽光発電設備で発電した電力による水の電気分解を通じて製造した水素を用いてアンモニアの合成試験を行い、合成したアンモニアを燃料にガスタービンによる発電試験(発電量47kW)を実施した。

 

再生可能エネルギーの有効利用のため、水を電気分解して水素を製造する方法が期待されている。

水素エネルギーを本格的に活用していくためには、安全性やコストをはじめ、輸送・貯蔵の効率性等が課題であり、水素をアンモニアや液化水素、有機ハイドライド等のエネルギーキャリアに転換する必要がある。

なかでも成分中に水素を多く含むアンモニアは、液化が容易で、アンモニアのまま直接燃焼させることが可能であり、また燃焼時にCO2を排出しない特徴を持つだけでなく、肥料原料などにも広く利用されており、既にサプライチェーンが確立されていることから、水素のエネルギーキャリアとして優位性がある。

これまでの「ハーバー・ボッシュ法」でのアンモニア製造と比較し、下記の特徴がある。

  ハーバー・ボッシュ法 今回の方法
水素製造時 大量のCO2を排出 排出せず
合成反応 高温高圧 低温低圧
  従来法の触媒は非効率→新触媒開発
問題点 天然ガス価格で経済性が変化 再生エネのため水素製造量が変動

 



2018/10/26  世界の石油化学製品の需給動向 (2018) 

METIは10月19日、2022年までの世界のエチレン系・プロピレン系誘導品及び芳香族製品の需給(需要、生産能力、生産量)の動向をとりまとめ、発表した。

発表内容は次の通り。

これをもとに、商品別の需要・能力・生産に組み替えた。 

商品別国別集計(国別の需要・能力・生産)  

商品別国別の需要・能力・生産をグラフ化した。

            http://www.knak.jp/METI-world/meti-2018/index.html

 

特記事項:

1.中国の動向等

新増設計画は、中国を中心に引き続き計画・検討されている。しかしながら、原油価格の値下がりにより、中国の石炭系エチレンの優位性が大幅に低下したことに加え、環境規制の強化への対応から、大幅な見直しを余儀なくされている。

一方、これまで凍結状態であったナフサ分解設備は、第13次5ヵ年計画で7つの地域に集約、原料の多様化、環境問題、エネルギー循環型を踏まえた、新規エチレンプラントの構想が打ち出されている。

2.米国のシェール革命の影響

好調な米国の経済環境を背景に、本年度から、いよいよシェール由来のメガコンプレックスが稼働を開始し、グローバルな石化市場に与える影響が懸念される。一方で、中長期的に見ても米国に豊富に存在する競争力ある石化原料や、グローバルなメガトレンドに沿い、継続的に増大する石化需要等を背景に、シェール由来の2nd Wave-3rd Waveの新増設計画が進みそうな様相となってきている。
 
メガコンプレックスの稼働が開始となり、1st Waveとして2020年までに約10百万トンのエチレンコンプレックスが増強され、さらには2nd Waveとして2025〜2026年ごろまでに約10百万トンの増強が予定されている。その後もグローバルな需要の拡大に沿い、さらなる増強の可能性も予想される。同時に石化原料用途のエタン、LPGの輸出も出荷設備の新増設により増大。米国内のみならず、米国産シェール由来原料(含むメタノール)をベースにした石化プラントが、欧州・インド・ブラジル・中国でグローバルに展開され始めている。


概要は以下の通り。

1.世界のエチレン系誘導品

1)生産能力 2)需要

   3)世界のエチレン系誘導品の需給バランス(エチレン換算   百万トン

    世界計 アジア計 うち中国 北米計 中東計
2016 能力 174.6 69.6 28.8 33.6 30.8
生産 149.9 56.5 23.6 32.9 27.2
需要 142.3 67.1 40.0 25.1 9.4
バランス 7.6 -10.6 -16.4 7.8 17.8
2022 能力 212.9 85.5 37.3 44.6 36.9
生産 186.3 73.8 32.5 42.2 32.8
需要 177.3 90.3 57.1 29.2 12.1
バランス 9.0 -16.5 -24.6 13.0 20.7

 

2.世界のプロピレン系誘導品

1)生産能力 2)需要

    3)世界のプロピレン系誘導品の需給バランス(プロピレン換算   百万トン

    世界計 アジア計 うち中国 北米計 中東計
2015 能力 111.9 58.7 30.1 17.1 10.1
生産 100.8 53.1 28.5 15.0 9.4
需要 94.1 52.5 32.2 13.6 3.5
バランス 6.6 0.7 -3.7 1.4 6.0
2021 能力 137.0 76.5 42.8 19.2 12.6
生産 122.9 71.1 40.6 15.8 11.0
需要 114.2 67.2 43.7 15.1 4.6
バランス 8.7 3.9 -3.1 0.7 6.4

 

3.主要製品の需給 (総能力、総生産と地域別需要)

   
   
   
   
 
   

他の商品のグラフ 及び商品別の国別の需要・能力・生産のグラフは下記にあります。

            http://www.knak.jp/METI-world/meti-2018/index.html


2018/10/27 LIXILのイタリア子会社の中国企業への売却、米国が承認せず 

LIXILは10月22日、米国の対米外国投資委員会(CFIUS)がイタリア建材子会社の中国企業への売却を承認しなかったことを明らかにした。

この建材子会社はビル外壁材などを手掛けるPermasteelisa S.p.A で、売上高の約4割を米国が占める。

付記 LIXILは11月27日、売却契約を解除したと発表した。

ーーー

LIXILは2011年にイタリアのPermasteelisa S.p.A を約608億円で買収した。同社は世界27ヵ国で事業展開する世界最大級のカーテンウォール事業会社で、買収目的はアジアを超えた「グローバルなオペレーションの入手」としていた。

Permasteelisa は、カーテンウォールやインテリアなど建築物の内外装分野で業界を牽引 しており、世界の主要な建築プロジェクトのエンジニアリング、プロジェクト管理、製造、施工に携わっている。
著名な建築家と連携し、ロンドン・ブリッジ駅の南西側に所在する超高層ビルThe Shard、カリフォルニア州 のAppleの新本社社屋、シドニーのオペラハウス、香港の世界貿易センターなども手掛けてきた。

LIXILは2017年8月、Permasteelisa S.p.A.の全株式を中国を拠点とした建築設計・建築装飾事業を行うGrandland Holdings Group Limited(廣田控股集團)に譲渡する ことを決めた。基本譲渡価額は、4億6700万ユーロ(597億7600万円)。

LIXILグループは、経営の効率化や財務体質の強化のため、全領域で事業ポートフォリオの最適化を図っている 。今回の株式譲渡は、事業構造の簡素化と組織の統合、シナジー創出と効率化を目指す同社の取り組みに合致するものという。

売却先のGrandlandは、カーテンウォール、都市開発、メカトロニクスなどを手掛けている。

瀬戸欣哉社長兼CEOは、「当社では、カーテンウォール事業や商業施設向けインテリア事業についてPermasteelisaから多くを学んだので、今後の事業運営に生かしていきたい。また、Grandland およびPermasteelisaの事業は当社との親和性が高く、将来的な連携も検討していく」などとコメントしていた。

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LIXILは今回、対米外国投資委員会(CFIUS)から、今回の売却について、現行の売り手・買い手の対応方法では承認できない旨の通知を受領したとし、今後の方向性について検討を進めていると述べた。

 

トランプ米大統領は本年3月12日、シンガポールに本社を置く通信用半導体大手Broadcom Limitedによる米Qualcomm Incorporatedの買収を禁じる命令を出した。外国企業による米国企業への投資を審査する対米外国投資委員会(CFIUS:Committee on Foreign Investment in the United States)の勧告に基づく。

米大統領がCFIUSの異議に基づいて買収を阻止したのは5件目。トランプ氏としては就任以来2件目となる。

2018/3/14    米大統領、BroadcomによるQualcomm買収禁止命令 

これまでのCFIUSの審査対象は、安全保障に係るものと大統領が判断した買収に限られた。

外国企業の対米投資を審査する米国の独立機関、対米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する条項を加えたJohn McCain 国防権限法(NDAA)案が8月13日成立した。

CFIUSの審査対象を、米国企業の買収を狙いとする取引に限らず、合弁会社設立や、米国の重要な技術やインフラ、個人情報に関わる少額の出資なども審査の対象とする。米政府施設に近い土地取得など不動産取引も含める。

米財務省は10月10日、8月に成立した新法に基づく外資による対米投資の規制の詳細を発表した。11月10日から実施する。ハイテク分野での覇権を狙う中国から先端技術を保護するのが狙い。

半導体や情報通信、軍事など27産業を規制対象に指定し、少額出資でも当局に事前申告を義務づける。

規制対象となる分野も航空エンジン・部品、アルミニウム精錬、石油化学などと細かく指定した。ナノテクノロジー(超微細技術)の研究開発や光学レンズ製造も対象になっている。 幅広い無機化学品も含まれている。

2018/10/12  米政権、ハイテク27産業で外国投資の規制強化

 

今回のPermasteelisa の事業は、カーテンウォールやインテリアなど建築物の内外装分野である。

CFIUSの本来の対象であった安全保障に関係するとは思えない。

また、8月に成立した新法に基づく財務省の規制対象の分野にもこれは含まれていない。

推測だが、Permasteelisa はAppleの新本社社屋など、重要な建物の内装を引き受けている。中国のGrandland が親会社となることで、Permasteelisa が施工する建物に、例えば盗聴設備などが密かに設置され、重要情報が漏れるのを恐れたのかも知れない。

 

 


2018/10/29    イタリア、来年度予算案で欧州委と対決

欧州委員会は10月23日、イタリアに対し、2019年予算案を3週間以内に再提出するよう求めた。

委員会の7月13日の勧告から著しく離脱しており、また、前政権が4月に提出したStability Programmeからも外れているとした。

イタリアはこの数年、EUの財政支援を受けており、Stability Programme では2019年の財政赤字をGDPの0.8%にするとしていた。

それに対し、イタリア側は予算案の修正に応じない姿勢を強調した。

付記

ユーロ圏財務相会合は11月5日、イタリアの2019年の予算計画に関する協議をブリュッセルで行い、欧州委員会の「評価に同意」し、「中期的な予算目標の道筋と十分な債務削減に重点的に取り組むことが、安定成長協定(SGP)に欠かせない」との声明を発表した。

イタリアは11月13日までに修正した予算案を欧州委へ再提出しなければならないが、イタリアのトリア経済・財務相は5日、「予算案は変わらない」と強調した。

付記

コンテ首相は12月12日、ユンケル欧州委員長と会談。財政赤字の見通しを実質GDP比で2.4%から2.04%に引き下げると説明した。欧州委は今後、加盟国の財務相による閣僚理事会で修正案を審議する。

首相は、最低所得保障や年金の受給開始年齢の実質引き下げといった、巨額の財政資金が必要な政策については「変更しない」と強調。国有資産の売却は進めるものの、赤字を減らす具体策については明らかにしなかった。

付記

欧州委員会は12月19日、イタリアが再提出した修正予算案(赤字幅を縮小)を承認した。制裁を見送り、監視を継続する。

イタリア下院議会は12月29日、2019年予算案を可決した。最低所得保障(ベーシックインカム)や年金受給開始年齢の引き下げなどを盛り込んだバラマキ型の予算で、GDPに対する財政赤字の比率は2.04%とした。

ーーー

「五つ星運動」と「同盟」のポピュリスト2党の連立政権であるイタリア政府は9月27日、2019-2021年の経済財政計画を発表したが、財政赤字目標はGDP比2.4%とした。

構造的財政収支の悪化を回避する目安とされた2%を上回った。前政権は 0.8%を約束していた。

イタリアの総選挙は3月4日に行われ、紆余曲折のうえ、6月1日に「五つ星運動」と「同盟」の連立で、政治経験のない法学教授のジュゼッペ・コンテ首相の内閣が発足した。

「五つ星運動」は、大衆の不満に率直な賛同を示す人民主義政党(ポピュリズム)として行動。「同盟」は右派ポピュリズム政党。

「五つ星運動」のディ・マイオ党首が経済発展・労働相、「同盟」のサルビーニ書記長は移民問題を扱う内相として入閣し、ともに副首相となる。

2018/6/5    イタリアの混迷

「五つ星運動」は、選挙公約だった最低所得保障などの政策を実践するため、所得保障のための100億ユーロを含む280億ユーロ規模の予算調整を目指した。この場合、赤字は2.5%となる。

政権の公約:
 付加価値税の税率引き上げ見送り、フラット税の導入(実質的な減税)、家族向けに3000ユーロの一律所得控除、最低所得保障制度の導入、退職年齢引き下げなど。

エコノミストのトリア財務相はEUの財政規律の遵守を重視し、1.6%を主張した。

しかし、「同盟」書記長のサルビーニ副首相が五つ星党首のディマイオ副首相に同調し、押し切った。

 

前政権は2019年予算の財政赤字をGDP比で0.8%に抑える計画でEUと合意していた。EUルールでイタリアに許される歳出は0.1%増までだが、歳出は2.7%増となり、赤字はGDPの2.4%となった。

イタリアの公的債務はGDPの130%に達しており、ギリシャに次ぐ。

 

EUの財政規律である安定成長協定では、加盟国の予算を監視する制度の一環で、毎年10月15日までに次年度予算案を欧州委員会並びにユーロ圏の財務相会合に提出することが求められる。

EUの財政規律の基本は、財政赤字の対GDP比 3%未満、公的債務残高の対GDP比率 60%未満である。 (公的債務残高は多くの国が基準を超えている。)

イタリアの場合、財政赤字はGDP比で3%未満で基準を満たすが、公的債務は130%超で、債務の持続可能性を確保するため、 構造的財政収支の中期目標(MTO)をGDP比率でゼロ%に設定、毎年の構造収支の改善を求めていた。

 

政府は10月15日夜の閣議で、2019年度予算案を承認し、欧州委の審査を受けるため、同案を送付した。
2019年の単年度財政赤字目標をGDP比2.4%に引き上げ、2020年が2.1%、2021年は1.8%に設定した。

欧州委は前政権との間で、上記の通り、2019年予算の財政赤字をGDP比で0.8%に抑える計画で合意している。

欧州委は10月18日の書簡で財政規律ルールの深刻な違反につながると警告したが、イタリアは22日に予算案を修正しないと回答した。

欧州委は、GDP比130%の公的債務が膨張する懸念を伝えたが、イタリアは、財政拡大で成長刺激、税収増となり、財政悪化につながらないとしている。

トリア財務相は、「イタリアの赤字は西側民主主義国では普通であり、とんでもない値ではない」と言明、この目標値は前政権が掲げた数字(GDP比0.8%)を大きく上回るものの、国内経済の成長鈍化のため財政赤字の同比率は既に2.0%に向かっているとした。

このため欧州委は23日に、期限を待たずに即座に差戻しを決めた。イタリアは、11月13日までに修正した予算計画案を提出しなければならない。

欧州委が加盟国の予算案を差し戻すのは初めてのケース。


今後3週間以内に修正案を出す必要がある。拒めば、欧州委はイタリア財政を監視下に置き、改善努力が乏しければ最大でGDPの0.5%相当の制裁金が必要となる。

EUの財政規律では、構造的財政収支に基づく中期的な財政目標の達成に向けた取り組みが不十分な国に対して、GDP比で0.2%相当の有利子預託金を課す「重大な逸脱手続き」や、最大でGDP比0.5%相当の制裁金の支払いとEUの構造投資基金(経済・社会・地域格差是正や成長促進を目指す投資基金)の凍結につながる「過剰な赤字手続き」が開始される。

ただ、最終的な制裁の発動は、EUの是正勧告と効果的な措置が採られたかの評価を複数回繰り返したうえで、加盟国の逆特定多数決(欧州委員会の勧告を覆すには、国数で55%以上、人口比で60%以上の賛成が必要)で決定される。

これまで実際に制裁が発動された例はない。

 

なお、欧州委員会の助言機関である欧州財政委員会(EFB)は10月10日公表したリポートで、EUの財政規律について、公的債務削減への効果が高まるように修正するべきだとして、債務が減少している国を対象に赤字目標を廃止するよう提言した。

EFBは、既存のルールは複雑過ぎる上、一部加盟国の公共財政の長期的な持続可能性向上につながっていないと指摘 する。

GDP比3%以下とする既存の財政赤字目標の廃止を提案し、債務削減だけに焦点を当てるべきだとした。

「簡略化した新たな財政の枠組みは債務の対GDPB比率を中核にするべきだ。これにより、加盟国の債務の長期的な持続可能性が財政規律の基本目標として維持される」としている。

提案では、プライマリー支出が3年にわたって上限を下回った国は債務削減が見込まれるとして赤字が過剰であっても財政規律に順守しているとみなされる。

規律に順守しているかどうかの評価対象から構造的財政赤字目標を外す案も示した。

債務の対GDP比の上限は現在と同じ60%としたが、目標に達するまでの調整期間を15年に延長することを提案した。


イタリア政権の中枢は、反エスタブリッシュメントの「五つ星運動」と反移民を掲げる「同盟」のポピュリスト政党であり、EUとの対決を恐れていない。

6月1日の内閣発足後すぐに、「同盟」の書記長のサルビーニ内相・副首相が難民問題で過激な発言をした。難民問題でのEUの対応を求め、EU予算拠出見直しや国境検問を示唆、「統合欧州がまだ存在しているかどうかは1年以内に決まるだろう」と発言したと報じられた。イタリアへの移民流入を抑制するために他のEU加盟国が協力しない場合、EU予算へのイタリアの拠出について見直す可能性があると発言した。

2018/6/26    EUの危機:難民問題

この問題はドイツのメルケル政権内部の争いに展開し、メルケル政権の崩壊直前にまで進んだ。

2018/7/2      EU首脳会議、移民問題で不十分な合意、ドイツ内相が辞任示唆


最低所得保障などの政策を
選挙公約にし、EUと財政縮小の約束をした前政権の「民主党」を破って政権についた与党としては、EUの指示に従うことは国民を裏切ることとなる。

国民の支持と、ドイツの一人勝ちのもとで同様に財政赤字に悩む南欧諸国の暗黙の支持をもとに徹底的に抵抗すると思われる。

 

EUは英国に対して非常に厳しい態度を示すことで、EU離脱の追随国が出るのを防いだが、新たな火種となる。


2018/10/30   エタン/エチレン分離の新法開発

中国山西省太原市の太原理工大学の研究者等(アメリカ国立標準技術研究所所属の中国人を含む)は、エタンから簡単にエチレンを分離する方法を開発した。

10月26日に“Science”で発表した。

   http://science.sciencemag.org/content/362/6413/443

今回発見された新しいタイプの微孔性の金属有機構造体(MOF)、iron(III) peroxide 2,5-dioxido-1,4-benzenedicarboxylate は、ポリマーグレードのエチレンの製造において並外れた分離特性を示す。

MOFなどの微孔性材料を用いたガス分離プロセスが、従来のエタン/エチレン分離法に代わるものとして有望なことは知られていたが、こうした物質の多くはエチレンを優先的に吸着するので、エチレンを追加のプロセスでさらにMOFから分離しなければならない。

しかも、ポリマーグレードの純度(99.95%以上)を実現するには、何度も分離を繰り返す必要があるため、全体的な効率や費用対効果が低い。

研究者は、エタンのようなアルカンを優先的に結合させる天然の金属酵素から発想を得て、エチレンよりもエタンの結合を著しく優先させるMOFの作成に成功した。

さらに、この物質は周囲条件においてたった一度の分離で、ポリマーグレードのエチレン(純度99.99%)を生成する能力があることを発見した。

実用化には更なる研究が必要としている。

 


2018/10/30   メルケル与党、独ヘッセン州でも敗北、メルケル氏 党首を退任

ドイツ西部、ヘッセン(Hesse) 州で10月28日実施された州議会選挙で、メルケル首相率いる与党 キリスト教民主同盟(CDU)が得票率を大きく落とした。

第1党の座は確保するが、前回2013年よりも11ポイント強低い27.4 %と52年ぶりの低水準に落ち込んだ。

国政でCDUと大連立政権を組むドイツ社会民主党(SPD)も11.1ポイント低い19.6%と、歴史的な大敗になった。

州議会で連立を組む「緑の党」が頑張り、議席数では合計でなんとか過半数を超えた。

逆に、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が大躍進し、初議席(17議席)を確保した。

  投票率 議席
  今回 前回 増減 今回 前回 増減
キリスト教民主同盟 (CDU) 27.4% 38.3% -10.9% 36 47 -11
緑の党 19.5% 11.1% +8.4% 25 14 11
(州議会 連立) (46.9%) (49.4%) (-2.5%) (61)
50.4%
(61)
 55.5%
(0)
-5.1%
社会民主党 (SPD)  国政で連立 19.6% 30.7% -11.1% 25 37 -12
ドイツのための選択肢 (AfD 極右) 13.0% 4.1% +8.9% 初議席 17 0 17
自由民主党 (FDP) 7.8% 5.0% +2.8% 10 6 4
左翼党 6.0% 5.2% +0.8% 8 6 2
その他 6.7% 5.6% +1.1% - - -
合計 100% 100% - 121 110 11


ヘッセン州議会の定数は110であるが、超過議席
overhang seat)制度で今回は121議席となった。
まず、小選挙区での当選者が決まる。ある党の当選者が20とする。
別途、比例代表の結果、その党に割り当てられた議席数が22とすると、その党の当選者は2名が追加される。

 

10月14日に実施された保守の牙城のバイエルン州の選挙でも、CDUと連立を組む保守与党、キリスト教社会同盟(CSU)が歴史的な大敗を喫し、社会民主党も得票率が半減、逆に「緑の党」と「ドイツのための選択肢(AfD)」が大躍進している。

2018/10/17  独与党、バイエルン州で大敗 メルケル政権に打撃  

ドイツメディアは今回の選挙を「運命の選挙」と名付け、バイエルン州に続き与党の退潮に歯止めがかからなければ、メルケル政権の今後は危ういと指摘してきた。

バイエルン州ではCDUの姉妹政党のキリスト教社会同盟(CSU)が大敗したが、今回はメルケル氏が自ら率いるCDUの敗北だけに、ダメージも大きい。

メルケル首相は10月29日記者会見し、州議会選で連敗した責任をとり、保守系与党のキリスト教民主同盟(CDU)の党首を退任する考えを表明した。
12月の党大会で「党首に再び立候補することはない」。

2021年の任期切れまでは首相にとどまり、その後 政界を引退する意向を示した。

付記

ドイツ与党・キリスト教民主同盟(CDU)は12月7日、メルケル首相に代わる党首として、側近の女性幹事長 Annegret Kramp-Karrenbauer を選出した。
メルケル首相のかつての政敵で連邦議会(下院)元院内総務のFriedrich Merzとの決選投票で勝利した。但し、517 対 482 の僅差であった。


2018/10/31 韓国ロッテグループ 投資再開 

韓国ロッテグループの辛東彬(重光昭夫)会長は10月23日、役員会議を開き、今後5年間に国内外の全事業部門で合計50兆ウォン(約5兆円)を投資し、約7万人を雇用する計画を表明した。

化学、流通を二大軸として、毎年平均10兆ウォンを継続的に投資し、事業競争力を強化するとともに、新たな成長動力を確保する。

50兆ウォンのうち35兆ウォン(70%)を韓国国内に投資する。スローダウンした経営活動を速やかに正常化するため、初年度となる来年には12兆ウォンを集中投資する。
サムスンの石油化学事業を買収した2016年の投資額である11兆2000億ウォンを上回る過去最高の投資規模となる。

投資が集中する部門は化学と建設で、投資規模全体の40%に相当する20兆ウォンが投じられる。化学分野に思い切った投資を行い、成長のけん引役とする。

流通部門と観光・サービス部門には、それぞれ25%を割り当てる。流通部門では、オンライン事業を拡大、人工知能(AI)やビッグデータなど新技術を活用し、顧客に新たな買い物体験を提供する。
観光・サービス部門では、国内外の拠点を拡大する。

食品への投資は全体の10%を占める。新製品の開発に拍車を掛ける。


 

ロッテはインドネシアに4兆ウォンを投資し、超大型のナフサ分解プラントの建設を進めているが、辛会長が収監された影響で、用地買収以降の進展がストップしていた。

2011/4/27 韓国ロッテグループの湖南石油化学、インドネシアでエチレンプラント建設へ 

中断していた米国のエチレン計画を再開する。

米ルイジアナ州ではシェールガスに付随するエタンを分解し、エチレンを生産する。Lotte Chemicalが90%、Axiall Corp.が10%出資することとなっていた。

下記の通り、AxiallがWestlakeに買収されたため、計画を変更する。

2015/6/22  韓国 Lotte Chemical、米国で石油化学

ロッテケミカルは2016年6月、米同業中堅のAxiall Corp. に買収提案したと発表した。株式の取得総額は20億ドル前後になるとみられた。

Axiall Corp.は、2013年1月にGeorgia Gulf と PPG Industriesのcommodity chemical divisionと合併し、設立された。

ロッテは上記の通り、同社とのJVでエチレンを生産する計画であった。

Axiall はロッテが手薄なカセイソーダやVCMなどクロル・アルカリ系の原料に強く、顧客の大半が北米地域である。一方、ロッテはエチレンなどオレフィン系に強みがあり、事業の中心はアジア地域で、製品群や顧客基盤が重ならず、相乗効果が高い。

しかし、辛会長に対する捜査の影響で買収を断念、同様に買収意欲を示していたWestlakeが買収した。

ロッテは、「今後は積極的な合併・買収(M&A)を模索していく」と説明している。


韓国国内では麗水、蔚山、大山の各プラントで設備投資を行い、コスト競争力を高める。

 

辛会長が逮捕、収監されたことで8カ月にわたりストップしていた同社の投資はようやく再スタートする 。

辛会長は役員会議の席上、「不確実な未来、予測できない変化に先制的に対応しなければならない。困難な環境であればあるほど、積極的に投資に取り組む」と述べた。

 


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