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これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

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2016/2/15  米後発薬 Mylan、スウェーデンのMeda を買収 

米後発薬大手 Mylanは2016年2月10日、スウェーデンの同業Medaの買収を発表した。 負債を含めた買収額は99億ドル。
ネットでの買収額は72億ドル(1株当たりSKr 165)で、10日の終値(SKr 86.05)のほぼ2倍という高値となる。

一部アナリストからは割高との声が上がり、Mylanの株価は9.4%下落した。
実現すればMedaが手掛ける特殊医薬品と欧州事業が手に入るが、支払われるプレミアムは、医薬品業界で買収規模が50億ドルを超える案件では過去最大級となる。

Mylanによると、合わせて約30%の株式を保有する2大株主は買収案を受け入れた。

Mylanは過去2度Medaに買収を仕掛けており、3度目の提案で実現にこぎつけたことになる。

2014年4月、67億ドルのオファーが拒絶された。
Mylanは直後に90億ドル以上に引き上げたが、これも拒絶された。

インドのSun PharmaもMeda買収に乗り出したが失敗した。

逆に、Medaは2014年にイタリアのRottapharm を31億ドルで買収し、事業を拡大している。MedaのCEOは「食うか、食われるかだ」と述べていた。

Mylanの Heather Bresch CEOは、決算発表後のアナリストとの電話会議で、今後も積極的に買収を模索する方針を明らかにした。

 

付記

Mylan N.V. は5月13日、Renaissance Acquisition Holdings, LLC から皮膚科領域の製品群を9億5千万ドルで買収すると発表した。

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Mylan は2014年7月、米医薬品大手 Abbott が保有する米国以外の先進国市場におけるBranded Generics事業を約53億ドル相当のMylan 株式で買収すると発表した。

Branded GenericsGenericsメーカーが、 長期収載品を新薬メーカーから ブランドをそのまま引き継いで生産・販売する医薬品。

Abbott はオランダで設立する新会社に欧州や日本、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの事業(フランスと日本の製造設備を含む)を移し、Mylanがこれと統合する。
Mylanはこれにより、本社を税金の安いオランダに置き、税負担を軽くする。

2014/7/21   MylanがAbbottのジェネリック事業 の一部を買収、本社移転も目的の一つ   

Mylanは2015年11月、7カ月間交渉を続けたアイルランドの製薬大手Perrigo )の買収に失敗している。

2015/11/19   ジェネリック医薬品大手のMylan、アイルランド製薬大手Perrigo のTOBに失敗

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Meda は自社での医薬品開発は行わず、新製品は買収により確保している。

2014年にイタリアのRottapharmを買収したが、買収後の事業は下記の通りとなっている。


2016/2/16 アサヒビール、英SABMillerの欧州事業の一部を買収 

アサヒビールは2月10日、Anheuser-Busch InBev (AB InBev) に対し、AB InBevによるSABMillerの買収実行を条件として、SABMillerのイタリア、オランダ、英国事業その他関連資産を取得するための法的拘束力のある最終提案を行 ったと発表した。

株式売買契約は、対象事業の買収に関連する従業員との協議手続が完了して初めて締結される。

今後両社は、対象事業の買収に関連する従業員との協議手続を開始するが、この協議手続期間中、 アサヒは独占交渉権を得ている。

付記 10月11日 買収手続きを完了

   なお、東欧5カ国のビール事業の入札にもアサヒは応札する方針とされる。

付記 アサヒビールは2016年12月13日、73億ユーロでの下記の買収を発表した。

SAB社が保有していた中東欧5カ国市場における事業及びその他関連事業を構成する会社(計8社)の全株式

Plzeňský Prazdroj a.s.、
Pivovary Topvar a.s.、
SABMiller Poland BV、
Ursus Breweries SA、
Dreher Sörgyárak Zrt.、
SABMiller Brands Europe a.s.、
SABMiller Brands Korea Yuhan Hoesa
SABMiller Europe AG 

「Pilsner Urquell」、「Kozel」、「Tyskie」ブランドを含む知的財産権、その他関連資産

付記 

同社は2019年1月25日、英国でパブ・ホテル事業及びプレミアムビール・サイダー事業を展開する Fuller, Smith & Turner P.L.C.が保有するプレミアムビール・サイダー事業、及びその他関連資産の取得について合意に達し、株式売買契約を締結した。
売買対象は、Fuller’s社が保有するプレミアムビール・サイダー事業及びその他関連事業を構成する会社群の全株式、「London Pride」、「Frontier」、「Cornish Orchards」等のすべてのFuller’s社ブランド(商標権)を含む知的財産権並びにその他関連資産

取得価格は250百万ポンド(キャッシュフリー・デットフリー企業価値ベース)

 

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ビール世界最大手のAnheuser-Busch InBev (AB InBev)は2015年11月11日、英のSAB Miller を697億8000万英ポンド(約13兆円)で買収することに正式合意したと発表した。

両社の合併については、各国の独禁法当局が問題視するのは必至だが、AB InBev は対策に "best efforts" を約束、承認を得られない場合には30億米ドルのReverse Break-Up Fee(買主からの解約金)を支払うことも約束した。

調査会社Euromonitor によると、世界シェア(2014)はAB InBevが20.8%、SAB Millerが9.7%で合計すると30.5%となる。
以下、3位はHeineken(9.1%)、4位 Carlsberg(6.1%)、5位 華潤雪花(6.0%)、6位 青島ビール(4.7%) と続く。日本のキリンは2.3%、アサヒは1.2%に過ぎない。


 

米当局から合併の承認を得るため、SAB Millerは保有するMillerCoorsの持株 58%を合弁相手の米 Molson Coors Brewing に120億ドルで売却する。

2015/10/14   ビール世界最大手のAnheuser-Busch InBev、2位のSAB Millerを買収へ   

AB InBev は欧州でも、Corona やStella Artois (ピルスナータイプのビール) を持つため、独禁法で問題になるのを恐れた。

このため、AB InBev は2015年12月17日、SABMillerの欧州のブランド、Grolsch ビールとPeroni ビールを売りに出すことを明らかにし、3ヶ月以内の成約を求めた。

これに対し、多くの企業が意欲を示した。

米国の買収ファンドのKKR、Bain Capital、TPG、欧州のPAI Partners、BC Partners、Cinven、Permira などの名前が挙がった。
ビール会社では、 Heineken は独禁法で問題となる恐れがあり、Carlsberg は資金面で無理だろうとされた。
アサヒビールは独禁法で問題とならない数少ないビール会社とされた。

フィリピンの大手複合企業 San Miguel も買収入札に参加する方針を明らかにした。

今回、アサヒビールが買収を決めた。
株式売買契約は、対象事業の買収に関連する従業員との協議手続が完了して初めて締結される。

概要は下記の通り。

1)買収対象:

SABMillerのイタリア、オランダ、英国の事業を構成する会社の全株式と、3ブランドの知的財産権その他関連資産
ただし、「Peroni」と「Grolsch」は米国・プエルトリコにおけるブランドに係る知的財産権を除く。

買収対象会社 ブランド  
Birra Peroni S.r.l.(伊) 「Peroni」 150年以上の歴史
Royal Grolsch NV(蘭) 「Grolsch」 400年の歴史
Meantime Brewing (英) 「Meantime」 英国のクラフトビールのパイオニア的ブランド
Miller Brands (UK) (英)    

2)対価:2,550百万ユーロ(キャッシュフリー・デットフリー企業価値ベース)

3)前提:AB InBevによるSABMiller買収が実行され 、アサヒが対象事業の買主として欧州委員会から承認されること


アサヒビールは、事業の将来像として、「酒類を中核とする総合飲料食品グループとして、国内では、高付加価値化を基軸とするリーディングカンパニーを目指すとともに、日本発の『強み』を活かすグローバルプレイヤーとして独自のポジションを確立する」ことを掲げてい る。

『中期経営方針』の重点課題の一つに、「国内収益基盤の盤石化と国際事業の成長エンジン化による『稼ぐ力』の強化」を掲げ、海外を中心とした新たな成長基盤の獲得を目指してい る。

アサヒは 日本国内ではシェア首位だが、国内偏重が課題である。
2014年12月期の国際事業の売上高はグループ全体の13%で、キリン(37%)やサントリー(36%)と比べると、大きな差がついている。

本件は、こうした戦略の一環であり、 こうしたブランド及び事業の買収により、欧州における成長基盤を拡大するとともに、強力な販売ネットワークの活用により、「強み」である『スーパードライ』のプレゼンス向上などでシナジーを発揮し、「独自のポジションを持つグローバルプレイヤー」として持続的な成長を目指してい くとしている。



2016/2/17 開城工業団地の閉鎖 

韓国政府は2月10日、北朝鮮の事実上の長距離弾道ミサイルの発射を踏まえ、北朝鮮南西部にある開城工業団地の操業を全面中断すると発表した。

開城工業団地について「北朝鮮の核兵器と長距離弾道ミサイルの高度化に悪用される結果になった」と指摘し、開城工業団地の資金がこれ以上、核・ミサイル開発に利用されるのを防ぐため、全面中断を決め、北朝鮮当局に通告した。

これまで開城工業団地を通じて北朝鮮に総額 6160億ウォン(約590億円)の現金が入り、昨年だけでもその額は1320億ウォン(約130億円)に上る。

2003年の開城工業団地の着工以来、政府がこれまで敷地造成や道路、電力施設の建設などに投資した金額は4,577億ウォン。
入居企業が建物や生産設備に支払った5,613億ウォンを加えると、開城工業団地に投資した総額は1兆0190億ウォンに達する。
さらに現代峨山は、開城工業団地事業権の対価として北側に5億ドル、約6,000億ウォンを提供した。

韓国の統一相は2月14日、開城工業団地で働く北朝鮮労働者の賃金の7割が朝鮮労働党に上納されていると明らかにした。上納金は核やミサイル開発のほか、金正恩第1書記の私的資金を管理する党39号室に流れ、ぜいたく品の購入などに充てられていると指摘した。
朝鮮日報は労働者には本来の賃金の30〜40%に相当する物品交換券などが渡されていたと伝えている。

韓国政府は、再開するには北朝鮮が核・ミサイル開発に関する韓国や国際社会の懸念を解消する必要があるとしており、中断が長期化する可能性がある。

現在入居している韓国企業は 124社で、北朝鮮労働者は2015年8月時点で 5万4702人。
操業中断は、北朝鮮の貴重な外貨収入源の一つを断ち切る効果がある半面、韓国企業にも大きな影響を与える。

米国のケリー国務長官は2月12日、韓国の外相と会見、「非常に勇気があり、重要な措置だ。北朝鮮に、核・ミサイルの放棄を決断することだけが生きる道だという強力なメッセージを与えた」と支持を表明した。

 

北朝鮮の対韓国窓口機関の「祖国平和統一委員会」は2月11日、声明を発表した。

「開城工業地区事業を全面中断した傀儡どもの挑発的妄動は絶対に容認できない」

南側企業・関係機関の設備・物資・製品をはじめ全ての資産を全面凍結する。
40分の時限を切って「全員追放」、私物のほか一切物を持っていくことはできず、凍結された設備・物資・製品は開城市人民委員会が管理する。

開城団地と隣接した軍事境界線を全面封鎖し、南北管理区域の陸路を遮断する。
開城団地は閉鎖し、軍事統制区域にする。

工業団地に残っていた入居企業関係者など280人は、最終的に午後10時ごろ全員が軍事境界線を通って帰還した。

韓国政府は、帰還者の入国完了を受け、開城工業団地への給電を止める措置を取った。

開城工業団地を北朝鮮が独自に稼働させるのは困難とされる。

開城で使用される電力は100% 韓国の発電所から送られている。
電力不足の北朝鮮には開城に送る電力の余力はなく、送電設備もない。
電力供給がストップすれば、工業用水を確保するための浄配水場も稼働がストップする。

機械など工場の設備を修理する能力も低く、修理に必要な部品の確保にも限界がある。

ーーー

韓国政府は2月12日、開城工業団地から撤収を余儀なくされた企業に対し、第1次の緊急支援策を発表した。

南北経済協力保険に加入している110社に対しては、投資損失額の90%、1社あたり70億ウォン(約6億6000万円)を上限とする補償金を支払う。
総支払額は2850億ウォンに上る見通し。

金融機関への返済期限を延長し、新たに特別金利を適用する。
法人税、付加価値税など国税の申告と納付の期限を最大で9カ月延長し、徴収や滞納に伴う処分を猶予する。
電気料金など光熱費についても納付の猶予期間を設ける。

雇用労働部は企業に雇用維持支援金を支払い、社会保険料の納付期限を延長すると同時に、労働者の生活を安定させるための融資も行う。
代替地の確保、必要な人員の補充、海外進出など追加の支援策についてもとりまとめ作業を進めている。

ただ企業側が最も関心を持つ凍結あるいは没収された資産については、「当分は北朝鮮との協議は難しいだろう」との見方を示した。
「不可抗力とも言える安全保障上の問題でもたらされた企業の損失について、その全額を国民の税金で補償することはできない」としている。

付記

北朝鮮の対韓国窓口機関である祖国平和統一委員会は3月10日、「現時点から、南北間の経済協力と交流事業に関する全ての合意を無効にする」と宣言した。
南北交流事業「開城工業団地」や、金剛山観光事業などが白紙化される見通し。

談話は「韓国側が一方的に金剛山観光や開城工業地区の稼働を中断した」と主張。「我々の地域にある韓国企業と関係機関の全ての資産を完全に清算する」とし、2月から閉鎖されている同団地の韓国企業の工場設備など全ての資産を処分する方針を示した。

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現代財閥の創始者・鄭周永は1989年に韓国の財界人として初めて北朝鮮を訪問し、金日成と会談するなど、対北朝鮮事業に関心を持っていた。

1998年に「太陽政策」を提唱する金大中が大統領になると、鄭周永は金正日と直接面談して金剛山観光開始の約束を取り付けた。

2000年6月に平壌で南北首脳会談が行われ、開城工業地区の計画が合意された。

現代財閥は南北首脳会談の直前に北朝鮮に対して総額5億ドルの秘密支援を行った。これは公式的には現代財閥が対北朝鮮事業の独占権確保のために支払った対価とされるが、実は南北首脳会談の対価ではないかと噂された。

2000年8月、金正日総書記と鄭周永の間で金剛山観光開発の推進と開城工業地区の開発開始で合意した。
開城については、北側が土地と労働力を、南側が技術と資本を提供して、開城に一大工業団地を作ることが決まった。

 

2003/6 開城工業団地の着工
2003/8 投資保障、二重課税防止、清算決済、商社紛争合意書の4項目に関する経済協力合意書
2004/12 生産開始
2006/11 北朝鮮労働者1万人突破
2007/1 累計生産額1億ドル達成
2007/8 開城工業団地に中国企業進出   日系企業2社も
2009/9 5%の賃金引き上げで合意
2012/1 北朝鮮労働者5万人突破
2013/1 累計生産額20億ドル突破
2013/4 北朝鮮、米韓合同軍事演習に猛反発し稼働中断を一方的に発表
2013/9 操業再開
2015/8 北朝鮮の要求を受け、北朝鮮労働者の最低賃金を5%引き上げることで合意
   


2016/2/18   大宇インターナショナル、ミャンマーで大規模ガス層発見

韓国POSCOの子会社の大宇インターナショナルは2月12日、ミャンマーの西方海上のAD-7 鉱区のThalin-1A 井戸で商業性が高い大規模なガス層を発見したと発表した。

AD-7鉱区の出資比率は、大宇インターナショナルが60%、豪州の Woodside Petroleum が40%で、大宇がオペレーターとなっている。

大宇は近くのA-1鉱区、A-3鉱区でShwe、Shwe Phyu、Mya の3ガス田で商業生産を行っているが、今回見つけたガス田のガス層の厚さは既存ガス田の約2倍としている。大宇では「厳密な評価を経て経済性を確認する」と話している。
商業生産開始には6〜7年かかるとみられている。

大宇は既存ガス田に51%の権益を有しているが、これらから毎年3000億ウオン(約280億円)以上の営業利益を得ている。

鉱区 ガス田 ガス発見 埋蔵量     権益
A-1 Shwe 2004/1 3.3〜5.6 TCF 大宇 51% ONGC Videsh  17%
Myanmar Oil & Gas 15%
GAIL (India)  8.5%
Kogas  8.5%
Shwe Phyu 2005/3
A-3 Mya 2006/1 1.3〜2.2 TCF
AD-7   2016/2   大宇 60% Woodside Petroleum 40%

現在生産されているガスは全量が中国石油天然気集団(CNPC)に販売され、陸上パイプラインを通じて中国 の昆明に送られる。



2013/5/24
パイプライン万里長城が完成

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韓国の10大財閥の一つであった大宇グループは、アジア通貨危機で苦境に陥り、1999年に破綻した。

債権団のワークアウト(財務構造改善作業)で大宇の貿易部門が分離され、大宇インターナショナルとなった。
債権団は2010年に大宇インターナショナルをPOSCOに売却した。

大宇インターナショナルの事業の一つが資源開発で、世界中で開発を行っている。


2016/2/19 住友金属鉱山、米国 モレンシー銅鉱山の権益追加取得 

住友金属鉱山は2月15日、米国最大手の産銅会社 Freeport-McMoRan が経営するアリゾナ州のMorenci 銅鉱山の権益を追加取得すると発表した。

同社は1986年から30年間にわたり、住友商事とのJVのSumitomo Metal Mining Arizona (住友金属鉱山 80%、住友商事 20%)を通じて同鉱山に15%の出資をしており、 2013年1月には、同鉱山の年間生産量を28万トンから40万トンへ増産する拡張プロジェクトに参画することを決定している。

既存鉱山の拡張であり収益性が高いこと、確立された技術による開発であり新規プロジェクトと比較して参入リスクが低いことなどから参画を決めた。

採掘量 日量 635千トン→ 815千トン
選鉱処理量 日量   50千トン→ 115千トン
銅生産量 年間 280千トン→ 400千トン
日本側引取量 年間 42千トン→  60千トン


今回、
住友金属鉱山は従来の実質出資比率12%を25%に引き上げる。

住友商事は追加出資をしないため、JVを解消し、個別出資に切り替えると思われる。
出資比率は下記の通りとなる。

  従来の比率 新比率
Freeport-McMoRan 85% 72%
住友金属鉱山

JV
15%

12% 25%
住友商事 3% 3%

権益追加取得に係る対価は総額10億米ドルで、追加取得の資金はすべて新規の借り入れで賄う。

これにより、住友金属鉱山の持分の銅生産量は年間48千トンから100千トンに62千トン増加する。
(なお、今後5年間平均の銅生産量は48万トンとしており、同社持分は120千トンとなる。)

同社は
長期ビジョンの中で、権益シェア分の銅生産量30万トン/年を目標に掲げて いるが、この追加取得により、この目標の達成が視野に入ることとなる。

銅国際価格は現在1トン4500ドル前後と、約7年ぶりの安値水準で、採算割れした鉱山の閉鎖が進んでいる。
チリのカセロネス銅鉱山に関連し、JX金属は2016年3月期に約800億円の減損損失を計上、三井金属もは193億円の減損を計上する。

しかし住友金属鉱山では、新興国の経済成長に伴い需要は増加し、鉱山閉鎖などで需給は引き締まると判断、各社が投資を手控える中で銅鉱石の調達体制を強化する。

Morenci 鉱山は生産量では世界で3本の指に入り、銅鉱石の埋蔵量は少なくとも20年分以上で、製鉄時に添加剤として使うモリブデン鉱石も副産物として採掘できるため、コスト競争力が高い。

他方、住友商事は資源関連で多額の減損損失を計上しており、出資増を避けたと見られる。

2014/10/1 住友商事、米国のタイトオイル開発などで大幅な損失計上

2016/1/19    住友商事、マダガスカルのAmbatovy ニッケルプロジェクトで約770億円の減損損失を計上

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住友金属鉱山は2016年2月15日、中期経営計画を発表した。

そのなかで、「世界の非鉄リーダーを目指す」とし、以下のターゲットを立てた。

同社の拠点は下記の通り。

銅鉱山は下記の通り。

鉱山 権益 能力
住友金属
鉱山
住友商事 その他
Morenci 米国 25% 3% Freeport-McMoRan 72% 48万トン
Cerro Verde ペルー 16.80% 4.20% Freeport-McMoRan 53.56%
others    25.44%
30万トン→50万トン
 (2016/1Q 完工)
Sierra Gorda チリ 31.5% 13.5% KGHM International 55% 22万トン
Ojos del Salado チリ 16% 4% Lundin Mining 80%  
Candelaria
Batu Hijau インドネシア 3.5% 18.2% Newmont Mining 31.5%
others  46.8%
 
Northparkes 豪州 13.3% 6.7% China Molybdenum  80%  

ニッケルについては下記参照

2009/8/22 住友金属鉱山、比最大手ニッケル鉱山会社の株式を取得

Pogo金鉱山は住友金属鉱山の海外での初の主導的な開発プロジェクトで、1991年に探鉱を開始、1997年にTech Resources と提携し、探鉱及び企業化調査を進めた。
Techは本年4月にこの権益をJVパートナーの
住友金属鉱山へ2億4500万米ドルで売却した。

1)位置:米国アラスカ州フェアバンクスの南東約145キロ
2)権益比率:住友金属鉱山アメリカ社(住友金属鉱山100%子会社) 51%→85%
        Teck Resources 40%→ 0
        SC Minerals America(住友商事100%子会社) 9%→15%
3)埋蔵金量:109t(2008年末鉱量計算結果)
4)年間生産金量:11〜12t/年
5)開発投資額:約378百万ドル(出資比率で負担)

2009/7/14 中国政府系ファンドCIC、カナダの資源大手に出資

 


2016/2/20 島野製作所の対アップル訴訟で国際裁判管轄の企業間合意に無効判断 

アップルを相手取り、下請けの島野製作所が約100億円の賠償を求めていた訴訟で東京地裁は2月15日、「係争をアメリカの裁判所で解決することを定めていた両社の合意は、合意が成立する法的条件を満たしておらず無効」と判断 、国内で審理することを決めた。

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島野製作所は、電源アダプターに使われる「pogo pin」というるコネクタ部分の接触端子の専業メーカー で、2005年からアップルのノートパソコン(Magsafe、Magsafe 2)に接続する電源アダプタ側の端子向けに、単独サプライヤーとして供給してきた。

島野は2012年にアップルから増産要求を受け設備投資を実施したが、直後に取引を急減させられた。
(アップルは島野とは別設計のポゴピンを開発し、別のサプライヤーからMagsafe 2に必要なポゴピンの供給を受けるようになった。)

島野は取引回復を求めたが、納入価格を半額以下にするよう要求され、さらに納入済みの在庫部品についての値下げ分として約159万ドルのリベート支払を求められた。

島野はいずれの要求にも従ったが、2014年8月にアップルを相手に独占禁止法違反と特許権侵害で訴えた。

@ 独禁法違反等  リベート支払等に関する損害賠償請求(約100億円)

A 特許権侵害   一部のアップル製品についての販売差止及び損害賠償請求(約10億5千万円)

アップルから依頼を受けて新製品用のピンを開発し、アップルの要求で量産体制を構築した。
ところが、アップルは島野との合意を無視するかたちで、別のサプライヤーに代替ピンを製造させていた。
しかも、これが島野の特許権を侵害していた。

取引再開を求めたが、アップルは値下げとリベートを要求した。
リベートは、決済が終わった売却済み製品の値下げの強要で、不当なリベート要求である。

これらに伴う開発費や設備投資、アップル向け製造ラインの休止、不当なリベートなどの損害賠償を求める。
また、特許権侵害の対象であるアップル製品の電源アダプタと、それが同梱されているノートパソコンの日本での販売差し止めも請求する。

これに対しアップルは以下の通り主張した。

島野製作所が侵害を主張する特許権は、アップルの技術者と島野製作所の技術者が共同して発明したものを島野製作所が2011年11月に単独で特許出願したもので、権利が無効である。

新しいポゴピンは別設計であり、島野製作所の特許権を侵害していない。

付記

東京地裁は3月17日、A特許権侵害に関する裁判で、島野製作所の請求を棄却する判決を言い渡した。判決理由は関係者の意向で明らかにされていない。

島野製作所は3月31日、控訴した。

付記

本訴訟の控訴審判決で、知的財産高裁は10月26日、特許権の侵害がないとした一審・東京地裁判決を支持、島野製作所の控訴を棄却した。

一審での中心的争点であった押付部材の形状の違い(球 vs キノコ型)だけではなく、技術的意義そのものが違うというところまで認定されてしまったようで、島野側にとっては一審よりも厳しい判決。

更に、特許の無効審判が行なわれていたが、8月16日に島野特許の無効の審決が出た。

元の出願を分割して、アップルの実際の製品に権利行使できるようにしたことが分割要件違反とされ、出願日が訴求しなかったことが無効とされたポイントとのこと。

残るのは独占禁止法の争い。

ーーー

裁判では損害賠償請求の審理に先立ち、国際裁判管轄が争われた。

両社が契約時に、「紛争はアップル本社があるカリフォルニア州の裁判所で解決する」と合意していた。

このため、 アップルは「日本での提訴は合意に反し無効」と主張、島野は「合意は独占禁止法が禁じる優越的地位の濫用の下で結ばれたため不当で、国内で審理されるべきだ」などと反論していた。

裁判所の管轄をめぐる判断を示した2月15日の中間判決で、東京地裁の千葉和則裁判長は次のように指摘した 。

裁判管轄の合意は、国際事件であれ国内事件であれ、 片方の当事者が不測の損害を受けることを防ぐため、「一定の法律関係に基づいた訴え」に関して結ばれたものでない限り無効である。

両社の合意は、「契約内容との関係の有無などにかかわらずあらゆる紛争はカリフォルニア州の裁判所が管轄する 」としか定められていないため、無効。

付記 両社の合意は下記の通りとなっている。

「紛争がMaster Development and Supply Agreementによるもの、あるいは関係するものかどうかに関わらず」

中間判決への異議申し立てはできず、審理は東京地裁で行われることになる。

ーーー

国際裁判管轄を成文法化する民事訴訟法改正案が2012年4月1日から施行された。

第3条の7
  1. 当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができる。
     
  2. 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。

第2項については、次のような解説がされている。

 「甲乙間に生じる一切の紛争はXX裁判所を専属的管轄裁判所とする」などの包括的な合意は、被告の利益を損なうので許容されない。

 但し、訴えの内容を厳密に特定する必要はなく、「本契約に関連して甲乙間に生じる一切の紛争」といった程度の特定がなされていれば十分である。

付記

裁判では、法改正前に結ばれた合意に対して、民事訴訟法第3条の7第2項が適用されるのかが問題となった。

判決は、
・ 民事訴訟法第3条の7第2項を法改正前の合意に適用することは、法的安定性を害するので、認められない。

・ しかし、国内での裁判管轄に関する合意では、法改正以前から「一定の法律関係に基づく訴え」に関するものである必要があり、この趣旨は国際裁判管轄に関する合意でも同様であるだとした。

 アップルと島野の合意は包括的にカリフォルニア州と決めており、民事訴訟法の専門家は「無効との裁判所の判断は納得できる」と話している。

ーーー

本の投資家 9人が米国の資産運用会社「MRI International」に出資金の返還を求めた訴訟で、東京高裁が2014年11月、別の理由で、投資家とMRIが結んだ「すべての紛争は米ネバダ州の裁判所で扱う」とする合意を無効と判断している。

MRI International は米国の「診療報酬請求債権」を巡る事業への投資を呼びかけ、日本人投資家8700人の資産1300億円余りを集めたとされるが、大半を流用した。

一部の投資家が出資金の返還などを求める訴訟を起こしたが、1審の東京地裁は2014年1月、契約書には、「すべての紛争は米ネバダ州の裁判所で扱う」との合意事項があり、日本の裁判所では審理しないとして訴えを退けた。

東京高裁は判決で、(1) MRI は資産運用が行き詰まっていたのに勧誘を続けた、(2) 関東財務局の業務命令後も投資家に必要な説明を怠っている、(3) 米国での審理は原告らに大きな負担になる――ことなどを理由に、「日本での審理を絶つのは不合理で公序良俗に反して許されない」とし、1審判決を取り消し、審理を東京地裁に差し戻した。

MRIは高裁判決を不服として最高裁に上告したが、最高裁は2015年9月1日、棄却・不受理の決定をした。
最高裁の決定により、契約の記載にかかわらず、弁護団が我が国の裁判所においてMRIの責任を追及できることが確定した.

別途、米司法省は2015年7月8日、MRIの社長ら3人が詐欺罪などでネバダ州の連邦地裁大陪審に起訴されたと発表した。

この問題に関しては、現在のところ明確な基準となる国際的なルール、システムはいまだ存在しておらず、訴訟が提起された裁判所が自国の法や判例に従って、個別に判断しているのが実情という。(企業法務ナビ http://www.corporate-legal.jp/

 


2016/2/22   EU首脳会議、英離脱回避へ改革案合意

欧州連合は2月19日夜、ブリュッセルで開いた首脳会議で、英国のEU離脱を回避するためにCameron英首相が求めているEU改革案を巡って全会一致で合意した。
合意を受け
Cameron首相は、6月23日に国民投票を実施することを決め、自らはEU残留を訴えていく考えを明らかにした。

首相は、「イギリスは、改革後のEUの中でより安全で強く、豊かになるだろう」と述べ、離脱派の主張について、「離脱した場合、統一市場との自由な貿易を続けられるか、雇用は確保されるか、明らかにできていない」と述べ、牽制した。

今月行われた6つの世論調査によると、EU残留支持は平均51%、EU離脱支持は平均49%と世論が拮抗しており、改革の内容を強調して残留に導けるかどうかが大きな課題となる。

付記  

与党・保守党の有力な政治家で下院議員も務めるBoris Johnson ロンドン市長は2月21日、EU離脱支持を明らかにした。
「離脱こそが資金を節減し、実権を取り戻す道にほかならない」と語った。

EU首脳会議の合意の主な点は下記の通り。

  議事録は http://www.consilium.europa.eu/press-releases-pdf/2016/2/40802208947_en_635915443200000000.pdf

  キャメロン首相 今回の合意
Emergency brake  EU域内からの移民に対し税控除 、児童手当など福祉サービスを4年間制限

(背景)

東欧からの移民の大量流入で、職を奪われたり、負担が増大するとの不満

EUは「人、物、サービス、資本の自由移動」を保障
但し、英国はシェンゲン協定の国境検査撤廃の適用対象から除外されている。

EUからの移民により福祉制度に過度な圧力がかかるような「例外的な状況」が発生した場合、各国が福祉サービスの受給を最長4年制限することを認める。

但し、新たな移民のみが対象
東欧諸国 は既にサービスを受けている移民の受給権を阻害しないよう要求)

 

継続期間 最大13年 最終、7年で合意
(東欧4カ国:Poland, Hungary, Slovakia, Czech は5年限定を主張)
うち
Child benefits
両親が英国で働くが英国以外で住む子供への児童手当の廃止

(その後譲歩)
子供が住む国の生計費指数で調整

子供 が住む国の物価に合わせて児童手当の支給額を減額

当面、新規移民に適用
2020年からは全移民に適用

Economic Governance 非ユーロの英国が差別されないこと ユーロ圏と非ユーロ圏での差別を禁止
ユーロ圏救済の費用負担免除 ユーロ圏内で危機が起こっても、非ユーロ圏加盟国は救済措置には参加しない
Ever-closer union
(
統合深化)
英国への適用除外 統合深化を英国に適用しない
各国議会に事実上の拒否権付与 12週間以内に加盟国議会の計55%が反対すればEUの新法制を廃棄
Competitiveness
(EU競争力強化)
競争政策推進 域内市場の強化
規制緩和・改善
管理費用の低減等


 


2016/2/23   米IBM、医療データ会社を26億ドルで買収

米IBMの子会社IBM Watson Health は2月18日、クラウドベースの医療データサービスのリーダーTruven Health Analytics を26億ドルで買収すると発表した。
人工知能を取り入れた新型コンピュータのWatsonを医療分野で活用するサービスの普及に向け、約2億人分の治療データを新たに獲得する。

Watsonはデータを蓄積・学習する機能を持つ。データ量が多ければ多いほど、利用者の問いかけに適切に回答する可能性が高まる。

ある患者に特定の症状が合った場合、Watson Healthは他の患者のデータを分析し、似たような症状を選び出し、症状のパターンを教える。
ただしデータの背後にある個人については身元特定可能な情報を持たない仕組みになっている。

ーーー

IBMは2015年4月13日、医療データ解析部門「IBM Watson Health」を立ち上げると発表した。

ヘルスケア関連のデータをクラウドに集め、Watsonの自然言語認知機能によるビッグデータ解析サービスを開発、提供する。

この事業に関連して、Appleとの提携拡大や、Johnson & Johnson 及びMedtronicsとの提携も発表した。

AppleとIBMは2014年7月、企業向けモバイルサービスで提携したと発表した。
IBMのビッグデータと分析機能を iPhoneおよびiPad で利用できるようにする。

今回のAppleとの提携拡大では、Appleのアプリが収集するユーザーの健康関連データをセキュアに保存・解析・モデリングするための場として「Health Cloud」を提供する。

J&J社とは、人工関節置換術や脊髄手術などの手術前後における患者のケアに関して、モバイル端末とWatson Health Cloudを活用した患者への指導ソリューションなどを開発する。

インシュリンポンプなどを手掛けるMedtronic社とは、糖尿病患者向けの個別化健康マネジメントに関して、患者の情報や、インシュリンポンプやグルコースモニターなどのMedtronic製機器で測定したデータをWatson Health Cloudで解析し、患者のケアなどに生かす。

更に、IBMはヘルスケアクラウド基盤を手掛ける Explorys、ヘルスケアマネジメント用ソフトウエアを手掛けるPhytel の買収を発表した。

Explorysは、オハイオ州クリーブランドを拠点とする企業で、同社のクラウド・コンピューティング・プラットフォームは、病気、処方、結果のパターンを認識するために、26の主流な統合ヘルスケアシステムで使われている。

Phytelは、テキサス州ダラスを拠点とする企業で、ヘルスケア提供事業者とケアチーム作業者が共に効果的なケアができるようなクラウドサービスを色々と開発、提供をしている。

2015年8月には、Watson Healthは医療用画像解析を行うMerge Healthcareを10億ドルで買収した。
これによりWatson Healthは膨大な医療画像データを所有することとなった。

Mergeの技術は、アメリカ中の7500の医療機関で使用されており、これまで合計300億ものレントゲン写真、MRI、CTスキャン画像を解析してきた。
IBMの研究者は、現在の医療データの90%は画像形式であると推測している。

ーーー

今回買収するTruven Health Analytics は米連邦政府やや州の機関、またその従業員組合、健康保険会社、生命保険会社など8500以上の顧客を抱え、医療機関などに対し、効率的な医療機関の運営や治療の質の改善などを指導するサービスを提供している。

Truven Health Analytics の買収で一気に2億人分の患者データを追加し、累計で3億人分を確保、世界最大級の医療データベースを構築する。


 

2016/2/24 日本の12の神薬

2015年3月に中国の李克強首相が会合で、中国人による日本の温水洗浄便座の購入を取り上げ、話題になった。

2015/11/14 中国人の日本での温水洗浄便座購入 

本年の春節連休期間には中国人観光客600万人が海外に出かけ、900億元(約1兆5577億円)を消費して、過去最高を更新した。
日本の場合、同期間の中国人観光客は前年比52%増加し、大阪高島屋は免税販売の金額が同2.6倍増加するという記録をうち立てた。

最近は中国人観光客による爆買いが、目薬や鎮痛剤といった一般医薬品に広がっている。

2014年に中国のメディアで日本で絶対に買うべき薬として「日本12神药(12の神薬)」が紹介され、ブームになった。
中国では「神」とは「すばらしい」といった意味で使われている。

紹介されたのは次の12で、うち小林製薬の製品が5つ含まれている。

目薬 
 サンテ ボーティエ

 参天製薬

消炎鎮痛剤
 アンメルツ ヨコヨコ

 小林製薬

液体絆創膏
 サカムケア

 小林製薬

 
冷却剤
 熱さまシート

 小林製薬

頭痛薬
 イブ クイック

 エスエス製薬

消炎鎮痛剤
 サロンパス

 久光製薬

 
外皮用薬
 ニノキュア

 小林製薬

ビタミン剤
 ハイチオールC

 エスエス製薬

便秘薬
 ビューラックA

 皇漢堂製薬

 
口内炎治療薬
 口内炎パッチ 大正A

 大正製薬

女性保健薬
 命の母A

 小林製薬

のど薬
 龍角散

 龍角散

小林製薬の外国人向け売上高は、2016年3月期決算で41億円に上る見通しという。

同社では、「熱さまシート」について中国人好みの金色パッケージを用意した。液体ばんそうこう「サカムケア」は売り上げの7割が外国人で、2015年1月に宮城県の工場に専用の生産ラインもつくった。

ーーー

中国国際貿易促進委員会の研究員は、「豊かになった中国人消費者は購入する商品の品質やブランドにより高い要求を出すようになった。一連の国内の小型商品メーカーは品質の飛躍と世界におけるブランド知名度の向上を追い求めるが、まだニーズを満たせてはいない」と指摘する。
消費の流出は中国人消費者の巨大な購買力を明らかにするとともに、国内の商品の供給と消費者の需要との間にはズレがあることも示している。

本年1月末に中国メディアが、湖北省の政協委員(人福医薬集団の董事長)が「中国人が日本へ行って風邪薬を買うことは、中国の製薬会社の恥だ」と述べたことを伝えた。

小さな風邪薬を買うのに多くの人が外国製を選ぶことは、結局のところ中国製薬会社には普遍的にイノベーションが欠けているからで、薬品の品質が、向上し続ける消費者のニーズを満たしていないためであると指摘した。

これに対し、中国のネットユーザーからさまざまなコメントが寄せられた。

「恥ずかしいことは粉ミルク、紙おむつ、炊飯器、便座など他にもたくさんある。反省すべきは1つの業界だけではない」

「偽薬が多すぎるし、本来は安い薬が高く売られているからだ」

「中国は技術が欠乏しているわけではない。良心が欠乏しているだけだ」

「イノベーションに欠けているのではなく、革新的すぎるのが問題だ。ミルクにメラミンを加えるという革新的な事を他の誰ができる?」

中国では2008年に石家荘三鹿集団のメラミン混入粉ミルクを飲んだ乳幼児が腎臓結石となるケースが相次ぎ、5人が死亡、多数が入院した。
調査の結果、他の22社の69品目からメラミンが検出された。

2008/9/29 中国粉ミルク汚染事件のその後

「貧乏人には関係のない話だ。貧乏人はそれでも中国の薬を飲むしかない」

Record China から)


2016/2/25   Hillary Clinton、TPPに反対を表明、日本も為替操作国に含める

アメリカ大統領選挙に向けて民主党から立候補しているHillary Clinton 前国務長官はTPP協定について反対だと明言するとともに、中国その他に加え、日本も輸出を有利にするため円安を誘導していると批判し、対抗措置を取る考えを示した。

Hillary Clinton は2月23日付けのメイン州の新聞 Portland Press Herald に、「大統領になれば国際貿易の競争の場を公平にする」と題する寄稿を行った。
サブタイトルは、「中国や他の諸国は不平等なやり方で米国の労働者に対し利益を得ている」というもの。

内容は下記の通りで、大統領になった場合の公約とも読める。

ーーー

オバマ大統領の下で、自動車産業を救済し、製造業で90万の職を追加し、輸出は40%アップしたが、これらは危機に面している。
ドル高や中国経済の鈍化、国際経済の混乱が鉄鋼から自動車までの産業の労働者に逆風となっている。

中国や他の諸国は不正、不公平な貿易慣行を使い、米国の労働者、企業を攻撃している。彼らが製品を米国にダンピングし、国営企業を不当に支援し、通貨を操作し、米国企業を差別すれば、米国のミドルクラスが被害を被る。
これは止めるべきだ。

米国製品の需要家の95%は海外居住のため、貿易を止めることは解決にならない。しかし、同じ土俵で勝負する必要がある。
上院議員として、私はブッシュ政権に中国に強硬姿勢をとるよう求めた。国務長官として、国際市場で米国の労働者を守るよう努めた。
大統領になれば、将来の製造業のためグローバルな競争に勝つことが私の目標だ。

まず、米国の労働者が欺かれないよう、貿易ルールを強く守ることが必要だ。
政府はしばしば、問題を労働者や組合任せにし、被害が発生し、労働者がレイオフされるまで行動を取らない。

政府は最初から法律を適用すべきで、そのために、大統領に直接報告する貿易検察官を置いて権限を与え、担当者を3倍に増やし、違反行為が害を及ぼす前に介入する早期警戒システムをつくるべきだ。

また、国際的に決められた労働慣行を守るようーー児童労働や奴隷労働をやめさせ、世界中で労働組合をつくる基本権利を守るようーー他国に責任を負わすべきだ。

第二に、中国の不正行為に立ち上がるべきだ。
中国は現在、「市場経済国」扱いを求めているが、そうなれば、我々の反ダンピング法を無力化し、安い製品を我々の市場に溢れさすこととなる。
そのため、唯一の返事は “No” である。

無数の国営企業、国内企業への膨大な補助金、国が関与するシステマチックな事業秘密の盗用、ルールに従えという声への拒否・・・中国は市場経済からは程遠い。中国が市場経済国扱いを求めるなら、市場経済国の行動を取るべきだ。

参考 2016/2/12 中国の「市場経済国」認定問題 

第三に、米国の労働者に破壊的な働きをする通貨操作をやめさせる必要がある。
中国、日本や他のアジア経済は通貨を切り下げることで、何年にもわたり、彼らの製品を人為的に安くしている。

私は以前にこの不公平慣行に対し戦ったが、再度戦う。
監視などのほか、効果的な対抗策を含めた手段を拡大する必要がある。

第四に、米国企業が雇用を海外に移すのを止めさせる必要がある。抜け道を塞ぎ、税務の恩典を止め、米国での雇用(“in-sourcing”)を奨励するのだ。

最近、インディアナ州の2つの空調の工場が海外移転を決め、2100の職を失った。しかも税務控除を受けている。
単に何年も工場を支えてきた労働者やコミュニティに背を向けるだけでなく、米国に背を向けた。
大統領になれば、多国籍企業が名前だけ海外に移すことで米国の課税を回避する“inversion” も禁止する。

第五に、新しい貿易協定に高いバーを設定し、職をつくり、賃金を上げ、国のセキュリティを高めるものだけを支持するべきだ。
この基準に合わないため、TPPに反対した。今後の協定も基準に合わないなら反対する。

米国は何世代にもわたり、グルーバル経済のための強く、公平なルールをつくるため、パートナー国と努力してきた。これらのルールは適用してこそ意味がある。製造ルネサンスを支えるためのこれらルールの適用や他の政策が、貿易で米国労働者を助ける唯一の道である。
大統領になれば、それが私がすることだ。

ーーー

Clinton前国務長官は2015年10月7日にも、PBS News Hour のインタビューで、TPPについて支持しない立場を表明している。

私は最初から、米国民の雇用創出、賃金上昇、国家安全保障の強化につながる貿易協定を結ぶ必要があると語ってきた。他にも多くの疑問が解消されていないと思うが、私にとってはこの3点に尽きる。

TPPは私が設定した高い基準を満たすとは思わない。

ーーー

TPPをめぐっては、民主党のライバル候補 “Bernie” Sanders上院議員が労働者保護の観点から反対姿勢を鮮明にしている。

NAFTA(北米自由貿易協定)やCAFTA(中米自由貿易協定)などが発効してから、米国は数百万人の労働者が失業し、2001年から6万以上の工場が潰れた。最底辺への競争によって、賃金は下がり続けている。
TPPは、製薬業界やウォール街のアメリカの大企業連中によって書かれたものだ。
私は、アメリカの労働者に、時給57セントのベトナムの労働者と競争して欲しいとは思わない。

共和党の不動産王Donald Trump候補も、日本の円安誘導を批判し、TPPに反対している。

現政権の能力のなさは理解を超えている。TPPはひどい協定だ。

アメリカを犠牲にして日本が大きな利益を得る協定で、その隙に中国が裏口から侵入してくる。

 


2016/2/26 田辺三菱製薬、タバコの葉からインフルエンザワクチン

2月23日付けの日本経済新聞の下記報道を受け、同社株に買いが入り、各紙が報道した。

田辺三菱製薬はタバコの葉を使ってつくるインフルエンザワクチンを2018〜19年度にも実用化する。
鶏卵でウイルスを培養する従来方法で半年かかる製造期間を1カ月に短縮する。年ごとに流行する型が変わる季節性インフルに素早く対応できる。
ウイルスを使わないため、投与時の感染リスクも抑えられるとみている。ワクチンの効率的な製造技術として広がる可能性もありそうだ。

本件は、同社が60%所有するカナダのMedicagoの状況の報道である。

ーーー

田辺三菱製薬は2013年7月12日、Philip Morrisと共同で、カナダの医薬品会社 Medicago Inc.の全株式を取得することで同社取締役会と合意したと発表した。

両社は買収後のMedicagoを、田辺三菱60%、Philip Morris 40%のJVとして運営する。

Medicagoは植物由来のウイルス様粒子(VLP:Virus Like Particle)技術を用いた新規ワクチンの研究開発に特化したバイオ医薬品会社で、遺伝子操作によって植物の細胞内にVLPを生成させ、効率的に抽出・精製する独自技術を有している。

VLPは、ウイルスと同様の外部構造を持つ一方、遺伝子情報を持たないため、ワクチンとしての高い免疫獲得効果が期待されることに加え、体内でウイルスの増殖がなく安全性に優れる有望なワクチン技術として注目されている。

田辺三菱製薬は2011年9月にMedicago株式6%を取得、2012年2月にVLP製造技術を用いた新規ワクチンの共同研究契約を締結した。
まず、同年春から「ロタウイルスVLPワクチン」の研究を開始した。

田辺三菱はMedicagoのVLP技術を評価した結果、同技術は幅広い種類のワクチンを効率的に製造することが可能な有用性の高いものであり、同社買収により更なるパイプラインの強化を実現できるものと判断した。

Phillips Morrisは2012年9月、Medicagoとライセンス契約を締結し、Medicagoのインフルエンザワクチンを中国で独占的に開発、製造、販売する権利を獲得した。

同社は世界のたばこ喫煙の40%前後を占める中国での活動を広げているが、たばこ葉から派生するインフルエンザワクチンの開発や、健康に対する悪影響のより少ないたばこの開発など、単なる煙草の販売以外の活動も行っており、その一環である。

2013/7/19     田辺三菱製薬、カナダ医薬品会社Medicagoを子会社化

ーーー

Medicagoは下記の技術を持つ。

 Proficia™  植物の葉でのワクチン製造
 VLP     遺伝子情報を持たないウイルス様粒子(
体内でウイルスの増殖がなく安全性に優れる)
 
VLPExpress™  新ワクチンを早く見つける手法

インフルワクチンの製造は鶏卵を使ってウイルスを培養するのが一般的で、ウイルスが人の体内で働かないよう不活化処理を行うが、6ヶ月ほどかかる。

これに対し、Medicagoの開発したProficia™ はタバコの1種 ベンサミアナタバコ(学名 Nicotiana benthamiana)を使うもので、1ヶ月で製造できる。

Medicagoはいろいろのウイルスのワクチンを開発しているが、新型インフルエンザ H5 について、米国、カナダで安全性や有効性を確かめる第2段階の治験がほぼ終了、年内にも第3相と呼ぶ最終治験に進む。同社はカナダに工場を持っている。

インフルエンザ以外でも、重篤な下痢などを引き起こすロタウイルス(田辺三菱と共同)、狂犬病 (Rabies) ウイルスなどのワクチンも開発している。

同社はタバコのほかに遺伝子組み換えアルファルファも扱っている。
これは大量に生産するのに適しているが、生産に6ヶ月程度かかる。

ワクチンの製造には向かないが、バイオシミラー(バイオ後続品)の生産に向いている。

 

田辺三菱製薬は未来を切り拓く挑戦として「米国事業展開」を掲げており、2020年度までに米国売上高 800億円をめざす中期経営計画を策定したが、インフルワクチンは米国市場開拓の柱となる製品の一つで、年間数百億円の売り上げを見込んでいる。

なお、同社は阪大微生物病研究会と組み国内でインフルワクチンを販売しているが、日本では製造方法や成分など製剤基準が厳格に決められており、Medicagoの手法は遺伝子組み換え技術を使うことなどから、国内では基準改定が必要になり実用化に時間がかかる。

ーーー

田辺三菱製薬は2月8日、米国において医薬品販売会社 MT Pharma America, Inc. を設立した。

同社は日本で2015年6月に筋萎縮性側索硬化症(ALS)の効能追加が承認された「MCI-186」(日本国内での販売名:ラジカット®)について、米国での2016年度の承認・上市をめざして、最優先課題として取り組んでいるが、この販売会社設立により、MCI-186の販売準備を進めていくために必要な機能や要員を計画的に拡充していく。

同社は米国での事業基盤拡充のためにM&Aを含めて、2,000億円以上の投資を計画している。
 



2016/2/27 米国のLNGの初輸出 

Cheniere Energy Partners は2月24日、ルイジアナ州Cameron ParishのSabine Pass液化設備第1系列で生産されたLNGを載せた第一船が同日にも出航すると発表した。

Cheniere がチャーターした LNG船 Asia Visionで、ブラジルに向け輸送される。

購入先はPetribrasとされる。
これはスポット販売で、出荷ターミナルに問題がないかどうかのテストのためのもの。

問題がなければ、Federal Energy Regulatory Commissionに商業用輸出ターミナルとしての認可申請を行う。

 

Cheniere Energyは2010年9月に米国がFTAを締結している国(将来締結した国も含む)に限定して輸出許可が出された。

これに対し、同社は、多国間での自由貿易協定を目指すWTO加盟国へのガス輸出を禁止することが正当かどうかの判断を政府に求め、エネルギー省は2011年5月、同社に条件付きですべての貿易相手国への輸出を認めた。

2012/2/24 米国からのLNG輸入問題 

同社はSabine Pass に年産450万トンの液化設備 7系列(合計年産 3,150万トン)を建設中である。

このうち、1〜5系列分(能力合計2,250万トン)について、既に6社との間で年 1,975万トンの20年間の長期販売契約を締結している。残りはスポット販売される。

契約概要は下記の通り。

相手先 年間数量
 万トン
固定費
$/MM Btu
製造系列 完成時期
BG Group(英) 350 2.25 第1系列 2016/4-5
200 3.00 第2, 3, 4 系列  
GasNatural(スペイン) 350 2.49 第2系列 2016/8
Kogas(韓国) 350 3.00 第3系列 2017/4
Gail (インド) 350 3.00 第4系列 2017/8
Total (仏) 200 3.00 第5系列 2019/8
Centrica (British Gas) 175 3.00 第5系列  
合計 1,975      

FOB価格は、原料ガスコスト(Henry Hub 渡し市況 x 115%)+固定費(ガス化費用など)。
15%は天然ガスのトレーダーとしてのマージン。

最近のHenry Hub 天然ガス価格は2$/MM Btuのため、韓国着の価格は
2 x 1.15 + 3 + (運賃)2.96 = 8.26 $/MM Btu となる。

日本の12月のLNG通関価格は53.71円/kgで、換算すれば8.22$/MM Btu となり、ほぼ同じとなる。

付記

Ineosは2016年3月9日、米国のシェールガスからのエタン 27,500m3 を積んだ欧州向けの最初の船 INEOS Intrepid がPhiladelphia近郊のMarkus Hook ターミナルを出航、ノルウェーに向かったと発表した。


2016/2/29 Dow Chemical、ポリウレタン独禁法違反の集団訴訟で和解 

Dow Chemical は2月26日、2005年に米国の需要家が集団訴訟を行ったポリウレタン独禁法事件について、835百万ドルの支払で和解したと発表した。

付記

Dowは4月6日、この集団訴訟から離脱(opt-out)した原告に対し、400百万ドルの支払で和解したと発表した。税引き後の影響は250百万ドル。

1999年〜2003年にDow Chemical、Bayer、BASF、Huntsman、Lyondell の各社がポリエーテルポリオール、MDI、TDI、MDI-TDI ブレンドなどの Polyether Polyol 製品で価格カルテルを結んだとして 、米国の需要家が集団訴訟を行ったもの。

この事件では、Dow 以外の各社はいずれも違法行為はなかったとしながらも、和解した。

2013年2月20日に陪審員はDowを有罪とし、4億ドルを支払えとする決定を行った。

Dowは裁判長に対し、有罪の証拠がないとして判決を取り消すように求めるとともに、集団訴訟の原告同士の被害が異なるとし、集団訴訟の要件である"共通性" がないため、集団訴訟扱いを取り消すことを求めた。

 2013/2/27   Dow Chemical、ポリウレタン独禁法違反裁判で有罪

しかし、Kansas City地裁の判事は2013年5月15日、陪審員決定を退けるよう求めたDowの要請を却下し、3倍賠償の12億ドルを支払うよう命じた。
その後、別の事情で12億ドルから10.6億ドルに減額された。

Dowは控訴したが、コロラド州Denverの控訴裁は9月29日、一審判決を支持した。

裁判では、Dowがカルテルに参加したかどうかという点のほかに、「集団訴訟」を認めるかどうかが問題になった。
米最高裁は2011年のWal-Mart Stores 事件と2013年のComcast Corp 事件の判決で、集団訴訟に厳しい制限を加えている。

2014/10/4 Dow Chemical、ポリウレタン独禁法違反の集団訴訟で控訴審でも敗訴 

コロラド州Denverの控訴裁は、上記の最高裁判決を勘案しても、集団訴訟として認められると判断したが、Dowはこれを不満とし、最高裁に上告していた。

 

2月13日、米連邦最高裁のAntonin Scalia判事が急逝した。

Scalia判事は共和党のレーガン大統領に任命され、保守的な価値観を持つ。
上記のWal-Mart Stores 事件とComcast Corp 事件の判決は
Scalia判事が書いたもの。

米国の現在の9名の判事のうち共和党大統領が任命した判事は5名、民主党大統領が任命した判事は4名であったが、Scalia判事の死亡で 4対4 となった。
オバマ大統領は大統領の考え方に近い判事を任命する可能性が強いが、共和党主導の議会の反対で承認されない恐れもあり、暫くはこの状態が続く。

Dowは、敗訴のリスクが増えたとして、一転して和解に応じた。

一審判決の10.6億ドル(プラス金利、弁護士費用)に対し、835百万ドルの支払で和解した。

Dowは、和解には応じたが、@ カルテルには参加していない、A Scalia判事の書いた最高裁の2つの判決から考え、本件は集団訴訟の対象ではない、との主張は保持している。


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