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2010/12/28 「2010年 回顧と展望」の前に ー 中国経済とBeijing Consensus

化学業界の回顧と展望の前に、大きな影響を与えている中国経済について分析する。

このブログは2006年に始まったが、同年2月に「中国バブル説」を取り上げ、2006年末の「回顧と展望」では、「中国経済は北京オリンピック後が危ないと言われているが、それまで持たないかも分からない」と述べた。

これは一般的に言われていたことだが、現実には、北京オリンピック、上海万博が終わったが、中国経済は、大きな問題を抱えながらも、高成長を続けている。
予想は全く外れた。

本来なら確実に破綻する状況にあったが、破綻しなかったのは中国の特殊性である。

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中国政府はグローバルな金融危機に対応して、2008年11月に、国内需要拡大のため2010年末までに総額4兆元(約57兆円)規模の投資を実施する緊急経済対策を発表した。

2008/11/12 中国、緊急経済対策に57兆円

中国政府は2007年末に「家電下郷」を策定したが、2009年2月1日以降は不況対策として、対象製品を拡大、対象地域を全国の農村(対象 9億人)に拡大した。

2009/4/17  「家電下郷」で中国で家電の販売急増

この結果、中国の自動車、家電の生産はいまだに伸びが続いている。
(同時に過剰能力は拡大している。)

中国は金融危機で人民元の切り上げを止め、レートを固定化した。
そのため、一説には米ドルに対して40%もの元安となり、米国からの圧力が高まった。

人民元の切り上げは必至であり、これにより中国からの輸出は激減すると思われた。

中国は6月19日には「弾力性を高める」との声明を出し、一日の変動幅を±0.5%としたが、実際には介入を続け、一時再高値(11月11日 6.6173元/$)でも6月18日比で3.06%しか上がっていない。ユーロなどと比べると、むしろ切り下げとなっている。

人民元安の結果、中国の輸出は伸び続けており、貿易収支の黒字幅はむしろ広がっている。

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「米国も欧州も日本も不景気が続くのに、どうして中国だけが成功したのか」との質問に対するKissinger博士の答えは、リーダーシップであった。
米国の場合、短期的視点で延々と議論するのに対し、中国では公的資金を長期的視点で迅速に有効に配分したのがうまくいったとする。(2010/1/10 「日高義樹のワシントン・リポート」)

Thomas L. Friedman は著書「Hot, Flat, and Crowded」で"China for Day (but Not for Two)"という1章を書いている。
「2日はいやだが、1日だけなら中国になりたい」というもので、米国では何年もかかる案件、レジ袋の有料化、ガソリン無鉛化、自動車燃費規制、等々をトップダウンの命令で直ちに実施したことを取り上げ、中国のやり方を(その部分だけは)羨ましく思っている。

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中国の決断の速さを生んだ一党支配のモデルをBeijing Consensusと呼ぶ。

これは
Washington Consensus に対応するもの。

中南米の債務危機に対処するため、IMF、世銀、米国財務省が中心になって打ち出した経済運営に関する勧告のパッケージで、貿易自由化、規制緩和、国営企業の民営化、財政支出の抑制などの政策を柱にする。

ブリュッセル現代中国研究所のJonathan Holslagによれば、Beijing Consensusとは、経済発展を国家の至上課題とし、国家の安定を保ちながら政府が積極的に成長促進策を取ることを指す。

経済運営の手綱は政府が握り、特に金融セクターは厳しい監督下に置く。エネルギーセクターの研究開発も政府の指導のもとに実施される。また、貿易による国際市場からの恩恵は受けつつも、場合によっては輸入制限も辞さず、政府の調達対象も限定する。

これらは、自由市場ならびに金融の自由化を旨としたWashington Consensusとは対極の考え方である。

Holslagは、今やオバマ政権の景気刺激策もBeijing Consensusの方針を事実上採用しているとしている。

しかし、中国と日本や米国との違いは、中国が一党支配、一党独裁であることである。

KissingerやThomas L. Friedmanの言うように、民主国家ではなにごとにも時間がかかる。
政策決定に当たり、賛成派、反対派が長時間議論する。
多くの場合、反対派の意向を反映して妥協を行う。場合によっては、長期間にわたり決定が行われない。

中国の場合、このようなプロセスはない。
反対派の意見は全く無視し、即時に決定が行われ、実施に移される。

中国政府は基本的な問題をまず解決するのではなく、経済発展を最優先してきた。
その結果、いろいろな問題が発生するが、それについてはパッチ当てで解決、それにより派生する問題もまたパッチ当てで解決するという方式を繰り返している。

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中国の最大の問題は都市部と農村部の収入格差である。出稼ぎのために都市に出る農民は差別されている。

ケ小平は、「南巡講話」において、「先富」から「共同富裕」への道筋について、次のように述べた。

「社会主義の道を歩むのは、ともに豊かになることを逐次実現するためである。

条件を備えている一部の地区が先に発展し、他の一部の地区の発展がやや遅く、先に発展した地区が後から発展する地区の発展を助けて、最後にはともに豊かになるということである。
もし富めるものがますます富み、貧しいものがますます貧しくなれば、両極分化が生じるだろう。社会主義制度は両極分化を避けるべきで あり、またそれが可能である。

その時になれば、発展地区は引き続き発展し、利潤と税金を多く納め、技術を移転するなどの方式で未発達地区を大いに支持すべきである。未発達地区はたいてい資源に恵まれており、発展の潜在力は極めて大きい。」

しかし、実態は、農村では食えない出稼ぎの低賃金(農村戸籍者は都市でも差別される)を利用して、輸出拡大を図ってきた。
政府は西部大開発や今回の
「家電下郷」で、農村部への対策を行っているが、貧富の差はますます拡大している。

ケ小平が懸念した「富めるものがますます富み、貧しいものがますます貧しくなれば、両極分化が生じる」事態となっている。

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対外的に最大の問題は人民元である。

米国は米国の貿易赤字の原因は人民元の低評価であるとして、これまで人民元の切り上げを要求、応じない場合は制裁措置を取るとし、実際に反ダンピング関税を課している。

これに対し、中国側は「中国は自主性、制御可能性、持続性という原則に基づき、人民元為替相場メカニズム改革を穏健に推進する」と表明し、元切り上げ要求を拒否した。

米国の反ダンピング関税に対抗し、米国製の電磁鋼板やブロイラーに反ダンピング関税と相殺関税を課し、自動車についても調査を開始した。

7月のBig Mac指数では米ドルに対し48%もの元安となるが、本年6月の「弾力化」以降も市場に介入し、ほとんど改善されていない。
(仮に日本円が今、恣意的に1ドル110円程度で維持できれば、日本の経済の状況は著しく変わったものとなる。)

中国政府はプラザ合意での円切り上げと日本経済への影響を詳細に研究し、反面教師にしたと言われている。

付記  「『広場協議』(プラザ合意)を教訓としよう」

貿易収支拡大のなかでの人為的な人民元据え置きは、貨幣流通量を増やし、インフレ圧力が強まり、住宅価格が高騰、食品価格も急上昇している。

住宅に関しては政府はバブル破裂を避けるため、頭金の増加や、複数の住宅を購入するためのローンの制限を求めるなど、やっきになっているが、効果はあまり出ていない。

食品については、中国国務院は11月19日、高騰する物価の抑制に向け、農産物の増産や流通コストの低減など16項目からなる緊急対策を発表した。価格統制は製造コストが膨らむ食品メーカーを採算悪化、生産縮小に追い込んでいる。

2010/11/19 中国の消費者物価指数アップ

中国では今秋から省エネルギー目標を達成するために電力を大量消費する企業向けの電力供給を制限しているが、肥料会社などへの電力供給制限の解除に踏み切った。
また、肥料の輸出に110%の輸出税を課し、実質輸出を禁止した。

中国人民銀行(中央銀行)は12月10日、預金準備率を20日から0.5%引き上げると発表した。本年6度目。大手行の預金準備率は過去最高の18.5%となる。 (付記 2011年1月20日から更に0.5%アップ、過去最高の19%に。)
12月25日には0.25%の追加利上げを行った。2年10か月ぶりとなった10月20日以来、2か月ぶりの利上げとなる。
(付記 2011年2月9日の春節明けから0.25%利上げする。引き上げ後の1年物定期預金金利は3.00%、貸出金利は6.06%)

金融引き締めや利上げ、価格統制は企業活動に悪影響を及ぼし、景気失速の恐れもある。失業率上昇は党に対する不満を爆発させかねない。
また、利上げは更に元高の要因となる。これを介入で抑えると、市中に金があふれ、物価上昇を招く。
人民元高を容認しない限り、この悪循環が続くこととなる。

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グローバルな金融危機に対しては、中国政府は国内需要拡大のため2010年末までに総額4兆元(約57兆円)規模の投資を実施する緊急経済対策を発表した。「家電下郷」も拡大したが、これは農村部のみを対象としたものである。

このような大規模な、一部の国民にのみ恩恵を与えるものを含む、経済対策を即時に決め、実行できるのは、一党独裁の強みである。

国内での議論なしの中国政府の決定には次のようなものがある。

2010/8/20 台湾、中台経済協力枠組み協定(ECFA)を承認、9月発効へ 

台湾との経済協力枠組み協定は来年1月に発効するが、台湾にとって非常に有利なもので、中国は、台湾の要求をことごとく受け入れて大幅に譲歩した。ASEANと中国が相互免税措置を実施した場合、台湾の輸出産業が大きな衝撃を受けるのを防ぐのが目的で、政治的観点から国内の反対を無視した。

2006/7/21  中国政府、石炭化学を規制
2009/8/29  中国、新産業でも過剰能力を抑制
2010/8/14  中国、老朽過剰設備の停止命令
2007/7/19  中国国家環境保護局、公害防止のため小規模化学工場を閉鎖
2008/6/4   中国でレジ袋有料化 実施
2007/6/28  中国、輸出抑制のため輸出増値税還付率を引き下げ(毎年、対象と率を変更)
2010/8/16  中国、レアアース市場での支配力拡大へ

また、中国では土地はすべて国有で、北京五輪や上海万博、鉄道、道路、ダムなど、国の必要に応じて安い補償で立ち退きを強要している。
(最近、中国人による日本の高級マンションなどの購入が増えているが、一つの理由は土地の所有権付きであることで、いつ立ち退きを要求される中国と異なり、子孫に残せることであるという)

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このようなパッチ当て方式と一党独裁による即決、即実行で問題をとりあえず解決してきたのが、バブル崩壊を防止できた理由である。
反対意見を考慮することなく、考えた案が実施できるという意味では、政策決定者にとっては、羨ましい話であろう。

しかし、反対意見無視は、国民の権利の無視、権利の侵害である。
これは一党独裁への反対を引き起こし、放置すれば大変な事態になるため、これに対しても対応する必要がある。

中国政府は2011年から始まる次の5カ年計画に「所得倍増計画」を盛り込む検討に入ったが、土壇場で採用されなかった。
実現できなかった場合に国民の不満が共産党に向かいかねないことが理由の一つであった。
(賃上げをあおれば物価上昇が加速する恐れがあるのがもう一つの理由)
    2010/6/10  
中国が「所得倍増」計画

中国は根本的な問題は抱えたままであり、対策を取れば、それが新たな問題を引き起こすという循環で、今後も次々と問題が出てくる。

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中国に進出する日本企業も、いつ梯子を外されるか、分からない。
既に労働契約法で労働者の権利が強化され、外資の税優遇も廃止された。立地、原料、販売、輸出、環境規制、電力割当等々、事業運営上に制限が加えられる可能性もある。
大きなカントリーリスクである。

 


2010/12/29 中国商務部、2011上期のレアアース輸出許可枠を発表 

中国商務部は1228、2011上期のレアアースの輸出許可枠を発表した。

それによると、上期の輸出許可枠は14,446トンで31社に割り当てられた。
内訳は、中国系が22社で10,762トン、外資が9社で3,684トン。

商務部はこの日発表の別の文書で、引き続き2011年通年の輸出許可枠を検討しており、上期の輸出許可枠から通年の輸出枠を類推すべきではないと指摘した。

レアアースの輸出許可枠の推移は下記の通り。

   2009  2010 前年比  2011 前年比
上期  25千トン  22,282トン -11%  14,446トン -35%
下期 25千トン 7,976トン -68% 15,738トン  
年間  50,145トン 30,258トン -40% 30,184トン -0.2%

付記 商務部は2011年7月14日、通年の輸出枠を発表した。

商務部と税関総局は2011519日、ジスプロシウム鉄合金、テルビウム鉄合金などレアアースの含有量が高い合金をレアアースの輸出割当に含め、管理すると発表した。
このため、実質的には年間枠は前年よりもっと縮小することとなる。

アメリカ通商代表部は12月28日、「非常に懸念している。中国に対しては、すでにわれわれの懸念を伝えているが、今後も働きかけを続けていく」とするコメントを発表した。

付記

中国政府がレアアース産業の業界団体と政府組織の設置を検討していることが分かった。1228日に中国産業情報部の元高官がフォーラムで明らかにした。

20115月に業界団体が設立され、輸出や国際協力の面で業者を支援する。中国鋼鉄工業協会が鉄鉱石価格の交渉をしているのと同じように、海外バイヤーとの価格交渉の先頭に立つ。
同時に、レアアース業界の管理のための政府組織を設置する。

政府はこれまでに、違法採掘の禁止、企業統合の推進、資源・環境保護のための輸出削減など、業界改革のガイドラインを出している。
レアアース分野での国営企業の統合を推進しており、レアアース企業を
2015年までに現在の90社から20社に減らす計画。

レアアースの輸出削減に対する米国からのクレイムに対しては、中国はWTOのルールに違反していないと反論している。


2010/12/29  2010年 回顧と展望 

化学会社の上期決算は、各社とも前年上期を大きく上回った。

2010/11/17 2010年9月中間決算対比

各社とも、自動車関連をはじめとする需要の回復に伴う販売数量の増加及び石化・基礎化学品分野における交易条件の改善などにより、増益となった。

まず、国内ではエコカー補助金制度や家電エコポイント(特に来年の切り替えに備えてのデジタルTV)に基づく将来の需要の先取り効果が大きい。

エコカー補助金制度は9月8日予算枠(約5,837億円)を使い切り、申請受け付けを終了した。
トラックやバスなど事業用自動車向けのエコカー補助金は8月3日で交付申請受け付けを終了した。

家電エコポイントは本年末までを3か月延長したが、12月からはエコポイント数を変更、来年は範囲を縮小する。

なお、住宅エコポイントは本年末までとなっていたが、1延長された。

補助金打ち切り後、自動車の販売は減少している。耐久財の消費は「3年は停滞する可能性がある」との説もある。
今後、化学品の出荷の減少が懸念される。

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石化・基礎化学品分野では、上記のほか、中国の需要が堅調なことの影響が大きい。

前回述べた通り、中国のバブル崩壊はなかったが、これは中国の一党独裁による Beijing Consensus でのパッチ当てによるものであり、問題は抱えたままである。

下図はMETIの石化の需給予測だが、エチレン換算でみると、中国や中東の能力が今後も増加するのに対し、METIの楽観的な予測(中国のみで2008年から2014年までの間に11.7百万dの需要増)でも2008年の世界の供給量は2014年の需要を既に上回っている。中国の農村部の所得水準、今後の輸出の動向など考えると、中国の需要が今後も引き続き伸びるとは思えない。

サウジなどでは既に高機能グレードも生産し始めており、今のような外需依存を続けられなくなる。

中国向け輸出に依存する台湾は、中国との間で中台経済協力枠組み協定を締結、来年以降、関税を段階的に引下げ、2013年1月までにゼロ関税を実現する。台湾製品は石油化学製品を含め、中国の内国扱いとなる。

  2010/8/20 台湾、中台経済協力枠組み協定(ECFA)を承認、9月発効へ

韓国はEUや米国と自由貿易協定(FTA)を締結した。今後、自動車や家電などの輸出で、FTAで出遅れている日本企業より有利な立場に立つ。

2010/10/12  韓国とEU、自由貿易協定締結
2010/12/4 韓米自由貿易協定(FTA)追加交渉が妥結

日本はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の協議を開始する決めたが、農業問題が障害となり、これに参加できるかどうか、疑問である。

台湾や韓国にFTAで差をつけられ、コスト競争力のない石化製品の輸出だけでなく、自動車や家電の輸出用の原料出荷でも減少の恐れがある。

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これまでの「回顧と展望」では、海外企業がリストラを行っているのに対し、日本の石化の体制が旧態のままであるとした。

  2007/12/26  2007年 回顧と展望 「ガラパゴス鎖国」論
  2008/12/25  2008年の回顧と展望 「終りの始まり」

中国のバブル崩壊は予想が外れたが、それ以外についてはこれまでの主張が今も当てはまる。

日本のエチレンの能力は昨年末で800万トン(定修スキップベース)だが、需要が落ち込む前の国内出荷は約500万トンで、輸出がないとすれば、300万トン、能力の37.5%が過剰となる計算である。さらに需要が減り、輸入が増大する可能性がある。

日本のエチレンセンターは京葉エチレンを入れて14あり、三菱化学四日市の停止以降は変わっていない。1センター当たりの平均能力は定修なしベースで573千トンで、大半が400〜600千トン台が中心である。

今後輸出が激減するとすれば、能力が300万トン余剰となり、5つほどのセンターが不要となる計算である。
(本来は小規模プラントをスクラップし、100万トンクラス5基程度にするのがベストだが、投資は正当化されない)

この10年で世界の石油化学の状況は様変わりとなった。

 ・ 中国のエチレンは21のコンビナート、合計能力1364万トン(2009年末)となり、うち100万トン以上が4つ、60〜100万トンが10となった。
   
中東では多くの設備が完成、今も増強を続けている。
SABICは欧州進出とGEプラスチック買収による高機能プラスチックへの進出を果たし、クウェートやアブダビも海外に進出している。
   
欧米の大企業は原料価格の変動に左右されやすい石化からの離脱を図っている。ダウはAsset Light戦略で石化を維持しつつもJV化で負担を減らした。ダウとBASFはかつては主力事業であったスチレン系事業を放出した。
   
これらから汎用石化を買収した新興勢力のLyondellBasellやIneosは、買収を借入金で行ったため、グローバルな金融危機では挫折したが、その後、持ち直した。LyondellBasellは再上場を果たした。
   

このなかで、日本のエチレンの状況は25年も前の産構法時代とほとんど変わらない。
(センターの数では、三菱化学四日市が閉鎖されたが、京葉エチレンが加わり、変わっていない)

将にガラパゴス状況であり、ガラパゴスが観光客の流入や外来植物の流入で「危機遺産」リストに掲載されたのと同様、今後は輸入品のために危機に瀕することとなる。

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出光興産と三井化学は4月1日、「千葉地区における生産最適化」の第1ステップとして両社のエチレンの運営統合を発表した。
4月1日付けで両社折半出資で「千葉ケミカル製造有限責任事業組合」(LLP)を設立した。

2010/4/3  出光興産と三井化学、千葉のエチレン統合

三菱ケミカルホールディングスと旭化成は5月31日、三菱化学と旭化成ケミカルズの水島地区エチレンセンターの統合について発表した。折半出資の会社を設立、エチレンプラントを移すもので、営業開始は2011年4月1日となる。

2010/6/2  三菱化学と旭化成、水島地区エチレンセンター統合の共同出資会社の設立

2センターを統合し、エチレンプラントを1つ潰すなら効果は大きいが、いずれのケースも単に統合するだけで、若干のコスト低減はあっても、効果は少ない。

報道では、後者の場合、当初は今年4月に事業統合し、3年後をメドに2基のうち1基を停止・廃棄する考えだったが、どちらの設備を止めるかで交渉が難航し、一時は破談の危機を迎えた。今回、設備能力削減については将来の需要をみて統合会社で柔軟に判断するとの方針に転換、1年遅れで合意にこぎ着けた、という。

以前にも書いたが、日本の場合、従業員の解雇ができないというのが、大きなネックとなっている。

海外の企業の場合、ある工場が採算が取れなくなると、従業員を解雇して工場を閉鎖するのが簡単に出来る。
日本の場合、会社として雇用しており、解雇が簡単にはできない。

日本をダメにした10の裁判」では第一に解雇権濫用法理を挙げている。
東洋酸素事件の東京高裁判決(1979)では整理解雇の要件は以下の通り。
  ・事業部門を閉鎖することが企業の合理的運営上やむを得ない場合であること
  ・従業員を他の事業部門の同一又は類似職種に充当する余地がないこと
  ・具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくものであること
その後の判例では「労働組合との協議」が条件に加えられた。

具体的には、このままでは倒産もありうるというような状況でないと、解雇が認められない。

このため、新規部門など、他の部門に転用するしかないが、石化の場合、誘導品や用役、工務、物流、営業、管理等を含めると、1つのセンターに関連する従業員は1000名近くになる。
このような多数の転用は難しく、やむを得ず工場を動かしているというのが実情である。

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三菱ケミカルHDは12月8日、新中期経営計画を発表した。

2025年のありたい姿を「KAITEKIを実現するカンパニーでありたい」とし、事業ポートフォリオを事業の収益性、市場における優位性、市場の魅力度により選定した。

「創造事業」は、有機太陽電池/部材、有機光半導体、高機能新素材、次世代アグリビジネス、ヘルスケアソリューション、サステイナブルリソースの6事業、
「成長事業」を機能商品分野、ヘルスケア分野、素材分野の11事業、
「基幹・中堅事業」を記録メディア、高機能フィルム、食品機能材、コークスなどと、石化製品ではPTA、PC、PPなどの18事業とした。

エチレンクラッカーなど15事業は「再編・再構築事業」としている。

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各社とも、景気変動を受け難い分野、今後の成長分野には注力はしている。

しかし、各社とも石化への経営資源投入を続けたままで、かつ、多くの成長分野に分散投資をしており、欧米企業のように石化売却資金による新分野の企業買収で一挙に一定のシェアを確保するような戦略は取っていない。
他の業界からも含め、同一分野に多くの企業が参入を図っている。

このため、これらの新分野でも、石化の場合と同様、小規模・多数企業の乱立ということに成りかねない。

これに対し、韓国のLG Chemは電気自動車用バッテリーに集中投資を行い、GM、フォード、現代・起亜車、電気自動車メーカーのCT&T、 米国の自動車用部品メーカーのEaton Corporation、中国の長安汽車、スウェーデンのボルボなどと一気に納入契約を締結した。

以前にも書いたが、エレクトロニクスなどの新分野は以下の問題を内包しており、リスクは大きい。

・化学以外の他の業界からも殺到するため、過当競争となる。
・需要家自体が材料分野に進出する可能性も強い。 

・需要分野の進展が急で、新製品・新製法の開発により折角投資した材料の需要が急になくなる可能性がある。

・供給先が競争に敗れ撤退する可能性(他社に供給できればよいが・・・)
   シャープは三重県が補助金90億円を出した第一工場の液晶パネル生産を停止、設備を中国に売却した。
   半導体で世界第3位の東芝は
システムLSIから撤退、サムスンに生産委託する。

・新製法等での安価な競合材料の出現

・需要自体がバブルである可能性
  (以前の光ファイバーの例)

伊丹敬之・東京理科大学教授は、日本の産業が化学化しつつあるとする。

産業の中心科学が物理学から化学へとシフトしており、多くの化学素材が様々な消費財や産業財の中で、必須の部分として使われている。各産業の化学への依存性の高まりを考えれば、日本のイノベー ションと国際競争力を担うのは化学産業となる。

しかし、化学産業自体は引き続き産業レベル、企業レベルでの問題を抱えており、イノベーションを担うのが化学企業となるか どうかは別の問題であると指摘している。

    2010/5/6 「化学ビジョン研究会」報告書

エチレンセンターの問題に手を付けなければ共倒れとなり、新成長分野も他の業種に委ねることにも成りかねない。

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本年はこれで終わりです。
ご愛読ありがとうございました。1713回になりました。

来年は1月3日からです。(大きなテーマがあれば随時掲載します。)


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