犬は鋭い嗅覚を使って感染者の細胞から発せられる「コロナ臭」を嗅ぎ分ける。人間の唾液の検体から、無症状であっても、1000件のサンプルで94%の確率で感染者を識別できるという。
症状の有無にかかわらず、犬は実際に患者を嗅ぎ分けることができるとされる。
既にフィンランドのヘルシンキ空港、チリのサンチャゴ空港、UAEのドバイ空港で昨年から試験的に導入されている。
フィンランドの研究チームは2020年10月28日、ヘルシンキ空港で試験導入している「新型コロナウイルス探知犬」を使った即時検査について、結果は有望で、旅行客にも評判が良いとの初期報告を発表した。
到着した乗客の肌を拭いたシートを犬の前に置き、においを嗅がせる。検体が陰性ならば犬はシートの前を素通りするが、陽性ならばシートに反応するという。
検査を受ける乗客は痛い思いをすることもなく、検査結果もすぐに分かる。
3匹の探知犬は、到着ロビーに検査所が設置されてから1か月間に2200人分の検体を嗅ぎ分け、乗客の0.6%が新型コロナに感染していることを嗅ぎつけた。研究チームは、この初期結果について、鼻から採取した検体を調べるPCR検査の陽性率と大枠で合致していると述べた。
米国の男子プロバスケットボールリーグ(NBA) のMiami Heatは1月28日、数カ月ぶりにマイアミのAmerican Airline Arenaに観客をいれ、Los Angeles Clippersとの試合を行った。
観客は距離を取って並び、そこに探知犬が登場。何も異常がなければ探知犬は立ち止まらずに進むが、もしコロナウイルスに感染している可能性がある場合は、その場で立ち止まるという。
犬が立ち止まってしまった場合、その観客と同行者は入場が許可されない。
この試験導入が成功すれば、探知犬が各会場の安全確保のために本格導入される可能性がある。
ヘルシンキ空港などでの探知は乗客の肌を拭いたシートなどの検体を嗅がすものだが、今回は人間を嗅いで判断させる最初の例である。
SNIFF社のAron Shteierman が提案した。Aron Shteiermanは2020年5月にウイルス探知犬を検討している人の記事を読み、イスラエルの企業と提携して、大規模に実施する検討をおこなった。
その後、空港で犬を使って貨物検査を実施しているGlobal K9 Protection Groupと組み、今回の提案を行った。
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は2月5日、新型コロナウイルスワクチンの生産量を増やすため、生産能力に余裕がある製薬会社は他社のワクチンを作るよう呼びかけた。
既に仏 Sanofiが米 Pfizerのワクチンを生産すると決めるなど徐々に広がっているが、さらなる協力を促した。
「Sanofi と
Pfizerの事例に他社もならってほしい。生産が拡大すれば、低所得国が所得の高い国にワクチンを頼る構図も解消に向かう」などと語った。
Bayer も、ワクチンを開発する独新興企業CureVac のワクチンを生産すると発表している。
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Sanofiは1月27日、ドイツのBioNTech と米Pfizerが共同開発した新型コロナウイルスワクチンを生産することで合意したと発表した。
Sanofi が BioNTech に対し、125百万回分のワクチンを生産するため設備と技術を供与する。まず、2021年夏からSanofiの独フランクフルトの工場で生産する。
SanofiはGSKと組んで新型コロナワクチンを開発しているが、問題が生じ、実用化は2021年末になる見込みである。世界中でワクチンが不足するなか、BioNTechに協力する。
SanofiとGSKは2020年4月14日、両社の技術を活かし、COVID-19に対するアジュバント添加ワクチンを開発すると発表した。
Sanofiでワクチンを担当するSanofi Pasteurは、遺伝子組換えDNA技術をベースとするS-タンパク質COVID-19抗原を提供する。
遺伝子組換えDNA技術により、ウイルスの表面に検出されたタンパク質と正確に一致する遺伝子配列を作成することができる。抗原をコード化するDNA配列を、Sanofiが米国で開発に成功し承認された遺伝子組換えインフルエンザワクチンの基盤となったバキュロウイルス発現プラットフォームに組み込む。GSKは、実証済みのパンデミックアジュバント技術を提供する。
Developer/manufacturer Platform Type doses Timing Route Sanofi Pasteur/GSK Protein Subunit S Protein (baculovirus production) 2
0, 21 days IM Sanofiの遺伝子組換え技術をベースとするCOVID-19ワクチン候補の開発は、米国保健福祉省(HSS)の一部門である米国生物医学先端研究開発局(BARDA)との協力の下で、同局の資金提供を受けて実施された。
SanofiとGSKのワクチンは、米政府の爆速ワクチン計画(Operation Warp Speed)の対象に選ばれている。2020年7月31日に米政府が21億ドルを支払い、5000万人分を確保した。
しかし、SanofiとGSKは2020年12月11日、試験計画を遅らせると発表した。
第1/2相臨床試験で、18〜49歳の被検者においてはCOVID-19から回復した人に匹敵する免疫応答が示されたが、高齢者において十分な免疫応答が得られなかったことから、すべての年齢層において十分な免疫応答を得るために抗原の濃度を改善する必要性が示された。
2021年2月に改善された抗原を用いて第2b相臨床試験を実施する。開発計画が成功すれば、2021年第4四半期に実用化の見込みとしている。
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Bayerも2月1日、CureVacが開発中の新型コロナウイルスワクチン生産支援に向けた契約を締結し、2022年に1億6000万回分のワクチンを製造すると発表した。
CureVacは1月7日、開発中のワクチンについて、当局の承認獲得や配布で Bayerと提携すると発表した。
Bayerは、臨床、規制対応、医薬品の安全性対策、医療情報、サプライチェーン、特定の国での支援などの分野において専門知識と確立されたインフラを提供する。
EU域内と、域外の特定市場への販売はCureVacが担当し、Bayerはこれを支援する。一方、その他の市場については、Bayerが販売権取得のオプションを付与された。この時点では生産協力については考えていなかったが、その後、生産面で協力できないか検討してきた。
Bayer はドイツ政府との協議のなかで、ワクチンの製造能力を増やすことが必要ということが明らかになったため、協力することとなった。同社自身はワクチンの生産の経験はないが、バイオ製品の開発で多くの治験を持つ。
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フランス政府が動いた。
フランスの誇りである医薬大手 Sanofi のワクチンが年末までかかると発表され、ワクチン接種の遅れで政府への批判が高まっている。
このため、Agnès Pannier-Runacher 産業担当大臣が奔走している。業界が知的財産の秘密を共有することに強い抵抗を示したが、それを押切り、幅広いワクチン生産を進めた。
Macron大統領は2月2日、フランスの4か所で間もなくワクチン生産を始めると約束した。
3月に欧州各地に生産設備を持つCDMO(Contract manufacturing organization)大手のスウェーデンのRecipharmがModernaのワクチンを製造
4月にはSanofi とCDMO大手のDelpharmがそれぞれ、BioNTech/Pfizerのワクチンを製造
5月にCDMOのFarevaがCureVacのワクチンを製造する。
別途、フランスはロシアのワクチン Suptnik V の採用も考えている。外相はSputnikが European Medicines
Agency で承認を受ければ、なんの障害もないと述べた。
英国の医学誌 Lancet に掲載された論文ではロシアでのテストで約92%の効果があったとしている。
国立ガマレヤ研究所が中心となって実施し、1万9866人の被験者が参加した後期臨床試験で、21日の間隔で2回投与した場合の有効率は91.6%に上ったほか、60歳以上の被験者2144人に対する有効率も91.8%に達し、重篤な副作用などは見られなかった。被験者のうち4人が死亡したが、いずれもワクチン投与とは無関係であった。
日本も状況はフランスと同じだが、政府の動きは鈍い。
2021/2/9 米議会、予算決議案可決、1.9兆ドル刺激策へ前進
米連邦議会上院は2月5日、今会計年度予算の修正の大枠となる予算決議案をハリス副大統領の決定票で51対50の賛成多数で可決した。バイデン大統領が提案した1兆9000億ドル規模の経済対策案が実現へと前進した。
賛成 反対 合計 民主党 48 48 民主系無所属 2 2 共和党 50 50 合計 50 50 100 副大統領
(上院議長)1 1 再計 51 50 101
下院はこの前に可決していた。下院(未定2)
賛成 反対 棄権 欠席 合計 民主党 219 1 2 222 共和党 208 3 211 合計 219 209 3 2 433
通常、上院の決議は野党のフィリバスターを避けるため、60票の賛成が必要だが、予算決議の形をとることで単純過半数で通すことができる。上院では50/50の場合のみ、上院議長を兼ねる副大統領が投票する。
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バイデン(次期)大統領は1月14日、1兆9千億ドル(約197兆円)規模の追加経済対策案American Rescue Plan を発表した。
2021/1/18 バイデン次期大統領、1兆9千億ドル規模の追加経済対策案を発表
共和党はバイデン大統領の1兆9000億ドル規模の経済対策に反対、6180億ドルの経済対策を提案した上院の共和党10議員がバイデン大統領と話し合う予定であった。
しかし、米議会上下院の民主党指導部は2月1日、1兆9000億ドルの予算措置を提出した。
民主党は、バイデン大統領が新型コロナウイルス追加経済対策を巡り共和党上院議員と協議を行う前に、民主党だけでの法案可決を可能にする措置に踏み切った。
Chuck Schumer上院院内総務は、「民主党は共和党上院議員の提案や意見を歓迎する」とした上で、「米国をこの緊急事態から脱出させるには規模が不十分で、範囲が狭すぎるような対策案は受け入れられない」と述べた。
予算措置を活用することで、上院で60票の賛成ではなく、財政調整措置(reconciliation)と呼ばれる手続きを通じて過半数の支持で法案を通過させることが可能になる。
トランプ時代に2018会計年度(2018年9月末まで)の予算はこの方法で成立した。
2017/10/24 米上院、下院に続き新年度の予算決議を可決
2021会計年度(2021年9月末まで)の予算は既に通常の議決で通っている。上院も92票の賛成で通った。
これまでの新型コロナウイルス感染拡大の影響に対応する数度の追加経済対策はすべて通常の議決で通っている。(途中では民主党の反対で長く棚上げになっていた。)
2020/12/23 米国の2021会計年度予算案と追加経済対策案、ようやく可決、政府機関閉鎖をぎりぎりで回避
今回の経済対策は、共和党の反対で通る可能性がないため、年度予算ではないが、例外的に予算決議案を通じて、民主党の賛成多数で通す。
野党の反対が多い議案の場合、両院で過半数を占めて初めて実施できる。民主党は上院で50票だが、副大統領の1票を含めて過半数を占める。
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通常のやり方では60票の賛成がないと予算が決まらないことになる。このため、 Congressional Budget Act of 1974 が成立した。
@ 予算決議案
連邦歳入総額、歳出総額、財政赤字(黒字)額を示した上で、国防、農業、エネルギー等20の政策分野の歳出上限額を規定するほか、当該年度以降の複数年度の財政見通しを示すもの。大統領に送付されず法的拘束力を有するものではない。
予算決議案の審議時間が50時間に限られているためフィリバスターを回避できる。
予算決議に各委員会への財政調整指示(歳入、歳出、財政赤字、公的債務上限を変更するために既存の法律を改正する指示)が含まれると、各委員会はこの指示を受けて財政調整法案を策定、策定された法案は予算委員会でまとめられ、一つの包括的な法案として議会で審議され、両院の本会議で可決、大統領の署名を経て成立。
審議時間が20時間に限られているため、上院でのフィリバスターは財政調整法には適用されない。
2021/2/10 三菱ケミカルHD、2021年3月期決算 480億円の赤字予想
三菱ケミカルHDは2月3日、2021年3月期の第3四半期決算と最終決算予想を発表した。
第3四半期の親会社帰属損益は480億円の赤字で、通年予想も同額となる。
単位:百万円
売上高 コア
営業利益営業利益 当期利益 親会社
株主帰属2019/4-12 2,730,767 181,037 160,568 108,280 76,272 2020/4-12 2,355,441 113,612 728 -28,403 -47,830 増減 -375,326 -67,425 -159,840 -136,683 -124,102 2020/3 3,580,510 194,820 144,285 86,560 54,077 2021/3予 3,193,000 153,000 23,000 -22,000 -48,000 増減 -387,510 -41,820 -121,285 -108,560 -102,077
2020/4-12月期の営業損益
コア営業損益(百万円)
ケミカルズはMMA、石化、炭素(コークス等)のいずれも大幅減益
2019/4-12 2020/4-12 増減 内訳(億円) 機能商品 53,612 39,909 -13,703 ケミカルズ 38,393 -5,863 -44,256 MMA -191、石化 -127、炭素 -125 産業ガス 66,503 58,861 -7,642 ヘルスケア 21,936 22,380 444 その他 8,640 8,965 325 全社 -8,047 -10,640 -2,593 合計 181,037 113,612 -67,425
非経常項目(百万円)
ヘルスケア
(田辺三菱製薬)-84,534 2019/10/18にイスラエルの中枢神経系治療薬(パーキンソン病等)の研究開発 を行なうNeuroDerm Ltd.を総額11億ドル(経費込み1,252億円)で買収したが、予定した収益性が低下する見込みとなり、技術に係る無形資産を減額(詳細後記) MMA
(旧 三菱レイヨン)-19,382 米国子会社 Lucite Internationalのテキサス州BeaumontにおけるMMAモノマー及びMAA生産を終了し、工場を閉鎖することを決め 、減損損失を計上した。 2020/11/6 三菱ケミカル、テキサスのLuciteのMMAプラント閉鎖
これに関連し、コア営業損益のなかに、特別退職金 -901百万円、工場閉鎖関連損失引当金繰入額 -3,318百万円 、合計 -4,219百万円を計上した。
なお、2020年12月に新エチレン法(アルファ法)によるMMAモノマーのプラント建設を前提にルイジアナ州ガイスマーの土地を取得した。2022年半ばを目途に投資の最終判断を行い、2025年中に35万tのMMAモノマー生産設備の稼働を目標とする。
その他 -8,968 合計 -112,884
三菱ケミカルHDは2020年初めに田辺三菱製薬(従来は56.93%所有)をTOBにより100%子会社とした。
三菱レイヨンも2009年に100%子会社にしたうえで統合している。
このため、上記の減損損失は全額が株主帰属損益となる。
田辺三菱製薬について:
田辺三菱製薬は2019年10月18日にイスラエルの中枢神経系治療薬(パーキンソン病等)の研究開発 を行なうNeuroDerm Ltd.を総額11億ドル(経費込み1,252億円)で買収したが、1年後に仕掛研究開発費について845億円の減損損失を計上した。
既報 2020/11/7 三菱ケミカルHD、医薬品で減損損失計上
田辺三菱製薬は、2019年9月のコーポレートレポート2019で「ND0612」について下記のとおり述べていた。
2022年度上市をめざす。デバイスと医薬品を組み合わせた製品であり、他社の参入障壁も高く、市場価値の持続が期待される。ピーク時売上500〜800億円を目標とする。
(2017/7の買収手続き合意発表時には、「現在、米国および欧州でフェーズ3に移行し、2019年度に上市が見込まれる」としていた。)
しかし、2020年11月の発表では、「第3相臨床試験の治験施設の開設および患者組み入れにおいて重要な立ち上げ期間に、今般の新型コロナウイルス感染症の拡大が重なるなどしたため、2018年11月に発表した計画から約1年半の開発計画の延長を決定。このため、欧米での申請は2023年度になる見通し」としている。
買収時にはフェーズ3の準備もできていなかったことになる。どの程度、状況を把握していたのだろうか。
買収当時、この買収を疑問視する記事があった。
NeuroDermはND0612の市場規模、臨床試験の適切性、有効性について不正確な説明をしている、既にAbbVie Inc.のDuopa/Duodopaのポンプ薬剤が市場で確立されているとし、NeuroDermの企業価値は0ドルと見ている。
コロナによる遅延は想定外であるが、多額の投資に当たり、「ND0612」の可能性、問題点等について十分な検討をしたのであろうか。
田辺三菱製薬の業績は急速に悪化している。
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同社は多発性硬化症治療剤「ジレニア」をノバルティス(スイス)に導出し、ロイヤリティ収入は、収益の柱となっていたが、ノバルティスは、米国、EU等における製品の売上ベースのロイヤリティ支払い義務を定める本件契約の規定の一部は無効であり、ノバルティスにはロイヤリティの一部の支払義務がないことの確認を求めた。
2019年2月に仲裁手続きに入ったため、IFRSの収益認識基準に従いロイヤリティ収入の一部について売上収益の認識を行っていない。
2019/5/16 注目会社の決算 田辺三菱製薬
田辺三菱製薬は2020年4月28日、カナダの連結子会社Medicagoが開発中の季節性インフルエンザの予防をめざした植物由来VLPワクチン(MT-2271)の第3相臨床試験を行なった。
2016/2/26 田辺三菱製薬、タバコの葉からインフルエンザワクチン
主要評価項目の成功基準を満たさなかったものの、プラセボより優位なインフルエンザ発症抑制効果を確認した。
しかし、米国FDA追加の臨床試験の実施を求められたため、米国での承認申請を行わないことに決定した。これにともない、2020年3月期決算で無形資産(仕掛研究開発費)の約240億円を減損処理している。
なお、Medicagoは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応したVLPの作製に成功した。
2020/7/17 田辺三菱製薬、カナダ子会社の新型コロナウイルスワクチンの第1相臨床試験開始を発表